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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
321/1111

5-64 収穫

「・・・・・・で、誰が女だって?」


「シュルツだ。アイツは女だった」


「・・・は、ハハハ・・・ユウ、お前は冗談が下手だな?」


「俺がそんな冗談を言うように見えるのか、貴様は?」


「・・・マジかよ・・・」


衝撃の事実に打ちのめされたベロウはヨロヨロと後退り、椅子に崩れ落ちた。


「お、俺は女と引き分けたのか・・・」


「女だからと言って弱いとは限るまい。その後に出て来たサイコもそうだが、お前が挙げた5強も半分は女ではないか」


「聖剣持ちや魔女を引き合いに出すなよ!? それにこれは男の沽券に関わる問題なんだ!!」


同じ純粋な剣士として、ベロウは女性に負ける事は我慢ならないようだ。


「下らん。男でも弱い者は弱いし、女でも強い者は強い。無意味な男尊女卑は目を曇らせるぞ?」


「だけどよ・・・!」


「いい湯でした。大きい風呂というのは良い物ですな」


悠に諭されても納得がいかないベロウだったが、そこに悠から遅れて出て来たシュルツがやって来た。シュルツは覆面の下を洗う為に悠が出た後も残っていたのだ。


「おいシュルツ! お前女だってのは本当なのか!?」


「本当だが、それがどうした?」


「な、なんで言わねぇんだよ!!」


「聞かれなかったからな。・・・何だ、女に負けるのは我慢ならん口か? 師と違い、存外小さい男だな。逸物も小さいのであろう?」


「誰が短小だ!?」


至近距離で睨み合う2人を仲裁するのも馬鹿馬鹿しく思い、悠はハリハリと魔法に付いて話し始めた。


「ハリハリよ、呪文とはなんだ? 一応の体裁はある様だが、必ずしも必要とも思われん。現にお前は話しながら魔法を行使していたな?」


「そうですね。別に必要はありませんよ、あれは自己暗示ですので」


「自己暗示?」


悠の質問にハリハリはアッサリと呪文の必要性を否定した。ハリハリはリュートをテーブルに置いて詳細を語り出す。


「基本の定型句は当然ありますがね。ワタクシでしたら『炎のファイヤーアロー』の魔法を使う時「ハリハリが奉る。炎の矢よ、敵を撃て」というのが最も正しい使い方になりますが、使い慣れていれば必要無いのです。定型句を分解して説明しましょう」


ハリハリは懐から筆記用具を取り出し、紙に定型句を綴り始めた。


「まず全ての魔法に共通する起句として「〇〇が奉る」と唱え始めますが、これは自分が今から魔法を使うぞと心身共に準備する為の物です。これによって魔力の供給を安定させます」


ハリハリが起句の下にラインを引き、更に下に準備、安定と書き込んだ。


「さて、後半は呪文毎に異なりますが、この部分では自分の使う呪文のイメージを増幅する物です。『炎の矢』であれば、火を矢の形に、そしてそれで敵を穿つイメージですね」


ハリハリは後半部分に波線を引き、その下に固定、増幅と書き込む。


「これにより魔法回路への魔力供給は安定し、更に自らのイメージに近い物として発動準備を終えます。未熟な者は供給や設定が曖昧で魔法が発動しなかったり、発動しても威力が弱かったり、的を外して明後日の方に飛んでいったりしてしまいます。しかし私から言わせれば、それなりに熟練になった人間の大人の魔法使い達が呪文を一々唱えている光景を見ると笑ってしまいますね。「おやおや、キミ達はまだ歩く事も覚束ない子供なのかい?」ってね」


ハリハリが失笑に近い笑みを口の端に浮かべて言った。


「つまり、十分に熟練し魔法行使に慣れた者でしたら呪文など無くても思った通りの魔法を発動させられるのですよ。初心者の魔法行使において呪文の有効性はワタクシも認めますが、慣れたら止めるべきですね。魔法陣の構築速度をもっと習熟した方が良いかと」


ハリハリの目から見ると、人間の魔法使いはいつまでも補助輪を外さずに自転車に乗っている子供に見えるらしい。


「それなのにわざわざ相手に使う魔法を教えながら呪文を唱えるバカバカしさはユウ殿なら分かって頂けますよね?」


「ああ、ハリハリの魔法は他の誰よりも速かった。呪文が省略されている事もあるが、陣に魔力を流しながらというのが大きいな」


何気ない悠の言葉にハリハリがギョッとして悠に問い質した。


「ど、どうしてそれを!? 人族にはまだ流布していない技術のはずですが?」」


《私には魔力や竜気を直接見る力があるの。でもハリハリの魔法は陣の構築も桁違いに早かったし、分かった時にはもう発動していたからあまり意味が無かったけどね》


ハリハリの質問に答えたのはレイラだ。レイラは一度見た魔法は映像記録として丸ごと記憶しているからこそ既知の魔法を発動前に読む事が出来るのだが、ハリハリの場合は魔法の構築が早過ぎて阻止は叶わなかったのだ。


