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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-73 フェルゼンの休日8

「さて、大分時間を使ってしまったが、そろそろフェルゼンの名物見学に行きたい所だな」


「上にある花園ですね? でも、どうやって上に行けばいいんでしょうか?」


食事が遅れた事やトラブルに巻き込まれた事でかなり時間を使ってしまった悠達は、今回の観光の目玉であるフェルゼンの空中庭園を見に行く為に早速行動を開始しようとしたのだが、どこから上に上がれるのか分からずに足を止めた。


「城壁ですかね? それなら門の所でシロンさんに聞けば――」




「それには及びませんよ、皆様」




警備責任者であるシロンに聞けば何か分かるのではないかというミリーの言葉を遮って悠達の背後から声を掛けて来た人物はアランであった。


「アランか? 何か用か?」


「せっかくフェルゼンにいらっしゃったのに、当家に立ち寄らずに行こうとは水臭くは無いですかな? ミレニア様よりご招待せよとの命を受けて探しておりましたら、街の警備からこの場所だと聞きましたので、急いでお迎えに参ったのですよ?」


「そうだったか、済まんな。今日は夜までには屋敷に帰るつもりだったので、邪魔をするのも厚かましいかと思ってな。フェルゼニアス公爵不在時に大勢で押し掛けるのもあまり体面が良く無かろう?」


悠の遠慮にアランは笑って首を振った。


「それが水臭いと言っているのですよ。ユウ殿は若様の教師も務められていらっしゃるのですから、別に当家を尋ねるのに何ら遠慮は必要御座いません。それに、空中庭園でしたら当家から見るのが最も美しいと自負しております。一般では見られぬ場所も御座いますから、是非いらして下さい」


「・・・そうか、ならば少々御厄介になるとしよう」


「はい、ではご案内致しますのでどうぞ」


そう言って前を歩くアランに付いて、全員でフェルゼニアス邸へと悠達は移動した。




「いらっしゃいませ、ユウさん、皆さん。今日は空中庭園を散策なさりたいとか?」


「失礼します、奥様。厚かましくもご厚意に甘えてやって参りました」


「ふふ、当家の中で煩く言う者はおりませんから、普段通り話して下さいな、ユウさん?」


屋敷を訪れた悠達を出迎えたのは当然ミレニアであった。ミレニアが悠の堅苦しい物言いを笑って諭すと、悠も口調を改めた。


「そうか? 大所帯で済まんが、見せてくれるとありがたい。特に始は今回の事を楽しみにしていてな」


「よ、よろしくおねがいします!」


「あら、ハジメ君、あなた、お花が好きなの?」


「う、うん・・・ぼく、ゆうせんせいにご本も買ってもらったの。だからこれを使って色々見てみたくて・・・」


始は後生大事に抱えていた本をミレニアに差し出して見せた。


「あら、最新版ね? この本、私も持っているのよ? ここの空中庭園では主に後ろの冬の章のお花が多いから探してみてね?」


「はい!! ありがとうございます!!」


頭を下げる始にニコリと笑みを返してから、ミレニアは悠を促した。


「それでは早速ご案内致しますわ。私の後に付いていらして下さい」


「自らの案内痛み入る」


そうして一同はミレニアに案内を受け、空中庭園へと向かったのだった。




フェルゼンが誇る空中庭園は予想以上の絶景であった。


「うわぁ・・・!!」


感動した始がフラフラと本を片手に歩き出す。


フェルゼンは気候が温暖なミーノスにあるので、夜でも無ければ特に肌寒さを感じる事も無く、花々も12月であるとは思えぬほどに美しく咲き誇っている。以前来た時はゆっくり花を愛でる時間も無かったが、こうして見る花々は無骨な石造りの城壁を柔らかく飾るフリルの様であった。


