X-13 ドラゴンズクレイドル
「ダイダラス!! スフィーロ様!! あああああああっ!!!」
満身創痍の体でサイサリスはがむしゃらに速度を上げてドラゴンズクレイドルを目指していた。しかしそれは帰る為では無い。
「ゆ、許さぬぞニンゲン!! いや、ユウ!!! お前は誰にも渡さぬ!!! 必ず私がこの爪で、牙で、貴様の四肢を切り裂いてやろう!!! 目を抉り、芋虫にして命乞いをさせながら食らってやる!!! ガアアアアアアアッ!!!」
運悪くサイサリスの進路上に居たワイバーン(飛龍)が爆裂の吐息を浴びてバラバラに弾け飛び、臓物が雨となって地に降り注いでいく。
「い、愛しい方を死なせて逃げ帰るとは何たる屈辱!!! 死んだ方がましと思えるこの苦痛を奴に味合わせてやりたい!!! ・・・だが私はまだ死ねぬ!!! 仇を討つまでは決して死なぬぞ!!!」
サイサリスの龍の瞳からはとめどなく涙が溢れていた。弟と最愛の男を同時に失うという凶事がサイサリスの心を苛んでいたのだ。
「ここでよかろう・・・」
ある程度の距離までドラゴンズクレイドルに近付いたサイサリスは『心通話』によって同胞に呼び掛けた。
(誰か、誰かおるか!! 私だ、サイサリスだ!!)
返答はすぐにやって来た。
(これはこれはサイサリス様。その様に焦られて、如何されましたかな?)
年経た落ち着きを感じさせる口調にサイサリスは良い相手に繋がったと内心で喜んだ。
(プラムドか・・・単刀直入に言おう、我らは任務に失敗した。我が弟ダイダラスと部隊長を務められたスフィーロ様は討ち果たされ、私だけが情報を持ち帰る為に逃がされたのだ・・・)
(な、何と!? ダイダラス殿はおろか、ドラゴンの中でも強者と誉れ高いスフィーロ様が討たれたと申しますか!? と、とにかく事情を詳しく伺いたく存じます!! 急ぎお帰りなさいませ!!)
焦りを滲ませるプラムドにサイサリスは否定の意を返した。
(残念だが私はもうそこには戻らん。戻れば事情を聞いた後、私は龍王陛下に処刑されるだろう。・・・死は最早私にとっては救いだが、スフィーロ様の仇を討つまでは死んでも死に切れぬ!!! 皆にはもうサイサリスは死んだと伝えてくれ。首尾良く仇が討てても私はその後自害する。さらばだ、プラムド)
(お、お待ち下され!! 早まってはなりませんぞ!?)
(・・・最後に一つ情報を残しておく。人族は大多数は取るに足らぬ虫の如き存在だが、ごく僅かだが我らにすら抗し得る者達が居る様だ・・・決して人族を侮るな!!! ・・・達者でな・・・)
その言葉を最後に、サイサリスとの『心通話』は途切れてしまった。
(サイサリス様! サイサリス様!! ええい、『心通話』では埒が明かぬわ!!!)
サイサリスとの繋がりが断たれたと悟ったプラムドは自ら探しに出ようとした所で薄紫色の鱗を持つ龍に呼び止められた。
「どうしたプラムド? 誰かと『心通話』で話していた様だが・・・?」
「た、大変ですぞウェスティリア様!! 人族が言う、アザリア山脈へ赴いていたスフィーロ様の部隊が壊滅し、ダイダラス殿とスフィーロ様が討ち死に!! サイサリス様が仇を討つと申されまして出奔致しました!!!」
「な!? ば、ば、馬鹿を申すな!!! スフィーロ殿はこのドラゴンズクレイドルでも5指に入る強者であろう!? それに、我が友サイサリスが出奔だと!? そんな・・・そんな話を信じられるか!!!」
取り乱すウェスティリアにプラムドは平伏して告げた。
「何か余程の事情がお有りなのでしょう。ここに帰って来ても処刑されるのみと、スフィーロ様の仇を討ちに何処かへ旅立たれました。・・・その後は上手く仇を討てても自害すると」
「馬鹿が!!! ・・・だが、確かに今戻っても任務に失敗したと処刑される・・・クソッ!!!」
「最後に一言残して行かれました。人族の強者を決して侮るな、と。私は急ぎ探しに参ろうと思っていた所です」
「人族を? ・・・一体どうしたと言うのだ、サイサリス・・・」
ウェスティリアは驚愕しながらも必死に頭を回転させ、プラムドに尋ねた。
「・・・プラムド、サイサリスは確かアザリア・・・人族の国名ではミーノスに行っていたのだったな?」
「はっ、その通りです。ですので、恐らくは再びミーノスに舞い戻ったのではないかと・・・」
「分かった。・・・サイサリスの捜索は私が当たる。幸い、私は『変化』を修めているからな。人族の街でも活動出来るし、魔物どもが暴れる事も無い。後の事は頼んだぞ!」
すぐに発とうとするウェスティリアだったが、それをプラムドが必死に押し留めた。
「い、いけませんぞ!? そんな事をすればウェスティリア様が陛下のお怒りに触れる事になります!!」
「友の窮地を黙って見ていられるか!!! ・・・お前の身に危険が及ばぬとも限らん。私が出たらすぐに上に報告せよ。ウェスティリアは単身サイサリスの捜索に向かったとな!!!」
それだけ言うと、ウェスティリアはプラムドの体を振り解き、大空へと舞い上がった。
「ウェスティリア様!! いけません!!!」
「今行くぞ、サイサリス!!」
ウェスティリアは最大速度でミーノスへと向けて飛び立って行ったのだった。
きっとプラムドは苦労性。とりあえず最初の予定よりも簡略にしておきました。




