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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
328/1111

5-71 フェルゼンの休日6

唐突にグロ注意報。残酷描写が苦手な方は注意して下さいー

「・・・!!!」


「すっ・・・・・・・・・げぇ・・・」


「うおおお!! うーーまーーいーーぞーー!!!」


「あんまりでかい声を出さないでおくれ、狭い店なんだからさ」


ベリッサの料理はこれまで様々な美食に触れて来たはずのベロウやハリハリが言葉を失うほど美味であった。昼のメニューは鳥尽くしの定食だったが、焼いた物も蒸した物も一口口に入れただけで味覚が踊り、脳が多幸感で一杯になるほどに美味しかったのだ。


「嘘だろ? ・・・ガロードは何度も食ったけど、こんな美味いのは食った事ねぇよ・・・」


「素晴らしく美味だな。秋山の串焼きも相当な物だと思っていたが、これはそれをも上回る」


「私、鳥の皮ってブヨブヨしてて苦手だったんですけど、これはサクサクしててとっても美味しいです!!」


「うまっ、うまっ、うまっ、うまっ!!!」


「・・・肉に煩い小雪ちゃんの反応が凄いわね・・・」


他の面々もお腹が空いていた事を差し引いて考えてもこれ以上無いと思われる天上の味に酔いしれていた。それに全員がそれほどの美味であるというのに次々口に放り込んだりしないのは、噛めば噛むほどに味が染み出して来る鳥肉を飲み込むのが勿体無く思ったからだ。ガロードとはこの鳥の名前である。


「ちっさいの、美味しいかい?」


「おいしい~~~しあわせ~~~」


「そうかい、そりゃ良かったね」


調理を終えたベリッサは酒を一杯注いで椅子を神楽の横に置き、その食べっぷりを見つめていた。口調は非常にぶっきらぼうであったが、神楽を見る目はどこと無く優しく見える。が、誰にでもそうある訳では無い事が次のベロウとのやり取りで皆に伝わった。


「おーい婆さん、俺にも酒くれよ」


「馬鹿な事言ってんじゃ無いよ、昼のメニューは固定だって言ったろ。飲みたきゃ自分で買ってくるんだね。それとアタシはベリッサだって言ってるだろこのウスラボケ!」


「な、なんつう口の悪い婆さんだ・・・」


「大体ね、大の男が昼間っから子供の前で酒なんか飲んでんじゃないよ、全く・・・」


と、ベリッサは手にした酒を一口チビリと飲んだ。


「あ、アンタだって飲んでんじゃねぇか!」


「アタシは女でここはアタシの店だ。どうしようとアタシの勝手さ。小僧に指図される謂れは無いね」


「こ、この野郎~~~~~~っ!!」


「野郎じゃ無くて女だっつってんじゃないか。頭の悪い小僧が」


「ベリッサ・・・どこかで・・・」


そんなやり取りの最中でミリーはベリッサの名を聞いた事があった気がして食べながら自分の記憶を漁っていたのだが、やがて一人の料理人の名が浮かび上がった。


「まさか・・・『孤高』のベリッサ?」


ミリーの呟きを聞いたベリッサの手が止まり、ジロリとミリーを睨んだ。


「随分懐かしい名前で呼んでくれるじゃないか? だけど今のアタシはただのベリッサさ。そんな御大層な名前でお呼びでないよ」


そう言って黙って酒を干すベリッサはそれ以上の問いを拒絶していたが、その時乱暴に店の戸が開け放たれた。


「チッ、まーた来たか・・・」


ベリッサがうんざりした声を出すのと同時にドカドカと凶相の男達が中へと入って来て大きな声で怒鳴った。


「おいババア!! メシと酒だ!!」


「相変わらずシケた店だな!! おい、俺達が来てやった事に感謝しろよ?」


「お、小汚い店には珍しい事に客が居るじゃねぇか? だがこっからは俺達の貸切だ。サッサと失せな!!」


「どけってんだよ!! アァン!?」


「失せるのはアンタらだよ。この店にアンタらみたいなクソ野郎に食わせるモンは肉の一かけらだって無いんだ。その豆粒みたいな脳みそでも理解出来る様に言ってやる。か・え・れ!」


ベリッサが先頭の男の前に立ち、面と向かって堂々と罵倒して見せた。男は咄嗟に言い返そうとして失敗し、口元を引き攣らせながらベリッサのエプロンを掴んで凄んだ。


「ババア・・・いつまでも俺達が優しく言ってやると思ってんじゃねぇぞ? 今の俺はあのガストラファミリーの後を継いでそれなりの勢力を持ってんだ。テメェみてぇな薄汚いババア一人ブッ殺すのは簡単なんだぜ!!」


が、ベリッサは全く折れる気配も無く言い返した。


「薄汚い手でアタシに触るんじゃ無いよ短小野郎。アタシが今心配してる事はアンタの汚いナニを触った手で掴まれたエプロンの代わりを買って来なきゃならないって事だけさ。分かったらいつも通り飼い主に泣きつくんだね。「お使い出来ませんでしたエーンエーン」ってね?」


