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6-5 合流1

夜が明ける頃には悠達はミーノスへと到着した。悠は馬車の中の2人を起こそうと戸を叩くと、既に2人は起きていて悠に挨拶をしてきた。


「おはようございます、ユウ先生」


「おはよう、ユウ」


「おはようございます。丁度今ミーノスに到着した所です」


「流石だね、ユウ。寝ている間にミーノスに着いているっていうのは楽でいいや」


馬車から降りて大きく伸びをするローランの体の各所からコキコキと骨の鳴る音が聞こえて来た。悠が敬語なのは人の目を意識しての事だ。


「私はもう少し休んでから明後日のパーティーに向けて色々準備しておくよ。ユウ、君も休むのかい?」


「いえ、私はフェルゼニアス公をお送りしたらギルドへ向かいます。バロー達と落ち合って情報を仕入れないとなりませんので」


「相変わらず精力的だね、君は。昼に1度私の家に来てくれるかい? そこで私も情報を受け取るよ」


「畏まりました」


そのまま御者席に戻ろうとした時、アルトが声を発した。


「父様、僕もユウ先生に付いて行って話を聞いてきても構いませんか?」


「うーん・・・どうかな、ユウ?」


「止めておいた方がいいぞ、アルト。自分では大した事が無いと思っているかもしれないが、他の者から見れば今のお前は数日前から一気に育っているのだ。パーティーまでは外に出ない方がいい」


その事を失念していたアルトが思い出した様に自分の伸びた手足を見て得心した。


「あっ! そっか・・・分かりました、屋敷で待っています」


「パーティーで誰かに疑われたら、「ドラゴンから作った魔法薬と鍛練の結果です」とでも言っておけ。別に嘘でも無いからな」


アルトの成長に各種のドラゴン食材が絡んでいるのは確かだが、些かならずこれは強引な説明だろう。しかし、実践した者が他に居ないのなら確かめる術などありはしないのだから構わないと悠は考えた。


「またドラゴンの素材が高騰しそうな話だね」


「正しく厳しい鍛練が伴わなければさしたる効果は得られません。楽して強くなろうという性根ではアルトの100分の1の効果も出ないでしょう。散財するだけだと思います」


努力を厭う者が無駄遣いしようと悠の知った事では無い。


「じゃ、行こうか。私も屋敷に何か情報が届いているかもしれないし」


「では出発します」


そうして悠はローラン達を屋敷に送り届け、自身はギルドへと向かった。




「あっ、教官だ! おはようございまーす!!」


「ああ、おはよう。ところでバロー達を見なかったか?」


ギルドでギャランのパーティーの短剣ダガー使いに声を掛けられた悠は、丁度良いとばかりに朝食を頬張る短剣使いに尋ねた。


「見ましたよ? 確かギルド長の執務室に入っていったと思いますけど・・・」


「おい、ユウが来てんのか!?」


所在が分かった所で執務室の中からコロッサスが顔を出し、ギルド内で誰何した。


「ああ、今着いた所だ」


「いい時に来たな、早速入ってくれ」


「うむ。ではな」


短剣使いに別れを告げて、悠はコロッサスに導かれるままに執務室へと入っていった。


「ん~、もっと教官とお喋りしたいけど、相変わらず忙しそうだな~・・・でも、一緒に依頼を受けるにしても今の腕じゃ教官を幻滅させちゃうもんな~・・・」


恋する人物が自分より遥かに上に居る事は嬉しい反面、気後れを感じさせ、乙女心を悩ませるのだった。




執務室の中は朝の気だるさなど一片たりとも存在していなかった。コロッサス、サロメ、バロー、シュルツの面々は真剣な顔で情報を交換している。ハリハリは『盗聴タッピング』を防ぐ為に悠が入って来たらまた風の防音結界を構築した。


「よう、もうそろそろだと思ってたぜ」


「今しがたローラン達を送って来た所だ。で、情報はどうだったのだ、バロー?」


「中々いい話が聞けたぜ。まずはな・・・」


バローが代表してヘイロンから聞いた話を悠に説明した。


「ふむ・・・フェルゼンの件は捨て置けんな。ミレニアに情報を送っておくべきだ」


「恐らく襲撃するにしても、パーティーの始まる午後の鐘(午後六時)辺りを狙うはずだぜ。ローランと連絡が取れなくなる時間をな」


「当然だな。パーティーが始まる前に襲撃してギルド経由ででもローランの耳に入ったらそれで計画はご破算だ」


襲撃に関してバローが更に情報を付け加えた。


「今朝メロウズがヘイロン経由で新しい情報を寄越したぜ。悠達が街に入るのを見計らって、何人かの貴族が密かに街を後にしたらしい。それと、冒険者風を装った兵士共が小分けにフェルゼンを目指しているそうだ。ミーノス以外からもフェルゼンを目指しているとすれば、その数は千じゃきかないらしい」


