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6-27 X―DAY13

両者の睨み合いは数分間に渡って続き、その間にもカーライルは必死に頭を回転させ、どうやってこの窮地を乗り切るべきかを考えていた。


(こんな老いぼれと我が身を引き換えになど冗談ではない!! だが、『殺戮人形キリングドール』は一体のみ。この老いぼれを殺ったとしても、その瞬間に上から雨霰あめあられと矢や魔法が降って来ては守り切る事も出来ん! クソ、城門に近付き過ぎたか!!)


パフォーマンスが必要な場面だったとしても、ここは今少し後方に位置すべきだったとカーライルは後悔していた。不意を突いた行軍であり、フェルゼン側も大した防御陣を構築しているとも思えなかった為に突出し過ぎてしまったのだ。


「・・・返答がありませんね? 納得頂けたのなら私は帰らせて頂きたいのですが?」


「くっ・・・!」


(どうする!? どうすれば街に・・・・・・そうだ!!)


アランの最後通牒にカーライルは一か八かの賭けに出る事を決意した。これが上手く行かなければ『殺戮人形』を押し出して無理矢理にでも押し入る事を覚悟して。


「私はフェルゼニアス公の捕縛と言ったはずだ。公は今ご子息共々王都で虜囚となっておられる。未だ嫌疑の状態であくまで我らの行く手を遮るのであれば、王都に居る父子の命は保証出来ぬぞ!!」


カーライルの宣言にアランの表情に初めて微かに焦りが浮かんだ。


「・・・嘘で御座いましょう。ローラン様とアルト様には『戦塵』の方々が護衛に付いております。王都の弱卒に遅れを取るはずがありません」


アランの微かな焦りを敏感に察したカーライルはこれが好機とばかりに更に嘘を重ねて恫喝した。


「冒険者風情を信じたのが間違いでしたな。彼の者達は金銭にて依頼主を替えたのですよ。斜陽のフェルゼニアス公と隆盛極めるマンドレイク公のどちらに付くのが賢い選択か、理と利の両面から説得すれば答えは決まっております。・・・さて、それでもあくまで立ち塞がりますか?」


「ぬぅ・・・し、しかし証拠が・・・」




「その方の言っている事は真実だ、アラン殿」




迷うアランの後方からカーライルに思わぬ援軍が現れた。


「これは・・・アイオーン様!? ではフェルゼニアス公は拘束されているのですか!?」


「拘束されているかどうかは定かでは無いが、今王都から入った情報によると、マンドレイク公の屋敷に大規模な結界が敷かれ、内部への侵入を拒んでいる。その中にフェルゼニアス公もいらっしゃるそうだ」


「その通り。その結界こそ、フェルゼニアス公が逃げ出さぬよう、マンドレイク公がご用意したものです。・・・お分かり頂けたのなら、早く道を開けて頂けますかな?」


「っ・・・!」


隠しようも無いアランの苦渋を見て取ったカーライルは完全に余裕を取り戻した表情でアランに要求を突きつけたが、アランはそれでも手を振り、覚悟を決めた顔で言い放った。


「・・・確かにフェルゼニアス公とアルト様は虜囚となられているようです。ですが、それでも街に軍を入れる訳には参りません!! どうしても当家を調べられると言うのなら、街に入られるのは貴族の方だけに限定する事、そして奥方であるミレニア様に詳しい事情を話す事が条件です!!」


「何故こちらがその様な要求を呑む必要が? 馬鹿馬鹿しい」


「で、あるならば私もフェルゼンに付かせて頂きますが?」


アランの要求を撥ね退けたカーライルは自分の耳を疑った。


「な、何を申されますか、アイオーン殿!! まさかフェルゼンは冒険者ギルドぐるみで今回の件に関与されているのですかな!?」


「そんな事はありません。が、フェルゼニアス公にはこの街で活動するに当たって多大なご支援を頂きました。まだ嫌疑が掛かっている段階、街に多量の兵を入れる事は私も賛成出来ません。どうしても入れるのならば、貴族の方一人に付き、護衛1名のみになさるのが良いかと思います。調べるだけならばそう多数の兵は必要としますまい。それでも要求が呑めぬならば・・・まぁ、戦争でしょうか?」


途中までは詰まらなそうに話していたアイオーンが最後の戦争という単語を口にする時だけ冷たく笑ったのを見てカーライルの背中に悪寒が走った。


(アイオーンめ、戦闘狂という噂は本当だったか!? むしろコイツは我らと戦う事を望んでこの場を掻き乱しにやって来たのか!! 一々邪魔者が現れるわ!!!)


アイオーンが本音で言っている事を察したカーライルは歯軋りしたが、何とか冷静さを保って状況を分析した。


(ここに至っても譲らぬのであれば、この老人はこれ以上は引くまい。だが、いくらアイオーンが居ようとも向こうは『殺戮人形』の事を知らんのだ。ならば隙を付いてミレニアを人質に取れば、今度こそ抵抗出来ずにフェルゼンを落とせるはずだ!)


カーライルは考えを纏めると、難しそうな顔を崩さぬまま返答した。


「・・・本来、我らに譲らなくてはならない事など全く無いのだが、今後のアイオーンギルド長との関係もある。それに嫌疑が掛かってもあくまでフェルゼニアス公に義理立てするお2人の義の心を立てて、フェルゼニアス公の屋敷には私を含めて貴族10名、兵士10名のみとしよう。それで宜しいか?」


「私は依存ありません。アラン殿は?」


「・・・致し方ありません、お通ししましょう。


一応折衷案が決定され、アイオーンが異論無しと述べた事でアランもこれ以上ゴネる事は出来ずに渋々とではあるがその案を受け入れた。


「有り得ない事だが、万一兵が街に押し入ろうとした時の備えとして私はここに残らせて貰おう」


「はい、その様な心配は全く杞憂ではありますが、それで信を得られるのであれば構いません」


アイオーンの申し出はカーライルにとっては願ってもいない幸運であった。一番苦労しそうなアイオーンが自ら離れてくれるのであればカーライルに断るという選択肢は存在しなかった。


「では街に入らせて頂きましょう。ご案内頂けますかな、アラン殿?」


「・・・畏まりました」


最早余裕を隠そうともしないカーライルに、アランは短く俯いて答える事しか出来なかった。


そしてカーライルの首から下がる小さな紫色のペンダントの光に気付く事も無かったのである。

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