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6-6 合流2

悠達が来ているとギルド内に広まると、訓練場に冒険者が殺到した。


「教官!! 槍の上級障害で聞きたい事が!!」


「バローさん! 明日の夜空いて無いですか? ちょっと冒険者同士で飲むんですが、その席で剣の講釈を・・・」


「おい!! 割り込むんじゃねぇよ!!」


「いってぇ!! 誰だよ俺の足を踏んだのは!!」


それを見たバローが嘆息した。


「朝から元気な連中だな。平和そうで羨ましいぜ・・・」


「静まれ。俺達は明後日のマンドレイク公爵の生誕パーティーに護衛として出席する為、誘いの類は受けられん。聞きたい事がある者は順に並べ。横入りする様な礼儀知らずには答えんぞ」


悠が宣言すると、助言を求める冒険者達は慌てて背筋を伸ばして整列し始め、それ以外の者は散っていった。悠の事を「痛いほど」良く理解した冒険者達の行動は素早い。


結局、午前中は指導で時間を潰し昼近くなって悠達は引き上げて行ったが、その後ろには多数の冒険者達が横たわって囁き合っていた。


「な、なんかユウさんはともかく、バローさんやシュルツさん、前より強くなってね?」


「単に、この前は本気を出して無かったんじゃないの?」


「じゃあちょっとは俺達も強くなったって事かな?」


「きっとそうに違いない!! 俺もいつか教官達と肩を並べてやるぜ!!」


「「「おう!!」」」


実は更に離されたとは気付かない冒険者達だったが、勘違いがモチベーションを上げる効果を発揮し、真面目に鍛練に打ち込む事になるので誰も損はしないのだった。




「ユウ、バロー! 今晩は空けておいてくれ!!」


王都のフェルゼニアス邸に着いたユウ達を待っていたのは珍しく大声を出すローランであった。


「な、何だよ急に。別に何の予定も入れてないぜ?」


「決まったんだよ、殿下との謁見が!! どうやら私達が王都に来たのがルーファウス殿下のお耳に入ったらしい。是非会いたいと仰って今晩城の会食に招かれたんだ!!」


「うげー」


笑顔で話すローランとは対照的にバローのテンションはダダ下がりであった。相手が妙齢の姫ならともかく、王族の男と堅苦しい夕食を共にする事には何の楽しみも見出せなかったからだ。


「うげーって君・・・この国の王子だからね? そんな態度取ったら首が物理的に飛ぶからね?」


「分かってるよ、俺だって貴族だ、聞こえる場所でこんな事言うか!」


「・・・まぁいいさ、これは私にとっても殿下に接触出来る好機なんだ。最近は第二王子派が妨害して来るせいでまともに殿下に会う事も叶わなかったし」


「それに関しちゃ色々情報があるぜ。まずは夜の会食よりもこっちの話を優先してくれよな」


バローの言葉にローランが表情を引き締めた。


「そうだね、まずは君達の手に入れた情報を聞かせてくれるかな?」


「いいぜ。まず明後日のパーティーだが・・・」


その話を最初はローランは真剣な表情で聞いていたのだが、目的がルーファウスの抹殺であると聞いた所で目が据わり始め、並びにフェルゼン攻略に話が続く頃には目が危険な輝きを帯びていた。


「・・・ローラン、そんな目で俺を見ないでくれよ。別に俺がやる訳じゃねぇんだから」


「失敬、ちょっと心がささくれてしまってね。・・・屑共が、どうしてくれようか・・・」


ローランの髪が怒りの為に浮き上がり、正に『金獅子』という二つ名に相応しい威圧感を放っていた。


「アイオーンには連絡したが、この後ミレニアにも連絡を取るつもりだ。何か言っておく事はあるか?」


「・・・冗談交じりでアランに指示を出しておいたけど、気が変わった。本気であちらがフェルゼンに害を為すというのなら、私も一切躊躇はしない。肝を冷やす程度では禍根を残すなら、根こそぎ行かせて貰おう。ユウ、ミレニアに繋がったら私の言う通りに伝えてくれ」


「分かった、しばし待て」


ユウは竜気プラーナを操ってミレニアに『心通話テレパシー』を送った。ちなみに悠が今使えるのは『心通話』だけで、他の一切の竜騎士の技は使用出来ない。『心通話』は『竜騎士』でない蒼凪も使えるので、恐らくは個人に根付いた能力であるからだろうと思われた。


《聞こえるか、ミレニア? 俺だ、ユウだ》


《ユウさん? ちょうど良かったわ。今アイオーン様から事の次第を伺っていた所なのです》


《そうか、ならば都合がいい。そこにアランも居るな?》


《ええ、私の隣におりますが?》


《ローランから伝言がある。そのままアランに伝えてやってくれ》


《畏まりましたわ》


悠を信頼するミレニアは異論を差し挟む事無く首肯した。


「アラン、聞いての通り敵方は手段を選ばないらしい。だから――」


ローランの言った事を一言一句違わずに悠はミレニアに伝えた。それは悠もその内容を承認したという証でもある。


《・・・はい、アランも私も既に覚悟は定まっております。ご無事のお帰りをお待ちしていますわ》


《いざという時はライラを頼れ。大抵の危険は払えるはずだ》


《はい。・・・ユウさん、主人をお願い致します・・・》


全てを伝え終え、悠は『心通話』を切った。


「はぁ・・・これでもう後には退けなくなったな・・・」


バローの言葉にローランはキッパリと言い切った。


「このパーティーが終わった後、ミーノスの公爵家が一つ絶える事になる。それがフェルゼニアスなのかマンドレイクなのかは神のみぞ知る事さ」


それは先の2つの事件とは比べ物にならないくらいの混乱を国にもたらすだろうが、みすみすマンドレイクに勝ちを譲れば王家の威信は地に落ち泥に塗れ、今後百年は国と民は貴族の慰み物になるであろう。それを回避するには徹底的に叩きのめすしか方法は有り得ない。


「思えば私が甘かったんだ。先代を嫌悪するあまり、苛烈な反撃を怠ってしまった。『黒狼騒動』の首謀者がマンドレイクではないかと薄々気付きながらも積極的な対応に躊躇してしまった。・・・鬼畜に堕ちるつもりは無いけど、貴族は時として苛烈に振る舞わなければならない時があると思い知ったよ。私の怯懦に家族や領民を巻き込む事は許されない。宣言しよう、私はディオス・マンドレイクを、マンドレイク公爵家を滅ぼすと」


部屋に居る全員がその意を受けて頷いた。


「では夜までに詳細な策を練るとしよう。出来れば殿下にもお伝えした方が良かろう」


「うん、そうだね。アルト、お前の事も殿下に紹介するから今日は付いて来るんだ」


「えっ!? いいんですか?」


急に話を振られたアルトは驚いてローランを見た。


「今度のパーティーにはお前も参加するのだから、殿下にお目通り願った方がいい。いざとなったらお前が殿下をお守りするんだ、いいね?」


「はい、この身に掛けましても!」


「アルト、英雄譚サーガの読み過ぎだぜ? 例え格好悪くても絶対生きろ。師匠より先に死ぬ 弟子なんざ、俺の弟子じゃねぇぞ」


「珍しい事にバローの言う通りだ。俺も死ぬ覚悟はしていても、生きて帰らないつもりで戦場に出た事は無い。生きるという気持ちが生を引き寄せると知れ」


「珍しいは余計だっての・・・」


「ユウ先生、バロー先生・・・分かりました、必ず全員無事に帰りましょうね!」


アルトの言葉に再び全員が強く頷いたのだった。

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