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6-62 邂逅13

万が一の事故に備えて男性陣が広間に控える間、女性陣は全員で風呂タイムとなった。


「ふぅん・・・まぁまぁ広いじゃない」


「・・・」


表面上は気にしていない風に見えるアリーシアと事実を知って明らかに落ち込むナターリアだったが、そこは恵と樹里亜がサポートした。


「こちらにどうぞ、アリーシア様、お背中をお流しします」


「あら、ありがとう」


最初はアリーシアに隔意を抱いていた恵だったが、今の話を聞いてアリーシアに共感する物を感じ、態度を軟化させていた。恵も父を失ってドラゴンを激しく憎んだ覚えがあるからだ。


「ナターリア姫もお座り下さい」


「ああ・・・」


一方の樹里亜も母子家庭で過ごした人間である。未だに母親に父について聞けない事は多々あり、真実を知ったナターリアに同情する気持ちがあった。


この2人が並んで座るとそこだけが異世界の美に満ちているようで、その美しく染み一つない肌を恵と樹里亜は年頃の娘として羨ましく思った。特にアリーシアは全体的に細いナターリアと違いメリハリの付いた肉付きであり、女性の美の完成体であるかと思われた。


「ん・・・いいわ、人に体を洗って貰うのなんて久しぶりね」


「・・・王族の方なら侍女の方が洗ってくれたりはしないんですか?」


「そんなの小さい子供の内だけよ。手が付いているんだから、そのくらいは普段は自分でするわ。でも、たまにはいいかもしれないわね。とっても気持ちいいし・・・」


アリーシアは恵に洗って貰ってご満悦のようだ。これも恵の『家事ハウスキーパー』の才能ギフトが働いている為である。


「・・・母上、一つ聞きたい事があります」


そこに樹里亜に洗っている事など気付かないかのようにナターリアがアリーシアに声を掛けたが、アリーシアの返事は全く素っ気ない物だった。


「言っておくけど、エースの事なら私は喋らないわよ。聞きたかったらハリーに聞いて」


「私は父上は病で死んだのだと聞いていました! 母上は私に嘘を・・・ぐっ!?」


尚も問い詰めようとするナターリアの首にアリーシアの手が伸び、その細い首を掴んだ。


「・・・喋らないと言ったでしょう? どちらにせよ、あなたの父親はもう居ない。それが事実であり全てよ」


「う、ぐぐ・・・っ!?」


「あ、アリーシア様、止めて下さい!! ナターリア姫も悪気があって聞いたんじゃありません!!」


アリーシアは必死に止める恵にチラリと目を向けると、ナターリアを解放した。


「ゲホッゲホッ!!」


「・・・この子に感謝するのね。ケイ、あなたの腕前には惚れ惚れしたわ、あっちで洗い直して頂戴」


「あ・・・は、はい・・・」


そのままアリーシアは恵を連れて遠くの洗い場まで移動してしまった。


「ゲホ・・・何故だ、娘が、父の事を尋ねるのがそんなに悪い事なのか・・・!?」


アリーシアに逆らい切れない自分自身にナターリアが悔し涙を滲ませたが、その耳に樹里亜は口を寄せ小声で呟いた。


「ナターリア姫、その問題はきっとアリーシア様にとって今でも話すのが辛く、そして苦しい事なのだと思います。・・・私の家もそうでしたから・・・」


「・・・そうなのか、ジュリア?」


後ろを振り返って尋ねるナターリアに樹里亜は小さく頷いた。


「私も父親が居ない家庭で育ちましたから。小さい頃はよく「何で家にはお父さんが居ないの?」って聞いてはお母さんを困らせていました。そして10歳頃にもその事を聞いて教えてくれなかった晩に、夜中起きるとお母さんが居間で一人で泣いているのを見ちゃったんです。お母さんはお父さんの名前を呟きながらずっと泣いていました。それを見て以来、私もお父さんの事を聞いてないんです。いつか、お母さんの心の整理が付くまで待とうと思ったんです。・・・今でも知りたいとは思ってますけどね」


樹里亜はいつの間にか込み上げて来た涙を指で拭ってナターリアの背中をそっと抱いた。


「だから、アリーシア様の気持ちも少しだけ汲んで上げてくれませんか? 待つ方としては辛いという気持ちも分かりますけど、真相を知ってしまっている人はまた違う辛さがあると理解してあげて下さい」


樹里亜の体温が、心臓の鼓動が伝わって来て、ナターリアは荒れていた自分の心が落ち着いて行くのを感じた。そして自分の10分の1も生きていない少女に慰められている自分を恥じた。


「・・・済まない、ジュリアには辛い話をさせてしまって・・・。これでは年長者とは言えんな。許してくれ」


「いいんです。ここには恵や明、蒼凪みたいに私と同じく父親が居ない子が何人も居ますから、私は平気です。少しは元気が出ましたか、ナターリア姫?」


「ああ、もう大丈夫だ。・・・それと、もう姫は付けなくていい。私の事はナターリアと呼んでくれ。・・・わ、私の、その・・・と、友達になって欲しいのだ!!」


言った事の無いセリフのせいで必要以上に大きくなった声が風呂に響き、ナターリアは口をパクパクさせて全身を真っ赤に染めた。


「・・・プッ、そ、そんなに緊張しなくてもいいじゃない、ナターリア」


「わ、笑ったな!? ええい、今度は私が背中を洗ってやる!! 大人しく背中を向けるんだ!!」


「お? 勝負か? あたしも参戦するぞっ!!」


「明もーーーーーっ!!!」


そこに神奈と明が混じり、4人は泡だらけになって揉み合った。


「ふっ、皆お子様ね。キレイに洗わないと悠先生の怒られぎゃあああああああッ!?」


「あは~、朱音ちゃん隙あり~」


その隣でクールを気取って頭を洗っていた朱音の背中に神楽が桶で汲んだ冷水を流し悶絶させる。


「うう・・・エルフの人達キレイ過ぎる・・・私ももっと・・・」


「他人と比べるのは愚か。要は意中の人だけに気に入って貰えばいい・・・巨乳もげろ・・・」


完成度の高いエルフに気後れするリーンと呪いの言葉を吐く蒼凪は湯船でそっと自分の胸を揉んで祈っていた。


「済みませんアリーシア様、騒がしくて・・・」


「別にいいわよ、ここはあなた達の家なんですもの。年寄りは邪魔しない方がいいわ」


「・・・あまりご無理はされないで下さい。アリーシア様だって意地悪で言っているんじゃないってきっと伝わりますから」


樹里亜の母親と違ってお酒が入ると上機嫌で父親の話をし、そしてやはり最後には泣きじゃくる咲という母親を持つ恵は一人悪役を演じるアリーシアを宥めた。


「・・・子供が生意気言ってるんじゃないの。・・・でも・・・・・・・・・ありがと」


少しだけ耳を赤くし、背中越しに小さく答えるアリーシアに、恵は丁寧に肌を磨く事で応えたのだった。

不器用な母子関係と言った所でしょうか。


ちなみに咲はお酒が入ると夫婦の営みに関する事まで詳細に言い出す酒乱なので恵は耳年増です。

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