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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-47 崩壊と再生

「待てよ!!」


宴会を辞し、ギルドを去ろうとした悠に怒声が浴びせられた。振り向くと、そこには怒りの形相も露わなジオが立っていた。


「何用だ? 俺は今から帰るのだが?」


「知った事か!!! お前リーンとサティに何を言ったんだよ!? サティは冒険者を辞めるって言うし、リーンはもう俺達とは一緒に居られないって・・・どういう事なんだよ!?」


ジオの弾劾の言葉は烈しかったが、悠は小揺るぎもせず答えた。


「そういう事だろうが。サティは自らの心を知り冒険者を辞め、リーンは独り立ちする為に甘い環境から身を離す事を選んだ。どこに疑問がある?」


「お前が2人を唆したんだろ!! お前のせいで俺達はバラバラになっちまう!! たまに失敗はあったけど、俺達は上手くやれてたんだ!! お前が来る前までは!!!」


「・・・上手くやれていた、か。思い違いもそこまで行くと滑稽だな、ジオ?」


「何だとッ!!!」


悠の氷を吐く様な冷たい言葉にジオは激昂して剣に手を掛けた。


だが悠はそれを目にしても何ら態度を改める事も無くジオに言葉の刃で斬り付けた。


「お前達のパーティーはお前がリーダーなのだったな、ジオ」


「それがどうした!?」


「ならば、強いて言えば今回の顛末は全て貴様が悪いのだ。パーティーを掌握出来て居なかった貴様がな」


「ふ、ふざけるなぁッ!!!」


遂にジオは剣を抜き、悠に向かって突き付けた。


「今の言葉を取り消せ!!! 許さねぇぞ!!!」


「自分が気に入らない事は全否定して省みる事が無い。そしてその意を貫く為の力も無い。そんな子供がリーダー? 笑わせてくれる」


「だまれぇッ!!!」


ジオは抜き身の剣を悠に振り下ろしたが、それはあっさりと悠によって止められていた。しかも片手で刃を摘まれると言う屈辱的な形で。


「あっ!?」


驚愕して固まるジオの目の前で悠がゆっくりと剣を摘むのとは逆の手を振り被った。慌ててジオは剣を引こうとしたが、悠に摘まれた剣は指だけで支えているとは思えない力て固定されていてビクともしない。


剣に固執したジオが殴られたのはその直後だった。


「ぐあッ!?」


ジオの体が錐揉みしながら地面を転がっていく。いつの間にか集まっていたギャラリーが慌ててその場から飛び退いた。


「呆れ果てるな。今日、貴様は何を学んだのだ? 何をしにここに来たというのだ?」


「・・・う・・・ち、畜生・・・」


「立て。・・・なんだ、一発撫でてやっただけでもう立てんのか? この根性無しが」


「ぐ・・・! ぐぐ・・・!!」


悠に挑発されたジオが怒りを糧に四肢に力を込め、ゆっくりと立ち上がった。


だがそんな満身創痍のジオに対しても悠の言葉には容赦がなかった。


「貴様は2人の言葉をちゃんと聞いたのか? サティやリーンがどの様な思いを持ってそれを貴様に伝えたと思っている? 答えて見せろ!」


「・・・ぐ・・・」


「答えられんのだろう? 貴様はそれを聞いた途端、頭に血が上って何も考える事無く俺に答えを求めた。アイツが悪い、アイツが2人に余計な事を吹き込んだからこうなったのだとな」


ジオは思わず拳を握り締めたが、何も言い返す事が出来なかった。


「リーダーを張るのなら、メンバーの心に気を払わねばならん。良く見、良く聞き、そしてそれを助けてやらねばならん。上手く行っていた? 違うな、それは友人としての事だ。冒険者としてのお前達は何一つ上手く行ってなどおらん。その証拠に、訓練前に怪我はする、そしてその怪我の手当ても適当、挙句の果てにそれをどうにかしようと交渉に来たのはリーダーでも何でもないリーンだった。あれは本来貴様がやらねばならん事なのだぞ? 分かっているのか?」


「・・・」


「責任は適当、メンバーのケアも適当、そして何かあるとすぐ激昂して台無しにする。それがリーダーのする事なのか? 反論があるなら言って見せろ!!!」


悠の怒号にようやく立っていたジオの腰が砕けた。冷水を脳に直接掛けられたかの様に頭の芯が冷えていた。


「・・・全てを言わねば察する事が出来ないお前に差し障りの無い範囲で教えてやる。サティはそもそも冒険者としての自分に懐疑的であった。そしてリーンはそれに気付いていた。だがリーンには両親の居ない自分を救ってくれたお前達に対して恩があったから、その事を問う事も打ち明ける事も出来なかったのだ。貴様はそれを自分の中だけで上手く行っているなどと判断し、そして今日、それが限界に来た。もしこれがもう少し後だったならば、貴様とサティは生涯不自由を抱えて冒険者を引退させられ、リーンは心に傷を残してお前達の下を去っただろう。まだ未熟なリーンの事、どこかで野垂れ死んだがもしれんな」


「・・・・・・そんな・・・・・・」


ジオの顔から血の気が引き、両足が力を失って崩れ落ちた。自分の世界がバラバラと崩れ落ちる衝撃をジオは現実の物として感じていた。


「もし今日を乗り越えても、断言してもいいがお前達のパーティーは近い内に崩壊していただろう。・・・最も残酷な形でな」


ジオの口からカチカチと音が響いた。精神的な冷気が物理的な冷気としてジオの体を苛んでいた。


「今貴様がするべき事は俺などに突っかかって無駄な時間を過ごす事などでは無い。2人に謝り、そして貴様自身を鍛え直す事だ。自らの不明を2人に正直に懺悔しろ。許しなど請うなよ? それは貴様が背負うべき荷物なのだ。それを下ろせるのは貴様が自分を許せると思った時だけだ。・・・もう、子供ではいられんのだ」


「う・・・うわぁぁぁああああ!!!!!」


ジオは大声で泣いた。ままならない現実に。知らずに傷付けてしまっていた、掛け替えのない友人に。そして全て至らない自分自身に対して涙を流した。いっそそれで全てが流れて消えてしまえとばかりに泣いた。


「今日は泣け。だが明日からは立ち上がるのだ。貴様は男なのだからな。・・・さらばだ、ジオ」


それきり、悠は後ろを振り返る事無く立ち去った。後には涙を流し続けるジオだけが残された。


それを側で見続けていた者達が居る。


「なぁ・・・アイツ、承諾するなら俺達のパーティーに誘わないか?」


「そうねぇ・・・教官に対する言葉遣いは頂けないけど、教官も随分目を掛けてる子みたいだものね。あたしはいいわよ~?」


「剣士はこのパーティーには居ないからな。性根を入れ替えるのなら期待出来るかもしれん」


「ギャランと年の近い子が入った方がギャランも居やすいかもしれないわね」


「オレは賛成するよ。ユウ様に諭されたんなら、きっと真っ直ぐ頑張れるから・・・」


その後、紆余曲折を経て、ジオはこのパーティーの一員となるのだった。

これで全て丸く収まるとは行きませんが、それなりの形に落ち着いたんじゃないかな。


栄光と挫折があってこその若さだと思うのですよ。立ち直れるのも若さの特権かと。

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