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6-60 邂逅11

引き返す道すがら、悠の頭に声が響く。


(ごめんなさい、ご迷惑をお掛けしてしまって・・・)


その声の調子から、悠はそれが蒼凪では無く自分が今抱えているシャロンの『心通話テレパシー』であると気が付いた。その目はいつの間にか見開かれており、漆黒の瞳が悠を見上げている。


(いや、俺も不躾な真似をしてしまって済まない。興味本位で君やギルザードを危険な目に遭わせてしまった、許して欲しい)


悠の手の中でシャロンはほんの小さく首を振った。


(いえ・・・世間では私の様な者がどう思われているのかは知っています。私も元は普通の人間でしたから・・・)


吸血鬼バンパイアとは一体何なのだろう? 特定の種族では無いのか?)


(はい、私も多くを知る訳ではありませんが、吸血鬼になるには2つの道筋があります。一つは噛まれた者からの感染ですが、99%以上はこの方法で吸血鬼になります。どうしてユウ様が吸血鬼化していないのか私には分からないのですが・・・?)


レイラが言った毒性の魔力マナとは吸血鬼化を促す物であったらしい。それを更に強力な竜気プラーナで押し返しているという趣旨の説明を悠は行った。


(何故その様な力がお使いになれるのかは分かりませんが、そういう事として受け止めます。それで、残りのごく僅かな例として死ぬ事によって発動する才能ギフトがあるのです。それが『真祖トゥルーバンパイア』であり、私の持つ才能でした。『真祖』は他の吸血鬼と違い、弱点がありません。力は落ちますが日光の下でも活動出来ますし、首を落とされても心臓を抉られても死ぬ事はありません。全身を一瞬で完全焼却すれば死にますが、僅かでも焼け残ればそこから強制的に再生します。・・・何度か自殺を試みましたが果たせずに生き残ってしまい、大きな損傷から復帰すると私は正気を失ってしまうのです。強烈な飢えと破壊衝動が沸き上がり、目に付く者全てを殺し尽し、吸い尽くすまでそれが治まる事はありません。ギルザードとの長い放浪の末、私は『迷宮創造ダンジョンクリエイト』の能力スキルを得たのを幸いに、アザリア山頂にダンジョンを創造しました。そして朽ち果てるまでこの地で過ごそうと決めたのです・・・)


若く美しいはずのシャロンの顔に、一瞬枯れ果てた老婆の影が重なった様に悠には見えた。きっと長い長い闇の道をギルザードだけを供に歩いて来たのだろう。


(静かに暮らしたい君の事情は分かった。俺はやはり不躾な闖入者であったらしい。君の特性ゆえ他の者との接触は厳しかろうが、せめて俺の屋敷に居る間だけはゆっくり休むといい)


(そのお言葉、有り難く存じます。・・・実はユウ様の事は以前より見知っておりました。あの、1階に居たドラゴン達を打ち倒された時から)


(あの場に居たのか? 気付かなかったが・・・)


(いいえ。ただ、ダンジョンの中の事は全て私には知覚出来ますから。1000年に渡るこの呪われた生の中でもこんなにお強い人を見たのは初めてですし・・・)


そこでシャロンは僅かに言い淀んだが、意を決して言葉を放った。




(・・・ユウ様、私を殺してくれませんか?)




何となく、悠はシャロンがそう言うのではないかと予測していたが、心に浮かぶ思いはハッキリと否であった。


(俺に抵抗もしない娘に対して人殺しをしろと?)


その言葉にシャロンの口元に微かな笑みが浮かんだ。


(私をまだ人と呼んでくれる方が居る事に例えようも無い嬉しさを感じています。けれど、ここに居るのは1000年の穢れた生を経た吸血鬼です。その様な斟酌は無用)


(ギルザードが悲しむぞ? あれほどの忠臣は滅多に居る者では無い。もしシャロンに先立たれれば・・・恐らく生きておれまい)


