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6-53 邂逅4

「・・・ねぇ、さっきの火属性魔法といい、その回復魔法といい、あなた一体何者なの?」


ほんの数秒で傷を塞いだ悠を見てアリーシアは悠を詰問した。


「陛下と交渉を持つのはまだ早いと考えておりますので、事情であればナターリアにお聞き下さい。多少は伝えてあります」


だが悠は未だ人間社会が纏まっていない中、更にエルフと交渉を持つのは時期尚早であると考えていた。人が異種族と繋がりを持つのは下地が出来上がってからが望ましく、今は面通しが出来ただけで上々と言うべきだろう。


「何よ、急に敬語に戻しちゃって。嫌よ、ナターリアにも後で当然聞くけど、私はユウの口から聞きたいの。喋るまで離れませんからね!」


アリーシアは悠の腕取ってプイッとそっぽを向いてしまった。どうやら主導権を握られているのが気に食わないらしい。


「今日自分は連れとナターリアとでダンジョンに潜る予定ですので、説明は別の者に譲ります」


「聞こえなかったの? 私はあなたが喋らないと許さないって言ってるでしょ!? それに連れなんてどこにも居ないじゃない!」


折れない悠にアリーシアの口調が刺々しくなったが、後半についてはナターリアも同意であった。


「そうだぞユウ、紹介すると言っておきながら、どこにも居ないじゃないか。もしかして麓に居るのか?」


「そんな事は無い。今出すから待っていろ」


「「出す?」」


異口同音に疑問を示す2人の前で悠は都合良く更地になった爆破跡の場所に向かって『虚数拠点イマジナリースペース』を展開した。


「えっ!? い、今の魔法は何!?」


「説明が長くなるので割愛致します。失礼」


いつ外したのか握っていたはずのアリーシアにも分からぬ手際で悠はアリーシアから離れ、屋敷に向かって声を掛けた。


「葵、ハリハリを呼んでくれ。それと少々手違いがあったので他の者はしばらく中で待機し、屋敷から出ないように」


《畏まりました、我がマスター


今の声についても2人は聞きたそうにしていたが、悠が何も言わないので仕方なく出て来るのを待った。


やがて玄関の扉が開き、ハリハリが姿を現して2人を見て――そのまま回れ右をして屋敷の中に引き返した。


「・・・何、今の人族。私の顔を見て引き返したわよ。失礼な奴ね」


「・・・少々お待ち下さい」


悠が駆け足で屋敷に戻ると、ハリハリは青い顔で壁にへばり付いて震えていた。


「ななな何でシアが・・・陛下が居るんですか!? 今日来るのはナターリア姫だけだったはずですよね!?」


「どうやらアリーシアはナターリアを監視していたらしい。そもそも今回の自由行動自体がアリーシアの罠だったという事だな。理解出来たら覚悟を決めて出ろ」


「不味いですって! ワタクシは国の仕事を放り出して、しかも死んだフリまでして逃げて来たんですよ!? せめてナターリアならまだ話が通じるから徐々に外堀を埋めていく作戦だったのに、いきなり大将が出て来たら意味が無いじゃないですか!! 今回は止めておきましょうよ!!」


会わずに済ませようとするハリハリだったが、その手を悠がガッチリとホールドした。


「姑息な真似をするな。サッサと本丸に攻め込んでしまえば話が早いだろうが」


「それで討ち死にしたら犬死にですよ!! せめて5分時間をくださーーーい!!!」


「知らん、そんな物は字面通り時間の無駄だ」


「お慈悲を、ほんの少しだけお慈悲をーーーっ!!!」


嫌がるハリハリをズルズルと引きずりながら悠は外の2人の前に戻った。


「お待たせしました、説明はこの者が致します」


悠が連れてきたハリハリを見てアリーシアは形の良い眉をつり上げた。


「誰よこの人族。こんなしょぼくれた男からの説明なんかじゃ私は納得しないわよ!」


「今正体を見せます。ハリハリ、ここまで来たら覚悟を決めんか」


悠に促され、アリーシアの怒り顔を見て、ハリハリは大きな溜息を付いて覚悟を決めた。


「・・・分かりました、分かりましたよ。手を放して下さい、今戻しますから」


悠の手が解かれて自由になったハリハリは、『擬態の指輪リングオブイミテーション』に手を掛け、一瞬迷ってからそれを引き抜いた。


魔道具の効果が途切れたハリハリの姿が瞬く間にエルフのそれに変わり、在りし日のハリーティア・ハリベルがそこに出現していた。


久々に見るハリーティアにナターリアは数秒間記憶が繋がらなかったが、それが昔自分に魔法を教えてくれたハリーティアだと気付いて驚きの声を上げた。


「・・・ぇ・・・? 嘘・・・そ、そんな・・・有り得ない!? は、ハリーおじ様は死んだはずだ!! ど、どういう事なんだ、ユウ!?」


「・・・・・・」


「俺からではなく本人から語らせるべきだろう」


呆然として声が出ないアリーシアをチラリと見て、悠は説明をハリーティアへと譲った。


「えー・・・と・・・」


ナターリアに言う為の言葉は用意していたハリーティアだったが、アリーシア用にはまだ何も考えていなかった為、必死で言い訳を考えたが、呆然としたままのアリーシアの目から涙がこぼれるのを見ると、頭で考えていた全ての言い訳が吹き飛び、言うべき言葉はたった一つしか残されていなかった。




