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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-65 魔法実験Ⅱ

翌日も順調な旅路が続いた。枯渇現象はまだ継続中らしく、魔物モンスターに襲われる事も無かったのもあるが、今の悠達に例えⅦ(セブンス)の魔物が襲い掛かって来てもそう長い間足止めは出来なかっただろう。


悠が『竜騎士』になって飛んで行けば一日浮く計算になったのだが、悠はこの後にも魔法実験を控えているし、何より『竜ノ微睡オーバードーズ』があるので極力竜気プラーナの消耗を抑えている。『竜ノ微睡』はレイラの全竜気を消耗する技であり、消耗状態では想定している期間より時間が短くなる可能性もあるからだ。これだけの人数を取り込む事も初めてなので、悠としては出来るだけ完全な状態で『竜ノ微睡』に臨みたかった。


さて、その日の夕刻、悠は自分達の土地に着くと『虚数拠点イマジナリースペース』を設置し、少し離れてハリハリと魔法の実験を行っていた。


「ではユウ殿、まずは『炎のファイヤーアロー』を見せて頂けますか?」


「分かった。レイラ、頼む」


《了解》


標的には再び丸太を運び込んでレイラが魔法の準備に入る。


《陣構成・・・魔力充填1%、魔法発動準備完了》


「発射」


悠の言葉と共に眼前に『炎の矢』が形成され、それは標的に向かって殺到した。その数や熱量も昨日よりは抑えられていて何とか強力な『炎の矢』に見えなくも無い。




ボボボボボボボッ!!!




炎の砕ける音が響き、多数の『炎の矢』が丸太に着弾して火の粉を散らした。丸太は最初の数発で完全に発火し、その後の着弾でバラバラに吹き飛んでしまう。


「・・・こんな威力の高い『炎の矢』は殆ど見た記憶がありませんが、確かに『炎の矢』の魔法ですね。ユウ殿が扱う竜気は魔法との親和性が高いようです。それに、レイラ殿が構築した陣も遺漏無く完全に竜気を魔法に変換しています。イメージも完全ですから、ユウ殿に呪文は必要ありませんね。ただ、目を欺く為に唱えるフリくらいはしておいた方がいい時もあるかもしれません」


「そうだな、なるべくそうする事にしておく」


「それと、魔法には己の得意とする属性があります。これは鍛えても変わらない物なのですが、魔力のゴリ押しで多少はどうにか出来ますし、ユウ殿の場合は相手を過剰に痛めつけない為に逆に不得意な属性を使った方がいいかもしれませんよ。得意属性は威力や範囲が向上し、より少ない魔力で行使可能ですが、竜気を扱うユウ殿は特に注意を払わなくて良さそうですからね」


得意・不得意属性は生来の物であり、鍛えたり変更したり出来無い固有の才能である。何かに顕著な才能を有する者は、その他の属性にマイナスの補正が掛かっている事が多く、逆にどれも顕著な才能を有さない者は万遍なく属性を扱えるという利点もある。


子供達の場合、魔法を扱う者は強力な得意属性を持つ反面、他の魔法に関しては相当マイナスの補正が掛かっているだろうと考えられた。


「ワタクシの『爆裂のエクスプロージョンアロー』は火と風の混合魔術ですので消耗が大きいですけど、ユウ殿が使えば攻城兵器並みの威力が出るはずですよ」


「昨日の戦いの最中では流石にハリハリの魔法陣を覚える余裕は無かったからな。今度見せて貰う事にする。今日は別の事を試してみたいのだが、ハリハリよ、何の魔法でも構わんので魔法陣を構築した状態で待機してくれるか?」


「構いませんよ。ではワタクシも『炎の矢』を・・・」


悠の要請を受けたハリハリは瞬時に魔法陣を構築し、そのまま待機させて悠の行動を待った。


「では行くぞ。レイラ、掻き乱せ」


《了解》


レイラも悠の言葉を受け、ハリハリの魔法陣に向かって純粋な竜気でその陣の破壊に取り掛かった。


「おっ!?」


ハリハリは自ら構築した陣が外部からの力で崩壊した事を感じて陣の維持を解く。


「随分器用な事をなさる。純粋な魔力マナ・・・いえ、竜気で私の陣を壊しましたね?」


「ああ、やはり可能なのか?」


「ええ、可能かどうかと言われれば可能です。『壊乱ディスターブ』と言われる対抗魔法の一種ですが、ワタクシには普通は通用しません。『壊乱』を食らうほど私の魔法発動速度は遅くありませんのでね。それに、陣自体を強化して『壊乱』を防いだり、得意属性であれば陣自体の抵抗力が高かったりしますので確実な手段とは言えません。ですが、人間の魔法であれば9割方は阻止出来ると思います」