(・・・ギルザードには感謝しています。そして、それ以上に後悔しています。孤独に耐えかね、私が作り出してしまったデュラハン、ギルザード。生きている時にずっと私を助けてくれたギルザード。私を庇い、斬首に処されたギルザードを現世に押し留めてしまった罪が私にはあるのです。・・・私は道連れなどを求めるべきでは無かった。ただ一人で死んでいくべきだったのです。私が亡き後はどうかギルザードに自由を。そして、出来るならば救いを・・・)


シャロンの目から透明な水滴が頬を伝った。悠は左手を伸ばしてその水滴を拭い去る。


(生きて苦悩し、後悔して涙を流す。これ以上お前が人である証があろうか? その生が、さがが呪われているのなら、その呪いを解く方法を探すべきだ。その為に俺は協力を惜しまぬ)


(ユウ様・・・!)


(生きる事を投げ出してはならん。それがどんなに辛くとも、この世に生を受けたならば、人は自分の道を探さねばならない。そしてその道を歩まねばならない。シャロンの道は他の者達より長く、そして険しかろう。時にはうずくまりたくなる時もあるはずだ。短い間だろうが、俺とシャロンの道は交わった。ならば、再び別れる時まで共に道を行くもよかろうよ)


シャロンの目から留める事の出来ない熱い思いが次から次へと溢れ出していた。人として扱われなくなって久しいシャロンにとって悠の言葉は福音であったのだ。


「あっ!? ユウ、お前シャロンを泣かせてんじゃねぇよ!! ・・・さ、シャロン、このハンカチーフで涙をお拭き。君の美しい顔に涙は似合わないよ?」


「・・・ふふ、バロー様、ありがとう御座います・・・」


「は、ハハハハハ! こっ、光栄の至りで・・・うぉっ!?」


グシャっという音と共にバローがシャロンの視界から消え、地面を転がった。隣を歩くシュルツが足を引っかけたのだ。


「済まん、気色悪い物を見てつい足が出た。悪気は無いぞ?」


「ざっっっっけんなこのクソ女!! テメェとはいつか決着を付けてやろうと思ってたんだ!!!」


「ちょっと美人を見るとだらしなく鼻の下を伸ばしおって。貴様の頭には女と金と酒だけか?」


「不細工なツラを隠さなきゃならねぇテメェにゃ永遠に縁のねぇ話だろうよ!!!」


「・・・自分の顔の不自由さを棚に上げて拙者を侮辱するか?」


一瞬場が重苦しくなったが、普段は潤滑剤を務めるハリハリも先ほどから失調気味であった。だからそこに割り込んだのは別の人物だ。


「シャロンお姉ちゃんの周りで騒がないの!! お姉ちゃんは病人なんだよ!!!」


明の言葉にバローは気まずい表情で頭を掻き、シュルツも軽く顎を引いて殺気を消し去った。


「明、ありがとう。助かった」


「ううん、皆さっきから変なんだもん。悠お兄ちゃんは別に変な事してないのに・・・」


明の目には悠の行動は何ら奇異に映ってはいなかった。いつも通り戦い、いつも通り助ける。それに難色を示す他の者達の方が明の目から見れば変なのだ。明にとって、エルフと仲良くなる事も吸血鬼やデュラハンと仲良くなる事も何の差異も無いのだった。


「メイ、ちゃん? ありがとう・・・」


「ううん! シャロンお姉ちゃん、悠お兄ちゃんに抱っこされてるとドキドキする? 明も抱っこされるの大好き!」


「えっ!? あ、あの・・・・・・・・・はい・・・」


明の直球な質問に普段は青白い顔をほのかに赤く染めて律儀に答えるシャロンを見て、他の者達の緊張も若干薄れた様だ。


「・・・・・・・・・」


「蒼凪、お願いだから瞬きくらいしてよ・・・すっごい怖いんだけど・・・」


「・・・あそこは私の席・・・次は絶対私が抱っこして貰う・・・」


「あなたブレないわね・・・はぁ、何だか警戒してる私達がバカみたい。私も仲良くなろっと」


明や蒼凪、そして何よりシャロン自身を見て樹里亜ももう少し距離を縮めようと悠の側に近寄ると、他の子供達も(神奈以外)恐る恐るではあるが、シャロンへの距離を詰め始めたのだった。

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