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6-54 邂逅5

「ユウどのォ・・・『再生リジェネレーション』掛けてくだひゃい・・・」


満身創痍のハリーティアとスッキリした顔のアリーシアを見て悠は子供達の情操教育に良く無いと考え、ハリーティアの顔を掴んで子供達の視線から隠した。


「痛たたたたたっ!!! とてつもなく狂おしいほどに痛いですよユウ殿っ!?」


「我慢しろ、不義理の報いだ。それにこんな傷に『再生』など使っておられん、『簡易治癒ライトヒール』で十分だ」


悠が『簡易治癒』を掛けると、じたばたと暴れていたハリーティアは安堵を漏らした。


「ほわぁ・・・何だかんだ言っても治してくれるユウ殿にワタクシ惚れてしまいそうです・・・こういうのを飴と鞭って言うんでしたっけ?」


「いいから顔でも洗って着替えて来い」


悠も先ほどの血塗れの服は子供達に見せる前に着替えており、悠が怪我をしていたと知っているのは恵だけだった。その為、恵のアリーシアを見る目は普段より少しだけ険しいものになっている。


「で、私にもお茶くらい出したら?」


「・・・どうぞ」


一番上座に当たる場所に腰を下ろす横柄なアリーシアに、一瞬お茶を引っ掛けてやろうかと半ば本気で恵は考えたが、そんな事をすれば後で悠が困ると思い直し、最低限の礼儀だけを守ってお茶を置き、顔も合わせずに悠の隣に戻っていった。


「母上、ここはエルフの王宮ではないのですから少し遠慮して下さい・・・」


「私は相手で態度を変えたりはしないの。それが真に公平って事よ。あらおいし」


全く悪びれず、恵の入れたお茶に舌鼓を打つアリーシアにナターリアが頭痛を覚えたが、暴れ出さないだけマシと割り切る事にするしかなかった。


「ハリハリが居らんが紹介しておこう、こちらがエルフの女王陛下であるアリーシア様だ。先ほど紹介したナターリア姫の母上でもある」


「アリーシアよ、覚えておくといいわ。一生自慢の種になるでしょうから」


優雅にお茶を嗜みつつ言うアリーシアに皆どういう反応を返したらいいのか分からず困惑していたが、バローが肘でアルトをつつき、小声で促した。


(おい、アルト、この中じゃお前さんが一番国の中枢に近いんだから何か気の利いた挨拶でもかましてやれよ)


(む、無茶言わないで下さい!! こういう交渉はバロー先生の役目ですよ!?)


(あ、俺ダメ、ああいう気位の高い女は苦手なんだよ。顔も体も文句ねぇが、性格がアレじゃあなぁ・・・)


「聞こえてるわよ、そこの面白い顔の人族。・・・あら、小さい方は人族にしては随分容姿が整っているわね? 女の子?」


「僕は男です!! ・・・あ・・・し、失礼しましたっ!!」


女の子呼ばわりされたアルトが思わず素で言い返してしまい、慌てて頭を下げて謝った。その隣では面白顔と言われたバローが軽くショックを受けて凹んでいた。


「ふぅん・・・それで、何? あなた達は私達エルフをどうしたいの? 聞くだけは聞いてあげる」


悠に一本取られたアリーシアは話だけなら聞いてやろうと考え、悠達を見ながら促した。


「ほら、バロー先生!」


「また俺かよ・・・んんっ、失礼しました、私は冒険者のバローと申します。本日はまさかアリーシア陛下においで頂けるとは思わ――」


「ちょっと、あなたには聞いてないわよ、そのイヤラシイ顔でこっちを見ないでくれない?」


「・・・・・・・・・ハハハ・・・アルト、交代・・・」


せっかく被った猫をまたもアリーシアにズタボロにされ、バローはアルトの肩を叩いて椅子に座って俯いてしまった。


「ち、ちょっと!? えっと、えっと・・・・・・・・・ゆ、ユウ先生!!」


アリーシアに艶かしい視線で見られたアルトは結局どうしようもなくなって悠に助けを求めた。


「・・・本日は交渉するつもりはありませんでしたが、エルフとどうしたいかと問われれば、人間と友好を結んで欲しいと考えています」


悠はアリーシアは言葉を飾るのが嫌いなタイプなのだろうと思い、そのまま自分の考えをアリーシアにぶつけた。が、アリーシアの返答はあっさりしたものだった。


「ムリね。エルフは人間が嫌いだし、そして人間はエルフを恐れているわ。ここの子達は私やナターリアを見ても怖がらないけど、大多数の人間はエルフとまともに話す事も出来ないんでしょ? そもそも、私達は境界を侵さない限り人間に干渉しないんだから、そちらが領分を守ればいいのよ。・・・あとね、今は一個人としてここにお忍びで来てるんだから敬語は止めて頂戴」