だが、ハリハリにとっては十分に驚嘆に値する事だったらしい。


「・・・『爆裂のエクスプロージョンアロー』がかわされる訳です。レイラ殿にはあれが『炎の矢』でない事が分かっていたのですね・・・」


《違うって事だけはね。実際に危険を感じてかわしたのはユウよ》


「その目があれば人間の魔法なんて簡単に阻止出来るでしょう? ワタクシも多少魔力の流れが読めますので、同じ事が出来る相手の為に磨いた技術ではありますが、まさか人間相手に役に立つとは思っていませんでした。ユウ殿とレイラ殿が組んでいれば負けないはずですよ」


ハリハリが参ったとばかりに両手を上げて苦笑した。


悠の圧倒的な戦闘経験と精神力、そしてレイラの最適な戦闘補助能力が有機的に結び付いた結果が悠の力を他の者達との大きな差となっている事にハリハリは気付いたのだ。


「それにあの魔法を掴んだ技にも驚かされました。反属性の魔力で包み込んで止めるならワタクシも同じ事は出来ますが、ユウ殿はそこまで魔法に造詣が深い訳では無いご様子からして恐らく全く別の方法で止めたのですよね?」


《へぇ、良く分かったわね? 流石はハリハリだわ》


今度はレイラがハリハリを褒めた。今まで悠がどうやって魔法を掴んでいるのかを推察出来た者は居なかったので、それは素直な賞賛だった。


《世界に存在する物は大抵3つの性質を備えているの。ユウが魔法を掴むのは、その物質体マテリアルを直接制御しているからよ。『竜騎士』になっていないとそこまで広範囲に制御出来ないから『爆裂の矢』を防ぐ事は出来なかったけど、触れられる物質なら大抵の物は制御出来るわ》


「物質体・・・聞いた事の無い概念ですが、説明からすると今こうして存在している物質そのものを指す言葉と解釈してよろしいのでしょうか?」


《アナタ、本当に理解が早いわね? そう、こうして私達が触れる事が出来る物質全てを指す概念よ。その他にも精神体メンタル星幽体アストラルの三位一体で物質は構成されているけど、今はその2つは置いておくわ。魔法は別に魔力の塊が飛んでくる訳じゃ無く、魔力を物理現象に変換する技術だという事はもう確認済みだし、光の速度に迫るほどの魔法で無いのなら、ああして掴み取る事も出来るわ。人間の魔法だったら発動前に阻害する事も出来るけど、ハリハリのは発動まで早過ぎて後手に回ったわね》


「はぁぁ・・・」


ハリハリは長い時を生きた自分でも聞いた事の無い知識を話すレイラの言葉に聞き入っていた。元来好奇心が強いのだろう。


「明日にはハリハリにも手伝って貰って試したい事もあるのだが、手伝ってくれるな?」


「是非とも!! いやぁ、ユウ殿とレイラ殿は面白いですな!! ワタクシ、この年で魔法の更なる進化を目に出来るとは思ってはいませんでした!!!」


気分の高揚したハリハリはリュートを掴み、高揚のままに弾き鳴らした。


と、こちらは円満かつ有意義な話し合いが行われていたのだが、その隣では不毛かつ下世話な舌戦が行われていた。


「馬鹿野郎!! 俺のを見た事もねぇクセに勝手に決めつけるんじゃねぇよ!!! 大体女は俺が抱いてやると朝までそりゃあ喜んでだな・・・!」


「商売女の演技も見抜けぬとは悲しい男だな。その師の半分にも満たぬ矮小な物に尽くさねばならぬ女が哀れだ、いっそ切り落としてくれようか?」


「ば、や、止めろ!! 剣を抜くんじゃねぇ!!! それに俺が小せぇんじゃねえ!!! ユウの奴がデカ――」




ゴスッ!!!




つかつかとベロウの背後に歩み寄った悠の鉄拳がベロウの頭頂部に落ち、声も無くベロウは床を転げ回った。


「いつまで下らん話をしている。やる事が無いならさっさと寝ろ。シュルツも屋内で剣を抜くな」


「申し訳ありません、師よ」


悠が諭すとすぐに剣を納めてシュルツは頭を下げた。既にベロウなど見もしないのはいっそ清々しいほどだ。


大きなタンコブを作ったベロウ以外はそれなりの収穫を得た夜だった。


魔法についてはもう少し詳しくやりたい所です。


それと、シュルツには羞恥心は顔以外にはあまりありません。裸でも戦えます。口で卑猥な事を言っても恥ずかしがったりしません。

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