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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-89 修練の日々15

皆がひとしきり泣いて落ち着いた後、今日の鍛練はここまでという事でそのまま夜はパーティーを開く事に決定し、夕方から夜までの間、子供達は会場となる広間の飾り付けに追われていた。


悠も手伝おうとしたのだが、「悠先生は休んでいて下さい!!」と子供達に異口同音で断られ、同様に手伝いを断られた他の大人達と共に2階のテラスで軽くアルコールなどやりながら談笑していた。


「も~~~、結局壊しちゃうんだもんな、兄さんたら!」


「いくらユウでもあの態勢でアルトの剣を振られちゃ避けられねぇよ。同じ龍鉄装備なんだから、そりゃ壊れるっての」


「製法は確立しておりますのでお気になさらず。鍛練で使う物を後生大切にする必要はありませんよ」


「アルトの『勇気ヴァロー』の効果の伸びは予想以上だったがな。もう俺達が居ない間でもアルトが居ればローラン達も余程の相手で無い限り心配いらんだろう」


「直接言ってあげて下さいよ。きっとアルトも喜びますから・・・っと、今日でアルトって呼び捨てにするのも最後なんですね・・・」


今日の事やこれまでの日々を振り返り、大人達の胸にも深い感慨が沸き上がっていた。悠やハリハリ、カロンを除けば、他の者達もまだ世間一般ではまだ若者と称されるべき年齢なのだから仕方無いだろうが。


「にしても本当にアルトの奴、強くなりやがったなぁ・・・俺の年になるくらいにゃどうなってるか想像も付かんぜ」


「他のどの子も凄いですよ。あとは経験さえ積めば冒険者でも仕官でも思いのままだと思います。・・・まぁ、そんな事の為に強くなった訳じゃ無いですけどね」


バローは昔と違い、自分より優れた資質を持つアルトに嫉妬する事も無く、素直な賞賛の言葉を口にして上機嫌で酒を煽り、ミリーは全員の成長に目を細めていた。その顔は1年前よりも険が取れ、本人達は気付いていないが内面的には確かな成長を遂げていると他の者には理解出来ただろう。。


「明日、『竜ノ微睡オーバードーズ』を解いたら早速行動を開始せねばならん。行く者は今晩の内に準備しておいてくれ」


「・・・師よ、やはり拙者は付いて行ってはならんのでしょうか?」


悠が今後の予定を口にすると、シュルツが幾分堅い声音で悠に尋ねて来た。


「フェルゼニアス公の招かれているパーティーに連れて行けるのは3人までだ。俺とバローの他、連れて行くとすれば、俺達の中で最も魔法に付いて造詣の深いハリハリを連れて行くと説明したはずだが?」


「しかし、彼の地は陰謀渦巻く百鬼夜行の場であるとか。もし拙者が居らぬ時に師が死地に立たれるかと思うと・・・」


ローランの護衛として会場に入れるのは前もって聞いた通り3名までであり、残り一人は相談の結果ハリハリを連れて行くと決めていた。その理由としては、シュルツを連れて行くと近接職が3人になり、魔法的な警戒が手薄になるからという理由からだ。


それに、ハリハリは仮の姿は吟遊詩人であり、相手に無用な警戒心を抱かせないという利点もあった。


これがシュルツだと名前が売れている上に顔には覆面をしているという怪しい風貌であり、いくらローランの護衛と言っても会場内に入れて貰えない可能性が大なのだ。


しかし、シュルツもそんな事は百も承知で再度悠に翻意を促しているのだ。シュルツの言葉は忠義から出た物であり、悠の事が心配なのは理屈では無かった。


「シュルツ、貴様は俺がそうそう死地に立つと感じるほど頼り無く見えるのか?」


「め、滅相も御座いません!! 拙者はただ・・・」


それでもあえて突き放した口調でシュルツを窘める悠に、シュルツは露骨に狼狽して二の句が継げずにいたが、そこに助け舟を出したのはバローだった。


「そう言うなよユウ。別に会場にゃ入れなくても一緒に王都に行くくらいはいいんじゃねぇか? その方が相手方も油断するだろ。「噂の『戦塵』も全員で来てないって事は、そんなに警戒して無いんじゃないか?」ってな」