「・・・・・・・・・ごめんなさい、シア・・・」




その言葉でアリーシアはこれが本物のハリーティアであると確信し、体ごと視線を外して怒鳴った。


「・・・ごめん、ですって!? 私達を、騙して捨てた・・・あなたを、許せと言うの!? 私が、私がどれだけ悲しかったか、あなたに分かる!? 冗談じゃないわ!!!」


「騙したのは事実だから否定しません。ですが、ワタクシは許しを請うているつもりはありません。勝手な理由で逃げておいて許してくれというのはあまりに虫が良過ぎますから・・・ただ、本当にナターリア姫やシアには悪かったと思っているんです。だからせめて私がそう思っているという事だけは伝えておきたかったのです」


「そんなの、それこそあなたの勝手よ!! 男って皆そうだわ!! 自分の考えでだけ行動して女なんかほったらかしじゃないの!!! もう、信じられない・・・」


横を向いたままアリーシアはそのまま顔を両手で押さえてズルズルと膝から崩れ落ちてしまった。


「あー・・・困りましたね、怒って殴られるのは覚悟していたんですが、泣かれるとどうにも・・・」


「じゃあ私が殴ってあげます!!!」




バチンッ!!!




「ぶっ!?」


頬に弾けた痛みはナターリアの平手打ちであった。


「母上が悲しむのも当然です!!! 私達がハリーおじ様が居なくなってどれだけ悲しかったと思っているんですか!!! も、もう・・・急に出て来て、生きてたなんて言われても、私、私・・・」


そのまま怒り顔のナターリアも自分の言葉の途中で顔を歪め、アリーシア同様に泣き出してしまった。


「・・・つかぬ事を伺いますが、ユウ殿、こういう時はどうしたらいいのでしょう?」


「少なくとも俺と無意味な会話をする事が正解では無いな」


《バカね!! 早く2人を慰めてあげなさい!!! ハンカチくらい持ってるでしょ!!!》


「か、感謝しますよレイラ殿っ!!」


オロオロとナターリアとアリーシアの間でうろたえていたハリーティアがレイラに怒鳴られて慌てて懐からハンカチを取り出し、地面にしゃがんでいるアリーシアの肩に手を置いた。


「あの、良かったらこれを使って下さい」


「ハリー!!!」


実際に触れられて感極まったのか、アリーシアはハリーティアの胸に飛び込んで襟元をしっかりと掴み・・・足を刈ってハリーティアを地面に倒し、そのままマウントポジションに移行した。その手並みは鮮やかかつ流麗で、ハリーティアは自分が今何をされたのか全く分からなかった。


「・・・・・・・・・アレ? シア、何であなたはワタクシの上に乗ってるんですか? パンツ見えてますよ?」


「ハァァァァァァァリィィィィィィ、今は私の下着の事なんてどうでもいいのよ? 逃げ足の速いあなたの事だから、きっと私が普通に近付いたら逃げるでしょう? ウフフフフ、でもも~う捕まえた。・・・逃げられないわよ・・・」


「ま、さか・・・う、嘘泣きデスカァーーーーーーッ!!!」


「エルフの女王がこのくらいで泣くはずが無いでしょうが!!! 私を騙した罪をその体に刻みなさい!!!」


ガッチリマウントを決めたアリーシアの拳がハリーティアの顔に突き立った。


「ふげっ!?」


「まだまだぁ!!!」


「おげっ!?」


「何防御しようとしてるのよ!!! 殴られる覚悟で来たんでしょう!? なら嫌っていうほど殴ってあげる!!!」


「うげっ!!!」


思わず顔を手で覆ったハリーティアの無防備な腹にアリーシアの拳がめり込み、口から吐瀉物が漏れそうになるハリーティア。


そんなアリーシアとハリーティアを置いて、悠はナターリアにハンカチを差し出した。


「ぐす・・・済まん・・・」


「俺もてっきりアリーシアは本気で泣いているのかと思ったが・・・流石は女王、腹芸であったか」


そう語る悠にナターリアは首を振った。


「・・・違う。母上は例え演技であろうとも涙を見せる方では無い。本当に悲しくて、そして嬉しくて涙が止められなかったんだ。それを誤魔化す為に演技だったという振りをしているんだよ、ユウ。そしてハリーおじ様もきっとその事に・・・」


そう言われて見ると、アリーシアの目からはまた新しい涙が流れていた。そしてそれを見られまいと必死にハリーティアを殴り続けている。


《他の種族が見たら、エルフが肉弾戦も出来る様になったのかって驚くかもしれないわね》


「さて、これ以上他人が見ているのは野暮というものだな。ナターリア、先に屋敷に入ってくれ。温かい茶くらいは出せる」


「・・・頂こう、冷たい地面に座ってしまってちょっと体が冷えてしまった」


悠が差し出した手を握り立ち上がったナターリアはそのまま悠と屋敷へと入っていったのだった。








「え? ちょ、ユウ殿!? あなたの大切な仲間を一人置き忘れてまぶほっ!?」


「ホホホホホ!! 何処へ行こうと言うのハリー? 逃がさない、ぜ~~~~~~~~・・・ったいに、逃がさないわよぉ!!!」


「た、助けて下さい!!! ユウ殿ーーーーーーーーーッ!!!」


・・・頬を腫らし、鼻血を出すハリーティアとすまし顔のアリーシアが屋敷に入って来たのはそれから15分後の事であった。

馬乗りバル〇ンパンチはタイマン専用です。アリーシアは長年の戦争により体術もそれなりにこなすゆえ。


まぁ、本気で殺るつもりなら魔法を使っていますから、お察しという事で。

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