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6-63 邂逅14

「ギルザード、湯を用意したのでシャロンを拭いてやってくれ。それと着替えだ」


「助かる。ありがとうユウ」


悠は風呂に入る前のミリーを捕まえてシャロンの着替えを一つ譲り受けていた。スタイルが最も近いのがミリーだったからだ。


「起きているのならば風呂に入れば良いのだがな。この消耗具合ではそうもいくまい」


「消耗した状態で最後のダンジョンの操作をしたから余計お疲れになったのだろう。『吸血エナジードレイン』で回復出来るが、ここの者達から血を貰う事はしたくないし、そもそもシャロン様は『吸血』がお嫌いで、余程の事がなければ行わないのだ」


《吸血を厭う吸血鬼バンパイアっていうのも自己否定よね? やはり人で居たいから?》


レイラの事はシャロンから既に聞いているギルザードに動揺は無い。


「・・・レイラの言う通りだ。シャロン様は生前から誰にでも分け隔てなく接するお優しい方だった。それは死して『真祖トゥルーバンパイア』として生き返っても何も変わらない。だが・・・」


ギルザードの表情が怒りに歪んだのを見て悠が言葉を継いだ。


「他の人間はそうはいかなかった、か?」


「・・・その通りだ。我ら同士はシャロン様を地下に匿ったが、シャロン様を恐れた人間共はシャロン様を庇う全ての者達を殺し、私とシャロン様は捕らえられた。私は邪悪な者に仕える悪の従僕として首をはねられ、それを見たシャロン様は我を忘れ・・・国を滅ぼした。私が再び目を覚ましたのはその後で、シャロン様は累々と積み上がる死体の中で幼子の様に泣いておられた・・・それ以来、シャロン様は誰とも交わろうとはしなかったのだ」


ギルザードは追憶から立ち戻り、悠の目を見て語った。


「シャロン様がここまで打ち解けたのは、ユウ、貴公が初めてだ。どうかシャロン様にほんの一時でいい、安らぎを与えてくれ」


「シャロンにはギルザードがいよう。随分とお前を引き戻してしまった事を悔いていたぞ?」


悠の言葉に沈痛な表情を浮かべ、ギルザードは俯いた。


「まだその様な事を・・・騎士が主を守るのは当然の事だ。シャロン様が気に病まれる事は何一つ有りはしないというのに・・・」


「騎士の鑑だな、お前は」


「主を守れない騎士など騎士では無い。もっとも、力を測るつもりでお前達に首無しで仕掛け一蹴された私はただの道化だったがな。私も鎧を新しい物に変えねば今は戦えそうも無い。一応この鎧も魔銀ミスリル製の逸品だったのだが・・・」


ギルザードの鎧は50階での戦闘でひび割れ、所々溶解している箇所すらあった。智樹の攻撃を受けた小手は歪んでしまっているし、限定空間内での京介の『炎蹴撃ファイヤーシュート』は鎧全体に深刻なダメージを与えていた。


「デュラハンの強さは元になった者の生前の力量と装備で変化する。この鎧を纏ってから500年以上経つが、ここまで完全に打ち破られたのは初めてだ」


「良ければお前の鎧の修復は頼んでみてもいいが? この家には腕のいい鍛冶師も住んでいるからな」


「本当か!? もし頼めるのならば是非ともお願いしたい!!」


魔銀の鎧以上の物が手持ちに無かったギルザードが思わず悠に詰め寄った。


「暴走状態のシャロンですら打ち破れぬこの手甲ガントレットを作り出した鍛冶師だ、必ずギルザードの力になるだろう」


「その美しい手甲の作者か? よくシャロン様の攻撃を受けて壊れないものだと感心していたが、それならば安心だ」


そう言ってギルザードは自分の鎧の各部の留め金を外し、鎧を脱ぎ始めた。主同様に青白い肌をした腕が見え、そして胴体部を外した時、悠は待ったを掛けざるを得なくなった。


「・・・待て、何故裸なのだ?」


「騎士たる者、いつ何時であろうとも主の危難に駆けつけなければならだろう? それは例え湯浴みをしていてもだ。わざわざ上着を着ている暇など無いかもしれないではないか。だから我が国の風習では鎧の下には何も纏わぬ。おかしいか?」


「ギルザードの国の風習をとやかくいう気は無いが、今は時代が違う上、国も違う。お前は女なのだから、みだりに肌を晒さぬ方がいい」


悠の謹厳な物言いにギルザードが堪え切れぬとばかりに笑い出した。


「お、女ぁ? ・・・くっ、アハハハハハハハ!! こ、こんな体になって1000年、女扱いされたのは初めてだ! 本当に貴公は面白いな、ユウ!! ハハハハハハハハ!!」


