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6-39 動乱の後7

レイラにこれまでの事情を説明する役割は他の者に任せ、ルーファウスは『ミーノス動乱』にある意味では劣らない問題を解決する為にハリハリに問い質した。


「今までは流していたけど、ハリハリ、君はエルフだよね? 何でこんな所に居るんだい? まさか人間を征服しに来たとかでは無いよね? ね?」


「ヤハハ、ご安心下さい、ワタクシは人間の感動を学びたくてエルフの里を離れた不良エルフですから。いつか歴史に残る様な英雄譚サーガを紡ぐ為に200年ほど前に出奔しております。一応死んだ事にしてありますから、犯罪を犯して逃げ込んだ訳でもエルフの間諜でもありませんよ」


ハリハリの答えにルーファウスは溜息を洩らした。


「はぁぁ・・・良かった、この上エルフが攻めて来たりしたら私は過労死してしまう・・・」


「むしろユウ殿はエルフとの友好を考えておいでですよ。この間のドラゴン退治でエルフの姫様であるナターリア姫とバッタリ出くわしたらしいですし。いや~、飽きさせないお方で頼もしいです!」


喜々として語るハリハリにルーファウスは目の前が暗くなってベッドに倒れ込み、その後慌てて飛び起きた。


「え、エルフとの友好はともかく、姫様っていうのは何の事だい!? ローラン、君は知っていたのかい!?」


「・・・ハハハ、ごめんルーファウス。忙しくて言いそびれちゃったよ。まぁ、そういう事なんだ。出会いは突然にって言うからね。かく言う私もミレニアと出会ったのはまだ幼い頃で・・・」


「君と奥方の出会い話はどうでもいいよ!! それよりそのエルフの姫様の事をもっと詳しく!!」


目を血走らせてルーファウスはローランの肩をガタガタ揺すぶった。


「えー・・・私はその場に居合わせなかったので、バローに聞いて下さい」


「汚ねぇ!! お、俺は別に何もしてねぇからな!? ナターリアに思いっきり口付けしやがったのはユウで俺は真面目に戦っブフォ!?」


脇腹にめり込む拳にバローがルーファウスの隣に倒れ込み、ルーファウスもやんごとない身分の相手への悠の行動に目まいがして仲良く転がった。


「話を盛るな。単に自力で摂取出来ないナターリアに『治癒薬ポーション』を経口で飲ませただけだろうが」


「師よ、この髭に話をさせると正確に伝わりません。是非! 師の口からお願い致します」


「構わんが・・・?」


妙に力が籠るシュルツを怪訝に思いながらも悠はドラゴン退治の真相をルーファウスに語った。


「その時受け取った指輪がこれだ。『伝心の指輪』とか言っていたが」


「・・・一応、悪感情を抱かれていないという事は分かったよ。へぇ、これがエルフの魔道具かぁ・・・」




《ユウ!!! 聞こえるか、ユウ!!! ナターリアだ!!!》




「うわぁっ!?」


顔を近付けて悠の指輪を見ていたルーファウスが突然指輪から上がった声に再びベッドに倒れ込んだ。


「ふむ、声が伝わると言っていたが、『心通話テレパシー』という訳では無いのだな。ナターリア、聞こえている、ユウだ」


《妙な声がした気がしたが・・・うむうむ、ちゃんと私の指輪を肌身離さず持っている様だな、大義であるぞ!! おっと、先に用件を伝えよう、母上が2日前に前線への視察に戻られた! 一月は帰って来ぬそうだから、明後日にこの前の謝礼を渡したい! またアザリア山のダンジョンの前で待ち合わせで構わぬな?》


「礼など要らんと言ったと思うが・・・?」


《馬鹿にするな! 王族たる者が恩をそのままにしておけるか!! と、とにかく、来れるのか? 来れぬのか?》


「行く事は出来る。明後日にアザリア山頂のダンジョンの前だな。時間は?」


《朝からに決まっておろう!! 朝の鐘(朝6時)が鳴るまでには現場で待っていろよ、ユウ!! お前ならミーノスのどこに居てもすぐに来れるだろう?》


「ああ。だがそんなに早くから会う必要があるのか? 謝礼を受け渡すだけなのだろう?」


《えーと・・・そ、それならば一緒にダンジョンに潜ってみるのも面白いだろう? 一日で潜れる範囲でも中々楽しめるぞ?》


「俺もこれで中々忙しいのだが・・・」


《ユウ!! 王女の誘いをないがしろにしていいと思っているのか!? 友好を築きたければまずお互いを知る事だと私は思う!! いや、そうに違いない!!》


唖然としてその内容を聞いていたルーファウスが隣で表情を消しているローランの袖を引っ張った。


「ねぇねぇ、ローラン、私にはまるで逢引きの約束みたいに聞こえるんだけど、私の耳が変なのかな!? それとも頭が変なのかな!?」


「私にもそう聞こえますよ・・・ハリハリ、エルフっていうのは皆あんな素直な感じだったっけ?」


「ヤハハ、そんな事はありませんよ。エルフは高慢で自尊心プライドが高い種族です。ナターリア姫もその例には漏れませんが、変な方向に拗らせたりしなかった様ですね。喜ばしい事です」


