閑話的小話 すれ違い? 勘違い?
「と、ところで教官、ちょーーーっと酔ったりとかはしてません?」
本人はさり気ないつもりで短剣使いが悠にしなを作って尋ねたが、当然酒如きで前後不覚になる悠では無い。そもそも悠の身体強化は心肺能力から分かる様に臓器にすら及んでいる。アルコール分解速度は人でありながらドワーフに勝り、また軍でも各種毒物耐性訓練によって常人を遥かに超える毒物耐性も獲得しているのだ。生半可な酒では悠を酔わす事は叶わない。
「いや、全くだが?」
「そ、そうですか・・・」
ションボリという擬音が聞こえてきそうな短剣使いを哀れに思ってか、同じパーティーの弓使いの女が単刀直入に悠に尋ねる。
「そういえば教官はあの『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』バローさんとパーティーを組んでおられますよね? お2人は奥様や心に決めた人などはいらっしゃらないのですか?」
その質問が飛び出た瞬間、宴会場が一瞬静まり返った。が、次の瞬間には何事も無かったかの様に喧騒を取り戻す。だが、徐々に皆摺り足で悠との距離を縮め始めた。
「バローは詳しくは知らぬが、いい女を見てはあれこれ騒いでいる所を見るに居らんと思うが? 俺はどちらも居らんよ」
特に照れも無く言う悠の言葉には説得力があり、幾人かの女性は後ろ手に握り拳を作った。
「そうですか・・・では、教官の好みの女性像を伺いたいのですが。容姿や髪型、性格、体形、財力や貴賤などで女性に求める物はありますか? あくまで後学の為に!」
いよいよ核心に迫るにつれ、いつの間にか冒険者達は人垣となって悠を取り囲んでいた。異様な熱気は酒のせいだろうかと悠は他人事の様に考えた。そもそも、自分の好みを知る事が何の後学となるのかも不明だったが、茶化した雰囲気でも無いので正直に答えた。
「俺が女に外見や肩書で求める事など無いな。善良であれば構わんよ」
その言葉で拳を握っていた女性陣が隣で握っている女性と拳を突き合わせて吠えた。そう、吠えたのだ。
「「「しゃぁ!!!」」」
「?」
「そ、それだけですか? あの、それだと小さな子供や皺くちゃのお婆さんでも当てはまる人が居そうなんですけど・・・」
そこで悠は最も大きな判断基準を伝えるのを怠った事に気付き、付け足した。
「それだけでは無いな。俺が伴侶とする女は俺と並び立つだけの実力が欲しい。戦場で安心して背中を任せられる女こそ、俺の理想とする女性像だ。・・・参考になったか?」
「・・・・・・・・・え、ええ、凄く」
宴会場は一瞬にしてお通夜の会場の様になっていた。拳を突き合わせていた女性陣はその場に倒れ込んで虚ろな目をしている。恐らく酒が回ったのだろうと悠は思った。
酒が回ると言えば、真っ赤な顔をしているギャランに悠が問い掛けた。
「ギャラン、お前は酒を飲んで大丈夫なのか?」
「え? あ、はい、今日初めて飲みました。美味しいですけど、頭がフワフワしますね・・・今目の前に的があっても当てられる気がしません」
「あん? ギャラン、お前いい年して酒も飲んだ事無かったのかよ?」
「過ぎる酒は毒だが、ある程度であれば楽しい物だぞ? 大人の嗜みというものだ」
「う、うん」
その発言を聞いた悠が怪訝な顔で2人に尋ねた。
「お前達は何を言っている? ギャランの様な者がこの年で酒を嗜んでいるはずが無かろう?」
「教官? 何を言っているんですか?」
「そうですよ、男なら20を超えりゃ、誰だって酒くらい・・・」
そこでギャランの口から衝撃の事実が明かされた。
「え? オレ、まだ15だけど?」
「「「はあぁ!?」」」
驚くべきギャランの若さにお通夜の様になっていた者達の顔に驚愕が張り付いた。
「う、嘘だろ・・・俺、年上だと思って・・・」
「ちょ、ちょっと!! 私より年下なの!?」
「ば、倍も違うとは・・・絶対30は超えていると思っていた・・・」
「ち、小さかったのは、まだ成長期だったから・・・?」
「あ、あれ? 何か、ゴメン・・・」
皆、ギャランの苦労や所作、そしてその腕前から30以上と当たりを付けていたので、その衝撃は大きかった。一言感想を口にしたまま、全員がフリーズしてしまう。
ただ一人、悠だけがそれに気付いていたからこそギャランにあそこまで期待を抱いたのだ。この年にしてこの才能ならば、磨けば自分以上になるのではないかという期待を。
「あ、あの、ユウ様?」
「気にするな。それと、酒は良い物だが程々にな。冒険者たる者、いつ何時であっても油断してはならんぞ」
「はい!! 以後気を付けます!!」
そんな即席師弟の心温まるやり取りを聞いている者は誰も居なかった。
ギャラン15歳。中三。老け顔なのが悩み。
神崎 悠26歳。元軍人。女性に対して(ほぼ)全属性無効。




