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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-52 『能力鑑定(アプライザル)』4

「残るはアルトか?」


「よ、よろしくお願いします!」


アルトは緊張の面持ちで手にしている絵をサロメに差し出した。それは地球出身者から見れば面接官に履歴書を差し出す就活生・・・と言うよりはアルトの年齢からすると通信簿を親に差し出す学生の様に見えた。


「若様の絵に描かれているのは・・・周囲を囲む数多の魔物モンスターと、足元に倒れているのは・・・恐らく仲間ですね。中央に描かれている、背中を向けている剣士は若様本人でしょう。そして手には折れた剣・・・ふむ・・・」


アルトは口から心臓が飛び出しそうな表情でサロメの解釈を待っていた。何とも不吉な予感を感じさせるこの絵が一体如何なる意味を持つのか、アルトは気が気でなかったのだ。


「・・・・・・・・・」


サロメも焦らしている訳では無いのだろうが、絵を見つめたまま沈黙を守っていた。ただ真摯に難題に挑む数学者の様な気配を漂わせながら静かに絵を読み解いている。


やがてサロメが一言だけ呟いた。




「『勇気ヴァロー』・・・」




「え!? な、何ですかサロメさん!?」


じっとサロメが口を開くのを待っていたアルトがその呟きに反応してサロメに詰め寄った。


「『勇気』と申しました。・・・この絵に描かれているのは絶望です。数多の魔物に倒れ伏した仲間達。手にした剣は折れ、救援も望めそうに無い絶望的な状況の中でも中央に立つ剣士は魔物に背を向けてはいません。諦める事無く不退転の意思を感じるこの絵から私が読み解けるのは『勇気』が相応しいのではないかと思うのです」


ポカンとしてサロメの解釈を聞くアルトにサロメは言葉を続けた。


「『勇気』は戦士だけの才能ではありません。魔法を扱う者にもこの才能の保持者が居た記録があります。心が折れぬ限り、全能力が向上する才能です。ですので、まずはしっかりとした心の鍛練を積まれる事をお勧めしますよ」


「は、はい!! ご指導ありがとうございます!!」


嬉しそうに頭を下げるアルトにサロメは珍しく困り顔であった。最近のアルトは貴族の若様という立場を忘れてごく自然に年長者を敬う傾向がある。それは表面上では美徳と称される物であるが、アルトほどの立場の者は肩書きを優先する場面の方が多いので、公衆の面前では控えて貰わねばならないだろう。


「ユウさん、若様には人目のある場所ではそれに相応しい振る舞いを成さる様にご指導下さい。時として、年長というだけではへりくだっては不都合になる人物も居りますので・・・」


「忠告はありがたく受け止めておく。が、今は内輪の人間しかおらんからこそだ。アルトとて公私の別は付けている」


「はい!! サロメさんは尊敬すべき人ですから!!」


「わ、若様!! その様な事は面と向かって仰らないで下さい!!」


「おお、鬼の霍乱ってか? プックック・・・」


素直なアルトの言葉にサロメが赤面して注意を促したが、後ろで含み笑いをするコロッサスのせいでその効果もイマイチであった。そんなコロッサスも振り向いたサロメの絶対零度の視線を受けて慌てて笑いを引っ込める。


「・・・ゴホン。・・・あー・・・、そ、そうだ! 『勇気』に関する資料もあった方がいいんじゃないか、サロメ?」


「・・・・・・そうですね。ユウさん、明日『成長グロウ』に関する資料と一緒にそちらもお渡しします」


「分かった、活用させて貰おう」


露骨な話題変換であったが、また後で折檻しようとサロメは思い直し、実務的な事を悠に語った。


「・・・これで他の方の分は良いとして・・・」


そう言ってサロメが見たのは、未だ手が付けられていないテーブルだった。そこにはエリーが殴り描きした絵が残されているが、他の絵とは明らかに雰囲気も規模も異なる物であった。


「・・・まるで神話の一節を切り取ったかの様な情景です・・・この絵だけでも貴族にでも売りに行けば喜んでいくらでも金貨を積みそうですね・・・」


芸術にも詳しいサロメが絶賛するほど、その絵の筆致は優れていた。何より他の絵と違うのは迫力である。静止画である他の絵と違い、悠の絵には今にもそこから情景が溢れ出して来そうな躍動感が感じられた。赤く色付けられたドラゴンも、見ているだけで呻き声まで聞こえて来そうだ。


「ドラゴン・・・いえ、リュウに乗るユウさんは、そのままレイラさんとユウさんの関係性を示しているのでしょうね。・・・しかし、問題は眼下に広がる屍の方です。これは人間だけの屍ではありません。エルフも居るしドワーフも居る。果ては魔族まで混じっています。いえ、それどころかこの世界の住人全てが描かれている様に見えますね。・・・恐ろしい事ですが、素直に読み解くならば、悠さんの資質は『破壊者デストロイヤー』と思えます」


