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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-58 心火1

リーンはまなじりを下げたどこか困った様な顔でハリハリと悠を見比べていたが、ハリハリは楽しそうに微笑むだけだったので自分の口から説明する事にした。


「えぇと・・・私、サティやジオと離れて一人で自分を鍛え直そうと思って・・・それで、ユウさんにご指導を仰ぎたいと思って探していたんです。そうしたらハリハリさんが話し掛けて来て、「ワタクシ、知合いですので途中で待ち伏せしてお願いしましょう」って誘われて、それで今に至るんですけど・・・」


リーンは見慣れない悠の姿や予想以上に自分達が警戒されている事に大きな戸惑いを得ていたが、ハリハリがその先を続けた。


「ワタクシもまだ先日の許可を頂いておりませんでしたのでね、リーン嬢に相乗りさせて貰おうかと」


「それと待ち伏せする事がどんな関係があるのだ?」


悠は竜騎士化を解いてハリハリに尋ねた。後ろでリーンが驚いているが、今はハリハリとの会話を優先すべきだろう。


「ワタクシも些か魔法をかじっておりましてね? 例え危険な場所に行くとしても大丈夫だとお伝えしたかったのですが・・・もしかして警戒させちゃいました?」


道化じみた仕草でハリハリが問うて来たが、あまり雰囲気は軽くならなかった。


「端的に言って俺はお前を信用しておらん。正体を隠して近付く者はな」


「それはお互い様だと思うのですが? 先ほどのユウ殿が只人と申しますか?」


無言の悠と微笑みを崩さないハリハリの間にある空気が僅かに帯電したかの様にピリピリと緊張を孕んだが、ハリハリが肩を竦めて口を開いた。


「ヤレヤレ、ユウ殿はワタクシの正体をご懸念の様子ですね? ・・・ならばどうでしょうか、ワタクシがここで真の姿を晒してユウ殿と一手交える事で信頼を勝ち取るというのは?」


ハリハリの申し出に悠以外の全員が驚きを露わにしていた。ベロウはハリハリが戦闘において素人であると確信していたし、シュルツもハリハリが一目見てただの雑魚であると見抜いていたからだ。


「随分あっさりと認めるのだな。俺としても怪しい人物にはあまり手加減など出来んぞ?」


「そうでなくては証明になりますまい。それに・・・例えユウ殿であっても、そう簡単に倒されるつもりも御座いませんよ?」


言いながらハリハリが指に嵌る2つの指輪を取った瞬間、信じ難い物が全員の目を釘付けにした。


「うおっ!?」


「ま、まさか!?」


思わずベロウやビリーが後退りしたのも無理のない事であろう。指輪を外したハリハリの髪は一瞬で緑色に染まり、耳が上に伸びた。そこそこに整っていた顔の輪郭も細くなり、鼻梁は高く目元は涼しく切れ長に流れた。そこに居るのは既に人間の吟遊詩人などでは無かった。


「え、エルフ!?」


「ほう・・・エルフとは・・・」


ビリーの足が震え、シュルツが感嘆の声を漏らす。それを聞いたハリハリは印象だけは変わらない微笑みを浮かべて腰を折った。




「如何にも。ワタクシはエルフ、流浪のエルフ、ハリーティア・ハリベルと申します。ですがそれはもう捨て去った名。是非とも皆様にはハリハリと呼んで頂きたいですね」




「エルフが人間の地に何の用だ? 監視でもしていたか?」


「ヤハハ、そうユウさんが思われるのも無理は無いかと思いますが、違いますよ? ・・・あ、リーン嬢、ちょっとこのリュートを持っていて下さい」


「は、はひ!!」


既に脳が許容限界を迎えていたリーンは素直にハリハリからリュートを受け取った。


「実はワタクシ、エルフの営みがあまりに下らなくて出奔した変わり者でして。もう200年以上昔の事ですが、私はエルフィンシードで魔法開発に携わっておりました。しかし来る日も来る日も同じ事をしている内に、自分が単なる魔法を作るだけの装置であるかの様な感覚を抱き、自らの生に疑問を持ったのです。同朋はワタクシを『因果の綴り手』だの『最も叡智ある者』だの呼んで敬いましたが、ワタクシが欲するのは生きる事に対する熱でした。伝手を使って手に入れた人間達の書物にある様な熱ですよ!!」


