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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-54 逃避行

「荷物は?」


「纏めてあります。ただ、物が物だけに相当重量が嵩んでしまって・・・」


中では旅装のカリスとカロンが悠を待っていたが、大きな荷物に難儀していた。鍛冶仕事で使う鎚や金床だけでも相当な重量になるので持ち運びはかなり困難なのだ。それでも使い慣れない道具では納得のいく仕事が出来ないので置いて行く訳にも行かなかった。


「構わん、俺の鞄に入れて行く」


悠はそれらをひょいひょいと自らの『冒険鞄エクスパンションバック』へと収納していった。物によっては数十キロは下らない金属製品をまるで小物の様に扱う悠に改めてカロンとカリスは感心する。


数分で一通りの道具類をしまい終えた悠が鞄を背負って周囲を窺った。


「これで全部か?」


「はい。あの・・・どうやって街から出るつもりですか? あのメロウズとか言う男の手を借りるのでしょうか?」


まだ街から出る方法を聞いていなかったカロンに悠は右手の人差し指を上に向けた。


「上から行く」








「たまげた・・・兄さんに出会ってから驚く事ばかりだったけど、今日という今日はたまげたよ・・・」


「これは、なんとも・・・」


カロンとカリスは眼下に広がる夜の王都を瞬きもせずに見下ろしながら呟いた。


「王都というだけあって城壁や出入口の監視はそれなりに厳しいが、空は無警戒に近い。昼間でも無ければまず発見はされんよ」


悠達の姿は王都の遥か上空にあった。両脇にカロンとカリスを抱え、更に用意しておいた黒いマントで2人の姿を隠している。当然、既に『竜騎士』に変じた状態での事だ。


「それはそうでしょうが・・・物事には分かっていても出来る事と出来ない事があります。これは流石に想定外ですよ・・・」


やや呆れ気味にカロンが悠に言ったが、悠にとっては2人を無事逃す事だけが重要なので特にそれについては返答しなかった。代わりに出て来たのは実務的な事柄である。


「王都から離れたら速度を上げるぞ。慣れない内は目を閉じていた方がいい」


「いやいや! こんな光景この先一生見られないかもしれないんだから、目なんか閉じてちゃ勿体無いよ!!」


目を輝かせながらカリスが足をバタバタさせていた。どうやらカリスは高所がいたく気に入ったらしい。


「私は従う事にします。正直、これほど地面が恋しく感じた事はありません・・・」


反面、カロンは目を閉じて身を固くしていた。


「目的地まで左程時間はかからぬゆえ、少しだけ我慢してくれ。行くぞ」


緩やかに王都の空から離れた悠が徐々に速度を上げ、やがて見えなくなると、王都の空は平常通りの静けさを取り戻したのだった。








そして飛ぶ事十数分。悠は目的地に辿り着いて降下し、地面に2人を下ろした。


「ここが俺達の住まいだ。近くに何も無く不便かもしれんが・・・」


「ひゃーーーー!!! 凄いお屋敷だぁ!!! 本当にこんな所に住んでいいのかい、兄さん?」


「ああ、今日は急ぐので中を案内する事は出来んが、当分の衣食住には困らんと思う。不足があれば俺に言ってくれ」


「はぁ・・・不足がある様には見えませんが・・・」


屋敷を見上げるカリスの口から歓声が上がり、カロンの口からは溜息が漏れた。そんな2人を置いて、悠は結界を解除し中へと2人を案内する。その際、玄関脇の台座に置いてある葵を手に取った。


《おかえりなさいませ、我がマスター。お客様ですか?》


「ああ、しばらくここに逗留する事となったカロンとカリスだ」


「おお! ユウさんはレイラさんの他にも人格を持った魔道具をお持ちなのですね!!」


葵を魔道具と勘違いしたカロンが驚きを口にしたが、悠も細かな説明はしなかった。そこまで詳細に話している時間が無かったからだが、大体同じ様な物なので支障は無いと思ったからだ。


