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6-11 会食5

「ふぅ・・・今日の食事は格別だったよ、ローラン」


「お気に召して何より」


あの後改めて乾杯し、諸事を片付けた一行はルーファウスの私室へと場所を移していた。これには流石に文官武官を問わずに反対意見が上がったが、「あそこは壁や天井に虫がおってな。ゆっくり話し合いも出来ん」とルーファウスが言うと反対意見は萎んでいったのだった。


「さて、早速そちらのユウの事を聞くとしようか、ローラン?」


「ええ、長くなるので手短に話しますが・・・」


ローランは悠がこれまでにどの様な事を成し、またどの様な目的で行動しているのかを詳らかに語って聞かせた。


「つまり、ユウの目指す所は世界的な平和の構築です。言葉にすれば簡単ですが、実際は大いなる困難が待ち受けているでしょう。なにしろ、人間のみならずエルフやドラゴン、魔族までも例外なくユウは踏み込むつもりですから。世界に残された時は少なく、事態は急を要します」


ローランの話を聞いている間、ルーファウスは口を挟まなかったが、ローランの説明が一段落した所で口を開いた。


「・・・ノースハイアの『異邦人マレビト』に付いての疑問は昔からあったけど、そういう理由だったのか。・・・でも、私はそれだけで信じる訳にはいかないんだ。何か証拠になる物は無いだろうか?」


「一番証拠になるレイラが眠りに付いておりますが、同類であれば。スフィーロ、お前も話を聞いていただろう?」


悠はレイラを提示しようとしたが、話せないので代わりにスフィーロに声を掛けた。


《興味深い話だ。貴様が何者であるのか、その一端が我にも理解出来た》


突如聞こえて来た声にルーファウスが驚いて周囲を見回したが、当然何も発見出来ない。


「い、今の声は一体・・・!」


《我はスフィーロ、ドラゴンズクレイドルのドラゴンだ。人族の王子よ》


「これは竜器と言う品で、自分達『竜騎士』は彼らの手を借りて異能を振るう事が可能になります。このスフィーロは先のミーノスでの魔物モンスターの暴走の発端となった者で、今は交渉の末、自分と協力体制を敷いております。害を成す事はありません」


「竜器・・・ドラゴンか・・・」


初めて見る物品にルーファウスはかなり興味を引かれた様で、食い入る様に竜器に見入っていた。


《我の今の目的はニンゲンを知る事。害は成さぬが手も貸さんぞ》


「その、『竜騎士』とはどの程度の力を持っているのだろう? 今でもユウは比類無い力を持っている様に見受けられるのだが?」


「私も戦闘能力という点では測りかねます。バロー、君は分かるかい?」


ルーファウスの質問に答えられなかったローランはバローに話を振った。


「そうですね・・・およそ人間が太刀打ち出来る存在ではありません。このスフィーロと事を構えた時、他にも2体ドラゴンが居たのですが、ユウは苦も無く討ち果たしました。それも生身のままで。スフィーロの時には『竜騎士』となりましたが、それも抗し難いからでは無く、この竜器として封印する為に『竜騎士』となったとの事ですので・・・単一であれば、ユウが世界一の強者というのは誇張でも何でも無く、単なる事実であるとしか申せません」


「そ、それほどか・・・! しかし、何故その強大な戦闘力を持って国々を滅ぼしてしまわないのだ? 君の力があれば不可能ではあるまいに」


それは過去に悠が一度答えた質問であった。


「力による変革はこの世界に一時の平穏をもたらすかもしれませんが、人の心は与えられた平穏を維持する事は叶いません。この世界には国があり、そしてそれを導く王たる者達が居ます。その者達の心を変えない限り、また世界は堕落してゆくでしょう。そして最後には誰も居ない世界が残り、結局は崩壊してしまう。自分の役割は、世界を良くしたいと思う者をこそ助けるべきだと考えております」


悠は以前よりも言葉を尽くしてルーファウスに説明をした。


「もっとも、如何にしても行いを改めぬ者に対しては容赦しませぬが」


《・・・》


付け加えた悠の言葉にスフィーロが黙り込んだ。ドラゴンズクレイドルを滅ぼす気があるという言葉を思い出したからだ。


「・・・分かる気がする。例え私が君の力を背景にしてマンドレイクを除いて貰っても、今の私ほどの覚悟は持てなかったに違いない。人は自分の力で掴み取らなければ成長出来ないという事か・・・」


「言葉が過ぎるのは重々承知しておりますが、その通りです。この世界のカルマは低く、世界に悪党が満ちているのならば、自分だけが奮闘してもただの破壊者にしかならぬでしょう。そして自分は遠くない未来にここを去る身の上、この世界の者達にこそ世界を維持して貰わなければなりません」