大仰に手を振って自らの言葉に興奮したハリーティア・・・ハリハリは悠に胸中を晒していく。自分で言うだけあって相当の変人であった。


「人間は素晴らしい!! 圧倒的に短い寿命、乏しい才能、貧弱な体。そしてそれを補って余りある情熱!! 冷え切ったエルフ達とは大違いです!! なんと愛おしい事か・・・!」


微笑むハリハリは更に笑みを深くして半生を語る。


「ある日、エルフの全てが耐え難くなったワタクシは身の回りの物を詰め込んで、単身エルフの里を後にしました。後腐れの無い様に家に火を放って、動物の死体で作った身代わりも用意した上でね。そして正体を隠す為にあらゆる看破を防ぐ『拒視の指輪』と肉体情報を改変する『リング・オブ・イミテーション』を使い、謎の吟遊詩人ハリハリとして放浪の旅に出たのです」


ハリハリが外した指輪を指に挟んでヒラヒラと振ってみせた。


「それでお前の目的は何だ? 英雄として語り継がれる事か?」


「ちょっとだけ違いますね。私は人間の状態に変化している時は別にその辺に居る若者と大して変わらない力しか有りませんし」


そこでハリハリはリュートをかき鳴らそうとして手元に無い事に気付き、ちょっと寂しそうな顔をして答えた。


「ワタクシはワタクシが作った英雄譚サーガを語り継いで欲しいのです。ワタクシの紡いだ物語が、いつかのワタクシの心に火を灯したように、誰かの心に火を灯したいのです!!! ・・・ですが・・・」


そこでハリハリはがっくりと肩を落とした。


「この200年というもの、マトモな英雄は現れはしませんでした。コロッサス殿には随分と期待していたのですが、いい所で解散してしまいましたし・・・」


ハリハリは心底残念そうに首を振った。


「ワタクシはいつしか故郷にほど近いアザリアで町長のドラ息子達を相手に小銭を稼ぐ怠惰な日々を送るに堕しておりました。このままここで朽ちていくのかと・・・そんな時です、ユウ殿とバロー殿、アイオーン殿が滅びゆくアザリアを訪れたのは」


とても嬉しそうにハリハリが相好を崩し、リュートを鳴らす真似をした。


「最初は少々腕の立つ程度の者達かと思っておりましたが、宴席でのバロー殿の語り口に惹かれて、いつの間にかワタクシは伴奏をしておりました。そして感じたのです、この人達こそワタクシが求めていた英雄だと!! ・・・ワタクシはクエイド様に付いて行くという名目でサッサと家財を処分する様に申し出、そして今に至るという訳です。お分かり頂けましたか?」


「お、俺のせいかよ・・・」


「そこは「お陰」と言って欲しいですねぇ?」


頭を掻き毟るベロウにハリハリが訂正を入れ、悠に向き直った。


「さて、ワタクシの身の上などどうでも良いのです。問題はワタクシを受け入れて下さるか否かという事ですが・・・どうです、これまでの話で絆されて仲間にしたくなったりしません?」


「俺は話だけを聞いて全てを受け入れるほどお人好しでは無いな。・・・だが、お前の話の熱に免じて、一手付き合おう。・・・他の者達は周囲を警戒してくれ、邪魔が入らぬ様にな」


「これはこれは!! 中々ユウ殿も洒落ていらっしゃる!! ・・・しかし、ワタクシの熱は、少々お熱いですよ?」


ローブを翻したハリハリの体から不可視の力が迸り、ローブをはためかせ始めた。


「リーン、馬車まで下がっていろ」


「はいっ!」


リュートを抱いたまま、リーンが慌てて馬車まで駆け寄って行く。


「マトモに戦うのは実に200年振りです。加減を間違えてしまったらゴメンナサイ」


「それで倒されるなら俺もそれまでの者よ。世界を救うなど烏滸がましい」


「ヤハハ・・・ユウ殿が言うと冗談に聞こえませんね・・・いざ!!」


ハリハリと悠は同時に相手に向かって飛び出して行った。

ハリハリはエルフでした。その実力のほどは次回に。

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