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6-4 目覚めるモノ

その頃、悠は夜を徹して一路ミーノスを目指していた。


まだ魔物モンスターは少ないとはいえ、夜に移動する事が昼に移動するよりも危険な事に変わりは無いが、悠の顔には何の気負いも見られない。馬車の中ではローランとアルトが眠っているが、2人が安心して眠れるのも悠が側に居ればこそだ。


そんな悠の普段と違う所と言えば、レイラが居ない事だろう。


(・・・夜が深く感じるのも久しい事だな・・・)


寂しさや不安などと言うつもりは無いが、あるべき物が無い喪失感を悠は感じていた。濃密な日々を過ごして来たせいもあるだろうが、遠く離れた異世界に居る事も関係しているのだろう。


と、そんな事を考えている悠の耳に微かな声が届いた。




《・・・ぅ・・・》




レイラが覚醒したのかと悠は考えたが、それにしては早過ぎると思い周囲を警戒するも特に何も異常は感じられず、残った可能性に目を向けた。


「・・・スフィーロか?」


《・・・くっ、な、何だ? 我はどうなったのだ!?》


その予測は当たっており、覚醒したのは悠が『強制転化コンパルションリバース』にて封印したスフィーロであった。竜器の存在を知らないスフィーロは今の自分の状況に戸惑っている様だ。


「お前はあの戦いで竜器に封印された。今のお前は自力では何も出来ぬ」


《竜器だと!? 貴様、何故我を殺さずに封印など施したと言うのだ!!》


激昂するスフィーロに悠は静かに返答した。


「お前はダイダラスとは違い、真っ当な感性を持っていると思ったのでな。殺す必要は無いのではないかと思っただけだ」


《馬鹿な!! 人族に情けを掛けられる謂われなど無い!!》


「情けでも慈悲でも無い。強いて言うならば・・・愛を知る者への敬意だ」


悠の予想外の言葉にスフィーロが返答に詰まった。


《・・・貴様の考え方は分からん・・・ニンゲンよ、それはニンゲンなら当たり前の事なのか?》


「俺がそう思っただけだ。他の者がどうかは知らんな」


今度は素っ気ない悠の返答にスフィーロは黙り込んだ。悠も言葉を繋げないので、しばらくの間、場を沈黙が支配したが、スフィーロにはどうしても聞いておかねばならない事があり、やがて口を開いた。


《・・・サイサリスは無事に逃れたか?》


「あの場ではな。手負いだったゆえ、それ以降は分からん」


《手負いであろうとドラゴンが遅れを取る事は無い・・・と言いたいが、今の我が言っても滑稽か・・・》


自らが竜器に封印されている現状を省みて、自嘲気味にスフィーロが呟いた。


《で、我をどうするつもりだ? 言っておくが、同胞は売らんぞ?》


悠の目的が情報を得る事にあると考えたスフィーロが悠に釘を差す様にそう宣言したが、悠の返答はまたも素っ気ない物だった。


「お前が情報を漏らすとは思っておらん。そのような事は敬意を持って生かした相手に無礼であろうが」


《・・・本当に貴様は何なのだ? ドラゴンの気配といい、只人とは思えぬ》


毒気を抜かれたスフィーロが呆れ気味に言葉を返した。


「前回の名乗りは正確ではなかったな。俺は異世界の『竜騎士』神崎 悠だ。悠と呼べ」


《・・・異世界? 『竜騎士』? それは何だ、ユウ?》


蟠りも忘れてスフィーロは悠に問い掛けていた。


「異世界は異世界、この世界とは違う世界であり、『竜騎士』とはリュウと魂で結ばれ、その力を振るう人間の事だ」


《・・・察するに竜とは我が同朋の事の様だが、貴様らの世界では同胞を服従させているのか?》


僅かに怒気を孕んだ声を発したスフィーロに対し、悠は少し語調を強くした。


「俺の世界では竜は人間を助ける存在であり、人と竜は互いに認め合う間柄だ。支配、被支配の関係ではない。人に仇なす竜はドラゴンと呼称している。邪推は止めて貰おう」


《人とドラ・・・竜が認め合うだと!?》


「俺もレイラに認められて『竜騎士』となった。今は眠っていて挨拶は出来んがな」


その言葉でスフィーロは自分の隣に並ぶ赤いペンダントに気が付いた。


《我の隣の物がお前に助力している竜か、ユウ・・・っ!?》


よくよくレイラの媒体に注意を払ってその存在を感じ取ったスフィーロの心が驚愕で凍り付いた。


《な、何だこの力は!? 我どころでは無い!! 恐らく、いや、間違い無く龍王陛下すら・・・》


「レイラは龍の首魁、Ⅹ(テンス)ランクの龍である『アポカリプス』を滅した竜のリーダーだ。その辺に居る者と比べても意味が無いぞ」


《我も人族の秤ではⅩだ!!》


必死に言い返すスフィーロにお互いの認識に齟齬があると思い至った悠はその誤りを訂正した。


「この世界のランクと俺の世界のランクでは開きがある。例えばスフィーロ、レイラが見た所、お前はおまけしてⅥ(シックスス)だそうだ」


《な、何!? 我が、このスフィーロがたったⅥだと!?》


「俺達が龍と戦争していた世界ではお前くらいのランクはいくらでも居たからな。『竜騎士』で狩り損なう者は一人も居らんよ」


《ば、馬鹿な・・・貴様は一体どんな魔境からやって来たというのだ・・・》


ドラゴンとしては強さを誇る事は少ないが、その他大勢扱いされたスフィーロは流石に傷心して黙り込んだ。


「世界は広く、上には上か居る。自らが知る世界だけで己を計るのは慢心だぞ、スフィーロ」


《・・・これでも我は謙虚な方だ。大抵のドラゴンは自分達が最強の種族だと疑ってすら居らん。だから我は斥候を申し出・・・む》


途中で喋り過ぎた事に気付いてスフィーロは言葉を止めた。


「別に喋らせようなどとは考えておらんよ。・・・ただ、知っておけ。ドラゴンが何を考えているかは知らんが、他の種族を力のみで蹂躙する事がドラゴンの目的であるなら・・・俺とレイラがドラゴンズクレイドルごとこの世界から消し飛ばしてくれよう」