「ほほう・・・ワタクシもバロー殿の言う事は一理あるかと思いますよ、ユウ殿?」


「ふむ・・・」


細く覗くシュルツ目には懇願の色が見えた。


「それに、3人固まっている所とは別の場所で何か事があるかもしれません。会場の外で動ける者を用意して置くのも一つの手では無いかと・・・」


更にハリハリが言葉を重ねると、悠もそれを熟慮の末了承した。


「分かった、ではシュルツにも来て貰おう。だが会場に連れて行く訳には行かんぞ?」


「あ、ありがとう御座います師よ!! 拙者は異変が無い限りは王都で情報を探っておりますので!」


他の者には殆ど見せない嬉しそうな様子でシュルツは悠に頭を下げた。


「おい、感謝しろよ男女」


「・・・ああ、感謝しているとも。感謝ついでに会場の護衛を代わってやってもいいぞ? 貴様よりも強い拙者が居た方が師の助けにもなろう」


「・・・お前に情けを掛けた俺がバカだったよ・・・」


得意顔でシュルツに話し掛けたバローをシュルツは平坦な声で切り捨て、バローの得意顔は渋面へと変わった。


「明日はお前達3人は先に王都へ向かってくれ。俺はアルトを送り届けてからローラン達と共に護衛も兼ねて後から向かう事にする。バロー、着いたらギルドで情報収集しておけ。そこにメロウズの使いが居るから情報を受け取るのだ。符丁はギルドの入り口で右手で左の眉を掻き、その後鼻の頭を触れ。遠からず左手に月の刺青タトゥーがある者が接触して来るだろう」


「分かったぜ、ユウ」


2人の諍いに構わず悠が先の予定をバローに指示した。メロウズに頼んだ情報操作と内情の把握がどの程度進んでいるか分からないが、裏の情報網を駆使しているとすればそれなりの掘り出し物があるかもしれないし、そうで無くても情報は多い方がいいのは間違い無い。


「それと、もしかするとマンドレイクの手の者が何らかの接触を図って来るかもしれんが、適当にあしらっておけ。だが完全に敵対するな。会場に入るまでに敵対するとローランの護衛を行えなくなる可能性があるからな」


「その辺は俺とハリハリが上手くやっとく。金で懐柔を迫って来たら吹っかけてやるし、襲われても殺さない様に手加減しとくぜ」


「一応、俺達は裏では金に汚いという情報を流させている。あるとすれば金での懐柔の方だろう」


バローの交渉能力は悠も認める所であり、悠自身が交渉するよりも上手くやるだろうと信じられる。たまに調子に乗り過ぎる所が玉に瑕であるが・・・


そこまでバロー達に指示を出し、悠はビリーとミリーに向き直った。


「ビリーとミリーはここで子供達と共に待機してくれ。万が一何かあった時は蒼凪から俺に連絡を付けさせる様に頼む」


「了解しました、ユウのアニキ」


「任せて下さい。今の私達なら例えドラゴンだって通しませんよ。・・・一匹だけでしたら」


「国の軍に攻められたとて、今のお前達であれば俺は心配はせんよ」


悠の信頼の言葉にビリーとミリーは頬を喜びで紅潮させた。1年前は足手纏いになるからと実力不足を嘆いていた2人にとって、その言葉は何にも代え難いものだった。


「ユウさん、出発の前に装備を受け取って下さい。この1年の成果を込めた、私達親子の集大成ですから」


「・・・前に言っていた真龍鉄の装備が完成したのか?」


「おうよ!! 賭けてもいいけど、今世界にこれ以上の武器防具は存在しないぜ!! ・・・でも、資材の関係でユウの兄さんの小手ガントレットとバローの兄さんの剣しか間に合わなかったんだ、ごめんよ」