「これは葵という名で、この屋敷の管理をしてくれている。葵、俺の留守中カロンに権限の一部を委譲する事は出来るか?」


「可能です。客人ゲスト権限であれば重要施設以外の立ち入り、機能を利用出来ます。登録されますか?」


「頼む」


《ではカロン様、私を手にお取り下さい。権限の登録を行いますので》


「・・・これでよろしいので?」


カロンが葵を手に取ると、葵が数度点滅し、カロンの権限を登録した。


《・・・はい、結構です。施設を利用される時は私にご命令下さい》


「葵に頼めば湯を沸かしたり照明を使ったりする事が出来る。風呂や明かりが必要な時は言ってくれ。それと葵、この家に鍛冶を行う事が出来る場所はあるか?」


悠の説明にカロンはただ圧倒されて首を縦に振るだけであった。そんなカロンの代わりに悠が葵に必要な事を質問した。


《地下に可能な施設があります。防音もなされていますので、いつご使用頂いても大丈夫です。ただ、地下にはそれ以外の重要施設もありますが、そちらは客人権限では立ち入る事は出来ませんのでご了承下さい》


「・・・と、いう事らしい。そちらに荷物を下ろしたら俺はまた王都に帰るので、その間は施設は好きに使ってくれ。部屋も使用中でなければどこを使っても構わん」


「・・・いや~、アタシ、もう驚くのも疲れちゃったよ。今日はもう寝る・・・」


「・・・私もです。全ては明日、頭がハッキリしてから考える事にします・・・」


「ああ、今日はもう疲れただろうから休むといい。葵、俺が屋敷を出たら結界を張り直せ」


《了解致しました、我が主》


眠気の残る頭に大量の未知の情報を流し込まれて疲れを感じた2人は全てを明日に先送りして休む事にし、悠も地下の該当施設に荷物を置くと、すぐにまた王都へと引き返したのだった。








そしてまた飛ぶ事10分。王都に引き返した悠は再び上空から王都に侵入し、周囲の気配を探りながら慎重にカロンの家近くに降り立って竜騎士化を解除し、未だ見張りを続けているメロウズの部下に、すれ違いざまにカロンの事を記したメモを渡して宿へと帰還した。


宿の中ではまだ4人とも警戒を解いていなかったが、入って来たのが悠と分かると空気が弛緩した。


「済んだか?」


「ああ、済んだ。皆はもう休んでくれ」


事情を知っているベロウに対して多くは語らず、またベロウも問わず、それだけ聞くとベロウは手を振って部屋へと上がって行った。


「それじゃ休ませて貰います」


「何かありましたら呼んで下さいね、ユウ兄さん?」


「分かっている、お休み」


ベロウ、ビリー、ミリーが悠に促されて次々と寝室へ戻って行ったが、シュルツだけはその場を動こうとしなかった。


「シュルツ、お前も休め」


「師が不寝番をされるというのに弟子たる拙者が先に休むなど有り得ぬ事です。お気になさらずに」


既に厳しい師弟関係を自らに課すシュルツらしい物言いだったが、悠が起きている以上、シュルツの出番は無いので悠は重ねてシュルツに眠る事を促した。


「師を敬う気持ちは理解出来るが、時には理を優先しろ。ここで2人共起きている意味などあるまい。それとも、俺の力量に不安があると言いたいのか?」


わざと高圧的に悠に言われてはシュルツには反論の術が無かった。


「滅相もありません!! しかし、それならば師の事情とやらをお聞かせ願えませぬか?」


シュルツは純粋に悠の強さが如何なる修行の成果であるのかを聞きたいと思っていて、今がそのよい機会ではないかと考えて共に見張りをしようとしていたのだ。


「・・・ならば話してもいいが、この話は他言無用だぞ?」


「誓って何者にも漏らしませぬ」


真剣な口調で宣誓するシュルツに悠は頷き、やがて事の起こりからを語る為に静かに口を開く。


長い夜の静寂に、悠の独白だけが流れていった。

監視が外れていたのであっさりとカロン親子は脱出しました。


でも、説明も無く色々見せられてしまい、お疲れです。

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