《ぐっ・・・!》


悠から吹き付ける濃密な死の気配に気圧されてスフィーロは心情的に退いた。


「俺はこの世界を少しだけマシにする為に行動している。いずれドラゴンズクレイドルにも赴くが、龍王とやらが人間を虫の様にしか見ぬのならその首を取る。それでも改めぬなら皆滅んで貰うしか無い」


気負いも増長も無く自然体で一種族の滅びを口にする悠にスフィーロは初めて恐怖した。これが脆弱な人間だとはとても思えなかったのだ。


《・・・我の懸念は正しかった。やはり人族を侮るべきでは無かったのだ・・・》


今回の件で各国に斥候を出すべきだと主張したのはスフィーロである。それは僅かな『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』と呼ばれる者への警戒とスフィーロ自身の人間への興味から出た提案であり、特に後者の感情が殆どであった。『龍殺し』と言ってもピンキリであり、さして多大な警戒をする必要を感じてはいなかったのだ。


しかし蓋を開けてみれば自分は封印されサイサリスは負傷して撤退、ダイダラスに至っては最早この世界には存在すらしていないのだ。いっそ笑い飛ばしたくなるほどの悪夢であった。


《・・・我は人族・・・ニンゲンの事を深く知りたく思ってこの任を受けたが、サイサリスは恐らく舞い戻るであろう。あれはああ見えて情の深い女なのでな、必ずや我の仇を討とうとするに相違無い。・・・だからユウ、我はお前と交渉がしたい。サイサリスの命を取らないでやってくれるならば、我はお前のどんな質問にでも一つだけ答えよう。受けるか?》


「応」


たった一文字の即答であった。これには言葉を重ねたスフィーロの方が反応に困ってしまった。


「ただし、俺の前で無法や命を軽んずる殺生をしない事が条件だ。悪党はその限りではないが」


《・・・言っておいてなんだが、何故受ける? 我は長い説得の言葉を考えていたのだが?》


悠は馬車を操りながら答えた。


「愛する者を生かして欲しいと思う心に人もドラゴンもありはせん。そもそも、サイサリスを殺してはお前を助けた意味が無かろう」


全く情でも理屈でも非の打ち所が無い悠にスフィーロはこの時、初めて礼の言葉を口にした。


《・・・感謝する。その礼として我の知っている事であればなんであろうとも答えよう。・・・それが例え今回のドラゴンの斥候の件であろうともな》


同胞は売らぬという前言を翻してまで答えたスフィーロは相応の覚悟を決めていたが、悠の質問はスフィーロの予想とはまるで異なるものだった。


「・・・あの化ける魔法はドラゴンの魔法か?」


《・・・? そんな事を聞いてどうするのだ? もっと聞くべき事があるのではないか?》


「同胞を売らぬと言っている男に成してもいない恩を売って情報を得るなど俺の流儀に反する。どうしても知りたければ直接赴くゆえ。それよりも、俺も魔法を齧っているがドラゴンが人に変化する魔法などには心当たりが無い。答えられるか?」


封印されて身動き一つ取れない自分に対してどうしてこの悠という男はここまで対等に接するのかとスフィーロは益々人間の事が分からなくなった。


《・・・構わぬ。あれはドラゴンも最近手に入れた魔法だ。それを持って来たのは種族定かならぬ女だったが・・・》


だが、予想外の質問は予想外の答えを導き出した。


「・・・もしやその女、それを渡したらすぐに居なくなったのではないか?」


《何故知っている? あの女は何者なのだ?》


悠の言った通り、幾つかの品を置いて女はいつの間にか消え去っていた。


「・・・スフィーロ、恐らく貴様達ドラゴンはその女に謀られたぞ?」


《何だと!? どういう事だ!?》


「人間の国、ノースハイアにもその女は現れた。彼の国で女は異世界から人間を呼び寄せて奴隷として使役する召喚器なる魔道具をノースハイアの王に渡し、20年に渡って召喚し続けたのだ。俺がこの世界に来る原因となった事件だがな。その女が絡んでいるという事は、奴は貴様らドラゴンにも野望を助長する何かを与えたに違いない」


《・・・可笑しな女だとは思っていた。貢ぐだけで対価を受け取りもせず消えたのは、その女の求める所は混沌そのものであったか!!》


思い当たる節のあるスフィーロは歯があるなら歯軋りでもしていそうな声音で怒鳴った。


「ドラゴンズクレイドルに伝えても無意味であろう。俺が言ってもお前が言っても寝言程度にしか捉えまい」


《ぬぅ・・・! 聞く耳を持ちそうなのはプラムドとウェスティリア様くらいのものか・・・》


悠の言う通り、見下している人族や死んだと思われているスフィーロの言葉などドラゴンは極少数を除いて聞きはしないだろうとスフィーロは臍を噛んだ。


「その内サイサリスも俺の前に現れるであろう。その時にお前から伝言を頼めばいい」


《・・・それしか無さそうだな・・・》


こうして図らずも悠とスフィーロは共闘関係を構築したのであった。

スフィーロ復活。レイラが居ない間はスフィーロが代わりに喋ります。

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