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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-60 心火3

倒れたハリハリに近付いて行った悠はその側に膝を付き、ナイフに手を掛けた。


「動くなよ、抜くと同時に治療する。・・・『簡易治癒ライトヒール』」


「イッ!? ・・・つつ・・・ヤハハ、やはり敵いませんでしたか。もう少しはイイ所を見せたかったのですが・・・」


抜く瞬間、小さく苦痛を漏らしたハリハリはばつの悪そうな表情で頭を掻いた。


「お前は魔法の達人だが戦闘の達人では無いからこうなっただけだ。・・・最初に言った遠間云々もハッタリだろう?」


「アララ、そちらもバレバレでしたか・・・」


「初回以降距離を詰めようとせんのだから俺で無くてもその内気付く。魔法はやはり中距離以降から使うのが最適なのは異論が無かろう」


ハリハリはやはり接近戦などをするつもりは無かったのだ。ただ、迂闊に距離を縮めると危険だと悠に刷り込みたかったのだが、それならば危険であっても距離を詰める振りを続けるべきであった。すぐにそれに気付いた悠はあえて距離を保ったままハリハリの油断を誘ったという側面もあり、やはり事戦闘で悠の上を行くのは容易では無かったのだ。


「ええ。魔法は精密さを欠くものが多く、緻密な近接戦闘には基本的に不向きなのです。それに『爆裂のエクスプロージョンアロー』の様に、効果範囲が広いものも多いのでね。・・・それでもワタクシもそれなりに戦いをこなしてきた自負はあったのですが・・・寄る年波には勝てませんね。200年も戦っていない間にすっかり戦闘勘が失われてしまいました」


「それでもお前の魔法技術は他に類を見ないほどに高かったぞ。実はドラゴン退治の際に他のエルフにも会ったのだが、話にならん力量だった。唯一マシだったのはナターリアくらいか・・・」


「!! 姫にお会いになられたのですか!?」


大人しく治療を受けていたハリハリがその一言で飛び起きた。


「知り合いか? ああ、向こうの国でも魔物モンスターの大量発生が起こったらしく、女王が戦争で不在の為に自ら精鋭を率いて解決しに来たらしい。・・・もっとも、その精鋭とやらはドラゴンにあっさりすり潰されてしまったがな」


「それで、姫は!? 姫はご無事なのですか!?」


普段の軽い雰囲気が消し飛び、真剣な表情でハリハリは悠の肩を掴みながらナターリアの安否を問い詰めて来た。


「案ずるな、ナターリアは無事エルフの里に送り返した。怪我も治療して五体満足で帰らせたから心配はいらん」


「・・・そう、ですか・・・良かった・・・」


「知り合いか?」


安堵の溜息を付いたハリハリは苦い顔をしながら悠に答えた。


「ワタクシの俗世のしがらみというヤツでして・・・姫はワタクシの親友の娘だったのですよ。幼い姫に、ワタクシも魔法の個人教師として手解きをした事もあります。中々敏い所がありまして将来はワタクシを超える魔法使いになるかと楽しみにしていたのです」


「なるほど・・・ハリハリの教えあればこその実力だったか。お前の教えでナターリアは命を拾ったぞ」


「それは重畳です。ワタクシのご指導も無駄では無かったようで、ヤハハ」


ハリハリは実に嬉しそうに笑い声を上げ、悠の手を取った。


「国を捨てた不良エルフではありますが、姫を御救い頂いた事に千万の感謝を。ありがとう御座います、ユウ殿」


「礼には及ばんよ。積極的に救いに行った訳では無く、単なる成り行きだ。・・・そういえば、近い内にナターリアとはもう一度会う事になっているが、お前も来るか?」


「え!? あ、いやぁ、お会いしたいのはヤマヤマなのですが・・・その、ワタクシ、死んだ事になっていますので、姫に会うと不味いというか・・・」


「別に生きている事を吹聴しようという訳では無いだろう。その場で旧交を温めるだけでも良いでは無いか。ナターリアから連絡があったらお前にも伝えるから、それまでに覚悟を決めておけ」


