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6-55 邂逅6

ダンジョンの入り口で整列した子供達の前でビリーとミリーが注意事項を伝えていた。


「まずダンジョンで一番気を付けないといけないのは不注意だ。ダンジョンには罠もあるし魔物モンスターだって居る。弱い魔物だからと侮っていると後ろから他の魔物に攻撃される事もある。だからダンジョンでは走らない、一人にならない、勝手に行動しない、この3つを必ず守る様に」


「それと各自の魔法にも注意が必要よ。特に火属性を使うキョウスケと地属性を使うハジメは魔法の出力に気を付けて。火は狭い場所で使うと自分たちも炎に巻かれる事があるし、小部屋で多用すると呼吸が出来なくなる事があるわ。地属性はあまり周囲の壁や天井に干渉し過ぎると部分崩落する事もあるからね。火力は絞って最適な力で敵を倒す様に」


「明、絶対一人でどこかに行っちゃダメよ?」


「うん!!」


「うへ~、俺手加減苦手なんだよなぁ・・・」


「僕は割と得意かな?」


「と、いう事は、魔法戦闘は私と神楽、蒼凪お姉ちゃんがメインなのね!!」


「私は範囲指定がちょっと苦手~」


「大丈夫、先生達が居るから焦らずにやればいい」


「私達結界使いはサポートを中心に動くわよ、小雪ちゃん」


「はい、樹里亜さん」


「あたしと智樹、アルトは前衛だな! 頑張ろうぜ!!」


「ハハ・・・悠先生に鍛えて貰ったから大丈夫だと思うけど、ちょっと緊張するね」


「大丈夫ですよ、トモキさん。上の方に居る魔物でトモキさんの防御と攻撃力に敵う相手は居ないはずですから」


子供達は多少緊張はしているらしいが、今まで散々悠相手に絞られていたのでそれもほどよい刺激程度で収まっているらしい。


「これだけ大所帯だと、歩き回って狩るのは効率が悪いかもしれないな」


「どこかいい場所があるか?」


ダンジョンの中盤までの地図を持っていたナターリアに悠が問うと、ナターリアは一階部分から指を滑らせ、10階のある地点を指した。


「ダンジョンは10階毎に魔物が自動生成される場所がある。その先に大抵は周囲の魔物よりも手強い魔物が道を塞いでいるのだ。1階から10階までは一気に下りられるから、腕に自信があるのなら行ってみるか?」


「どうかな、子供達は魔物との初戦闘という事もある、多少は弱い相手で確かめてみたい。まずは5階あたりで一度戦闘を経験させよう」


「そんな事じゃ今日中にこのダンジョンを攻略出来ないわよ?」


「しませんよ、攻略なんて・・・」


サラリと物騒な事を言うアリーシアをナターリアが嗜めた。


「ダンジョンかぁ・・・シュルツ、お前入った事があんのか?」


「修行していた場所の近くにある物によく篭っていた。が、拙者は罠を見抜けんのであまり深い場所には入れぬからそんなに重宝はしなかったが」


「ダンジョンの罠は大抵魔力マナで稼動していますから、私かレイラ殿なら見抜けますよ。物理系の罠はその限りではないですが、このメンバーなら力ずくで粉砕出来るでしょう」


ダンジョンは10階踏破毎にその趣を変える場所だ。10層分の階段は隣接していてすぐに10階まで辿り着けるが、11階への階段はその階のボスとも呼べる魔物を倒した先にしか存在しない。調子に乗って一気に階を重ねると急に強い魔物が出て来てアッサリ殺されるという寸法だった。


「ではまず5階まで降りよう。ナターリア、案内してくれ」


「うむ、任せておけ!」


そう言って胸を張るナターリアを先頭に、悠達はダンジョンの奥へと進んで行ったのだった。




「これは・・・どうしたものかな・・・」


ナターリアがポツリと漏らしたのは10階のボス部屋での事であった。


「ん~・・・油断とかそんなんじゃなくて、弱くね?」


「うん・・・トモお兄ちゃんが殴っただけで動かなくなっちゃった・・・」


「ハハ・・・そんなに強く叩いて無いんだけど・・・」


上の階で全員一通り魔物と戦い、最初は生き物を殺す事に始や智樹は戸惑いを覚えていたが厳しい鍛練で鍛えた精神力でそれも克服し、全員が問題無く連携を組める様になった為、冒険者体験は一段上の段階へと移行した。その際の魔物の解体の方が手間取ったくらいである。こちらでは逆に生物の構造に精通する智樹と『家事ハウスキーパー』の才能ギフトを持つ恵が活躍する事が出来たのだが。


