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6-18 X―DAY4

「アルトアルトアルトーーーっ!!!」


まっしぐらにアルトに駆け寄るルーレイにアルトは気を取り直して挨拶をした。


「ルーレイ殿下? こんばんは、今日はいらっしゃるとはお聞きしておりませんでしたが?」


「ばんにゃ!! えっへへ~、俺ちゃんどうしてもアルトに会いたくなってさ~。だから来ちゃいました!!」


100%本能だけで行動しているルーレイに流石に人の好いアルトも対応に苦慮したが、ルーレイもアルトの浮かない表情に気が付いた様だ。


「そ、そうでしたか・・・」


「ありゃ? ひょっとして俺ちゃんお邪魔だった? いらない子?」


「と、とんでもありませんよ! お会い出来て嬉しく思います」


「そっか!! じゃあ再会を祝してカンパーイ!!」


それでもあっさり気分を変えてグラスを高く掲げるルーレイの頭上に拳が落とされたのはその瞬間であった。


ゴン!


「~~~~~~っいったーーーーーっ!? 何すんのさ兄上ぇ!!」


「お、おま、お前は・・・! 一体何を考えておる!? ここは子供の遊び場では無いのだぞ!?」


「だってぇ・・・俺ちゃんアルトに会いたかったんだもん・・・」


「王族ならせめてその前に義務を果たせ!! このパーティーはマンドレイク公の生誕パーティーだぞ!! まずはマンドレイク公に挨拶をするのが筋であろうが!!」


100歩譲ってこの場に来た事は許しても、目的を履き違えたルーレイを看過する事は出来ずルーファウスは礼節を説いてルーレイを叱りつけた。


「あーい。ごめんなさい兄上ー」


「本当に反省しているのか? ・・・まぁいい、サッサと行って来い」


「あいさー。アルト、すぐ戻るから待っててちょー」


「あ、はい、いってらっしゃいませ」


ルーレイが場を離れるとローラン達はごく短時間で会議をする事を強いられた。


「まさかルーレイ殿下がいらっしゃるとは・・・マンドレイクも焦ったでしょうね・・・」


「最初は計略の一部かと思ったが、マンドレイクの様子を見る限り、どうやらあちらも想定外の様だ。これが吉と出るか凶と出るかは現時点では判断が付かないな」


「不確定要素が出た事で今回は諦めるって線は無いのか?」


バローの言葉を悠が否定した。


「ここだけで行われている計略では無いのだ。フェルゼンにも同時に手を伸ばしている以上、どの様な不確定要素があろうともマンドレイクは手を止める事は出来ん」


「ユウの言う通りだね。むしろこっちが本命なんだから、何があっても断行するはずだよ。・・・それに、ルーレイ殿下に何かあって一番困るのはマンドレイクの方だし、今頃は此方の差し金なんじゃないかと疑ってるんじゃないのかな。天才っていうのはタチが悪いねぇ」


ルーレイの来場により衝撃が大きいのはマンドレイクの方であろう。せっかく蟻も通さぬ完璧な計画を練り上げたのに、それが最後の最後に気紛れで台無しにされてしまったのだから。


「やー、マンドレイク公、お誕生日おめ~」


「わ、わざわざご足労頂きまして恐縮です。・・・しかし、ルーレイ殿下はこの様なパーティーにはご興味は無かったと思いましたが、ルーファウス殿下かフェルゼニアス公にでも誘われましたか?」


脱力する様なルーレイの物言いを流し、ディオスにしては直接的にルーレイにその意図を質すと、更に脱力する返答が返ってきた。


「いやいや、確かにパーティーなんてぜんっぜんこれーっぽっちも興味なんて無いんだけどさ、明日アルトと遊ぶ約束しちゃってるから何して遊ぶか相談しよっかなってね~」


「・・・あ、遊びの相談で御座いますか・・・」


表面上は微笑みを崩さなかったディオスであったが、内心では激しく目の前に居るルーレイを罵倒していた。


(本当に遊びついでに来たと言うのか!? この計画に儂がどれだけの金と労力を注ぎ込んだと思っているのだ!! 黙って担がれておれば労せずして王位が転がり込んで来るというのに邪魔ばかりしおって、この大馬鹿王子がっ!!!)


だがいくら心の中で罵倒したとしてもディオスとしてはルーレイを放り出す事は出来なかった。ルーレイ以外の王族は貴族の専横を許さないし、王位継承権から考えてもルーレイ以上の適格者は居ないのだ。自分が生きている間にこれ以上の好機は無いに違いなく、であればこの状況を乗り切る以外に手は無かった。


「それじゃ俺ちゃん、アルトの所に戻るね~。あ、そだ、玄関でベルトルーゼが兜を被ったままのせいで止められちゃってさ、入ってもいいって言ってやってくんない?」


「べ、ベルトルーゼ殿も連れて来たのですか!?」


「コッソリ出て来ようとしたら見つかっちゃって、どうしても一人では行かせないってウルサイんだもん。だから護衛って事でヨロシク!!」


「か、畏まりました・・・」


よりによって全く融通の利かないベルトルーゼまでが来ている事にマンドレイクは更に内心でこの状況に罵声を投げ掛けたが、それでも王族の護衛の入室を拒む訳にもいかずに首肯した。


(どこまでも予定が狂いよる!! 最早猶予は無い、次の曲が最高潮になった瞬間始めるぞ!)


