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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
閑章 それぞれの思惑編
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X-11 ノースハイア3

6日後、召喚者全滅という痛手を負って帰ったアグニエルに更なる追い討ちが待っていた。


「アグニエル、お前の軍司令官としての職を解く。当分は副司令官として英気を養うがいい」


「な、なんですと!? いくら戦果が少ないからと言って、それはあまりに惨い仰りようではありませんか!!」


激昂して立ち上がったアグニエルをカザエルは冷静な瞳のまま諭した。


「誰がお前の罪を責めたと言うのだ? 別にお前が手柄を上げなかったからその職を奪う訳では無い。単に戦線を拡大する事も無くなるゆえに軍を縮小し、再編成するから経験豊富な者に替えるだけだ。お前は個人の武勇はあっても、大勢の練兵には向いておらんからな」


「そ、そんな事は聞いておりませんぞ!?」


「今言っておるのだから当然だろうが。お前も少しは教養という物を身に付けよ」


「何故軍に関わる事を父上が独断で決めてしまわれるのですか!? 私は軍司令官ですぞ!!」


喚き散らすアグニエルにカザエルは失笑して答えた。


「もう違うがな。・・・それに貴様、何を勘違いしておるのだ? 貴様が軍司令官なら、余は王であるぞ? いつからノースハイアは軍司令官の権限が王に優越する事になったのだ? 答えてみよ、アグニエル!」


「そ、それは・・・し、失言でした・・・」


自分の言葉が過ぎていた事を悟ったアグニエルがうろたえながらも何とか謝罪の言葉を口にした。


「・・・だが、お前にも急な転換の原因を知りたい気持ちはあろう。それは遡る事1週間前の事だ・・・」


カザエルは事の発端を順にアグニエルに語っていった。


「その様な事が・・・し、しかし、それは結局の所、単なる一人の仕業なのでありましょう? ならば、私が帰って来たからにはその様な不逞の輩など一刀の下に斬り伏せてご覧に入れましょうぞ!!」


「お前なら必ずそう言うと思っておった。・・・だからこそお前には任せられんのだ」


感情を交えずに断ずるカザエルに再びアグニエルは声を荒げた。


「父上は私を信じては下さらんのですか!?」


「信じておるとも。剣の腕ではお前が国で一番であろうとな。・・・そして、お前が自分より強い者と戦った事が無いという事も知っているとも。奴は、カンザキはお前など比べものにならないくらいに強かった。何処かの世界の闘神だと言われても余は信じるぞ。恐らく異種族らの王とはあの程度には強いに違いない」


「ば、馬鹿な!! 例えどれだけ強かろうと『支配』があるではありませんか!!」


「そうやって甘く見ていたシェルサイト伯と親衛隊長のグリースの精神は最早この世界のには無い。魔法使い共は軒並み同じ目に遭わされ、召喚器も奪われ、『異邦人』すら奪還された。我らに抗する術などありはせんよ。あってもする気も無いが」


次々と告げられていく凶報にアグニエルは膝を折った。親衛隊長のグリースは自分に互する使い手であったはずで、例え油断していようとそう簡単にやられる者では無いはずだった。それが相手にもならなかったと言うのなら、それは間違い無く自分より上の使い手であろう。


「カンザキは3月の後、再びやって来ると言い置いてこの場を去った。その時、より良き国になっていないのならこの国を滅ぼすとな。余がその場で殺されなかったのは、ここに控えるサリエルが必死に命乞いをしてくれたからに他ならん。だからアグニエル、お前も死にたくなければ行いを改めよ。さもなければ若い身空で命を散らす事になるぞ」


「サリエルが!? お前、父上のお命を狙った不届き者に何と恥知らずな事を・・・!」


「お兄様・・・私はただお父様を・・・」


弁明を口にしようとしたサリエルをカザエルが手を上げて遮った。


「よい、サリエル。・・・これ以上お前に何を話しても無駄の様だな、アグニエル。時期王位に相応しいと余が判断出来るまで、王位継承権は白紙に戻す。この3月で己を鍛え直すがいい。・・・下がれ」


今度という今度はアグニエルの目の前が真っ暗になった。間違い無く手に入るはずだった王位が手を掛けようとした瞬間に霧消してしまったのだ。呆然とするアグニエルの視線の先にはサリエルが居た。


「お前・・・お前が父上に余計な事を吹き込んだのだな、サリエルッ!!!」


「ご、誤解ですお兄様!!」


「男の嫉妬など醜い事この上無いぞ、アグニエル!! 王位が欲しければそれを示して見せよ!!! 衛兵!! アグニエルをつまみ出せ!!」


「「「ははっ!」」」


カザエルの号令で側に控えていた衛兵達アグニエルを取り囲み、その体を押さえつけて謁見の間から引き摺って行く。


「は、放せ、放さぬか!!! 俺を誰だと思っている!?」


「第一王子アグニエル様と心得ております。されど我らは王に従う身。ご無礼仕ります」


既にこの様な場面を見越して、カザエルは信頼の置ける近衛を数多の人材の中から見出していた。金や権威に屈しない為に、左遷されていた者や投獄されていた者達を登用したのである。彼らは王の変心をいぶかしんだが、王が本気と知るや、心からの忠誠を誓って任務に精励したのだ。


