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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-76 修練の日々2

それから十数分後。


「・・・すいませんでした。もう、大丈夫です・・・」


心の中をぶちまけた事で落ち着いたのか、アルトは悠から体を離した。だが今度は心が落ち着いて来ると、今の所業が恥ずかしく思えてアルトは赤面したまま顔を上げる事が出来なかった。悠の服の腹の部分にはしっかりとアルトの涙で出来た染みが残されており、それが尚更アルトの羞恥心を煽っている。


「そうか、ならば行くぞ」


悠は殊更アルトに声を掛ける事無く再び歩き出し、アルトもその後に付いて行く。


どちらも何かを話そうとしないまま、無言での道行きが続いたが、しばらくしてアルトが悠に思い切って話し掛けて来た。


「・・・あの、ユウ先生は寂しいと思ったり、不安になったりはしないんですか?」


アルトの目から見た悠はおよそ弱い所など無い完璧な人間だった。誰よりも強く、人としての優しさを持ち、他者から尊敬を集め、泣き言など漏らす事は無い。それに引き替え我が身を振り返ると恥ずかしくて目も合わせる事が出来ないくらいだ。


「ある。が、俺はそれを表に出す事を自分に許してはいない。他者の上に立つ人間は人目がある所では絶対に弱さを見せてはならんのだ。弱味を見せる事によって得られる信頼もあろうが、より多くの人間はそれによって不安を得るだろう。俺自身が誰かの弱さになる事は避けなければならない」


アルトの質問に悠は隠す事無く正直に答えた。悠は情動の無い別の生物では無く人間である。人間である以上は当然怒りも恐れも悲しみも感じはするが、感情の赴くままに行動する事は自分以外の人間をも窮地に晒してしまう事を理解していた。だから悠はそれらの感情を徹底的に抑制したのだ。・・・だがそれは喜びなどの正の感情すら抑制し、結果として今の悠を作り上げていた。


「どうやったら、ユウ先生のようになれますか?」


「俺の様になどならんでいい」


尋ねるアルトに悠は強く即答した。


「悲しむべき時に泣かず、喜ぶべき時に笑わず、怒るべき時に我を忘れず・・・それは最も良い軍人であるとは思うが、最も良い人間であるとは思わん。・・・重ねて言うが、俺の様にはなるな。アルトはアルトのままであればいい」


「・・・」


悠が言わんとする事を図りかね、アルトは沈黙した。


「今すぐ理解出来なくてもいい。その為の修行だからな」


それきり2人の間に会話は絶え、アルトは屋敷に着くまでの間、あるがままの自分とは何かという年齢に見合わぬ問題に頭を悩ませるのだった。








「これで全員揃ったな」


自宅に戻った悠は全員を広間に集め、一人一人の顔を見渡した。


上座に立つ悠の右側にはベロウ、ハリハリ、ビリー、カロン、智樹、アルト、始、京介ら男性陣が座り、左側にはシュルツ、ミリー、カリス、樹里亜、神奈、恵、蒼凪、リーン、小雪、神楽、朱音、明が座っている。


「これから『竜ノ微睡オーバードーズ』に入る。カロンとカリスは引き続き鍛冶の研究に励んで貰うとして、ハリハリには魔法関連の教官を、バローやシュルツ、ビリー、ミリーにはその他で協力を仰ぐ事もあるだろうと思う。心しておいてくれ」


悠に名を呼ばれた者達が揃って悠に頷き返した。カロン達やハリハリを除けば、自らの鍛練も平行して行わなければならないので、彼等にとっては子供達以上に過酷な日々となるだろう。


「それと恵にはやって欲しい事がある。午前の講義が終わったら俺の所へ来てくれ」


「はい、分かりました」


「俺からは以上だ。質問その他が無いのなら、早速始めるぞ?」


誰からも異論は出なかったので、悠は一つ頷いて宣言した。


「では俺はこれから庭で『竜ノ微睡』を行う。ハリハリ、魔法に関して最初歩から講義を始めていてくれ」


「了解しました、お任せ下さい」


それを見届けた悠はそのまま広間を出て行き、途中で『竜騎士』へと変じた。


「レイラ、『竜気解放プラーナリバレートサード』起動」


《了解、『竜気解放・参』起動!》


悠の呼び掛けに応えてレイラが自身の竜気を加速させ、それと共に赤い鎧に包まれた悠の体から赤いオーラが噴き上がった。


「『竜ノ微睡』起動準備、隔離結界展開」


《『竜ノ微睡』起動準備。隔離結界、屋敷全体を包む大きさで座標を検索。敷地から+5メートルで座標を固定。隔離結界起動!》


悠が命じ、『竜ノ微睡』の効果範囲をレイラに設定させて内部と外部を隔てる結界が完成すると、明るかった敷地内がグレーの空に覆われた。


「・・・よし、『竜ノ微睡』展開」


《『竜ノ微睡』展開!》


それを見届けた悠が『竜ノ微睡』の展開を宣言すると、胸の中心にあるレイラの宝珠が一際強い光を放ち、結界内部の空間に広がって行った。


その瞬間、外部からの一切の気配が絶え、結界内を静寂が包み込む。時の流れが異なる場所に隔離された為に外界からの音が遮断されたのだ。


「・・・成功だな」


《ええ、当然よ・・・と言いたい所だけど、この規模の結界を張るのは初めてだから100%の効果は保障出来ないわ。万一不備を感じたら即座に解除するわよ? それと、分かってると思うけど、例え今すぐ『竜ノ微睡』を解いても、その瞬間に竜気は枯渇して私は低位活動モードに入るから気を付けてね?》


『竜ノ微睡』はレイラの奥の手とも言える固有能力であり、一度使うとその長短に関係無く竜気を全て消耗してしまうという特性を持っていた。故に連続使用も不可能である。


悠は竜騎士化を解いて頷いた。


「ああ、レイラも何か気が付いたら知らせてくれ。・・・さて、恵との約束の前に、俺も個人的に勉学に励むとするか」


《魔法に鍛冶に鍛練にと、忙しい一年になりそうね、ユウ?》


レイラの言葉に、悠はペンダントを弄る事で答えたのだった。

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