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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-87 修練の日々13

体を鍛える一方で、魔法の鍛練にもちゃんと進展は見られていた。


「魔法において最も時間が掛かるのが魔法陣を作る事です。つまり、ここを練習する事が一番の時間短縮に繋がります。今日からはまず『魔法言語マギコード』の速記をやってから講義に入りますよ」


「マギコード?」


「はい、『魔法言語』です。『魔法言語』とは、魔法陣に書き込む文字を指す言葉で、魔法はこの組み合わせで様々に意味を変化させます。これを自らの手で早く正確に書く練習をする事で魔法陣の構築速度を上げ、意味を意識しながら書く事で想像力の強化にも繋がるのですよ」


ハリハリがやらせようとしているのは書き取り練習であり、それらの教育を受けて来た子供達に取っては理解し易い物だった。


筆記用具はハリハリがカロンの工房で出た煤を土の魔法で固めた筆記用具と石板が用意されている。インクはともかく、紙は高級品なので毎回の講義で用いる訳にはいかないからだ。


そして『魔法言語』は種族共通であり、エルフのハリハリでも人間に教える事に不都合は無かった。


「今からワタクシが空中に描き出す文字を時間が許す限り石板に書き続けて下さい。頭の中で意味を繰り返しながらね。しかし速さを優先して汚く書いてはいけませんよ? 終わったらワタクシがチェックしちゃいますからね?」


ハリハリの講義は難度が低く感じられたが、魔法に必要な要素がしっかりと盛り込まれていた。事実、これを毎回繰り返す事で全員魔法の構築速度が上昇し、また確実性も進歩したのだ。


そしてそれによる大きな副産物もあった。


「それにしても皆さんの理解が早過ぎる気がするんですが、もしかして・・・」


ある日、ハリハリはまだ教えていない『魔法言語』を空中に描き出して子供達に問い掛けてみると、アルトとリーン以外の全員がその文字の意味を言い当てた事で『異邦人マレビト』特有の何かがあると察し、急遽悠とバローを呼んで別室にて会議を行ったのだ。


その結果を聞いたハリハリは驚愕を隠せなかった。


「言語理解に支配ですって!? そんな事は有り得ませんよ!!」


「・・・有り得ないとはどういう事だ、ハリハリ?」


問われたハリハリは気持ちを落ち着ける為に深呼吸を行ってから説明した。


「・・・いいですか? まず言語理解ですが、生物は知らない事を実践出来る様には作られていません。人間の言語だけなら一時的に付与する事は不可能では無いでしょうが、調べた所、子供達はエルフやドワーフの言語や『魔法言語』すら理解していました。つまり、この魔法を子供達に掛けた者はそれら全ての言語を完全に理解しているという事です。交流の無い現代において、そんな人間が居るはずがありません。少なくとも、この魔法を付与した者が人間で無い事は確かでしょう」


ハリハリの指摘で悠はカザエルが話していた謎の女を思い出していた。どうやら謎の女は黒幕か、それに連なる者であると見て間違い無いようだ。


「それと、支配の術式とやらですが、そんな魔法はエルフにすら伝わっておりません。少なくともワタクシが居た頃には存在していなかった魔法です。しかも言語理解と同じく永続的常駐型の魔法など、そこいらに居る者に使える物ではありませんよ? 闇属性の高位魔法に『呪詛カース』の魔法がありますが、いつまでも消えずに残る様な『呪詛』なんて人間が使えるはずが無いのです」


『呪詛』は常駐型魔法(対象に影響を与え続ける魔法)としては強力な魔法として知られているが魔法としての難度も高く、必要とされるイマジネーションも曖昧な概念型であるので、例え使えても未熟だと効果がすぐに解けてしまう高度な魔法である。


「その魔法を取り除く事は出来んのか?」


「・・・高ランクの魔法使いならば。掛けるより解く方が簡単ですから。ただ、その2つが同期しているならば、支配を解くと言語理解も失う可能性があります。せめて支配の魔法がどの様な構成なのか分かれば・・・」