問題は無いと言えば無いのだが、強いて言えば本来の力を発揮した子供達の実力に魔物の力がまるで追い付かず、しっかり作戦を立てて望んだ階層ボス戦など最初に牽制のつもりで一当てした智樹の攻撃で絶命してしまい、倒した智樹も気まずい雰囲気に苦笑していた。


「この子達、本当に今日が初めての戦闘なの? 私達の所の兵士より強いわよ?」


「この子達は『異邦人マレビト』だからな」


悠の返答にアリーシアが目を丸くして反論した。


「そうなの? でも私も『異邦人』は見た事はあるけど、こんなに強くなかったわよ?」


「ヤハハ、彼らは私達で一年間みっちり鍛え上げましたから、力を合わせればドラゴンにだって負けません」


「とてもそれだけだとは思えないけど? たった一年普通に鍛えたからってこんなに強くなるはずがないわ」


「普通じゃありませんでしたから。その辺りは追々話しますよ」


話が一段落したと見て、ビリーが今後の方針の変更を申し出た。


「ここより上ではあまりいい練習にはなりそうにないですよ。罠などの事も考慮して、30階辺りまで潜った方が実践的ですね」


「そのようだな。ナターリア、案内を頼めるか?」


悠の要請にナターリアも頷いた。


「任せておけ、そもそもこれだけ余裕では私の鍛練にならないからな。多少は殲滅速度が落ちる階層まで行かなければどうしようもない」


「あら、ちゃんと鍛える気だったのね。私はてっきりユウに会うのが目的だと・・・」


「ち、違います!! 私はちゃんと鍛練もするつもりでした!!」


「でもわざわざ指輪をユウにあげたんでしょ? それってつまりは――」


「母上!!」


アリーシアが言おうとした事を慌ててナターリアが遮った。


「それよりボスを倒したから宝箱が出ますよ。ハリハリさん、一応調べて下さい」


ビリーが言う宝箱とは、ダンジョンの床の一部がせり出してボスの後方に出現していた。素材もダンジョンの床と同質の物で出来ており、宝箱と言うよりは石棺の様に見えた。


ダンジョンを生成する魔物は内部の魔物を増やす為に冒険者をおびき寄せる性質があり、ボスを倒せば宝が手に入るという事を刷り込み、その射倖心と欲望を刺激しているのだった。それにより、ダンジョンは内部の魔物をより多く溜め込むのだ。


そして低確率ではあるが階層毎にも宝箱は存在し、そこに罠が仕掛けられている事もあるのでビリーは魔法で罠を感知出来るハリハリを呼んだのだった。


「どれどれ・・・ふむ・・・投擲系の罠があります。『アロー』か『投げダート』の罠でしょう」


「それは良かった! 皆、宝箱の正面から外れてくれ! 罠を発動させるから」


ビリーはあえてどんなものか子供達に見せる為に罠をそのままにして貰って宝箱に慎重に手を掛けた。


「兄さん、気を付けてね?」


「ああ、俺も罠には酷い目にあったからな・・・それっ!」


ビリーが蓋を上に押し上げると、開いた隙間から勢い良く矢がビリーを目掛けて飛び出してきた。


「よっと!」


しかしビリーも既に一流に手を掛けた冒険者であり、自分に向かって飛んできた矢を横から手で掴んでみせた。


「・・・あれ? 罠の矢ってこんなモンだったかな? まぁ、迂闊に開けると油断してたら危ないっていう事だ。皆も宝箱を見つけても迂闊に開けないように。大気エア系の罠は極悪なのもあるから」


あっさりとした結果に頭を掻きつつ、ビリーは油断しないように言い置いた。


「で、罠を解除したらお楽しみのお宝が手に入るっていう寸法だ。中身は・・・お、金塊と銀塊だ! これは前にこのダンジョンで死んだパーティーの持ってた金貨と銀貨を溶かして固めた物だと思う。そんなに大きくは無いけど、普通の冒険者なら飛び上がって喜ぶだろうなぁ」


ビリーのつまみ出した金属塊は金は3センチの小石程度、銀も握り拳より小さい程度だが、不純物が取り除かれて純度が上がっていて価値も上がっているのだ。


ビリーはその2つを丁寧に仕舞い込んだ。


「下の階に行けば行くほどいい物が手に入りやすいんだ。だけど欲を掻き過ぎて帰る時期を見誤らないように。危ないと思ったら余裕を持って行動するんだ。じゃ、進もうか」


ビリーの説明をしっかり聞いて、悠達は更に下の階へと進んで行くのだった。

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