5-78 修練の日々4
「皆やっているな」
「やあ、ユウ殿。流石は『異邦人』ですね、皆筋がいいですよ」
昼近くになり悠が講義の様子を見に来ると、部屋には幾つもの光点が浮かんでいた。
《へぇ、全員出来る様になってるじゃない》
「フフフ・・・これからはワタクシの事は超絶吟遊詩人兼至高の魔法伝道師ハリハリと呼んで貰いましょうか・・・」
「うぉっ!? 間違えた!?」
《・・・約一名手間取ってるわよ? 至高の魔法伝道師さん?》
「・・・ヤハハ、バロー殿はこの年齢まで魔法を使った事が無かったらしく、子供達ほどの柔軟性もありませんので」
魔方陣とイメージに不備があったバローの『光源』の魔法が碌な効果も発揮せずに消失したのを見たレイラがハリハリに突っ込み、ハリハリが苦笑した。
「ま、バロー殿は剣で戦う剣士ですから、ある程度目くらまし出来ればいいでしょう。むしろ必要なのは魔法防御にですから」
「『反属性防御』というやつか?」
「ええ、その通りです。これが出来ると出来ないのでは魔法を使う相手の生存率や勝率が全然違って来ますからね」
『反属性防御』とは、自分に掛けられた魔法の逆の属性でダメージや効果を軽減する技術である。ハリハリは最初に悠が魔法を掴んだのを見た時、手に反属性の魔力を集中させて制御しているのでは無いかと考えたのもこの防御法を知っていればこそである。
「結界ほどの効果は有りませんが、必ず役に立つはずです。それぞれの魔法の相関関係は・・・皆さんにも言っておいた方がいいですね。皆さん! こちらに集まって下さい!」
ハリハリが呼びかけると全員手を止めてハリハリの側に集まった。
「今から魔法の属性について説明します。分かり易く図示しますので見ていて下さいね」
そう言ってハリハリは皆から一歩距離を取り、魔法を準備して説明を始めた。
「魔法には7つの属性があり、この様な六芒星の頂点から時計周りに光、風、水、闇、地、火と割り振られ、中央に無属性があります」
起動させた『光源』の魔法の光を操って空中に六芒星を描き、その頂点に今言った属性をそれぞれあてがった。
「属性はその属性と反対にある属性と相殺関係にあり、光と闇、火と水、風と地の属性はお互いを打ち消しあって消滅します。簡単に言えば、火を消すのに水を使ったり、暗闇を照らすのに光を生み出したりという事です」
それぞれの顔に理解の色が浮かぶまでハリハリはしっかりと説明を続けた。
「また、この六芒星の上半分と下半分はそれぞれ相性が良く、上半分を正の3属性、下半分を負の3属性と言ったりします。ワタクシがユウ殿と戦った時に使った『爆裂の矢』は火と風の属性を合わせた混合魔法です。これも相性の良い属性だから出来る事ですね」
それはさておき、と前置きしてハリハリは続ける。
「皆さんは得意な属性が偏っている人が多いですが、自分の得意とする属性の他に、必ず逆の属性の魔法の修行もやって貰わないといけません。得意な属性が戦っている相手にバレると、多少戦える者なら必ずその逆の属性をついて攻撃してきますからね、そのダメージを軽減する為に逆属性の守りは必須なのです」
「・・・? よくわかんねぇや?」
京介が顔に疑問符を浮かべて首を傾げたのを見て、ハリハリは言葉を付け足した。
「そういう時は実践あるのみです。ここにある桶を見ていて下さい」
そう言うとハリハリは魔法で水を出し、桶に水を張って更にそれを凍らせた。
「ここに我慢出来る範囲で手をくっ付けて下さい。無理に我慢する必要はありませんよ?」
「おーし、やってやるぜ!」
京介が気合を入れて氷の表面に手を付け、そのまま20秒ほど我慢して手を離した。
「うへっ、つめてっ!」
「はい、結構です次にこの蝋燭の炎でちょっとフォークを炙ります。今はちょっと熱い程度でいいでしょう」
ハリハリが手にしたフォークを火に当てて暖め、京介の目の前に差し出した。
「キョウスケ殿、その冷やした手で触ってみて下さい。大丈夫、火傷しない事は保障しますから」
「お、おう!」
男の子の見栄という物か、京介は怯える素振りを見せない様に、だが実際は恐る恐るフォークの先を指で摘んだが、熱いはずのフォークから熱を感じずに再度首を傾げた。
「あれ? ハリー兄ちゃん、これ、本当にあついのか?」
「では逆の手で触ってご覧なさいな」
「どれどれ・・・アチッ!?」
冷やした手と逆の手で触った京介がその熱さにすぐ手を引っ込めた。
「どうですか、キョウスケ殿?」
「冷やした手だとぜんぜんあつくなかったのに、冷やしてない手だとあつかった!!」
「そうです、これが逆属性で防御するという事ですよ。少しは理解出来ましたか?」
ハリハリの言葉に頷く子供達の顔には確かな理解が広がっていた。
「この一年で皆さんにやって貰う事は、得意属性の更なる鍛錬と全属性での防御、そして魔法の高速展開の3点が中心になります。今日の所はまず『光源』で練習して下さいね」
「「「はい!!」」」
「良い返事です。エルフだと中々素直に言う事を聞いてくれないんですよ。その点は人間の・・・というか、皆さんの美徳ですね。先生は嬉しいです」
ハリハリがおどけて言うと、皆の口からクスクスと笑いが漏れた。
「では今日は後10分ほど続けたら終わりです。はい、始めっ」
その合図に促されて全員再び『光源』の魔法に取り掛かり始めた。
「・・・とまぁ、初日はこんな感じですが、如何でしょうか?」
「流石はハリハリだな。魔法を教える姿も板についている。俺が文句を付ける所は無いな」
「お褒めに預かり光栄の至り」
ハリハリは気障な仕草で悠に一礼して見せた。事実、ハリハリの教え方は理に適っていて非の打ち所が無いのだから、悠も賞賛を惜しまなかった。
「魔法はイメージによって生み出されます。魔法の効果を疑う事は魔法の効果を減衰させてしまいますから、最初にしっかりと理解する事が大切なのですよ。適当に教えては危険ですからね。・・・それはユウ殿も身を持って経験されたでしょう?」
「耳が痛いな。確かにあれは俺の不注意だった、以後気を付ける」
昨日の魔法実験の事を引き合いに出されては悠としては子供達の手前謝るしか無かった。
「分かって下されば結構です。・・・それにしても、良くもまぁこれだけ一芸に秀でた子供達を集めたものです。後は光の属性に特化した子が居れば言う事無しでしたが、それは高望みですか・・・」
「光の適正があれば何かあるのか?」
「ええ、ちょっと切り札になる魔法を少々ね。・・・ま、無い物ねだりをしてもしょうがありません。ああ、それとユウ殿、ある程度魔法を使える様になったら模擬戦などもしてみたいのですが・・・」
「分かった、ハリハリから見て加減が出来る様になったと思ったら教えてくれ。体術との組み合わせは俺も考えておこう」
「はい、お願いしますね」
そのままハリハリと話しながら悠は全員の訓練が終わるのを待った。
裏タイトル「教えて! ハリハリ先生!!」第二回。
今こんな授業したら保護者から突き上げを食ってDOGEZAさせられるかもしれません。嫌な世の中です。




