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1-33 練兵5

そろそろタグに恋愛ってつけても怒られない気がしてきました。

亜梨紗の拳はぺたんと悠の頬に当たると、そのままずるずると滑り落ちていった。既に亜梨紗の意識は無い。再び倒れそうな体を悠は脇の下に手を入れて抱き止めた。


「良くやった、亜梨紗」


他の誰にも聞こえない大きさで亜梨紗を労うと、心なしか、気を失っているはずの亜梨紗が笑ったような気がした。


《貴方もご苦労様、ウィナス。久しぶりね?》


《近くに居たんだから久しぶりっていうのかな?この場合?・・・まぁいいや、レイラさんお久しぶり》


久方ぶりの新たな同胞との会話にレイラも楽しげだった。


《でもこんな荒療治は感心しないわよ、ユウ》


「すまん。だがこれで今回を乗り切ったやつらは覚醒のきっかけを植えつける事が出来ただろう。それを開花させるのは本人の努力だろうが」


《僕も驚いたよ。普通は中々あの深度まで思いは届かないんだから。ギリギリでアリサに声が届きそうだったから思わず焦って声をかけちゃった》


「なんにせよ、千葉竜佐の覚醒は喜ばしい事だ。千葉家には優秀な者が多いな?真」


「・・・勘弁して下さいよ。こんなのでも一応妹なんですから」


真は妹の無事と覚醒にほっと胸を撫で下ろした。軍人として悠に逆らえないが、兄としては一言言いたい気持ちはあったのだ。


「悪かった、俺が居ない間はお前が竜騎士について教えてやってくれ。それと、医務室に運んでやってくれんか?」


「竜騎士については承りました。しかし、医務室へは神崎竜将が運んであげて下さい。・・・悠さんの顔に一撃入れたヤツなんて久しぶりでしょう?付き合うとかは無理でも、その程度の褒美はあってもいいんじゃないかと兄としては思うんですが?」


しかし以下を悠にしか聞こえない声で告げて、真は未だ生まれたての子馬のような有様の竜器使い達の介抱に向かった。


「あいつめ・・・中々したたかになって来たじゃないか」


《一本取られたわね、ユウ》


「まぁな。最後の一撃は、少し堪えた」


そして竜器使い達に声をかけた。


「これにて練兵を終了する!俺は千葉竜佐を医務室に運ぶので、この後は千葉虎将の命令に従うように!以上!!」


「「「ありがとうございました!!!」」」


「諸君のこれからの奮闘に期待する。さらばだ」


そう言って右手で亜梨紗を支えていたので、左手で敬礼した。竜器使い達も地に伏せながらも敬礼を返した。


そのまま敬礼を終えると、悠は亜梨紗を背負って練兵場を後にしたのだった。


「あ~、いいな~亜梨紗」


「くっ、同じ条件で立ち上がれないとは我ながら情け無いっ」


羨ましがる燕と悔しがる蓮が気絶している亜梨紗を見送ったのだった。






「・・・・・・・・・?ここは・・・」


「気が付いたか?」


それから1時間ほどして、亜梨紗は目を覚ました。そして周りを不思議そうに眺め・・・悠を認識して突如として跳ね起きる。


「神崎竜将!練兵、練兵はっ!?」


「終わったぞ、まぁ、ご苦労だった」


「・・・そうですか・・・」


悔しそうに顔を俯かせる亜梨紗に、悠は(比較的)優しく告げた。


「そうしょげる事もあるまい。俺に一撃入れた『人間』は久しぶりだし、なにより竜騎士の階に立ったのだ。近い将来、『ゾディアック』入りも夢ではないぞ?」


「私が神崎竜将に一撃?それに竜騎士ですか?え?え?何故??」


「覚えておらんか?最後にリュウに力を借りて、俺を殴ったではないか」


記憶が定かで無いのか、しばし考え込んだ亜梨紗だったが、やがて少し思い出したのか、頬を染めて上目遣いに悠を見ながら呟いた。


「・・・なんだか恥ずかしい事を最後に言った気がします・・・」


「そうだな。俺も練兵の最初と最後に2度も告白されるとは思っていなかった」


その悠の言葉にますます顔を赤くして毛布で顔を隠す亜梨紗。


「そういえば聞いた事が無かったが、俺のどこが気に入ったんだ?」


ひたすらデリカシーに欠ける行為だとは思いながらも、しばらくは会う機会も無かろうと悠は聞いてみた。ペンダントの辺りから溜息の様な音が聞こえたが、気のせいという事にしておこう。


「・・・今だけ普段の呼び方をしてもよろしいでしょうか?」


「ああ、構わん」


「最初は神崎竜将――悠さんの事は嫌いでした。いつも兄上をいじめている悪い人だと思ったんです。だって、あの頃の兄上はいつもどこかに怪我をして帰ってきて、たまに気絶してるのを悠さんが肩に担いで帰ってきたりしていましたから、この人が兄上に酷い事をしているんだって」




当時と言うと、真が悠の後輩になったのが16歳、その時悠は18歳で、亜梨紗は悠の7つ下なので11歳と多感な時期でもあった。そんな頃に身内を痛めつけられていると思った少女がその相手に悪感情を抱いてしまうのは仕方の無い事だし、悠も弁明などをする様な器用な人間では無かった。