最後にカロンが悠へと話し掛け、布の包まれた装備を開陳した。そこには光の加減で虹色に見える美しい小手と魔金グラリルで装飾された美しい鞘を持つ剣が見て取れる。


「ようやくお2人に約束した品をお渡し出来る事を嬉しく思いますよ。この2つは間違い無く私の鍛冶人生で最高の品々です。まずはお手に取ってみて下さいますか?」


「おお!! 遂に出来たんだな!? どれどれ・・・」


「有難く受け取らせて貰う」


バローは飛びつく様に剣に手を伸ばし、悠は一礼して装備を受け取った。


早速バローは剣を抜き放ったが、その鏡の様な刀身を見て茫然と口にする。


「こりゃあ・・・何て剣だよ・・・こんな刀身、見た事も無いぜ・・・しかもこの軽さ・・・」


「表面を魔銀ミスリルと龍鱗の合金で塗膜として覆っています。さしずめ魔龍銀ドラゴミスリルとでも名付けましょうか。その塗膜は血脂も付かず、酸でも腐食しません。また、冷気や熱、雷にも非常に高い耐性を持っておりますので、魔法に対する盾としてもお使い頂けます」


カロンは鋼神の名に恥じる事無く、龍鉄の精製に成功しただけでは飽き足らず、数種の新しい合金の開発にすら成功していた。正にこの剣は世界に2つと無い、時代を超越した逸品である。


「・・・ありがとよ、カロン。俺もこの剣に恥じない剣士になってみせるぜ」


バローはいつに無く敬虔な仕草と表情で剣を丁寧に鞘に納め、カロンに頭を下げた。


「ええ、期待させて頂きます」


カロンも微笑んでバローに頷いた。


「で、そっちのユウの兄さんのはアタシが考えた機構が組み込まれてるんだ! ちょっと腕に付けてみてくれよ!」


「ふむ、これでいいか?」


「うんうん。それで、左手の手首を内側に強く曲げて見てくれるかい?」


「どれ・・・」


悠が言われた通りに手首を折り曲げると、右手の物よりも若干大振りな左手の小手の上部が分かれ、円形に広がった。


「これは・・・盾か?」


「そうだよ。左手は防御に使う事が多いだろ? だから仕込んでみたんだ。内側にはユウの兄さんが良く使う投げナイフなんかも収納出来るぜ! 戻したい時は外側に手首を強く戻すとまた収納されるよ!」


今度は手首を外に返してみると、カリスの言う通りに機構が働いて再び小手の状態に戻った。


「なるほど、これは便利だ。感謝するぞカリス」


「あはは、いいっていいって! 作ったのは殆どオヤジだしね! その小手にも魔龍銀の塗膜を付けてあるから、大抵の攻撃は防げるはずだよ!」


「最初に聞いた時はどうなる事かと思いましたが、カリスには私には無い発想力がある様です。・・・もっとも、それを自分だけで作れる様になるまで、口が裂けても一人前とは申せませんが・・・」


「ひ、酷いなぁオヤジ! アタシだって恥ずかしいとは思ってるんだから言わないでくれよ!!」


カロンの言葉は内容としては厳しかったが、カリスに見えない様に悠達に片目を瞑って見せた所を見るにカリスの事を認めてはいるらしかった。


「これらの装備は此度の事で俺達を助けてくれるだろう。改めて礼を言わせて貰う」


「いえ、ユウさんやバローさんに出会えた事で、私もこれだけの仕事をする事が出来ました。お礼を言いたいのはこちらの方です」


その時、礼を述べ合う2人に続く様に明の声が割り込んで来た。




「悠お兄ちゃん!! パーティーの準備が出来たよ!!」




「そうか、では話はここまでにして夕食にするとしよう。腹を空かせた子供達を待たせるのも酷だろう」


「よし、メシだメシだ!! 今日は食うぜ!!!」


新しい剣を受け取って上機嫌のバローが踊る様な歩調で歩き出すと、他の者達も苦笑しながらそれに続いたのだった。

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