ハリハリは今は実験の為に陣を構築したまま待っていたから『壊乱』が効果を発揮したのだが、普段であればそんな事はしないので、少なくともハリハリクラスの魔法の使い手には効果が無いという事だ。


「なるほど・・・技術として既に確立されているならば、次の実験は必要無いか」


「次は何をされようと思っていたのです?」


「なに、戦闘空間を竜気で制圧して魔法行使そのものを封じる事が出来ないかと思ってな。今の『壊乱』とやらの拡大版と言えるか」


悠が言った言葉を聞いたハリハリの顔色が変わった。


「・・・ユウ殿は恐ろしい方だ・・・まさか独力で『災禍のディザスターストーム』を起こされると仰るか?」


「『災禍の嵐』?」


悠が聞き返すとハリハリは神妙に頷いた。


「対魔法使いの切り札とも言われる対抗魔法です。普通は6~8人程度で陣を形成し、お互いの魔力を循環させてその内部での魔法行使を困難にする技術です。恒常的に『壊乱』を掛け続ける魔法と言えば良いでしょう。・・・俗名がエルフ殺しというだけあって、ワタクシもあまりいい気はしませんです、ヤハハ」


「ハリハリであってもその場での魔法の行使は出来ないのか?」


「どうでしょうか? 『災禍の嵐』は古来エルフの罪人を処刑する場で用いられる技術でしたので、これを掛けられる事はエルフに取って非常に屈辱的な事なのですよ。ですのでワタクシも食らった事はありません」


「ならば止めておこう。済まなかったな、ハリハリ」


悠が実験を切り上げようとすると、ハリハリがそれに待ったを掛けた。


「いえ、是非とも一度体験させて貰えないでしょうか? この先エルフと争う事があるかどうかは分かりませんが、初手で食らって何も出来ないというのではワタクシも困ります。研究者としても一度試してみたいと思っていたのですが、国に居る時は流石に周囲に止められましてね」


「いいのか? ハリハリが良いのなら俺は構わんが・・・」


「ええ、お願いします」


「分かった、レイラ、『災禍の嵐』を展開してくれ」


《了解、『災禍の嵐』!》


了承を得た上でレイラが周囲を竜気の嵐で包み込んだ。見た目には何も起こっていない様に見えるが、ハリハリにはその異常が察知出来たようだ。


「これが・・・『災禍の嵐』・・・なるほど、エルフ殺しとはよく言ったものです」


ハリハリは幾つかの魔法の行使を試みたが、陣を構築しようとする端からどんどん竜気によって掻き乱され、魔法の体裁を成さない物になってしまった。


それでもハリハリは諦めずに幾つかの手段を行使し、やがて意識を集中して両手を胸の前で左右を向い合せにすると、その中に小さな魔法陣を形成して行使して見せた。


「ハッ!」


2本だけの『炎の矢』が悠に向かって放たれ、悠は冷静にそれを回避してみせると同時に『災禍の嵐』を終息させた。


「ふぅぅぅぅ・・・ダメですね、こんな事では殺されてしまうのがオチです」


額にびっしょりと汗を掻いたハリハリが深く溜息を付いた。


「確かに威力も速度も普段のハリハリとは比べ物にはならんかったが、使えたではないか。一体どうやった?」


「大きな陣を形成するのはどうしても無理でした。なので、魔力を集中して手の中だけに強固な陣を作って行使を試みたのです。しかし、これだけ苦労してこの程度ではとてもでは無いですが破ったと言えるものではありませんね。ワタクシも何らかの対抗策を考える事にします」


そうしてその日の実験は終了する事になったのだった。

壊乱ディスターブ』とその上位互換『災禍のディザスターストーム』は便利ですが、前者は速度に難があり、後者は消耗度に難があります。

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