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6-14 蠢く悪意2

「フェルゼニアスめ、尻に火が付いてようやく慌てて動き出しおったか。馬鹿め、儂がどれほどこの策に時間を掛けたと思うておる。切り崩しなどその目くらましに過ぎんというのに」


ディオスはパーティー前夜、一足早い祝杯をあげ、夜の王都を見渡していた。


「もうじきだ・・・もうじきこの街の、いや、この国の全てが儂の手に入る。我がミーノスが金で平和を買っていた時代は終わったのだ。儂が摂政となってこの国を仕切る暁にはノースハイア、アライアット、その他小国群も全て10年以内に片を付けてやる。儂の名は1000年後も人間国家を取り纏めた大英雄として語り継がれる事になるだろう」


グラスの中の酒精の強い酒がディオスの胸を熱く灼いたが、ディオスの胸の奥にはそれに勝る熱が燃え盛っていた。




「失礼致します、お呼びでしょうかディオス様?」




その時、ディオスの私室のドアがノックされた。


「マッディか? 入れ」


「では・・・」


ディオスが入室を許可すると、マッディと呼ばれた青白い顔をした痩せぎすの男が入室して来た。


「明日の事だが、準備に怠りは無かろうな?」


「御座いません。どの仕掛けも100%正常に動作致します」


マッディはまるで感情を感じさせない表情と口調で断言してみせた。


「あの女がもたらした品々は解析不能ではありますが、効果のほどはご覧の通りです。万一どころか億に一つの失敗も御座いません」


チラリとマッディが視線を向けた先にはいつからそこに居たのか、生気の無い目をした兵士が白く光る穂先のスピアを持って直立不動の姿勢のまま立っていた。


しかしよく見れば見るほど、その兵士の異様さが理解出来るだろう。兵士は瞬き一つ、身動き一つ・・・そして呼吸一つしていないのだから。


「不気味ではあるが、確かにこれ以上無い護衛だ。こやつらは飯も金も女も要求する事は無い。だが儂の言葉には絶対に逆らわぬ。これこそ理想の兵士、理想の軍である」


その兵士の前に移動してディオスはおもむろに足を踏み躙った。だが、相当な力を込めて踏み付けているにも関わらず、兵士の顔色には一切の変化は無かった。


「ククク・・・『戦塵』などとうそぶいておっても所詮は人間、まさか儂がこれほどの準備を整えているとは夢にも思うまい。チンケな毒殺や刺客などを想定しておるのなら、貴様らの命運はこれまでだぞ、ルーファウス、ローランッ! ハハハハハハハッ!!!」


「・・・我らが『殺戮人形キリングドール』に、人間では太刀打ち出来ません。必ずやディオス様の大望は果たされる事となりましょう・・・」


全く熱を感じさせないマッディの両目だけが、無限の野望に燃える色を映していた。

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