表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
351/1111

5-94 確かな手応え3

アランがローランとミレニアを呼びに向かって10分後、2人は後ろにアランを伴って悠達の前に姿を現した。


「やぁ・・・と、話には聞いたけれど、これはまた・・・」


「まぁ・・・」


2人も流石にアルトの成長振りに言葉を失い、目を丸くしてアルトの上から下まで何度も視線を行き来させたが、ローランが気を取り直して一つ咳払いをし、謹厳な表情を作ってアルトに話し掛けた。


「コホン。・・・確かに体は成長した様だね。だけど、大切なのはそれに中身が伴っているかどうかだ。そこでアルト、君には一つ試験を受けて貰う。・・・アラン!」


「御意に」


ローランが呼び掛けると、後ろに控えていたアランが前に出た。


その出で立ちは普段とは異なり、執事服の上衣を脱ぎ、手には2本の細剣レイピアが握られている。


「今からアランと仕合って貰い、アランがアルトの技量を認めたならばこの家に入る事を許そう。出来るね?」


「はい、やります!」


「よろしい。アラン、決して手加減したり評価に手心を加えたりしないように。そんな事をすれば即失格にするからね?」


「心得ております。若様、こちらをどうぞ」


アランはローランの言葉に頷き、アルトに片方の細剣を手渡した。アルトはそれを両手で受け取り、スッと細剣を鞘走らせる。


「!? 父様! これは真剣ですが!?」


てっきり刃を引いた練習用の物かと思っていたアルトがローランに尋ねたが、ローランの表情は変わらなかった。


「勿論だとも。アルト、お前は単に飛んだり跳ねたりするだけの、見世物の剣を習って来たのでは無いだろう? 細剣を使っての決闘は貴族の嗜みの一つさ。必要以上に相手を傷付けず、見事その技量を示したなら私も修行の成果を認めよう。・・・それとも何かい? 真剣では怖くて何も出来ないのかい?」


挑発的なローランの言葉にアルトの心に細波が立ったが、戦いを前にして冷静さを失う事は命を失う事に等しいと散々教え込まれた悠の言葉を思い出し、アルトは一呼吸置いて状況を受け入れた。


「・・・分かりました、これで結構です」


「ユウは審判を務めてくれるかい?」


「分かった。両者共前に」


悠は細剣がアルトの得物では無い事も、真剣での仕合いである事にも一切触れずに審判を引き受け2人の間に立った。


「今回は真剣を用いているので深手を負わせる事の無い様に。また、一本先取で終了とする。一本かどうかは俺が判断する」


「畏まりました」


「はい、ユウ先生」


「それでは構え・・・・・・・・・始め!」


悠の宣言で2人は剣を構え、一気に場の空気が張り詰めた。アルトもアランも細かく体重移動を繰り返して相手の隙を探り出す。


(流石アラン、殆ど隙が見当たらない。・・・焦っちゃダメだ、動きを良く見ないと・・・)


(・・・一体ユウ殿は若様にどれほどの鍛練を課したというのでしょうか・・・。この剣気、数日前とは比べ物になりません。・・・しかしこれはあくまで若様の成長を見る為の仕合い。ならば私から仕掛けさせて貰いましょう!)


「ハッ!」


アランが小手調べとばかりに一番当たり易い胴体を狙った突きを放つ。それは小手調べといいつつも十分に鋭く、鍛錬に入る前のアルトであれば容易く一本を取られていたであろう一撃であった。


だがアルトの成長はアランの予測の遥か上を行っていたのだ。


「・・・!」


軽くその突きを避けたアルトは細剣でアランの突きを流し、更に流れるままに反撃すら仕掛けて来た。


「うっ!?」


かわされたり防がれたりする事までは予測していたアランの頭髪が数本宙に舞った。自分の体に触れさせるつもりすら無かったアランからすれば、これは一本取られたという思いすら抱く反撃であったが、悠は一本を宣言しない。あくまでも対等にアルトの力を測らせる狙いの様だ。


「これは・・・どうも私が見縊っていた様です。ここからは少々本気を出させて頂きます。ご容赦を」


「お願いします」


短いやり取りの後のアランの気質が変化していた。急速に膨れ上がった戦意が構えた剣先から迸る様子が素人目にも感じ取られ、なし崩し的に見守る事になったダイクの顔が青くなる。


(この爺さん、まだ全然本気じゃ無かったのか!? ・・・アルト様!)


