6-56 邂逅7
「・・・なぁ、何で俺ら50階に居るんだよ。2時間ほど前に30階辺りでやるって言ってたのに・・・」
「仕方無いじゃないですか、バローのアニキ。こんなに楽に来れるとは思わなかったんですから」
「ここまでくればそれなりだが、逆に言えばそれなりでしかないな。拙者はもっと強者と戦いたいのだが・・・」
さて、何故ここまで下りて来たかと言うと、30階でも殆ど苦戦らしき苦戦をしなかったからに他ならない。ならば40階まで降りようと言って40階に着たが、それでも手に余る事も無く、結局50階まで降りて来たのだった。
そもそも戦力が過剰なのである。悠は参加すると一瞬で戦闘が終わってしまう為にアドバイス役に徹しているし、子供達は連携すれば一軍に匹敵する力を持っているのだ。この階の様に最低でもⅣ(フォース)以上の魔物しか出なくなって初めて殲滅速度が落ちて来ていた。ハリハリとアリーシアはナターリアを扱いている。
「もう、相手を見て魔法を使いなさいよ。質量の大きい相手に『風の矢』は効果が薄いんだから、『石の矢』か『炎の矢』にしておきなさい。急所を確実に狙い撃ち出来るほどあなた照準上手くないでしょ?」
「もしくはもっと搦め手を使うべきです。一人よがりの戦い方ではいけませんよ。今は仲間が居るのですから、ある程度足止めをすればトドメは任せてもいいのです。ああっ、的の小さい相手は矢系じゃなくて範囲系でって昔々言いましたよね?」
「ち、ちょっと!? ガンガン耳元で言わないで下さい!!」
「はい集中乱れた未熟者ー。全く、いつからこんな大雑把な魔法の使い方してたのかしら? それもみんなハリーティアが居なくなったせいね。絶対に許さない」
「む、蒸し返さないで下さいよ!?」
ナターリアとてエルフの中では一流の魔法使いなのだが、超一流たるハリハリとアリーシアの目にはまだまだアラがあるようにしか見えないのだった。
「この狩場は出て来る魔物から考えてⅤ(フィフス)~Ⅵ(シックスス)と言った所か。・・・京介、魔法の威力が拡散しているぞ。始は皆に遠慮し過ぎだ、もっと積極的に。アルトは敵の真正面に立つな、魔法の射線が取れん。神奈は孤立するな、回避力を過信すると押し切られるぞ」
「「「はい!」」」
悠は魔物辞典を見ながらも皆に的確なアドバイスを行っていた。こうして見ていると個人戦闘とはまた違った各人の動きが見えてくる。個人戦闘で力を発揮する者が多数の連携を苦手としていたり、逆に個人戦闘では普通だった者が上手く連携の要を務めていたりするのだ。特に前線で敵の攻撃を引き受ける智樹は粘り強い戦いを見せ、その後ろからリーンが敵の手足を狙って行動力を削いでいる。樹里亜、小雪の両結界使いも広い視野で戦況を支えていた。
「防御が主体の敵は後回しでいい。先に攻撃力が高そうな個体、厄介な攻撃手段を持っている個体などから先に始末しろ。ミリーは遊撃、ビリーは手強そうな相手を牽制してくれ」
「「了解!」」
本来ならもっと上手く連携すれば子供達も楽に倒せるはずなのだが、場所が限定されている事や悠との対個人戦の影響で少々もたついている。それでも誰一人大きな怪我も負わず、てこずりはしても呼吸を乱している者も居ないのは立派な事だろう。
「どうする、ユウ。このままダンジョンを攻略しちまうか?」
「別に無理に攻略せずとも良かろう。出て来る魔物からしても恐らくここの主はⅦ(セブンス)程度だろうと予測出来る。潰してしまえばダンジョンはそれまでなのだろう?」
「そうですね、30階以降は地図も無いですし、素材の調達場所としては優秀ですからね。外に魔物が漏れ出す事も無いですし、潰さない方がいいですよ。倒して手に入る物も私達に必要とは思えません」
金銭にしろ魔道具にしろ悠達は自力で十分に調達出来る様になっているし、わざわざダンジョンを潰してまで手に入れたい品でも無いのだ。
「んじゃ、一応ここのボスの顔だけ拝んで帰るか。粗方殲滅も終わったみてぇだしな」
悠達が話し合っている内に子供達は殲滅を終えたらしく、未見の魔物の解体をビリーとミリーに習っていた。
「次の部屋ではまず俺が一当てしよう。問題無ければ子供達に任せ、弱らせたら撤収だ」
「Ⅶの魔物なんてウチの精鋭でもかなり被害が出るのに・・・人間って強くなるの早過ぎない?」
「母上、ユウですから」
「心配しなくてもここに居る人間以外は昔とそう変わりませんよ。さ、参りましょう」
緊張感の無い会話を切り上げ、解体を終えると悠達は最後のボス部屋へと足を踏み入れた。
「・・・あれ? まだ下の階があるみたいだぜ?」
「どうやらごく最近51階が新たに生成されたらしいですね。ここを守るデュラハン(首無し騎士)もⅥランクの魔物ですから」