《・・・不穏な称号ね?》


サロメの口調から穏やかならざる物を感じ取ったレイラがそう言うと、サロメも否定する事無く首肯した。


「ええ。『破壊者』の才能を持った者は有史以来たった一人しか確認されていません。その才能を持つ者が生きている間に、世界の人口は激減したという事が伝えられているのみです。『能力鑑定』の第一級禁忌指定であり、もし見つかれば即座に処刑される事になっています」


「そんな!?」


「ユウ先生に何かしようってんなら許さないぞ!!」


「・・・絶対に許さない・・・」


「ちょ、ちょっと皆、落ち着いてよ!! 蒼凪、怖い雰囲気を出さないの!!」


恵に窘められて女性陣は渋々矛を収めたが、黙りはしても神奈や蒼凪の目は怒りに燃え上っていた。


「勿論、この非公式の『能力鑑定』の場でその様な事はしません。そもそも、『破壊者』と断定する事も不可能です。何しろ、読み解ける場面が一部しか描かれていないのですからね。木を見て森を見ずという様な真似は私の本意ではありません。ただ、一般にはそう思われかねないという事だけはご留意下さい」


「ああ、分かっている。お前達も少しは頭を冷やして話を聞け。サロメは一般論を語っているだけだ」


「「はい・・・」」


若干肩を落として神奈と蒼凪が頷いた。だが小声で自分達の意思を確認し合っている。


(もし悠先生が世界の敵になっても、あたし達は先生の味方だよな?)


(・・・当然。悠先生を傷付けるなら、例え誰であっても、容赦はしない)


(コラ、2人共大人しく話を聞きなさい。・・・心配しなくても、私達と悠先生は一蓮托生よ。・・・ずっと、一緒に居るんだから・・・)


自分に言い聞かせる様に言い切る樹里亜に神奈と蒼凪も頷き返した。


そんな子供達を少し微笑ましそうに見やり、サロメは再び悠の絵に視線を戻した。


「さて、あとこの絵から読み解ける事と言えば、ユウさんが手に持っているスピアですね。・・・ユウさん、この槍に見覚えは?」


「いや・・・見た事も無い槍だ。そもそも俺は戦場に得物を持って行く事は殆ど無いのでな」


「ではこの槍は実物では無く精神的象徴なのかもしれませんね。槍が表す意味は貫徹する意思です。そしてこの巨大な槍はユウさんの揺るぎない意思と解釈するならば・・・ユウさんは精神攻撃に高い耐性を持つのでは無いかと思われます」


精神に関しては悠にもそれなりの自負がある話であった。その強固な精神を手に入れる為に悠は厳しいという言葉では生温いほどの修練を積んで来たのだから。


「けれど、そこまではいいとして・・・戦う者の絶えた世界でユウさんは何者と戦っているのでしょうか? それが最後にして最大の謎なのですが、ここから読み解く事は叶いませんね。エリーの『能力鑑定』とユウさんの相性はあまり良くないようで・・・私に分かる事は以上です」


「俺に関しては別にいいのだ。既に自分の力量は弁えている」


悠は何かあるなら知っておきたいと思っただけで、無ければ無いで構わないと、そこで話を打ち切った。


「エリー、今日は世話になったな。この礼は後日必ずさせて貰う」


「いいえ! もう『高位治癒薬(ハイポーション』も頂きましたから!!」


エリーは慌てて辞退を申し出たが、悠はそれを否定した。


「あれは単なる事故の補填でしか無い。礼とは全く別の物に過ぎんよ」


「でも・・・」


「楽しみにしておけばいいじゃないか、エリー。ユウもあんまり高い物は勘弁してやってくれ。エリーは真面目だから気後れしちまうんだよ」


エリーが恐縮するのを見てコロッサスがとりなした。


「分かった、ならばそう気張らない物を用意しておこう」


「まぁ、それでしたら・・・」


この時詳しく金額の上限を決めなかった事を後日エリーは後悔した。エリーの気張らない範囲は精々銀貨一枚以下なのだが、悠の気張らない範囲はその百倍を遥かに超えていたのだ。そもそも悠は金銭に執着を抱くタイプでは無いが礼を渋る様な性格もしておらず、軍に居た時は給料の7割は各種福祉機関に寄付して自分は軍宿舎で慎ましく暮らしていたし、残りの3割に関しても無駄にする事は無く、友人や恩師への祝い事でほぼ消費していた。


あまりにも金銭に執着しない悠に業を煮やした雪人が悠の給料の1割を強制的に天引きして貯金するシステムを強権を振るって認めさせなかったら悠は龍鉄の靴を買う事は出来なかっただろう。


因みに、雪人が軍の会議でその事を議題に上げた時、反対したのは悠一人であった・・・

結局の所、悠に他の能力や才能があるかどうかは不明でした。


補足として、竜に乗るイメージはその対象の支配を意味しており、端的に悠が『竜騎士』である事を指す物です。しかし、この世界には『竜騎士』の概念が無いため、エリーの処理能力に多大な負担を掛ける原因の一つになりました。

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