《いいからその笑う度にぶるんぶるんしてる胸を隠しなさいよ!! ユウが困るじゃないの!!》


「シャロン様の艶姿にも屈さない男がこの程度で困りはしないだろう? まぁ、はしたないと言うなら隠そうか。ククク・・・」


ツボにはまったギルザードは笑いながら体に布を巻き付けた。


「お前もしばらくはミリーの服を借りておけ。後で恵にお前の分の服も作って貰おう」


ギルザードの身長はミリーより高く、若干寸が足らないのだ。


「何から何まで世話になる。まさか人間に助けて貰う事になろうとは、今朝には想像すらしなかったなぁ・・・」


「人間にも色々居る。シャロンを庇った者もそうだし、明のように見た目に拘らない者もな」


「いや、その最たる者は間違い無くユウだと思うがな? しかし、メイには随分と救われた。後で礼を言わせてくれ」


ギルザードの言葉に悠はしっかりと頷いた。


「さて、いつまでもここに俺が居ては湯が冷めてしまう。鎧は預かっておくぞ」


「お願いする」


ギルザードの鎧を『冒険鞄エクスパンションバック』に詰め、悠は足音を消してドアに近付きスッとドアを引くと、そこにはドアの前でとてもいい笑顔を浮かべるバローが待っていた。


「何か用か?」


「いや、俺も何か手伝える事が――」


「無い。一切無い。微塵も無い。ギルザード、この部屋に誰も入れるな。シュルツ、俺が居ない間見張りに立て」


「うむ、シャロン様の肌を晒す訳にはいかないからな」


「御意です」


120%拒否され、更に2人掛かりで防衛線を敷かれたバローが目を怒らせた。


「待てよ!! 俺は最初から協力的だっただろ!?」


「それとこれとは話が別だ。シャロンが落ち着くまで接触は絶対に禁止だと言っておくぞ」


「分かったら疾く去れ、短小。貴様は絶対に通さんぞ」


「うぐぐ・・・お、覚えてやがれ!!」


流石にこの防衛陣を突破出来ないと悟ったバローは悪態を付きながら走り去っていった。


「そう言えばそこの者、シュルツと言ったな?」


「それがどうしたデュラハン」


ふとギルザードが何かを思い付いた様にシュルツに尋ねたが、シュルツの態度は硬いままだ。だがギルザードは構わずに言葉を続けた。


「そう尖るな。ただ・・・その双剣、もしかしてと思っただけだ。私には武芸者を志して家を出た弟が居たのだが、貴公の目が弟のそれと似ていたからな。・・・我が家名はシュルツ。ギルザード・シュルツが正式な名なのだよ」


「なっ!?」


普段は動揺など一切表さないシュルツがこの時ばかりは激しい動揺を表に出していた。


「弟の名はディルメール・シュルツ。姉の私が言うのもなんだが、中々の変人でな、おかしな掟などをよく口にしては周囲を呆れさせていた。結婚もしておらんのに勝手に家訓などを作っては父上に怒鳴られつつ日々精進していたが・・・強かったぞ? 特に2本の剣を使いこなす様になってからは私も五分五分が精々だったなぁ・・・」


「も、門外不出の始祖の名を・・・あ、貴方は始祖の姉君であらせられましたか!?」


「お、という事は弟は無事自らの流派を立ち上げたか、それは重畳」


「し、失礼仕りました!!! か、数々のご無礼をお許し下さい!!!」


シュルツは悠に弟子入りした時と同じくらい恐縮してその場に膝を付き、頭を床に叩き付けた。ゴスッという鈍い音が廊下に響く程度にはその土下座は本気であった。


「あー・・・弟の変な部分が伝わっているのか? 貴公の言う通り、今の私はデュラハンだよ。そんなに気にしないでくれ。怒っていないから」


「は、はい・・・」


《・・・人の縁って奇妙な物ね・・・》


有り得ない偶然にレイラが嘆息した。まさか1000年後に子孫に会うとはギルザードも思っていなかったに違いない。


「だがこれでシュルツに見張りを任せても大丈夫そうだな。ギルザード、シュルツと上手くやってくれ。シュルツもいいな」


「ああ、了解した」


「勿論です、師よ」


悠は畏まるシュルツに見張りを任せ、その場を離れたのだった。

一子相伝で1000年続いたって、陸奥圓〇流か北斗〇拳かって突っ込みたくなりますが・・・


デュラハンは首が遠いと弱体化します。つまり、ギルザードはもっと強いです。

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