そんな心配を持ってアルトを見たダイクの目にアルトの様子が映ったが、こちらもこちらで飲まれてはいなかった。圧力を高めたアランを前にしても先ほどまでと変わらぬ様子で片時も目を離さずにその動向を見守っている。


「ヒュッ!」


今度も先に動いたのはアランからであったが、速度は先ほどまでとはまるで異なっていた。狙いも当て易いが隙が大きい胴体から狙わずに、目から遠い末端に狙いを絞っている。


一呼吸で2度突き込むアランの剣先は最早ダイクの目には追う事が出来なかったが、その高速の突きをアルトは或いはかわし、或いは剣を立てて受け流す。


その様子はまるであらかじめ決められた手順で行う剣舞を思わせたが、2人の目の真剣さが、この攻防が真剣勝負以外の何者でも無いと外野の者達に告げていた。


ただ、年季の差は如何ともし難く、攻撃の手数はアランが4に対し、アルトが1という割合であった。


それでもアルトは辛抱強く反撃の機会を待ち続けたが、正確無比なアランの速攻が、遂にアルトの二の腕を浅く捉える。


「っ!?」


それを悟った2人がチラッと悠を見たが、悠はまだ一本を宣言しない。むしろアルトに何がしかの意図を込めて視線を送って来た。


アルトはチラリと自分の傷を確かめ、悠の意図を察して集中し始める。


(・・・? 若様の剣気が膨らんで行く!?)


アランがそれに気付いた時にはアルトの突きが自らに迫っていた。


「ぬうっ!?」


間違い無く先ほどよりも鋭い突きにアランの顔が驚愕に歪む。それでも辛くも回避したアランは押し切られない様に自らも手を出したが、アルトの回転も上がっていて拮抗状態に陥ってしまった。


悠以外には理解出来なかったが、これはアルトが浅手を媒介に『勇気ヴァロー』を発動した為だ。実力を見せるのなら『勇気』の力も見せるべきだと考えた悠はあえて仕合いを止めなかったのであった。


今や2人の攻防は互角に等しく見えていた。それどころかアルトの回転は更に上がっていくのだ。これは疲労すら『勇気』の活力に転化しているからに他ならない。


既に事態は貴族の嗜みなどという温い次元を遥かに超えた、剣士と剣士の果たし合いというに相応しい様相を呈していた。アルトが膝を狙えばアランは足を入れ替えて避け、アランが肩を狙えばアルトは微妙に体の角度を変えて回避する。横で見守るローランやミレニアの目には2人が何か高速でやり合っている事以外見る事が出来なかった。


(よくぞここまで・・・ユウ、君にアルトを預けたのは間違っていなかったみたいだよ・・・)


(立派になりましたね、アルト。・・・本当に立派に・・・)


ミレニアはそっと取り出したハンカチで目元を拭ってアルトを見守り続けた。


いつまでも続くかと思われたアルトとアランの仕合いにも終わりの時がやってくる。


偶然同時に相手に踏み込んだ2人の距離が急激に縮まり、その瞬間、2人は回避不能な間合いに飛び込んだ事を悟って捨て身の攻勢に出たのだ。


先に当てる事だけを念頭に置いたそれぞれの一撃は同時に肩に吸い込まれて行き、そして止まった。


「それまで」


両者の突きはそれぞれの肩に触れた状態で静止しており、その剣先は悠の指で挟み込まれている。止めなければお互いの肩を刺し貫くと察した悠がギリギリで割って入ったのだ。


「同体によりこの仕合い、引き分けとする。文句は無いな?」


「はい、ありません」


「私もありません」


2人は共に頷いて剣を納め、向き合って礼をかわした。


「すまんな、アラン」


小さく呟いた悠の言葉にアランは刹那固まったが、笑って首を振った。


「いえ、これでいいのです。さて、若様の裁定ですが・・・今更言うまでもありませんな。文句無く合格です。むしろ、若様以上に剣を使える貴族など他に居るかどうか・・・」


「そうだね、私も一人くらいしか思い当たらないよ」


ローランの脳裏には皮肉っぽい笑みを浮かべる顎髭の友人の顔が思い浮かんでいた。


一方アルトは悠とアランのやり取りが気になって悠に問い質したい気持ちで視線を向けたが、悠は小さく首を振って拒絶したので、この場での追及は諦め、ローランを見た。


「アランの裁定がそうなのなら私も文句は無いね。・・・おかえり、アルト」


「おかえりなさい、アルト。立派になりましたね・・・」


微笑んでそう言う両親にアルトも居住まいを正し、ようやく帰還の挨拶を返した。


「アルト・フェルゼニアス、ただいま帰りました。父様、母様!!」


言い切ると同時にアルトは2人に向かって駆け出し、3人は万感の思いを込めて抱擁をかわしたのだった。

何やら含みがありそうですが、とりあえず合格しました。理由は次回に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