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6-3 暗躍3

「おいおい・・・そんな情報、どうやって手に入れたってんだ?」


衝撃を受けながらもバローはその情報の出所が気になってヘイロンに問い掛けた。


「言ったじゃろ、危ない橋を渡ったとな。ウチでも一番の密偵をマンドレイクの屋敷に忍び込ませて直接聞いて来させたんじゃから間違い無いわい」


「ばっ!? 何考えてんだよ爺様!! もし見つかってたら楽には死ねねぇぞ!?」


情報の出所を知らなかったメロウズも思わずヘイロンに食って掛かったが、ヘイロンは穏やかな目でメロウズを見ながら言葉を返した。


「メロウズや、儂は賭けたのじゃよ、フェルゼニアス公とその一派にな。今貴族共は第一王子派と第二王子派に分かれて争っておるのは知っていよう。そして、マンドレイク率いる第二王子派が現在の所は優勢じゃ。つまり味方も多いのじゃが・・・そこに今更儂らが割り込んでも大して覚えは良くあるまい。逆にフェルゼニアス公に付きこの局面を覆したならば、今後とも儂らを重宝して下さるはずじゃ。ならば旨味の多い方に賭けんとな」


「らしくないぜ爺様!! アンタはそんなヤバイ橋を渡る様な人じゃ無かっただろ!?」


尚も食い下がるメロウズに向けてヘイロンはニカッと笑い掛けた。


「なに、この先を生きるお前さんに死ぬ前に何か一つ残してやりたくての。この件が済んだら儂は引退する。儂のファミリーはお主が継いでくれ」


「はぁ!? 待て待て待て!! 引退? 跡継ぎ? そんな話聞いてねぇぞ!?」


取り乱すメロウズにヘイロンは再び穏やかな目に戻って語り出す。


「・・・儂はこの年まで裏社会を生きては来たが、結局後を託す者を見つけられんかった。表では生きられぬ者達は存外多いもんじゃ・・・儂はそんな者達の生きる場所を作ってやりたくてファミリーを立ち上げたが、所詮裏は裏という事か、いつしか王都の裏社会には悪では無く、屑が蔓延る様になってしまった。そんな折、見つけたのがお前さんじゃよ、メロウズ」


「俺?」


「儂は悪とは目的の為に手段を選ばぬ者、屑とはその事になんら良心の呵責を抱かぬ者と考えておる。今ではこの国は裏も表も屑ばかりじゃ。・・・じゃが、お前さんはどうも屑とは毛色が違う様じゃと思うておった。ガストラ達が捕まった時に儂はその思いを確かな物としたのじゃ。お前さんが儂らを助けてくれた時にな」


その言葉はメロウズの心に深く突き刺さった。あれはむしろ自分が企んだに等しいものであり、決して感謝される謂れなど無い事なのだ。そんな事に感謝されて自分に献身されてもメロウズは素直に喜ぶ事が出来なかった。


「・・・爺様、俺は・・・!」


「言うで無いぞメロウズッ!!!」


思わず真相を漏らし掛けたメロウズをヘイロンが一喝した。


「・・・儂は王都一の情報通じゃぞ? あえて言おう、この王都で儂の知らぬ事など無いとな」


「っ! ・・・爺様、知ってて俺を・・・」


メロウズはヘイロンが一連の事件にメロウズが関わっている事を知っているのだと確信した。だが、それを口に出してはならないからこそメロウズを叱ったのだと。


「どうしてだ、それなのに何で俺を・・・?」


「カッカッカ、伊達に年は食っておらんよ。そんな物はあの時のお前の目を見りゃ分かるわい。・・・あの時のお前さんは今と同じ目をしておったよ。罪悪感が入り混じった辛そうな目をの。が、それこそ儂の捜し求めていた人材じゃ。己の目的の為に邁進するが、一握りの良心を忘れぬ男。そんな者にこそ儂は付いて行きたかった・・・」


遠い目をしたヘイロンが首を振って己の妄想を振り払った。


「済まんの、お客人方。年寄りの話は寄り道が多くていかん。じゃが、事が成った暁には、たまにでいいからこのメロウズを助けてやっては下さらんか? それが儂がお客人方に求める報酬じゃ」


正面で話を聞いてたバローは頭をポリポリと掻いて言った。


「何とまぁ・・・裏にアンタみたいな爺さんが居るとは思わなかったぜ。世の中捨てたもんじゃねぇやな。分かった、ユウには俺が伝えておく。それでいいか?」


「うむ! 感謝するぞい。それでは話の詰めに入ろうかの。・・・こりゃ! メロウズ、いつまで呆けておる!! シャキッとせんかいシャキッと!!」


「あ、ああ。・・・その、ありがとよ」


「何の事だか分からんがの? ま、いいわい」


惚けているヘイロンだったが、気持ちを切り替えると一転して目付きを鋭くし、懐から2枚の紙を取り出した。


「それで、これがマンドレイクの屋敷の見取り図と出席者の名簿じゃ。9割方は網羅しておるが、貴族の屋敷ゆえ、隠し通路や隠し部屋もあろう。上手く活用して欲しいの」


「・・・この空白の部分は何なんだ?」


ざっと見取り図を確認したバローが屋敷の端に何も描かれていない場所を指してヘイロンに尋ねた。


「おかしな事に、その一角だけ警戒がとんでもなく厳重での。マンドレイクの部屋にすら入り込んだ密偵が近寄る事すら叶わんかったそうじゃ。外観から察するに特に何かある場所には思えんのじゃが・・・」