「・・・確かに事はミーノス一国などという範疇に収まらない様だ。世界、世界か・・・」


ルーファウスは話の壮大さに打たれて瞑目した。


「ルーファウス、君はまだ妻帯していないけど、いずれ持つ我が子に平和な世界を残してやりたいとは思わないかい? 私はアルトに、ミレニアに、そして生まれたばかりの双子達に安心して暮らせる世界を残してあげたいんだ」


「それは私も同じさ。少ないとはいえ、私にも大切に思う者達が居るんだ。・・・分かった、今回の件が上手くいけば、私は君達に協力しよう。この国は小国群のみならず、エルフ達とも国境を接している。拠点とするのに便利な場所だ」


「「「ありがとう御座います、殿下」」」


悠、バロー、ローランは揃ってルーファウスに頭を下げた。


「いや、礼を言うのはこちらの方だよ。ユウ、バロー、君達も私達だけの場では遠慮は要らない、ルーファウスと呼んでおくれ。共に世界を憂う同士として、そして新しい友として」


「・・・ローランの時は頷きましたが、流石に相手が王族の方となるとちょっと・・・」


「む? ローランの事は名で呼んでいるのに、私の事はそう呼べないと言うのかい?」


バローがどうしたものかとローランを見たが、ローランは素知らぬ顔で黙り込んでいた。心情的にルーファウスの味方らしい。悠もバローに返答を任せて黙ったままだ。アルトは自分に話を振られては堪らないとばかりに明後日の方角を向いていた。


「お、俺にばっかり面倒を押し付けやがって・・・! 分かった、分かりましたよ!! これからはルーファウスと呼ばせて頂きます!!」


「まだ口調が硬いけど、それは許そう。私は寛大な王子なのでね」


冗談を交えて笑うルーファウスは王座に座っている時よりもずっと生き生きして見えたのだった。




「では後は詳しい所を詰めて行きますか」


そう言ってローランは懐から出席者リストとマンドレイク公爵家の見取り図を取り出した。


「今回のパーティーで予測される事態は毒殺、暗殺、誅殺、そして事故死だけど、毒殺と暗殺はバローとユウが居れば心配は要らない。問題は誅殺に付いてだけど、ルーファウス、何か動きは掴めているかい?」


「・・・あり得ないな。私はこれでも一応国王代理として大過無く過ごして来た自負がある。それをここに来て誅殺などという大義名分を持って討つなど笑い話だよ」


「ちぇっ、これだったらドサクサ紛れにマンドレイクをぶった切って終わりだったのにな」


本当に残念そうなバローを見てルーファウスが呆れた声を出した。


「一応マンドレイクには手練れの護衛が付くはずだよ? それに敵地ゆえに私兵も多いだろう、そんな簡単に斬れはしないんじゃないのかい?」


「その私兵がギルド長のコロッサスクラスで無いなら足止めにもならないよ、ユウとバローは。なにせ、ユウはこの間の合同訓練で500人以上を叩きのめしたそうだ。その中にはあの『外道勇者』サイコも混じってたとか」


「500!? それは、なんとも・・・」


「だからこそ毒殺も暗殺も不可能だって私が言い切れるのさ。・・・では最後に警戒するべきは、この事故という事なんだが・・・」


声も出ないルーファウスに代わってローランが話を先に進めたが、特定の何かで無いゆえに言葉を切った。


「正直、事故なんて言い出したら何が起こるかは分からねぇ。自分ごと巻き込むつもりじゃ無いだろうから、あるとすればヘイロンの爺さんの言った爆発や崩落なんて手が怪しいが・・・」


「なんとも言えないね。・・・でも、私は皆よりもマンドレイクの人となりを知っているつもりだけど、彼の御仁はそんな不確かな事で計略を練ったりはしない気がする。もっと確実に私達を狙うんじゃないかと思うんだ。そして、その方策に相当の自信を持っている。だからこそ急に私も含めて呼び出したんじゃないかな?」


「個別に狙えて、絶対の自信か・・・そこだけ捉えると暗殺っぽいな。連中、誰か手練れでも雇ったかね?」


「『影刃シャドーエッジ』ミロとはもう切れている様だし、それ以外で王族の暗殺に手を貸す様な真似は例えサイコであろうともしないと思うよ」


バローの言葉をローランが否定した。


「ならば、全てに警戒すればいい。何が起ころうと、俺とバロー、そしてアルトが居れば乗り越えられると信じている。それだけの鍛練は施したつもりだ」


「ユウ先生・・・!」


「・・・たまに恥ずかしい事を言うよな、お前。ま、その通りだがよ」


悠の信頼を受けてアルトは頬を紅潮させ、バローはニヤつきそうになる口元をひくつかせながら悪態を付いた。


「ハハハ、頼もしいね! ではこの身は任せようか、ルーファウス?」


「異論は無いよ、ローラン。どうせ君達が居なければ死んだ身さ。言う通りにしよう」


結局その晩は他に細々とした事を話し合い、夜も更けてから一同は解散する事になったのだった。


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