「存分にご覧になって下さいね? そちらの温室にお茶とお菓子の準備もしておりますので、お疲れになった方々は私の話し相手になって頂けると嬉しいですわ」


「おかし・・・!!」


その一言で神楽はフラフラと温室へと引き込まれていった。どうやら花より団子という事らしい。


「それではしばらく各自で自由行動と行こう。だが家の中に入ってはいかんぞ? この庭園内で自由に散策するように」


「「「はい!!」」」


その一言で年少組がわっと蜘蛛の子を散らす様に行動を開始した。年長組の樹里亜や恵、神奈、蒼凪は悠と行動を共にする考えだ。


「それじゃあ行きましょう、悠先生」


「ああ、花を愛でるのは久々だな」


「悠先生も花を見たりするんですか?」


「こう見えて悠さん、お花にも詳しいのよ? 私と初めて会った時も・・・うふふ」


「聞かせて・・・その話を、詳しく、詳細に、詳らかに!」


「・・・怖いわよ、蒼凪・・・」


そんな風に姦しく、悠達はしばし心の洗濯を楽しんだのだった。




「始はまだ外か?」


温室に戻って来たのは悠達が最後かと思っていたのだが、まだ始だけが庭園にいるようで、この場に姿が見えなかった。


「そう言えばまだ戻っていないですね・・・探して来ましょうか?」


「いや、俺が探して来る。皆はここでミレニアと待っていてくれ」


そう言い置いて悠は再び空中庭園で始を探し始めた。と言っても悠ならば簡単に見つける方法があるのだ。


「レイラ、始の反応はあるか?」


《この近くじゃ無いわね、もっと先の方だと思うわ》


高性能な感知機能を持つレイラである。半径50メートル内であれば特殊な状況でない限り(ハリハリの様に魔法で身を隠したりしていない限り)、レイラに探せない物は無い。


ほどなくしてレイラの感知に始の反応が引っかかった。


《ユウ、この先南西の方向に反応ありよ。動いてはいないようね》


「そうか、分かった」


レイラのナビゲートを受けて悠が進んで行くと、すぐに花の前で熱心に図鑑を手繰る始の姿が見付ける事が出来た。


「始、そろそろお暇するぞ。・・・始?」


「・・・」


《あらら、聞こえていないみたいね?》


悠が声を掛けても全く気付かずに、始は花と図鑑を一心不乱に見比べていた。その顔は普段のどこか気弱そうな印象とは異なり、職業的な真摯さすら漂っている。


「・・・」


そこに侵し難い物を感じた悠はしばし始を見守る事にした。時折始は図鑑の内容を口に出しては花の知識を吸収する事に余念が無く、それは10分ほども続いたが、既に外は暗くなり始めており、それに気付いた始がそこでようやく悠の存在に気が付いた。


「・・・ん? あっ!? ゆうせんせい!?」


「熱心だったな、始、そろそろ帰るぞ?」


「あ・・・そっか、もうこんなに暗くなっちゃったんだ・・・」


始の顔に残念そうな、もしくは寂しそうな色が見えたので、悠は始に手を差し出した。


「また見にくればいい。ローランやミレニアならば喜んで迎え入れてくれるだろう」


「ゆうせんせい・・・うん!」


始は悠の手を掴み、2人は夕暮れの花園に長い影を揺らめかせながら歩いて行く。


「ねぇ、ゆうせんせい・・・男の子がお花が好きなのって変なのかな?」


「何故そう思うんだ、始?」


ポツリと呟いた始に悠が問い掛けた。


「・・・ぼくのいた所でも、男の子でお花が好きな子ってあんまりいないの・・・。ぼくがお花の本をよんでると「女みたい」とか「男のくせに」とか言われるし・・・」


「そうか・・・じゃあ始、料理を家でするのは誰だ?」


「え? お、お母さん、だけど・・・」


悠の言っている事がすぐに理解出来ずに始は戸惑ったが、すぐに自分の家の事を思い浮かべて答えた。


「大体の家ではそうだろうな。すると、料理は女のする事だという事になる。そうだろう?」


「う、うん」


「だが今日ベリッサも言っていたが、料理の世界、特にプロの世界では男だろうが女だろうが関係など無いのだ。ただ料理が得意な者が料理をする。これはおかしくは無いのか?」


「あっ!! ほんとうだ!!」


悠は始に理解し易い様に例を挙げてゆっくりと諭して行った。


「そもそも、仕事としてする様になれば男だとか女だとかいう事は殆ど関係が無いんだ。それを分かっているミレニアも始を馬鹿にしなかっただろう? 確かに力仕事や体力を使う仕事は男の方が多いが、俺が軍に居た頃ですら女の仲間は一杯居たぞ? 俺だって料理はするし、花も愛でる。だから始、自分が本当に好きな事なら何も恥じる事は無い、堂々と好きだと言ってしまえ。他人の目を気にして隠すよりも、その方が楽しいだろう?」


「ゆうせんせい・・・分かった!! ぼく、やっぱりお花が好き!! 大人になったらお花やさんになる!!」


「それでいい、負けるなよ、始」


悠の手をギュッと握り締める始の力が、その思いを何よりも雄弁に語っていた。

ほのぼのと悠&始。子供の世界で多数派で無い嗜好を持っている事は結構辛い事で、他にもマンガじゃない本ばかり読んでいるといじめられたりしますよね。


そんな子達へのエールになればいいなと思っています。

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