「臭ぇな・・・」


「うむ、非常にの」


考え込むバローの肩をハリハリが軽く叩いた。


「分からない物は考えてもしょうがありません。ただ、何かあると覚えておけば良いでしょう」


「・・・そうだな。後はユウが来たら考えようぜ」


そう言ってバローは見取り図を畳んで荷物に仕舞い込んだ。


「で、爺さんは殿下と俺達をマンドレイクはどうやって始末するつもりだと考えてる?」


「1番、毒殺。2番、刺客による暗殺。3番、兵士で取り囲んで誅殺という所じゃろ。4番以降は可能性が低くて論ずるに値せんわい」


「1と2は分かるとしても、3の誅殺ってのは何だ?」


バローが尋ねると、ハリハリが返答した。


「殿下と言われる人物を誅するとすれば、王への謀反以外ありませんよ、バロー殿」


「中々慧眼じゃの、ハリハリ殿。第一王子と言えど、劣勢のルーファウス殿下が王位を得る為に王を弑逆しようとしたとでもでっち上げれば王家の為に誅する事は不可能では無い。・・・じゃが強引である事は確かじゃからあまり上策では無かろうの」


「やだやだ、これだから貴族って奴は・・・」


自分も貴族である癖に辟易した口調で言う辺り、この1年で本当に忘れているのかもしれない。


「もしそんな事になっても俺とユウが居りゃあ問題ねぇよ。外にはシュルツも居るしな。・・・いや、そうなったら逆にドサクサ紛れにマンドレイクの首を取ってやらぁ。それで向こうは頭を失って瓦解。晴れてルーファウス殿下に逆らうアホは死んでめでたしめでたしってこった」


「勿論そういう事態も想定していよう。だからこそ上策とは言い難いんじゃ」


「俺としちゃあ可能性は低くても、4番のそれ以外の可能性についても聞いておきたいが?」


バローの物言いにヘイロンは苦笑して答えた。


「フォッフォッ、毒も刺客も物の数では無いと豪語されるか。ま、他の可能性なら正直何でもアリじゃが、そんな中で一番あり得るとすれば・・・事故を装う事じゃろうか」


「事故?」


「事故じゃ。例えば、宴もたけなわ、酒も入ってほどよく酩酊、談笑する殿下とフェルゼニアス公、そこに突然謎の爆発! 天井が崩落! 哀れ殿下とフェルゼニアス公は下敷きに!! マンドレイクは必死にその原因を突き止め、適当な者を犯人として捕縛、実はその犯人はマンドレイクを狙っていたのだが、誤って殿下一向を巻き込んでしまったと供述、そして獄内で自決。かくして真相は葬られ、マンドレイクは多少の非難は浴びても傷付かずに勝利! ・・・言っててアホらしいの」


自分の想像が馬鹿馬鹿しくなったヘイロンが肩を竦めた。


「いやいや、さっきの無理矢理誅殺よりかは説得力あるぜ、爺さん」


「ワタクシも同感です。詳細はともかく、事故を装う事は考えられますね」


逆にバローは興味を引かれた様で、ハリハリもその考えに賛同した。


「爺さん、参考になる話をありがとよ。こいつは礼だ、取っといてくれ」


バローは袋から取り出した物を指でピンと弾き、ヘイロンへと投げ渡した。


「じゃあワタクシも」


それに続いてハリハリも同じ様に、こちらはメロウズに向かって何かを手渡した。


「何だ? ってこりゃあ白金貨じゃねぇか!」


「うむ、本物じゃな」


「さっきマンドレイクの執事が交渉に来てな、口止め料として失敬して来たんだ。今日の2人の話にゃあそのくらいの価値はあったしよ」


「演技で貰って来ただけですから、好きに使って下さいな」


「フッ・・・そんなら遠慮無く頂いとくぜ」


「うむうむ、これでキレイな娘とでも飲むとするかのぅ」


「・・・まだ枯れてねぇのかよ、爺様・・・」


弛緩した空気が流れた時、今まで喋らなかったシュルツが言葉を発した。


「話が済んだのなら早く宿に戻った方がいいのでは無いか? いつまでも不在では気取られるかもしれん」


「大丈夫だと思うぜ。あの部屋は魔法避けに2重の壁になってやがったし、『盗聴タッピング』でも中の様子は探れねぇからな」


「流石『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)」は目端が利くな」


バローの洞察力にメロウズが感心の声音で口にした。『盗聴』は壁の振動から声を読み取る魔法なので、魔銀ミスリルで全面を覆うという事をしなくても壁を2重にすれば大部分は防げるのである。この様な魔法の知識はハリハリの講義のお陰であろう。


「だが明日からも忙しいのは確かだ。そろそろ戻るとしよう」


「じゃ、帰りも案内するぜ。別の場所に出られちゃ困るからな」


「うむ、儂も帰らせて貰おうかの。首尾良く行けば、終わった後に酒でも酌み交わしたいものじゃのぅ」


「そんときゃ、ホーマーズの35年物よりいい酒を用意しておいてくれ」


「ふ・・・良かろう。ではな、成功を祈っておるぞ」


そう言ってその日は解散となったのだった。

ヘイロンは独自の美学を持った一角の人物です。ヘイロンについて書くとそれだけで話が一話出来てしまうので、サラリと軽くだけ触れました。


尚、悪と屑の定義は辞書的な意味ではありませんのでご了承下さい。あくまでヘイロンの考える悪と屑です。

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