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6-26 X―DAY12

(ヤベェ!? いくらユウでも際どいぜ!!)


レイラが居ない現状で竜気プラーナの無駄遣いも出来なかった為、この様な閉鎖空間内での魔法行使を試せなかった悠の『火竜クリムゾンスピア』は一瞬で『殺戮獣キリングビースト』に大穴を開けたまでは良かったが、殆ど威力を減衰させずに屋敷を貫き結界に突き立った為、その反作用も強烈であり、炎が逆流して悠を押し包もうとしていた。


見ている者達が冷や汗を掻く中、当の悠はローランから下賜されたマントによって自らを覆い、爆風に乗って炎が届く寸前にハリハリの背後に飛び込んだ。


「くあっ!?」


一瞬爆風に晒されながらもハリハリは本命の飛来物や炎が届く前に結界を展開して防いだ。


「・・・間一髪をほんのちょっと超えていましたよ、ユウ殿?」


「合わせてくれて助かった。ローランのマントに助けられたな。皆無事か?」


「おう、流石にあんな魔法にゃ耐えられなかったみてぇだな」


「大丈夫です、ユウ先生」


「同じく問題ありません」


無事を確認し合う悠達の後ろではルーファウスとルーレイがあんぐりと口を開いていた。


「い、一体何が起こったんだ・・・」


「有り得ない!! 有り得ないってぇ!!! 何なの今の魔法!? 何であんな短い時間で出鱈目な威力の魔法が撃てんの!?」


「えーと・・・・・・・・・ユウだからです、ルーレイ殿下」


「そんなの説明になってなーーーーーい!!」


自分も知らないので適当に流そうとしたローランにルーレイが憤慨した。だが、ある意味では悠が竜気を扱えるからこそこの威力が発現しているのでローランの適当な説明も大雑把ではあったが嘘では無いのだ。


一応部屋の崩落が収まったので、悠達はハリハリの結界を解いて貰い『殺戮獣』とマッディがどうなっているのか調べる為に近付いていった。


「う、ペッペッ!! ひでぇ砂埃だぜ、しかも真夏かってくれぇあちぃ!!」


「流石にこんな魔法を受けては生きては居ないと思いますが・・・特にあのマッディって人は」


「瞬時に焼かれて死ぬなど、外道には勿体無い最後だ。拙者が五分刻みにしてやりたかったが・・・」


徐々に晴れて来る砂煙の合間から悠の『火竜ノ槍』を受けても尚原型を残している『殺戮獣』が垣間見えた。だがその顔から胴に掛けては黒く焦げた断面が見えるだけで目の紫光も薄れ、動き出す気配は無い。


「ようやくくたばりやがったか。これで一件落着だな!! おっと、せっかくだからコイツの神鋼鉄オリハルコンを回収しておこうぜ!! 気分はまるで素材を剥ぎ取る冒険者だな!!」


「いや、気分はというか、先生方は紛れも無い高ランクの冒険者ですよね?」


「おお、そういやそうだったな! 1年も籠ってたら忘れちまう所だったぜ。後でコロッサスに言って悪党成敗の報奨金でも・・・」




「それは些か気が早いですよ、『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』バロー殿」




既に聞き慣れた声が聞こえた瞬間、『殺戮獣』に近付きつつあった4人はその場から飛び退いた。


「んだとぉ・・・! あの魔法を食らって生きてたってのか!?」


「・・・外の結界までは破れんだろうとは思っていたが、マッディが生きているとはな」


薄れて行く砂煙の中から傷一つないマッディが姿を現した。


「フフ、素晴らしい強度です。あれだけの大魔法に耐え切るとは。・・・ゴフッ」


だが一見無傷に見えるマッディが咳き込むと、その口から血が吐き出された。


「チッ、効いてねぇワケじゃねぇ様だが、どうやって耐えやがった? 普通の魔法使いにゃ絶対不可能だぜ? 魔法は殆ど使えないんじゃなかったのかよ!!」


「さぁ? 追い詰められて隠された力が目覚めたのかもしれませんよ?」


「戯言を。どうせこの結界もお前達が言うあの女とやらに譲り受けた品だろう。それ以外に説明がつかん」


悠の指摘にマッディの眉が上がった。


「ご存じなのですか、あの女を?」


「会った事は無いが、各国を回って不可思議な物品を配って歩いている顔を隠した女の存在は知っている。なるほど、ミーノスにも現れた後だったか」


「ここ以外でとなると・・・そうか、ノースハイアの異常な数の『異邦人マレビト』も同じ理由だったのですか。あなた方は最初ノースハイア方面からやって来たのでしたね。彼の国が沈黙しているのにもあなた方が関わっていたのですか?」


「貴様が洗いざらい喋るのなら教えてやってもいいが?」


「魅力的な提案ですが、私にはそんなに時間が残されていませんのでね。早くあなた方をディオス様の御許にお送りしなければなりませんし」


あくまで目的を完遂するつもりのマッディにバローが失笑を洩らした。


「ハッ! お前さんのご主人様はこんがりと化け物ステーキになっちまったよ! そんな死に掛けみてぇな体で俺達を相手に勝てるつもりなのか?」


「勿論そのつもりですよ。・・・それに言ったはずです、不死身だとね」


「何っ!?」


マッディに気を取られていた悠達が『殺戮獣』へと視線を移すと、消え掛けていた目に紫の輝きが戻り、悠の開けた穴が巻き戻しの映像の如く再生していった。


「嘘だろ!? コイツに弱点はねぇってのか!?」


「ゴアアアアアアアアアッ!!!!!」


高らかと吠える『殺戮獣』には先ほどのダメージを引きずっている様子は微塵も感じられなかった。


「あなた方こそもう諦めなさい。一度解き放たれた『殺戮獣』は無敵です。絶対に誰も倒す事は出来ません」


顔面を蒼白にしながら血に染まった口元で微笑むマッディには異様な迫力が宿っており、その言葉に奇妙な説得力を与えていた。


「・・・ユウ、どうする? 最初から弱点がねぇってんなら、俺達にはどうしようもないぜ? あの不健康野郎がぶっ倒れるまで逃げるか?」


「そこまで俺達を遊ばせておくとは思えんな。だが、絶対無敵の存在など有り得ない。何か仕掛けがあるはずだが・・・」


「見ているだけなら今度はこちらから行きますよ。やりなさい、『殺戮獣』!」


マッディが命令すると今まで移動しなかった『殺戮獣』が頭と尾を内側に丸め、外骨格を変化させて球形になった。直後、背中にある突起が鋭くなり、外骨格の至る所から飛び出してくる。


「っ! 全員散れっ!! ハリハリ、結界に全力を――」


何が起こるのかを察した悠が全てを言い切る前に、『殺戮獣』はそのまま突起を地面に突き刺し転がりながら悠達目がけて大質量の突進を開始する。


「ハハハハハ、この暴走スタンピード、止められるものなら止めてみなさい!!」




ガガガガガガガガガガガガッ!!!!!




何もかもを押し潰すその暴走を止められる者は居なかった。

次回はフェルゼンに視点チェンジです。


6-19 X―DAY5からの続きになります。

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