6-47 動乱の後15
「よう、お化け屋敷の捜索はどうだった・・・って、何でユウは死体なんか背負ってんだ? シャレになんねぇぞ?」
一階のパーティー会場で合流した一行だったが、バローは悠が背負っている襤褸が気になって問い掛けた。
「よくみろ、『能力鑑定』の時にシュルツが捕まえた間諜が居ただろうが。これはその時の男だ」
「ふむ・・・かなり記憶から薄れてはいますが、確かにこんな顔をしていた様な気がしなくもありません」
シュルツは悠の背でぐったりとする男を見て納得した。
「地下の隠し部屋の牢に閉じ込められていたのだ。恐らく任務失敗の後に拷問され、実験材料にでもされかかっていたのだろう。雇い主が居ない以上、死なせる事もなかろうと連れて来た」
「ふーん、女でも金を持ってる訳でもねぇのにご苦労なこった」
「師を貴様の様な短小俗物煩悩男と一緒にするな。この王都よりも広い心を貴様も少しは見習え」
「だから短小じゃねぇって言ってんだろうが!!」
「それよりもそちらの首尾は?」
悠がバロー達の成果を問うと、バローは鞄を掲げて見せた。
「今回の件に限らず、マンドレイクがこれまでやってきた悪事の証拠を手に入れてきたぜ。誰に何をやらせたか、どんな便宜を図ったかが書かれたモンだが・・・『殺戮人形』に関しての資料は見つけられなかった。あと、ざっと目を通した感じ、謀略の大部分にはあのカーライルが絡んでるみたいだな。サリンガン侯爵家も調べてみればまだまだ色々出てきそうだぜ」
「そうか・・・それらの資料があれば仕置きを保留されている貴族の処分も円滑になるだろう。この男も諜報任務に関わっていた人間だ、それなりの情報は持っているだろうからな」
今回、マンドレイク派に属した貴族で特に直接的な行動に出た者達に関しては既に家を取り潰す事が決まっている。領地や役職、財産も全て没収され、生きている者は処刑されるのを待つ身である。一族の者も国の沙汰を待って謹慎させているが、ルーアンが健在ならば間違い無く一族郎党処刑されていただろう。
これらの貴族達から仮処分として没収した財貨だけでも金貨で100万枚を遥かに超えており、それはこの資料で処分される貴族が増えるにつれて益々増大していくだろう。だからこそ無償で学校を建設・運営を行う資金が出来たのは皮肉な事だが。
また、マンドレイク派に属した貴族の一族で命を拾った者達も明るい未来は殆ど残ってはいない。財産と特権を失った彼らは独立して生活せよという事は死ねと言っているに等しいと感じたらしい。事実、悲観的な者達は首を吊ったり毒を呷ったりして自殺者が続出しているのだ。
悠はそれらの貴族を助けるつもりはなかった。財産を没収されたとは言え一応食うに困らない分はルーファウスの温情で残されているのだ。そもそもまともに働かずに贅沢を貪っている状況こそが異常であり、若い者は働くなり学校へ行くなりすればいい。善良かつ職務に精励して来た貴族は国に登用されているのだから。
「他には何か発見出来たか?」
「発見・・・って言えるのかどうかは分からねぇな。タルマイオスの部屋でこんなモンがベッドの下に転がってやがった」
バローは懐から取り出した品を悠に投げ渡した。それは精緻な彫金が為されたペンダントの様な物だ。
「特に魔道具という訳でも無さそうだが・・・これがどうした?」
「そいつはアライアットの国教の聖神教会の信者が身に着けるモンだ。この国じゃ殆ど信仰はされてねぇ。当然だがな」
他国の礎となっている宗教を信仰しているなどという事は、そのまま他国のスパイではないかと疑いを招く行為に等しく、ましてや貴族ともなれば冗談では済まない事柄である。
「そう言えば・・・あの男、掴まった時も神がどうとか、聖なる血筋に生まれたなどという妄言を吐いていたな」
「もしかしたら、この一件の裏に聖神教が一枚噛んでるのかもしれねぇと思って持って来たんだよ。・・・それと、どうも俺達の前に誰か物色した奴が居る様な気がするぜ。そいつの他に聖神教の手がかりは存在しなかった。タルマイオスが逃げる時に処分したのかもしれねぇけどよ」
「分かった。聖神教か、覚えておこう・・・」
悠はそのペンダントを懐に仕舞い、聖神教という名を心に刻んだ。
「で、そっちの成果はその死に掛けだけか?」
「ああ、こちらも資料は殆ど役に立たない状態だ。武器や宝飾品の収納庫を見つけたが、大した発見は無いな」
「収納庫!? 馬鹿、俺達は冒険者の依頼としてここに来てるんだぜ!? 見つけた物は貰っちまえよ!!」
憤慨するバローだったが、悠は冷たく切り返した。
「そんな火事場泥棒の如きみっともない真似が出来るか。世間の者が今のお前を見たら泣くぞ?」
「ぐっ・・・! で、でもよ、別にちょっとくらいなら貰ったっていいじゃねぇか!」
「心配しなくても、ルーファウス殿下かローラン殿にお伝えしておけば謝礼として考慮してくれますって。恐らく金貨一万枚は下らないでしょうから」
冒険者としての言い分はバローにも理があったのでハリハリがそう言って取り成し、バローも納得して引き下がった。
「ユウ殿もそう杓子定規に考えず、ここをダンジョンか何かだと思えばいいのですよ。そこで見つけた宝は基本的にその冒険者の物なのですから。今回は状況が特殊で全部頂く訳にはいきませんけどね」
「ハリハリがそう言うのならそうかもしれんな。ただ、俺の流儀に合わなかっただけだ」
「ご理解頂けて感謝します。でも、世間体としては確かにあまりよろしくは無いでしょう。バロー殿も普通に依頼をこなすだけでももう十分に財貨や名声を得られるのですから自重して下さいよ?」
「・・・チッ、相変わらず口の上手ぇ奴だぜ・・・。分かったよ、これからは気を付けるって」
上手く両者の天秤を保って説得を終え、ハリハリは笑顔で締め括った。
「残念ながらマッディ殿を発見する事は出来ませんでしたが、それなりの成果はあったと言っていいでしょう。こちらの方の治療も必要です、そろそろ帰りましょう」
そこ言葉に促され、悠達はマンドレイク邸の調査を終えて帰途に着いたのだった。
探索ではあまり役に立たなかったハリハリですが、このパーティーでは一番人格的な柔軟性と経験を備えているので潤滑剤として活躍してくれます。
・・・たまに暴走するのはご愛嬌という事で。