「く、く、く、クソババアッ!!! おい、お前ら、構わねぇから客ごとこの店ブッ潰しちまえ!!!」




キィィィイイン・・・




罵倒されてキレた男が他の者達にそう命令した瞬間、店内に鋼を打ち合わせる音が響き渡った。その澄んだ音色の冷たい気配がその場の全員の動きを止めた。


「な、なんだ・・・?」


「一体今の音はどこから・・・?」


その時、もう一度金属を打ち合わせる音が響き、今度は皆の目が一か所に引き付けられた。それは店の奥に通じる暗い通路からだ。


コッ、コッ、コッと乾いた音を立て誰かがこちらへ近付いて来る事を察した男達は咄嗟に誰何の声を上げた。


「だ、誰だそこに居るのは!?」




・・・ガストラを知っているなら俺が誰だか分からぬとは思えんがな・・・




闇の奥深くから響いて来る様な音に物理的な冷気を感じ始めた男達の脳裏にある人物の名が浮かび上がって来たが、そんな馬鹿なと男達は頭を振ってその想像を追い出した。「ヤツ」の活動は王都だけだったはずで、いくら近いとはいえフェルゼンの、こんな寂れたメシ屋などに居るはずが無いと思ったからであるが、それ以上にこんな所に居ないでくれという願望の方が遥かに強かった為の一種の現実逃避であった。


だが男達の願望はすぐに絶望へと変わった。


「ヒッ!? き、き、き・・・!」


「ら、ら、ら・・・!」


店内の明かりに照らされて浮かび上がった鬼の仮面が男達の口の自由を奪ったが、鬼の仮面はさも詰まらなそうに自分の正体を自ら明かした。


「『鬼面』のラクシャス、推参。俺の名を呼ぶ事も出来ぬ咎人共よ、冷たい獄を抱くがいい」


闇の色をした一陣の風が店内を吹き荒れたかと思った時には4人の男達は残らず店外へと吹き飛ばされていた。ベリッサも自分がいつの間に解放されたのか分からずにキョトンとしている。


「おげぇ!? ぐっ、な、なんでこんな所にラクシャスが居るんだよぉおおおおおお!!!」


「俺は屑が居る場所ならどこであろうと存在する。分かるか? いつでも俺は貴様らを見張っているという事だ・・・」


「あ・・・ひ・・・」


喚き散らす男の髪を鷲掴みにしてラクシャスが男に凄むと、男の股間を生暖かい液体が濡らしていった。


「小便を漏らすほど俺が怖いか?」


「あ、あうあうあう・・・!!」


頭を引っこ抜かれそうな痛みに涙と涎も追加しながら男が声にならない声を上げた。この4人はラクシャスの事は噂では聞いていても話半分にしか信じていなかったチンピラに過ぎず、至近距離での恫喝に耐えられる様な強い精神力は持っていなかったのだ。


「・・・」


「ヒギッ!? イッ、イタイイタイイタイーーーーッ!!!」


ラクシャスは黙って男の髪を掴んだまま引きずり、他の3人の所へ連れて行った。誰も彼もが逃げようとしていたのだが、恐怖に張り付けられてその場から動く事は叶わなかった。


ラクシャスは動けないもう一人の男の後頭部を掴み、引きずって来た男も後頭部を掴み直した。そして片手ごとに掴んだ男2人を正面から向かい合わせにして・・・「くっ付けた」。




グチャッ!!!




顔面を正面衝突させられた2人の男の体がビクンと痙攣し、手足を無茶苦茶にバタつかせたが、ラクシャスの腕は2人を固定したまま緩む気配が無い。その内、2人の顔と顔の境界線から血が漏れ出し、手足の動きが緩慢になった頃にラクシャスの拘束が唐突に離れた。


横倒しに倒れていく2人の顔は折れた骨同士が相手の顔に食い込んでしまって完全には離れない。だが辛うじて口が解放された事でか細い呼吸だけは確保する事が出来た。・・・呼吸しか確保出来る物が無かったが、とにかく死んではいない。


「さて・・・」


返り血を浴びて鬼面を赤く染めるラクシャスが残る2人に向き直ると、完全に心が折れていた2人の口から悲鳴が上がった。


「ヒィィイイイイイイイイ!!!!!」


「あう、ああ・・・た、たす、助けて・・・助けて!!」


「俺が悪人に情けを掛けると思ったか?」


腰を抜かしてへたり込む男の顔に靴底を叩き込むと、その男は血の糸を引いてもう一人の男の顔面に後頭部をめり込ませ、男達は全員揃って親が見ても顔を判別出来ない状態で転がされた。


「後の事は頼む。さらばだ」


全員の処理を終えたラクシャスはそのまま高く飛び上がり、建物の上を伝って何処かへと消え去り、後には偶然事態に出くわした不運な通行人達と、確認の為に外に出て来たベロウ達だけが残された。


「・・・暴れるだけ暴れてはいサイナラってズルいだろ・・・」


ベロウの愚痴にビリーとミリーだけが苦笑で答えたのだった。

どうやら狙われているらしいベリッサ。理由は次回です。

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