バローとハリハリの言う通り、この場所を守っていると思われるデュラハンの後方に下へ降りる為の階段が存在しており、まだ下の階がある事は明らかだ。
「デュラハンは元となっている者の強さでその強さが変わってきます。場合によってはⅦでもおかしくありませんから要注意ですね。弱点は光属性の魔法で、物理的な攻撃はあまり効きません。まぁ、鎧を破壊してしまえば倒せますので力押しでもこのパーティーなら倒せるでしょうが、『闇鞭』の魔法で目潰しをして来ますので注意して下さい。剣もそれなりに使うので、近接戦闘に自信が無い人は近付かない様に」
「ふむ・・・恵、明、神楽、リーン、小雪、神奈は後方待機、智樹、アルトは前線、樹里亜は防御担当、朱音は霍乱、京介、始は魔法で遠距離攻撃。蒼凪は相手の魔法をよく見ておけ」
「「「はい!!」」」
悠は相手が一体の為、バランスの取れた布陣を組んでデュラハンに当たらせた。6人というのは一般的なパーティーの人数であり、これでデュラハンに勝てるのなら子供達はⅦに迫る実力があるという事になるだろう。
「せいっ!」
アルトが斬り付けた剣をデュラハンは盾で防御しようとしたが、アルトが屋敷から持って来た替えの龍鉄の剣は難なくその盾の上部を切り飛ばした。
「装備の差を恨まないでねっ!」
一瞬硬直した隙に智樹が筋力任せに龍鉄棍を振るうと、盾を引き戻す時間が無かったデュラハンは右手を畳んで防御したが、その小手がひしゃげるほどの勢いに耐え切れずに吹き飛ばされて地面を転がった。
それでもすぐに起き上がろうとしたデュラハンに朱音が地面に向けて魔法を放つ。
「逃がさないわ! 『凍土』!」
「!?」
デュラハンが力を込めようとした地面が凍結し、金属鎧を纏うデュラハンは足と手を滑らせてその場に再び転がってしまった。そこに始と京介の呪文が殺到する。
「合わせて、京介君!」
「おう!! 食っらえーーーっ!!!」」
動けないデュラハンの周囲を始の魔法で作った土壁が囲み、そこに京介の『炎蹴撃』が炸裂した。このコンビネーションは悠との模擬戦では破られてしまったが、今回はバッチリ直撃し、デュラハンに甚大なダメージを与える事に成功している。
土壁が崩れ去ると、そこから鎧が歪みヒビが入ったデュラハンが弱った様子で這い出して来た。
「凍った床で逃げ足を奪い土壁で逃げ場を塞ぐ。そして閉鎖空間に炎球の連携なんて、この子達よく鍛えられてるわ。ウチにくれない?」
「あげませんよ。彼らは自分の世界に帰してあげなければなりませんから」
ただの出力任せでは無い、上手い魔法の使い方にアリーシアが感心の声を上げた。アリーシアほど魔法に熟達すると、一撃の威力より弱い魔法でも上手に使う方が賞賛に値するらしい。
デュラハンは旗色の悪さを悟って闇属性魔法『闇鞭』を放つが、距離があった為、樹里亜の結界であっさりと弾かれてしまった。デュラハンは攻撃は近距離戦闘の物が多く、遠距離ではあまり効果を発揮しない。その得意とする近接戦も装備の差で力を発揮出来ないのだからデュラハンに勝ち目があるはずがなかった。
「ここまでだな。次は防具以外は龍鉄を使わん方が良さそうだ。智樹、アルト、トドメを――」
《待ちなさい!! それ以上ギルを攻撃する事は許さないわ!!》
空間に響く声に子供達の手が止まった。
「何者だ?」
自分の感知出来る範囲に敵がデュラハン以外居ない事を確認した悠が問い掛けると、再び空間に声が響いた。
《私はこのダンジョンの主、エルダーリッチ(死せる大魔導師)のシャロンよ。宝が欲しいのならくれてあげるから、もう帰って頂戴》
「別に宝が欲しい訳ではないが・・・話の通じる相手に頼まれて問答無用とはいかんな。一度顔を合わせて1対1で話がしたいが?」
悠の提案に声の主はしばし沈黙した。
「どうした? 都合が悪いのか?」
《そ、そんな事は無いわ! じゃあ降りていらっしゃい、勿論一人でね!! 怖いんだったら引き返してもいいのよ!?》
「いや、行こう。皆はここで待っていてくれ」
「ユウ、エルダーリッチは相当な強敵だ。話が出来るからって油断出来る相手じゃない、気を付けろ!」
「分かっている、デュラハンの監視は怠るなよ」
悠がそうナターリアに言うと、アリーシアが魔法を使い、地面が盛り上がりデュラハンの足を固めて拘束した。
「土属性はあまり得意じゃないけど、弱ったデュラハンに解かれるほど私の『石封』はヤワじゃ無いわ。安心して行ってらっしゃい」
「助かった。では行ってくる」
特に構える事も無く、悠は遮る者が居なくなった下の階への階段を一人降って行ったのだった。
デュラハンもそこそこ強いはずなのですが、防御無視に近い龍鉄装備は反則ですね。
そしてデュラハンでお気付きの方もいらっしゃる事があるかもしれませんが、それは次回に。