「当分、アグニエルを余に取り次ぐな。・・・それと、奴の動向を見張れ。気取られぬ様にな」


「畏まりました、王よ」


「・・・お兄様・・・」


カザエルの隣で涙ぐむサリエルの頭をカザエルはそっと撫でた。


「これが王族の悪癖よ。王位の邪魔になる者は例え慈しんで来た妹であろうとも口汚く罵り始める。己の性根や能力を棚に上げてな。・・・サリエル、目を逸らしてはいかん。あの様な者をも反面教師として、良き王族となる事を目指せ。良いな?」


「・・・はい、お父様・・・」


サリエルの中のアグニエルの笑顔は粉々に打ち砕かれ、後には黒く大きな闇が残った。これが王族の孤独なのかと思うと、その冷たさにサリエルは身震いするしかなかった。


「これでアグニエルが心を入れ替えてくれれば良いが・・・」


その後に続く言葉を紡がずにカザエルは口を閉じ、サリエルの頭を優しく撫で続けた。




「ゆ、許さん、許さんぞサリエル!! 賊の侵入にかこつけて、兄である俺を蹴落とすとは・・・! 本性はとんだ性悪女であったか!!」


謁見の間を追い出されたアグニエルは憮然とした表情を隠しもせずに王宮の廊下を歩いていた。こんな気分の悪い日には『異邦人』でもいたぶって気を晴らしたいと思ったが、そもそもアグニエルが率いた『異邦人』は全滅しているし、王宮に居た者は件のカンザキに強奪されて行方知れずだ。その上、新たに集めようにもその根本たる召喚器すら奪われているのでは、アグニエルには拳の振るい所が無かった。


「アラ? 兄上、お帰りなさいませ」


「む! シャルティか? ・・・お前もこの一件に関与しているのか!」


「やだわぁ、私がそんな面倒な事をする訳無いじゃない。私は王位なんて面倒事はゴメンよ?」


そんな猛り狂うアグニエルに臆さず話し掛けたのは、アグニエルのもう一人の妹であり、サリエルの姉たるシャルティエル・ミーニッツ・ノースハイア第一王女である。


サリエルがひっそりと咲く可憐な桔梗であるとしたら、シャルティエルは絢爛に咲き誇る薔薇の美しさである。緩やかに巻いている金髪は光を受けて燦然と輝き、名工が彫り上げたと思わせる目元や鼻梁、輪郭は宝石の如く煌いている様に見えた。


だが、シャルティエルには美しさ以外は何も無かった。倹約も勤勉もシャルティエルには興味が無く、ただその身を飾る事と、己に相応しい容姿を持った男と愛を語らう事、そして夜会くらいしか熱心になる物が無いのである。王位などという物はシャルティエルにはただの重荷であり、決して手に入れたいとは思わなかった。


「そもそも、兄上に何かあったら私が後を継がなくてはいけないからこそ私は兄上が出陣する事すら反対なのをお忘れぇ?」


「・・・実の兄を前にしなを作るな、気色悪い」


アグニエルは毒気を抜かれて鬱陶しそうに手を振った。


「サリエルも別に王位なんていらないと思うわよ? ただ、カンザキに約束したからいい子ちゃんになる努力をしてるだけじゃないかしら? それに、お父様も別に兄上を廃嫡にした訳でも無いんですから、ここはひとまずお父様の言う通り、格好だけでも努力しておいた方がいいわよぉ? 3月の辛抱ですもの」


足りない様に見えて、これで中々シャルティエルは人の機微に聡い所があった。シャルティエルはシャルティエルでサリエルの事も気に入っており、間違い無くアグニエルと決裂するであろうと思って毒抜きに来ていたのだ。


「何故俺が賊の言葉になど従わなければならん!? 皆二言目にはカンザキカンザキと言いおって!! 俺にとって良き王族とは、国を富ませ王家を更に発展させる者の事だ!! 女が出しゃばるな!!」


「でもぉ、カンザキはとっても強かったわよ? おまけに空まで飛んでたもの。いくら兄上がお強くても、空から襲って来る相手には分が悪いんじゃないかしらぁ?」


「な、何!? 空まで飛ぶのか!? ・・・い、いや、だから何だ!! そんなもの、俺が弓で撃ち落してくれるわ!!! シャルティ、お前も妙な事はするなよ!! そうすれば俺が王位を継いだ後も一生面倒は見てやる。いいな!!!」


それだけ言って、アグニエルは踵を返して去っていった。


「・・・そうなれば良いけど、兄上では望み薄ねぇ・・・でもサリエルに近づくとお父様が怖いのよねぇ・・・やだわ、こんな事ばっかり考えてちゃお肌が荒れちゃう。ドレスも質素な物しか着れないし、早くこんな生活から抜け出したいわぁ」


小さく溜息を付き、シャルティエルは一般的な貴族と比べても十分に豪華なドレスの裾を翻し、その場を後にしたのだった。




「やはりこうなりましたな・・・。これならば十分に交渉の余地はありそうだ・・・」


そこにもう一人、柱の影に居る人物に2人が気付く事は無かった。

サリエルの駄目なお姉ちゃん、シャルティエルです。割と善人なのですが、怠惰で浪費家の困ったちゃんです。

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