《分かるわよ、2度ほど掛けられたから》


ハリハリは悩ましげに拳に顎を乗せていたが、レイラの言葉でズルッと顎が落ちた。


「そ、それを先に言って下さいよ・・・」


《聞かれないのに出しゃばらないわよ、私は。ユウ、私の代わりに書いてあげて》


「うむ。・・・割と簡単な魔法陣だな」


悠は紙とペンを用意してレイラが送って来たイメージから魔法陣を描き始めた。


「ほぅほぅ・・・属性は闇で、効果は激しい痛み。魔力の消費も少ない・・・なるほど、これは鍵になる魔法ですか。使う方の難易度は高くありませんが、これを考えた者は相当な天才ですね」


ハリハリは悠の書いた魔法陣を一つずつ読み解いていった。


「支配の魔法は子供達の中に常駐している鍵穴に、この鍵の魔法を差し込む事で効果を発揮する魔法の様です。その常駐型の魔法は子供達自身の魔力で常に維持されているのでしょう。この鍵の魔法から鍵穴を逆算して専用の解呪を組みますので、しばらく時間を下さい」


「どの程度掛かりそうだ?」


「せめて一月は欲しい所です。前途ある若者に不確かな解呪を掛けて禍根を残す訳には行きませんからね」


「頼む、いつまでも危険な魔法の支配下に子供達を置いておく事は出来ん」


そこでバローが悠に問い掛けた。


「ユウ、あの召喚の部屋にあった召喚器とか言うヤツをハリハリに見せてみたらどうだ?」


「あれか・・・。そうだな、少々待っていてくれるか?」


「はい、分かりました。・・・異世界からの無作為召喚を可能とする魔道具なんて、長く生きているワタクシですら噂すら聞いた事がありませんのでどの程度理解出来るか分かりませんが・・・」


悠は自分の部屋から保管してあった召喚器を持ち出し、再びハリハリの下へと帰って来た。


「これだ。この召喚器とやらに魔力を注ぐと自動で召喚されるらしい。そして召喚された者は皆言語理解と支配の術式を刻まれるのだろう」


「ふむ・・・原理としては魔力で動いているのですね・・・」


ハリハリが真剣な表情で召喚器を調べ始めたが、しばらくして首を振り、テーブルの上に置いた。


「半分程度しか理解出来ませんが、これはとんでもない魔道具ですよ・・・いえ、最早これは魔道具などという範疇に収まる物ではありません。神器アーティファクトと言うべきでしょう。ワタクシが見た所、この神器には5つの魔法が込められています。召喚・・・言語理解・・・支配・・・・・・集積? 収集? 放逐? ・・・後2つの魔法は今すぐには何なのかワタクシには分かりません。断片的な意味が読み取れるだけです。・・・ただ、これだけは言えます。この神器を作った者は命を何とも思っていない極悪人という事です」


ハリハリにしては不快感を露わにして言葉を吐き捨てた。


「これがあれば支配の魔法に関しては先ほど言った期間よりももっと早く解呪を組む事が出来るでしょう。出来れば解析したら破壊してしまいたいですが・・・これだけの代物になると、迂闊に壊す事も出来ません」


緻密なバランスの上に成り立っている物品は適当に破壊を試みると、魔法が暴走する可能性が無いとは言えなかった。分解するにも手順を踏む必要があるのだ。

「ハリハリは解呪を最優先で進めてくれ。一応、もう一人見せたい相手が居るのだ」


「了解しました。しばらくお待ち下さいね」


そう言ってハリハリは請け負い、後日子供達の支配は解かれる事になったのだった。

すいません、入院してしまいました。


単なる結石なので命に別状は無いのですが、更新がどうなるか分かりません。


また、今日以降の更新は後日変更する場合がありますのでご了承下さいねー

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