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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-63 〇難の相

悠が中に入るとハリハリや子供達から今の衝撃について色々質問されたが、悠も竜気プラーナを使った以外には特に思い当たる事も無いのでそう正直に述べて謝った。


「どこの誰が攻めて来たのかと思いましたよ、エルフでも滅多に居ないくらいの膨大な魔力マナを感じましたから」


「半可通でやるものでは無かったな。次に実験する時はハリハリに見て貰ってからやる事にする」


「いいですよ。ワタクシもユウ殿の魔法には興味があります」


リュートをポロポロと弄りながらハリハリがにこやかに承諾した。腐っても魔法開発に携わった者として興味を惹かれたらしい。


「そういう事で俺はちと風呂に入って来る。皆、眠くなったら寝るんだぞ?」


「「「はーい!」」」


ハリハリの周りに集まっていた子供達がちゃんと返事をした事を確認し、悠は単身風呂へと入って行った。




「それにしてもレイラ、あの時どの程度の竜気を込めたんだ?」


《そんなに過剰に込めたりはしていないわよ? 精々2~3%って所ね》


悠は体を流しながらレイラとの魔法談義を続けていた。今の魔法に付いて、その結果の考察を深めていく作業だ。


「『豊穣ハーヴェスト』の半減効果を考えると6%の竜気を使ったとして、魔力マナ換算で現在考えられる最低倍率の5を掛けたとして30%以上という事になる。実際はそれに勝ると考えれば、使い過ぎだったのでは無いか? 初手の小手調べで全魔力の3分の1以上を込めて『炎のファイヤーアロー』を撃ったりはせんと思うが?」


《・・・ごめん、自前の能力じゃ無いから『豊穣』の効果を計算するのを忘れてたわ。そう考えると確かに竜気を使い過ぎたわね》


レイラも慣れない魔法の行使で『豊穣』を計算に入れ忘れていたのだった。確かに悠の言う通り、特に必殺でも何でも無い初手の魔法にこれだけ強力に魔力を込める者はあまり居ないだろう。


「次は1%程度で試してみるとしよう。他の魔法も試してみたいからな」


《『竜砲』ほどの威力は出せないけど、色々な特性がある魔法はこれからの戦いにおいて重要な攻撃手段になるかもしれないわね。私、今ちょっと楽しいわ》


「およそ鍛えられる所は鍛えてしまったからな、俺達は。確かに戦術の幅が広がるのは俺も心が躍る」


悠もレイラも戦闘狂では無いが、戦いが不可避である以上新たな力を求める事に吝かでは無かった。魔法はその最も顕著な物として悠の修行の課題の一つとなりそうだ。


「それにしても、シュルツの奴は遅いな?」


《そうね? ・・・あ、噂をすればやって来たみたいよ?》


悠が目を閉じて頭を洗いながら答えると、レイラが脱衣場に現れた反応を伝えて来た。その反応はすぐに浴場へと移動して来たのだった。


「師よ、拙者も失礼します」


「ああ、先に入らせて貰っている」


「ならば早速お背中を流しましょう」


シュルツは悠の背後に来るとタオルに石鹸を付けて泡立て、しゃがんで悠の背中を洗い出したのだが、薄目を開けた悠の目に鏡に映るシュルツが覆面を付けたままであるのが見えて呆れさせた。


「シュルツ、風呂で無粋な物を付けたまま入るのは止せ。ここには俺とお前しかおらんのだから、外しても構わんだろう?」


「は? いや、しかしですな・・・」


「いいから外せ。俺もジロジロ眺める様な無遠慮な真似はせん」


「・・・そう、ですな。師ならば別に構いませんか。では失礼します」


数瞬の躊躇いの後、背後のシュルツの方からシュルシュルと布を外す衣擦れの音が聞こえ、それが絶えると再び悠の背中を擦り出した。悠も宣言通りわざわざシュルツの方を見たりもせず、しばし師弟の会話が繰り広げられた。


「しかし師よ、魔法に置いても師は卓越した腕前をお持ちのようです。師が一番得意とするのは何なのでしょうか?」


「俺は戦いに置いて得手不得手は作らぬ様にしている。何かを得意とすれば知らず知らずにそれに頼る様になるからな。逆に、何かを不得手とすればそれは隙になる。だから俺は最も基本である体術を戦闘の軸に置いている。シュルツ、お前も剣は良く鍛えられているが、まだ体術には隙があるぞ。そこを鍛えれば、今より更に上に行けよう」