「・・・フン、師に相応しいのは強者だ、乳臭い小娘などに揺らぐ方では無い!」


「モテる野郎は爆発しやがれ・・・」


「エルフかぁ・・・会ってみたいなぁ・・・」


とりあえず自らの感想は置いて、ルーファウスは悠に小声で告げた。


「ユウ、エルフとの友好の話は私も前向きに考えたい。だからなるべくナターリア姫のご希望には沿って行動してあげてくれ。これも世直しの一環だと思って頼むよ・・・」


ルーファウスにそう懇願されては悠も無碍にする事は出来なかった。


「・・・分かった、パーティーメンバーも連れて行くが構わんな? 女王不在時にナターリアを危険な目に遭わせたとあっては悪感情は避けられん」


《むぅ・・・仕方が無い、それについては許可してやろう。だが忘れずに来いよ!? 嘘付いたら針千本なのだからな!!》


「分かっている。また明後日に会おう、ナターリア」


《ああ!! その・・・ま、またな、ユウ!!》


悠が別れの言葉を告げると、ナターリアは一瞬何かを言いたげに口ごもったが、最後は無理矢理に明るい声を出して通信を終えた。


「そういう事で、明後日の朝はアザリア山頂に赴くぞ。ハリハリ、覚悟は決まっているか?」


「う・・・いやぁ、姫は怒るでしょうねぇ・・・仕方ありません、身から出た錆と諦めましょう」


「つってもよ、明日も依頼があるってのに俺達はどうやって行けばいいんだ?」


ハリハリが頭を掻いて覚悟を決め、ベッドから起き上がったバローが悠に尋ねた。


「『虚数拠点イマジナリースペース』ごと運ぶしかあるまい。子供らにも実戦を見せるいい機会だ」


「ま、ナターリアなら人間の子供が居ても突然攻撃してくる事も無いだろうからな。いい息抜きになるんじゃねぇか? そろそろ実戦経験も必要だろうし、あいつらならその辺の魔物モンスターに後れを取る事もねぇだろ」


他の者も特に反対意見は無い様だ。


「ならばレイラも起きた事だ、俺は一度屋敷に戻る。ルーファウス、目を覚まさないルーレイの事だが・・・」


悠の口からルーレイの名が出ると、ルーファウスの表情が曇った。


「うん、選りすぐりの医師を付けているんだけど・・・」


「一つ治療として試したい事がある。こちらの準備が出来次第試させて貰えないか?」


「ルーファウス殿下、お願いします!! ユウ先生は異世界の医療知識をお持ちです、もしかしたらルーレイが回復するかもしれないんです!!」


「本当かい!? 医師の話では意識の回復は難しいと半ば諦められていたんだ! もし僅かでも希望があるのならこちらこそ是非お願いしたい!!」


ベッドから起き上がってルーファウスは悠の手を取った。


「頼むよユウ、私はもう一度ルーレイと話がしたい。もし治してくれるなら君が望む額の金銭を・・・いや、そうじゃない、君はそんな事の為に動く人間じゃない。ただ、恩には報いるつもりだ。どうかルーレイをお願いする」


「分かった、俺に出来る限りの事はやってみよう」


ルーファウスはこれまでの経験から悠に金銭で誠意を見せる事に意味は無いと悟ってただ礼を尽くし、悠もそれを受け入れたのだった。


「レイラ、起きたばかりだが、いけるか?」


《ユウが望むならどこまでも行けるわよ》


「頼もしい言葉だ」


悠はペンダントを目線に掲げ、久しぶりにその言葉を呟いた。


「変身!」


《了解よ!》


悠の言葉でペンダントから赤い靄が現れて悠の体を覆い、それが晴れた時、一人の『竜騎士』が顕現していた。


「これが『竜騎士』か・・・神々しさすら感じる力強さだ・・・」


その赤い鎧の造形の美しさにルーファウスが息を呑んだ。


「時間が惜しいので窓から失礼する。また明日にでも会おう」


そのまま悠は闇に沈む外に向けて足を踏み出した。


「え? ま、待ちたまえ! ここはいくら君でも飛び降りて無事に済む高さじゃ・・・!」


ルーファウスが言い終わらない内に、悠の体は夜のミーノスに向かって解き放たれていた。ルーファウスは声無き悲鳴を上げたが、落下する悠の背中から翼が生え、そのまま急上昇し、呆気に取られるルーファウスの感情を置き去りに彼方へと飛び去ってしまった。


「そ、空を飛べるんだ・・・羨ましいな・・・」


「僕も一度乗せて貰いましたけど、凄く速いですよ。ここからフェルゼンまで10分くらいで行けるそうですから」


「まさにドラゴンだね・・・いや、リュウか・・・」


感動に打ち震えるルーファウスの耳にノックの音が響いた。


「ルーファウス殿下、そろそろパーティーが始まります」


「分かったよベルトルーゼ、今行く」


そう言ってルーファウスがドアを開けると、そこには前と同じ様に兜にドレスを着たベルトルーゼが待っていた。


「・・・それ、君の正装として定着したの?」


「実際この兜は役に立ちましたので。・・・おや? ユウが見当たらぬ様ですが・・・?」


部屋を見回して悠の姿が無い事に気付いたベルトルーゼにルーファウスは肩を竦めた。


「今宵、竜は自らの巣に帰ったのさ」


「はぁ? 何かの比喩ですか?」


「そんな所。さ、皆、行くとしよう」


小首を傾げるベルトルーゼに笑い掛け、一行は祝賀パーティーの会場へと向かったのだった。

いつか心労で倒れそうなルーファウス。ナターリアの精神力を見習って欲しい所です。・・・まぁ、アリーシアに全部会話を聞かれてしまっているんで迂闊過ぎますが。

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