1-24 会議本番2
受付で、昨夜と同じく第三会議室へ案内された悠と雪人だったが、そこにはすでに二人以外全員が揃っていた。
「これはこれは、遅れてしまいましたかな?」
「いいえ、真田様。まだ少し時間は御座いますわ。悠様も御機嫌よう」
「遅参失礼致しました、志津香様」
「では全員揃った事ですし、早速始めましょうか?ナナナ様もそれで宜しいですか?」
「ええ、いいわ。聞きたい事はどんどん聞いてね」
「本日は私が議長を務めさせて頂きます。皆様、宜しくお願い致します」
資料を作成した朱理が本日の議長の宣言をする。その方が話を進めやすいと思ったからだ。
「ご着席下さい。そしてお手元の資料の最初のページをご覧下さいませ」
まずは情報の裏付けであるが、ナナナにも資料がある手前、
・情報の確認
と多少語を変化させていた。
「まずは確認を取りたい事がありますので、ナナナ様には出来る範囲で答えて頂きたいと思います」
「分かったわ、言えない事や答えられない事、知らない事だったらそう言うから」
「有難う御座います、ではまず最初の質問です。神崎先輩のご家族は天界へ来られましたか?」
「え?・・・ああ、まずは私の言っていた事が本当かどうかっていう事ね、いいわ、答えましょう」
素早く理解して、ナナナは悠に向き直った。
「ユウさんのご家族は、お父様とお母様は勇者の素質ありという事で、バルキリーによって天界に招かれています。エインヘリヤルの一員として、日々修行の毎日ですね」
「その様子や声などは聞けますか?」
「ちょっと待ってね、天界とチャンネルを繋いでみるから・・・・・・・・・うん、そのボードを見てくれる?」
そう言ってナナナはボードに向かって手をかざすと、ボードになにやら映像が浮かび上がってきた。そこには多数の戦士達を指導する母である美夜の姿と、その横で部隊に目を配る父の修の姿があった。向こうでもこちらが見えているようで、美夜は満面の笑みでこちらに向かって手を振り、修はそっぽを向きつつもチラリとこちらを窺っている。照れているのだろう。そんな二人に悠は敬礼をすると、美夜は満足そうに頷き、修は向き直って敬礼を返してきた。そこで画像は徐々に薄れていった。
「んぐぐぐぐ・・・・ぷはぁ!ごめん、これが限界!また機会があったら次はもうちょっと頑張るから」
「いや、十分だ。確かに両親だったと思う。二人が息災だと分かっただけでも感謝する」
最も、死んでいる人間に息災という言葉が当てはまるのかどうかは分からないが。周りの人間達も今の光景に驚いている。古くから面識のある雪人に至っては尚更だ。
「二人の事は確認出来た。後は映像は無理に付ける事は無いから、香織の事を教えてくれるか?」
その悠の言葉を聞いたナナナの表情が曇った。
「えっとね、それは次の質問の時にまとめてもいいかな?」
次の質問というと、
・悠以外の人間では駄目なのかという事についての整合性
である。
何故この質問に香織の事がかかって来るのだろうか?
「まず、ユウさんに行って欲しいっていうのは、今、既存世界にユウさんに並ぶクラスの勇者が居ないからっていうのが一つ。そして、恐らくだけど・・・カオリさんが、最初の異世界強制召喚者だからなのが一つです」
これにはさすがに会議室がどよめいた。それはそうだろう。他ならぬ兄妹である悠ですら、香織の死には疑いを持っていなかったのだ。それは悠の眉が歪んでいる事からも分かる。これは悠の最大限の感情の発露だった。それに先んじて雪人が叫んだ。
「馬鹿な!!あの状況で・・・」
「香織が・・・生きていると?」
「いえ、残念ですが、そこまでは分かりません。ですが、龍と竜が多数転移してきたあの場に、一つだけ世界が特定出来ない転移痕跡がありました。その軌跡を辿ると、どうやらその異世界に転移した可能性がやや高い、といった程度なのです。死んでいなくても、それに近しい状態の可能性はあります。そして、言いたくは無いのですが・・・彼の世界の死者は皆、魔界に堕ちます。最悪、魔界に魂が落ちている可能性もあるんです」
そこでナナナは一息ついた。
「ですので、その件を鑑みて、これはユウさんにお任せしたら良いのではないかと天界の神々も思ったという訳です。でなければ、もしかしたらユウさんで無くても良かったのかもしれませんが・・・」
「それを聞いて他の人間に任せる事は出来んな」
「ですよね」
周りの人間もこの話を聞いて、遂に悠への説得を諦めた。最早悠はどんな不利益や困難があろうとも、例え一生その世界で暮らす事になろうともこの件を他人に譲る事は決してあるまい。
ならば、周りの人間達のやる事は一つだ。全力で悠をサポートしなくてはならない。
まず議長として朱理が口火を切った。
「では次の議題を消化しつつ、内容を詰めて行きましょう。次はこれです」
・救世の内容
「向こうで何をすれば良いかという疑問ですね。ちなみに異世界の子供達の保護は当然として省いてあります。ナナナ様、どうですか?」
努めて冷静な声と表情をする事で、周囲の動揺を抑えて朱里はナナナに尋ねた。
「業の低い人の更生か排除、邪神悪神の排除、強制召喚の停止。この3点を抑えておいてもらいたいと思ってます」
「排除とは、殺害と捉えてもよろしいのですか?」
「はい、最悪の場合はそうなると思います。業が低過ぎると、更生を受け付けない人もいますので」
ナナナはその選択肢を否定せずに認めた。非暴力だけでは救えない命があるなら、相手が誰であろうとも全く躊躇う気は無かった。
「では強制召喚の停止とは何なのだろうか?人か?物か?術か?」
雪人はその言を持って議論を先に進める。
「それはこちらでも把握していません。何らかの術式なのか、神器の類か・・・それを突き止めて頂きたいと思います。命に係るなら、破壊や・・・殺害も致し方ありませんね」
そもそも原因が分からないから止められないのだから、現地へ行って確かめるしかあるまい。
「了解した。それは悠に任せるとしよう」
悠は雪人に無言で頷いた。
香織生存フラグ1って感じでしょうか。
シリアス回が続きそうです。