「朝から向かえば明後日のパーティー開始時間には十分間に合うからな」


「フェルゼンを落とすには戦力が足りんな。・・・とすれば、何らかの謀略で街を落とす気か」


コロッサスの言葉に悠は頷いた。


「兵は示威目的であろう。本命は何らかの切り札で無血開城を強いる事であろうな。ローランを人質に取ったとでも言うか、貴族であれば断れぬ相手・・・王命を騙るか」


「どっちも重大な犯罪行為だぜ? 特に偽勅なんかバレたら、関わった人間の一族全員極刑にされるぞ!?」


「その日で全てに決着を付けるつもりなのであろう。ルーファウス殿下にローランが居なくなれば誰もマンドレイクのやる事に後ろ指を差す者は存在しなくなる。今第一王子派である者も中立派も全てマンドレイクに従うだろう」


「腐ってやがる・・・頭も性根も・・・!」


吐き捨てるようにコロッサスが怒鳴った。


「コロッサス様、ここはアイオーン様にも情報をお伝えしておくべきかと」


「そうだな・・・サロメ、フェルゼンのギルドを呼び出してくれ」


「了解しました」


例によってサロメが水晶球を操作すると、ほどなくアイオーンの顔が映し出された。


《何の用だコロッサス。手合わせの日取りでも決まったか?》


「それどころじゃねぇよ! 明後日の午後六時頃、そっちにマンドレイクの軍が攻め入る可能性がある。フェルゼニアス公爵の軍と協力して街への被害を食い止めてくれ!」


《戦争か?》


感情の薄いアイオーンの顔に僅かに獰猛な笑みが浮かび、コロッサスは頭を抱えた。


「嬉しそうな顔をするな!! 相手は何か策があるってのがこっちの見解だ。問答無用で殺すなよ!! フェルゼニアス公の所のアランって執事と連携を取ってくれ。上手く纏めてくれるはずだ」


《良かろう、また何かあれば連絡を寄越せ》


それだけ答えると水晶球は沈黙した。


「・・・本当に分かってんのかな、アイツ・・・」


「仮にもギルドを任されている者です。街を危険に晒しはしないでしょう。・・・自分の身ならいくらでも危険に晒す人でもありますが」


「そこはアランに上手く手綱を握って貰うしかあるまい」


嬉々として千人の敵兵に斬り込んで行くアイオーンの姿がアイオーンを知る者達の頭に浮かんだが、任せるべきは任せるしかない。


「実際、アランとアイオーンが本気で戦えば千は無理でもその半分くらい殺れるだろ?」


「ギルド長が虐殺してるなんて噂が立ったらどうすんだよ!?」


「立場があるヤツは面倒なこったな」


やれやれと首を振るバローをコロッサスが睨み付けた。


「・・・お前も一応元貴族だって忘れてないか?」


「馬鹿言うなよ、俺は元貴族じゃねぇ、今も貴族だぜ? ・・・多分な」


カザエルに釘を刺してあるので、一応今もノワール伯爵家はバローが当主であるはずだ。


「ミレニアにはローランの所で俺から連絡しておく」


「そっちは任せた。当事者の街でも無い俺に出来る事は精々フェルゼンのギルドと連絡を取る事くらいだからな・・・」


ギルドと国は基本的に相互不干渉であり、一方的な戦争だからと言ってどちらかに加担するのは好まれない。が、攻められる当事者の街にあるギルドは自分達の身を守る為に戦う事はよくある話である。


「戦力が足りぬ訳では無いのだから、現状はそれで十分だ」


「実際のパーティーに関してはローランの家で話そうぜ。当事者にも聞かせないと意味がねぇ」


「まだ少々早いな。少し体を動かしてから行くとするか。場所を借りるぞコロッサス」


「お供します、師よ」


昼にはまだ時間があったので、悠は御者をしていて出来なかった朝の日課をこなそうと動き出し、終始話に加わらなかったシュルツもそれに従った。


「相変わらずだな、ユウのヤツ・・・が、お前さんとシュルツはどうやら化けたみたいだな」


「今なら『隻眼サイクロップス』コロッサスが相手でもそう簡単にはいかんぜ?」


バローとコロッサスの間に一瞬火花が散った様に思えたが、それはすぐに霧散した。


「止めとこう、こんな時に怪我をするのは馬鹿野郎のやる事だ」


「だな。それに今のユウはあのとんでもない回復術を使えねぇんだ。致命傷でも負おうもんならマジで死んじまう。さて、俺も行ってくるか。またな」


「ワタクシは酒場の方におりますので」


そう言ってバローとハリハリも部屋を後にし、コロッサスとサロメが残された。


「・・・連中、とんでもなく強くなってやがる。特にバローとシュルツの奴、もう俺と同じ所まで登って来やがった。それに、国の大貴族を相手にするってのに誰も気後れしちゃいない。これが若さか・・・」


「向こうは向こうで思ってますよ。これだけ鍛えたのにまだ互角なのかって。私には分からない脳筋の世界ですが」


眩しい物を見る様に目を細めるコロッサスと慰めにも似た言葉を発するサロメであった。

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