「ならば普通に話すが・・・今は交渉するには早いと言っただろう? エルフがどう思うか知らんが、人間の命は短く、社会が変化するのは早い。人間が他の種族を恐れるのは未知なるゆえだ。しかしこれからは違う。人間は種族を、世界を学習し、更に大きな世界を目指すようになるだろう。そしてエルフとも交渉を持とうと考えるはずだ。・・・事実、エルフの中からすらハリハリの様な者が現れただろう?」


「・・・ハリーは特殊な例外よ。そんなエルフは滅多に居ないわ」


「つまりは今現在ですら皆無ではないという事だ。それは人間も同じ。そこに居るアルトもそんな思考を持つ一人だからな」


「この子が?」


アリーシアが再びアルトに視線を向けた。


「は、はい!」


「アルトって言ったわよね、その考え方は一般的に見ておかしいとは思わない?」


「・・・ユウ先生の考え方が一般的でないのは確かです。でも、今一般的でないからといって、それを引け目に感じて自分の心を偽る必要はないと思います。僕はもっと鍛練を積み、大きくなって他の種族の人達の住む見知らぬ土地にも行ってみたいし、そこに暮らす人達と仲良く出来たらいいなと思っています」


アリーシアに問われ、アルトはこれだけはハッキリと返答した。心の自由を保つ事は悠が口を酸っぱくしてアルトに教えた事だったからだ。


「・・・理想論ね。実際には異種族なんて侵略者以外何者でもないわ。私達とドワーフがいい例だし、若いアルトには分からないでしょうけど、人族ともつい最近まで争っていたのよ?」


「知っています、つい最近まで争っていたという人物は僕の祖父ですから・・・」


その言葉にアリーシアの眉が顰められた。


「あなた、フェルゼニアスの子だったのね? ・・・確かに驚いたわ、あんなに執拗にちょっかいを掛けて来ていた軍がこの10年ほど何の音沙汰もないから何故かと思ったけど、代替わりしていたのね」


「現当主である父様も僕もエルフと争うつもりはありません。次期国王であらせられるルーファウス殿下もです。憚りながら、僕の父様も先日ミーノス王国宰相として就任しました。ミーノスの上層部は本気で陛下と、エルフの国と友好を結ぶ用意がある事だけは信じて下さい」


「・・・」


アリーシアは細い顎に指を添えながらしばし考え込み、そして悠を見た。


「・・・言いたい事は分かったけど、どう考えても方向転換が急過ぎよね? これで信じてくれと言うのは難しいわよ。一体人族は何を焦っているの?」


「それを語り始めると少々長い。出来れば日を改めて貰いたいが?」


「一応私も公務で国を出ている事になっているから長逗留は出来ないわ」


「では今晩はここに泊まってくれ。今日の夜にでも語る事にしよう。今からナターリア達とダンジョンに行くからな。どうも待ちきれんようだ」


悠がチラリと視線を子供達に向けると、その顔がパッと輝いた。「大人の大事なお話」をしている所に割り込むような非礼は明だってしはしないが、話しが長くなりそうな気配にもしかして今日の予定は流れてしまうのではないかという危惧を抱き始めていたのだ。


「女王より子供を優先するなんて、あなたちょっと変よ?」


「子供を優先したのではない、先約を優先したのだ。後から来て約束に割り込むなどという礼儀の無い事をエルフの女王はするまい?」


「・・・言いたい放題ね・・・いいわ、私は寛大な女だから男のワガママを許してあげる」


「・・・ついでにワタクシの事も許して欲しいですねぇ・・・」


そこに着替えて服装を整えたハリーティアが戻って来た。


「何言ってるのよ、許して欲しくて謝ったんじゃないんでしょ? ・・・そもそも、あたなにはまだまだ聞く事が山ほどあるんですからね!」


「ならば俺達がダンジョンに行っている間、ハリハリは置いて行こう。だから好きなだけ情報を――」


「ちょっと待ったぁ!!! 私だってダンジョンに行きますからね!? 皆さんに狭い空間での魔法の使い方を教えなければならないんですから!! 行きます、行きます! 行きまーす!!!」


さらりとハリハリを犠牲にする悠の言葉にハリーティアが悠の服を掴んで絶対に離さない、絶対にだ! という姿勢を取った。本音としては、流石にもう殴られたくはないらしい。


「だがここにアリーシアだけを残す訳には・・・」


「あなたも何を言っているの、ユウ? 私はついて行かないなんて一言も言ってないし、そもそも当然ついて行くわよ? 私はナターリアの保護者なんですもの、何か変かしら?」


腕を組み、文句があるなら言ってみなさいといった態度のアリーシアに、悠は無言でナターリアを見たが、ナターリアは死んだ魚の様な目で首を振っていた。どうやら翻意させるのは不可能のようだ。


「ならば全員で行くとするか。皆、出掛ける準備を」


「「「はい!」」」


「はーい♪」


「もう勘弁して下さい、母上ぇ・・・」


子供達に混じって上機嫌で返事をするアリーシアを見て、ナターリアはガックリと肩を落としたのだった。

デートに親が・・・っていうよりも遠足に親が付いてくる様なものですね、これはナターリアいたたまれない! だがそれがいい。

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