密かに遠くで控えるマッディに合図を送ってディオスは深く椅子に掛け直した。


(どうせ後には引けんのだ、この状況でならば一人だけ残ったルーレイを王位に就けるのはおかしな事では無い。要はルーファウスとフェルゼニアスに確実に死んで貰う事こそが最重要事項なのだからな!!)


些か強引である事は重々承知しつつも、先に進むしかないディオスは無理矢理その不安を飲み下したのだった。




「・・・マンドレイクの空気が変わった、そろそろ何か仕掛けて来るつもりらしいぞ」


ディオスを遠くから見ていた悠の言葉に全員の表情が俄かに引き締まった。


「ルーレイ殿下が来て、逆に腹を据えた様だね。敵ながら中々骨が太い」


「その意欲を国政に向けてくれれば良かったのだがな・・・。今更言っても詮無い事だが」


ルーファウスの言葉にローランは自嘲気味に呟いた。


「・・・マンドレイクがああなったのには恥ずかしながら我が父の影響も少なからずありましょう。先の時代、フェルゼニアスは貴族社会では並ぶ者の無い巨頭でありました。その恐るべき相手が居なくなった事でマンドレイクのタガが外れてしまったのでしょうな。私も今少し強さを見せつけておくべきだったと反省しております」


「それは我が王家にも半分責任はあろうな・・・ローラン、我が父上は逆らう者には一切の容赦が無かった。子供心にそんな父上に私は恐怖したものさ。いつ自分が粛清されるのではないかと気が気では無かった。・・・だが、病に倒れた父上はただの年老いた小男でしかなかったよ。いつ来るともしれぬ死の御使いに怯えて震えて残り少ない余生を過ごしている。一体どの様な生き方をするのが賢明なのだろうか・・・」


「殿下・・・」


「それは些か思い違いというものです、殿下」


しんみりと感傷に浸っていたローランとルーファウスに物申す人物などこの場には一人しか存在しない。


「ユウ?」


「人の一生は短く、賢明に生きる時間など毛ほども存在致しません。フェルゼニアス公もルーファウス殿下も多くの人の上に立って生きる身、賢明に生きるより、懸命にお生き下さい。それが自身の心を安らげる唯一の手段でしょう。・・・それが嫌なら人の上に立つ事など止めて山奥で隠棲するのが良かろうと愚考致します」


「ばっ!? こんな時に好き放題言ってんじゃねぇよ!?」


慌ててバローが止めに入ったが、悠が恐れ入る事は無かった。


「今後至尊の冠を抱かれるのならこの忠言は今をおいて言う機会がありませんので。どう思われるかは殿下次第であります」


「・・・そこまでの言葉を吐くのならば、当然自分の命が掛かっていると分かっていような?」


感傷から立ち直り、王族としての仮面を取り戻して悠に詰問するルーファウスであったが、悠は寸毫たりとも態度を変えなかった。


「命を惜しんで誰かに仕えた事は御座いません。また、例え相手が王であろうと、神であろうと自分は言わなければならない時に言葉を選ぶつもりは毛頭御座いません」


「選んでくれ、頼むから選んでくれよ・・・」


「ヤハハ、ユウ殿らしいですなぁ」


悠の隣ではバローがガックリと肩を落として項垂れ、その肩をハリハリがポンポンと叩いて慰めた。


厳しい顔で悠を睨んでいたルーファウスであったが、やがてフッと表情を緩めた。


「お主の忠言はありがたく頂いておこう。そうか、賢明に生きるより懸命に、か・・・」


「ご容赦感謝致します、殿下」


「やれやれ・・・」


「流石はユウ先生です!」


ルーファウスの寛大な態度にバローは安堵の溜息を漏らし、アルトは有言実行を怠らない悠に改めて尊敬の念を露わにするのだった。


「ただいまっすーん、ありゃ? 空気変じゃない?」


「・・・ルーレイ、それが分かるのなら口に出すな」


ディオスの下から戻って来たルーレイがそう言うとルーファウスが苦笑して窘めたが、ルーレイの言う空気とはまさしく本来の意味で空気がおかしいという指摘であった。


「そうじゃ無くってさぁ、ホラ、今こっちに向かってるベルトルーゼの後ろから何か紫色の煙が・・・」


「何っ!?」


「此方においででしたか、ルーレイ殿下!」


そう言って駆け寄って来るベルトルーゼは盾と兜はそのままだが、体だけは貴婦人が身に着けるドレスという異様な格好であり入室を渋られても仕方がないだろう。しかもかなりスタイルが良いのが何とも言えずアンバランスであった。


「一体どういう格好をしておる・・・」


「鎧姿じゃ付いて来ちゃダメーって言ったらあの格好で付いて来たんだ・・・何か変?」


「・・・いや、もういい。今はそれどころでは無い!」


ルーファウスの言う通り紫色の煙は徐々に部屋を浸食しつつあり、貴族達は必死に逃げようとしたのだが、ドアは溶接されているかの如く開く事が出来なかった。窓を破ろうとする機転の利く護衛も存在したが、叩き付けた椅子は弾かれてバラバラになってしまった。


その様な出来事を見て、室内は益々混乱の度合いを深めていったのであった。

この次はちょっと場面転換でフェルゼンに移ります。2点同時進行の話を書いた事が無いので上手くいくかどうか・・・

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