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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-95 確かな手応え4

「ところで彼は誰なんだい? 初対面だと思うのだけれど・・・」


「あ、あの!!、わ、私は、その、アルト様に、たす、助けて頂き、ですから、あの・・・!!」


急に声を掛けられたダイクは大いに慌ててしどろもどろに語り出したが、公爵などという雲上人と言葉を交わした経験など無く、その話は支離滅裂で要領を得なかったのでアルトが補足した。


「父様、この方はダイクさんと言って、街の近くでゴブリン(小鬼)に襲われて怪我をなさっていたのです。そこに僕と悠先生が通りかかりまして保護致しました」


「それはそれは、せっかく来て下さったのに災難でしたね。以後は一層街の周囲の警戒に気を付けましょう」


済まなそうに言うローランにダイクは恐縮したが、ローランとて何の下心も無く善意のみで言っている訳では無く、先の事を見越しての判断である。


ダイクが帰れば今回の事を誰かに話すだろう。その際、気分の良い対応をされたかそうでないかで聞く者のフェルゼニアス家の印象はまるで異なるに違いない。そしてダイクは商人であり、その事は必ず仲間の商人達に伝わりフェルゼンとの商売を望む様になる・・・という布石になればいいなと考える程度にはローランも腹黒いのだ。誰も損をしないのならこの程度は領主の裁量だろうとローランは考えていた。


「アラン、ダイク殿の荷で良さそうな物があったら引き取ってあげてくれ。量や取引価格はアランに任せるよ。ダイク殿、宜しいかな?」


「は、はい!! それは願ったり叶ったりです、ええ!!」


「それでは早速で御座いますが、商品を見せて頂けますかな?」


如才なくアランはダイクを伴って馬車の方へと歩いて行った。


「さ、アルト、帰って来たばかりで済まないが、早速出発の準備をして貰うよ。髪も整えなければいけないね」


「はい、分かりました」


「私達は先に行っているから、アルトも支度を済ませたら広間おいでなさい。ユウさんは広間でお待ち願えますか?」


「ああ、分かっ――」


「あの、ユウ先生! ちょっと一緒に僕の部屋まで来て欲しいのですけれど!」


広間に案内されそうになった悠をアルトが呼び止めて同行を願った。先ほどの視線からアルトが聞きたい事を察して悠は頷き返した。


「うむ、構わんぞ」


「それでは準備が済みましたら広間へお越し下さい。アルト、失礼の無い様にね?」


「はい、では失礼します、父様、母様」


そのまま玄関で一同は別れ、悠とアルトはアルトの部屋に、そしてミレニアとローランは広間へと移動した。




部屋に着くまで無言だったアルトは部屋の扉を閉めるや否や、先ほどからの疑問を悠にぶつけた。


「あの、ユウ先生、何故アランに謝ったのですか?」


「何故、か・・・それが分からん様ではまだまだ未熟と言わざるを得んな、アルト」


「えっ!?」


アルトは悠の口調が何か失敗した時の厳しい物である事を察し、自分に瑕疵かしがあったのでは無いかと必死に頭を働かせた。あるとすればそれはあの仕合いでの事に他ならないのだから、アルトは順に仕合いの内容を追っていく。


(途中の『勇気ヴァロー』の発動までは問題無かったはず・・・問題はその後? その後って言ったら、しばらくは拮抗状態で特に思い当たる事は・・・あっ!!)


アルトは正解に近いであろう事に一つ思い当たった。悠が手を出したのはただ一度、最後の交錯の瞬間だけだ。ならばそこで何かがあったに違いない。


「・・・あの、もしかして最後の瞬間に僕に何か不手際が・・・」


「あったな。大きな不手際が」


悠に即答されてアルトの顔が青くなった。それがアランに何か不都合を与えたのなら、自分はアランに謝らなければならない。


「そ、それは何ですか、ユウ先生!! 教えて下さい!!」


アルトは恥じ入って悠に教えを請うた。中々いい戦いを見せられたのではないかという高揚感は既に吹き飛んでしまっている。


悠は頭を下げるアルトの後頭部をしばらく眺めていたが、おもむろに口を開いた。


「・・・アルト、最後の突きは全力だったか?」


「・・・え? は、はい、当然全力で突きました」


それを聞くと悠は一言だけ言葉を返して踵を返した。


「それが答えだ。後は自分で考えろ」


「そ、そんな、ユウ先生・・・!?」


アルトは悠を止めようとしたが、その背中から立ち上る拒絶感に手を止めてしまい、その間に悠はアルトの部屋から出て行ってしまった。


「・・・・・・」


手を宙に彷徨わせたまま、アルトは自分が何をしてしまったのかを考え続けた。そのままじっとしていても考えが纏まらなかったので、とりあえず旅支度をしながら今の悠の発言について考察していく。


(一つ、僕には何か不手際があった。一つ、それは最後の交錯での出来事である。一つ、僕は最後の突きを全力で突いた。そこから導き出される答えは・・・)


支度が遅れてしまうが、アルトにとってこの問題は放置出来ない問題であった。悠の態度からして、軽い不手際では無いだろう。


その部分だけを考えていても答えが出なかったアルトはもう一度頭から仕合いの事を思い出す。


(アランが剣を手渡して来て、それが真剣で驚いたけど僕は了承して、そのままアランと対峙を・・・!?)