「はっ、ご指導ご鞭撻痛み入ります。では流します」


シュルツは湯を手桶で掬って悠の頭から掛けて行き、それを2度3度と繰り返して悠の体の泡を流し去った。


「済まんな、次は俺がお前の背中を・・・」


《あ・・・》


「どうなさいましたか、師よ?」


シュルツの方を振り向いた悠とレイラが揃って絶句した。決して取り乱しはしないが、そこにある光景は2人の言葉を奪うのに十分な衝撃を備えていたのだ。




「・・・シュルツ、貴様・・・」


《・・・おん、な?》


「如何にもそうですが?」




シュルツの顔は未だ覆面に覆われたままだった。では一体あの衣擦れはなんだったのかと言うと、答えはシュルツの胸元と足元にあった。そこにあるたわわな膨らみと、濡れたサラシである。


「何故言わんのだ? いや、何故風呂に一緒に入って来たのだ?」


「師弟が風呂に一緒に入るのはごく自然な事と考えますが・・・? 拙者、父上が存命の内は一緒に入っておりましたし・・・」


「・・・それはいいとしても、普通他人の男と女は一緒に風呂には入らぬだろう? それに俺が外せと言ったのは顔の覆面だ。胸のサラシでは無い」


「何を言われますか師よ!? た、例え師と言えど未だ未熟な我が顔を晒すなどという事は出来かねます!!」


体の方を全く隠さずにシュルツは顔の覆面を取られてはならぬとしっかりと押さえた。どうも戦争が終わってからというもの、悠に取って風呂は女難の相を獲得したらしい。亜梨紗の事が悠の脳裏を掠めていた。


「だからな・・・・・・・・・いや、もういい。貴様は上がれ、シュルツ。そして女湯へ行け」


「別に師に逆らう訳では御座いませんが、また体を拭いて服を着て脱いでというのは余計な手間というもの。それに拙者、まだ師に背を流して貰っておりませぬ。裸の付き合いは大切にしろと父上も常々言っておりました。是非お願いしたく・・・」


「貴様の父上の言う裸の付き合いは違う。断じて違うぞ」


「あまり殺生な事を仰いますな、師よ。ならば次からは女湯に入ります。今日の所は見逃して下され」


《・・・やっぱり変な娘だった・・・》


悠に背を向けて座るシュルツからは匂い立つ様な色気があったが、悠が感じたのは単なる疲労だった。それでも一度承諾した事を曲げるのは悠の流儀では無いので、仕方なくタオルを泡立て、シュルツの背中を擦り始める。


《・・・ユウ、今日だけよ? 今日だけだからね!!》


「分かっている。俺も確かめもせずに迂闊だった」


「・・・ん・・・師よ、もう少し強くお願いします」


「・・・ああ」


「こうしていると昔に戻ったかの様です。よくこうして父上に背中を流して貰ったもので・・・」


シュルツは気持ち良さそうに悠に背中を任せていた。上機嫌なシュルツが語るには、物心付いた時から父と娘の2人だけで山奥で暮らし、たまに人里に下りて来ては強者と手合わせをする日々の繰り返しであったらしく、シュルツは世俗に非常に疎かった。・・・きっと山奥に常識を置いて来たのだろうと思われる。


「シュルツとはあまり女の名には聞こえぬが?」


「シュルツは家名です、師よ。我が一族は男は一人前になった時に、女はそれに加えて生涯の伴侶を見付けた時に、初めて己だけの名を得るのです。父上に託された名はありますが、未だ拙者はそれを名乗るに相応しくありませんので」


どうやらおかしな認識は一族の業らしい。


悠は怒るレイラを宥めすかし、色々と話を聞きたがるシュルツをあまり見ない様に言葉を交わしながら風呂の時間を乗り切るのだった。


えー、女難の相でした。


シュルツは女の子だったのです。シュルツちゃんです。家名ですけどね。


・・・男所帯のパーティーに更に男を加える様な切ない真似を私がするはずが無いのです。


ハリハリは正体を現したのでいいとしても、章を跨ぐとシュルツの人物紹介でネタバレになるのでここに突込みました。

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