「連絡?」


ハリハリの疑問に答える為に、悠は腰の袋から『伝心の指輪』を取り出した。


「これだ。後ほど礼をする時に連絡すると言ってナターリアから受け取っている」


「姫が!? 姫がユウ殿に指輪を送ったと申されますか!?」


「そうだが・・・何か不都合があるのか?」


「や、不都合と言うか・・・うーん、姫が人族に指輪を・・・ねぇ・・・」


餅が喉に詰まったかの様な難しい表情を作ったハリハリであったが、首を振ってその事は頭から追い出した。


「ま、それはワタクシが口を差し挟む筋では無いでしょう。・・・ところでユウ殿、それにワタクシを誘って下さるという事は、ワタクシは付いて行ってもよろしいので?」


ハリハリの言葉に悠は頷いた。


「言動も行動も性格も怪しい奴だったが、魔法を行使して俺に立ち向かったお前自身は信じられると判断した。お前の心の火とやらは、俺に確かな爪痕を残したからな」


悠が顔を横に向けると、そこには『爆裂の矢』で焦げた跡が肌に残っていた。


「まともに戦って後手に回ったのは久方ぶりの事だった。前言通り、付いて来て構わん。だが客人扱いは期待せんで貰うぞ。お前にもして貰う事が山の様にあるのだからな」


「構いませんとも! ヤハハ、これでワタクシの夢も一歩前進致しました!! ・・・あ、それとユウ殿、リーン嬢もご一緒に連れて行って下さい。ワタクシが巻き込んだ手前、責任を取らねばいけませんので。それにリーン嬢がお一人になったのにはユウ殿も関わってらっしゃるのですよね? ここは責任を分け合うべきだと思わなくも無いのですが?」


いけしゃあしゃあというハリハリに悠が少し呆れ顔になった。


「調子のいい事を言う。・・・が、確かに一連のリーン達には俺にも責任があるな・・・。分かった、リーンが望むなら連れて行く」


「流石!! ワタクシも怪我をしてまで交渉した甲斐があるというものです!! リーン嬢! リーン嬢!! ユウ殿の了承を得ましたよーーー!!!」


「わっ、ほ、本当ですか!?」


リュートを抱いたリーンがその声を聞いて馬車から悠の所へ駆け寄った。


「縁があって関わったが、結果としてパーティーを解散させた原因の一つは俺にあろう。・・・だが、先の訓練でも分かっただろうが、俺は訓練中は容赦せん。それに、一朝一夕で強くなる事も出来んし、故あって今回の身内の訓練は途中で逃げ出す事も叶わん。俺を殺したくなるほど辛くなるだろうが、それでも付いて来るか?」


悠は決してリーンを翻意させる為に言っているのでは無く、全くの本音を語っているに過ぎない。悠は限られた期限を無駄にするつもりは無く、子供達に出来る限りの事を叩き込む心算であった。


リーンは悠が本気だと知ると唾を飲み下したが、それでも腹にぐっと力を入れて答えた。


「・・・私もただ行く所が無いからここに居るんじゃありません。少しでも強く、立派になってまた会おうねってジオとサティに約束したんです!! どんな厳しい修行でも泣き言は言いませんから連れて行って下さい!!!」


「承知した。・・・それと、もう気付いているだろうが、俺にも色々裏の事情がある。今晩にでもハリハリと纏めて話すから、それまでは諸処気になる事はあっても目を瞑ってくれ」


「はい、分かりました」


その時、手に力を込めるリーンに下方向から情けない声が掛けられた。




「あー・・・リーン嬢? そろそろワタクシのリュートを返してくれると嬉しいのですがネ?」




先ほどから力を込めて握り締められる自分のリュートを見て悲しそうな顔をするハリハリに、リーンは慌てて手にしたリュートを返したのだった。

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