アルトの頭に何かが引っかかり、支度をする手が止まった。アルトはその尻尾を逃がすまいと自分の感じた引っ掛かりを必死に手繰り寄せる。


(何だ? 僕は何に引っ掛かったんだ!? 真剣を用意した父様・・・何とか心を落ち着けて了承した事・・・アランとの対峙・・・そしてユウ先生が審判を・・・あっ!!!)


そこまで思考を進めたアルトは恐らく正解だと思える事に思い至った。


「そうだ!! あの時ユウ先生は最初に言ったはずだ!!」


アルトの脳裏に悠の言葉が再生されていた




「今回は真剣を用いているので深手を負わせる事の無い様に」




その悠の発言から事態を紐解いて行けば、何故悠がアランに謝ったかがアルトには理解出来た。


「僕は最後、全力で突いた・・・けど、アランはきっと・・・押さえたユウ先生はそれが分かったから!! アラン!!」


アルトは部屋を飛び出して一目散にアランの下へと駆け出した。果たしてアランは丁度玄関の扉から中へと入って来る所であった。


「アラン!!」


「おや? どうなさいましたかな、若様?」


アルトは訝しげに自分を見るアランの前まで来ると、即座に頭を下げた。


「ごめん、アラン!! あの仕合いは僕の負けだったんだ!!」


「・・・一体何の事でしょうか? 爺にはトンと理解が・・・」


シラッと惚けようとしたアランに、アルトが核心を突いた。


「アラン、アランは最後の突きを全力で突かなかったんでしょう?」


「・・・」


言葉を返さない事は、この場合消極的な肯定であった。


「ユウ先生は最後に押さえた時にそれに気付いたんだ。だから途中で止めた事をアランに謝ったんだね? 本当はアランの突きは僕に大怪我をさせる物では無かったから・・・僕は熱くなってそんな事も忘れて・・・」


アルトの推察はほぼ的を得ていた。アルトの突きはそのまま放置すればアランの肩を刺し貫いていただろうが、それに対してアランの突きは速度こそ早かったがアルトに肩に軽く突き立つ程度の力しか込められていなかったのだ。悠はあくまで仕合いの作法を守ったアランに水を差した事を謝ったというのが真相であった。


アルトは穴があったら入りたいといった心境でアランに懺悔した。


「ごめん、アラン・・・僕はいつの間にか自惚れていたんだ。アランや父様、母様に、僕はこんなに強くなったんだって見せたかったんだ・・・僕が強くなりたかったのは、家族の皆を守りたかったからなのに・・・それなのに僕は家族のアランに・・・ごめんよ、ごめんよアラン!!」


アルトは真っ赤な顔でひたすらにアランに許しを乞うて頭を下げ続けた。何よりも初心を忘れて戦いに没頭した事がアルトを打ちのめしていたのだ。


アランはしばらくそれを無言で見ていたが、やがて口を開いた。


「若様、頭をお上げ下さい」


「・・・アラン・・・」


頭を上げたアルトに向かってアランの手が伸びる。そのまま平手でも入れてくれたらいっそ気が楽になると考えたアルトだったが、その手はそのままアルトの頭上に伸び、ポンと頭の上に置かれた。


「ご無礼ながら、最後の一回と思ってご容赦下さい」


「アラン?」


「若様の想像は的外れで御座います。爺はその前の攻防で既に手に力が入らなかったのですよ。だから若様が責められるべき事は何も御座いません。ユウ殿もそれを察して私の剣をお止めになったのです。そもそも、此度の仕合い、勝ち負けを決める為の物では御座いません。あくまで私が若様の技量を見る事が目的なのです。そして若様はそれに相応しい技量をお示しになられました。・・・大きくならせられましたな、若様。爺が若様を見上げる様になるのも遠い先の話ではありませんな・・・」


子を撫でる様に、孫を撫でる様に、アランは丁寧にアルトの頭を撫でた。その顔は急に老けた様に見えたが、深い満足感で一杯であった。


「本日、只今を持ちまして、もう若様を子供扱いは致しません。存分にその足で世界をお駆け下さい、アルト様」


「アラン・・・アラン!!」


アルトは手を放したアランに抱き付いた。


「アラン、僕はまだ全然子供だったんだ。体が大きくなって、剣がそこそこ使えるから勘違いをしていたんだ・・・」


「自分を省みる事が出来るのは大きくなった証拠で御座います。・・・フフフ、もう来年か再来年にはこうしてアルト様を抱き止める事も出来なくなってしまうでしょうね・・・」


震えるアルトの背中を、アランは気持ちが落ち着くまで撫で続けた。いつまでも、いつまでも・・・


結構手を掛けた一話でした。優等生で体も成長したとは言え、アルトもまだ実年齢は12歳ですので・・・

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