結果としてすぐに打ち解けた上の妹とは異なり、亜梨紗は何かと悠に突っかかってはその鬱憤を溜めていた。そして亜梨紗は思ったのだ。兄をいじめられないように、自分がこの人をやっつけてやろうと。


亜梨紗は同年代の中では運動神経が非常に優れており、生来の戦闘勘のようなものも持っていた。元々護身の為に習っていた武術もその域を超えて、専門の家庭教師まで付けて貰っているくらいだった。


相手は年上で体も大きいが、最初に一撃入れればこちらにも十分勝機があると思えた。


そして、ある時気絶した真を悠が抱えてきた時に因縁を付けて無理やり勝負する事にした。


結果は惨敗。


悠は事戦闘に当たっては年下だからと手を抜いたりはしなかった。その旨を千葉家の両親にも確認をとり、了承を得た上で、亜梨紗を完膚なきまでに叩きのめした。


痛みで動けず涙を流して泣く亜梨紗に悠は厳しく言った。


「君の武術は軽過ぎる。ウェイトや体格の事じゃない、心の事だ。君の拳には理由が無いし、そんな拳では俺はおろかドラゴンには傷一つ付けられないだろう。趣味でやっているのなら止めはしないが、そうで無いなら握る拳に意味を持て。君は何の為に拳を握るんだ?」


一言も言い返せない事が悔しくて悔しくて、傷の痛みとは別の理由でその夜は眠れなかった。負けた事よりも図星を指された事が何よりも腹が立った。


そんな彼女に真は聞いた。


「亜梨紗は何でそんなに悔しかったんだ?」


「だって、私、武術は頑張ってやって来たつもりだったのに、あの人は意味がないって・・・でも確かに私、そんな事考えた事なかったから・・・」


「なんで神崎先輩は亜梨紗を徹底的に叩きのめしたと思う?」


「それは・・・私の事がきらいだから・・・」


「それは違うよ亜梨紗。お前は強い。同年代の中ではピカイチだろうね。だけど、ただ強いだけじゃ、龍とは戦えないんだよ」


「どうして?」


「・・・龍が怖いからさ。考えてごらん、亜梨紗。もし今日お前が戦ったのが龍だったら倒れても攻撃を止めずに襲ってきて、お前は死んでいるんだよ?」


そう言われて、初めて亜梨紗は恐怖を感じた。体ががくがくと自分の意思とは反して震えた。


「神崎先輩は戦う意味を持たないお前がこのまま大きくなって戦場に出たりしたら間違い無く死ぬと思ったんだ。だからお前を叩きのめしたんだよ。父上と母上もそれを分かっていたからお前を止めなかったんだ。神崎先輩は無意味な暴力を振るう人じゃない。・・・まぁ、意味があれば拳を振るうのを躊躇う人でも無いけどね・・・」


「兄上が傷だらけで帰ってくるのもそうなの?」


「ああ、そうさ。僕も強くなりたいんだ。あの人と居ると強くなれる気がするのさ。・・・今日言った事も大体神崎先輩の受け売りだけどね」


そう言って苦笑する真をみて、亜梨紗は初めて悠の事を色眼鏡無しでみる事にした。


「受け売りついでに言っておくと、戦場で寝るなってさ。どんなに辛くても、痛くても、立って戦えって。それが基本なんだって。僕も週1でそれが出来ないんだけど」


今日も気絶して連れて来られた真は更に苦い顔をした。


「私・・・次に会ったら、ちゃんと言ってみる。そして、最後まで立って戦うんだ」


「ああ、頑張れ、亜梨紗」






「それで、何度も手合わせしているうちに、子供相手でも真剣にやってくれる悠さんの事が気になって、色々知りたくなって、悠さんの事を考えていると胸が締め付けられるようになって・・・そして、好きだって気付いて、告白して・・・そして、そして・・・」


自分の心の中を告白するうちに、なんだか亜梨紗は泣けてきてしまった。もうしばらくは会えない。それが何より辛かった。


「すまん、適当な気持ちで聞いた訳では無かったが、悪い事をした」


悠はやはり自分はデリカシーが無いなと自省しつつ亜梨紗を宥めた。亜梨紗はぶんぶんと首を横に振りながら否定しているが、言葉に出すと尚更涙がこぼれそうで必死に嗚咽を噛み殺していた。


「だが、もう基本は卒業だな。お前は誰もが地に伏せる中、唯一人立ち上がって俺を殴った。強くなったな、亜梨紗」


「・・・くっ、ずるい、ずるいです悠さん!今そんな事言われたら、わた、私、泣いちゃうじゃ、ないです、かぁっ!!」


遂に涙腺が決壊し大粒の涙をこぼす亜梨紗の背中をぽんぽんと叩いて悠は自分の胸で亜梨紗を支えた。


「うっく、ひっく・・・わたし、わたし、もっと、もっと強くなります。そして、今度悠さんが帰ってきたら、必ず勝ちます!勝ちますからね!!」


「ああ、楽しみにしている」


そして亜梨紗は顔を無理やり笑顔にして、


「絶対絶対勝って、悠さんを私の旦那様にするんだから・・・」


そう呟いて再び悠の胸で涙を流した。

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