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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
302/1111

5-46 合同訓練14

「全員座ったままでいい。これにて本日の冒険者ギルド主催合同訓練を終了する!! 最後まで残った者達には、何かしらの得る者があったのでは無いかと思う。だから今後も今日教わった事を思い出し、切磋琢磨していく事をギルド長として切望する!! 最後に慰労といってはなんだが、今晩のギルドでの飲食はギルド持ちだ。存分に飲んで食って英気を養ってくれ、以上、解散!!」


参加者の口から大歓声が上がった。それは過酷な訓練を乗り越えた為の高揚とギルドの太っ腹な対応の2つに対しての物だけで無く、教官役を務めたユウやベロウにも向けられた。


ベロウはそもそも最新の『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』としての羨望を集めている上に本人の弁舌も上手く、すぐに冒険者達から一目置かれる存在になりおおせたのだ。だから同じ剣を使うグループに囲まれて引っ張りだこになっていた。


そんなベロウを尻目に悠はサッサと子供達を連れて帰ろうと思ったのだが、そんな悠の周囲にもおずおずと近付いて来る者達が居た。


「あ、あの、教官!!」


意を決して話し掛けて来たのは、最後の戦闘で悠に蹴り飛ばされた短剣ダガー使いの女だった。


「もう教官は止せ。訓練が終われば俺もただの一冒険者だ」


「でも、教官は教官ですから・・・」


「まぁいい。俺に何か用か?」


意趣返しとも思えないが、まだ高揚が収まっていないのか顔を赤くする短剣使いに悠は怪訝な思いを抱いたが、その口から飛び出して来た言葉は酷く真っ当な提案であった。


「あ、あの!! よ、良かったら、あたしと・・・じゃなかった、あたし達と一緒に一杯飲みませんか? ほ、本当に良かったらでいいんですが!?」


そう言う短剣使いの背後には最後まで訓練で生き残った4人がこちらを見ている。心配そうな顔をしているのはギャランだけで、他の3人は人の悪そうな笑みを短剣使いの後頭部に注いでいた。


「済まんが連れが居てな、あまり長居も出来んのだ。今日の所は後ろの4人と楽しんでくれ」


「そ、そうです、か・・・」


がっくりと肩を落とす短剣使いには同情するが、悠は物事の優先順位を取り違える事は無かった。今は子供達を宿に連れて帰り、食事をさせて深夜まで休ませなければならないのだ。


だがそこに待ったを掛けたのはビリーだった。


「ユウのアニキ、行って来たらどうですか? 子供達は俺とミリーで宿に連れて行きますから。な、ミリー?」


「え? ・・・え、ええ、いいですよ、ユウ兄さん。たまにはユウ兄さんも羽を伸ばした方がいいと思いますから。それに、ユウ兄さんと話したいと思っている人間は結構多いみたいですし・・・」


ビリーがそう言い出し、ギルド内でサロメの魔法の講義を受けていたミリーと子供達もそれに賛同した。一日を通して大変だった悠に少しだけお休みをあげようという気持ちからである。


そして周囲を見ると、悠が残るのかどうかという事に注目している人間が思いの外多く居て、こっそりと聞き耳を立てていた。皆、悠が今日指導したグループの者達だ。


「宿や街もユウのアニキのお陰で多少は安全になっていますからね。俺とミリーが居れば大丈夫です。・・・それに、ここで冒険者の心を掴んでおけば、これからもユウのアニキの事を敬って大人しくなるかもしれませんし・・・」


「ふむ・・・」


後半の言葉を悠の耳に口を寄せてビリーは小声で言った。確かに今後とも冒険者が健全である事は悠にとっても悪い話では無かった。


「・・・分かった、そんなに長居は出来んと思うが、ビリーと子供達の厚意に甘えさせて貰おう」


「「「やったーーー!!!」」」


短剣使いは元より、周囲でそれを聞いていた者達からも歓声が上がった。あれだけ酷使したというのに大した元気だなどと、悠は若干的外れな感想を抱いた。


「ささ、そうと決まれば早速皆で乾杯と行きましょう、教官!!」


短剣使いが悠の手を取り、皆の待つ方へと引っ張って行く。悠が参加すると分かった冒険者達もすぐに悠を取り囲み、口々に今日の感想を言いながら悠と歩き去って行った。


「へへ、アニキも大した人気じゃないか。お前もそう思うだろ、ミリー。・・・ミリー?」


「・・・え? ええ、そうね、やっぱりユウ兄さんは凄いわね・・・。さ、私達も帰りましょう」


どことなく浮かない顔をしているように見えたミリーだったが、ビリーに促されるとすぐに表情を改め、子供達を引率し始め、ビリーと共に宿へと帰って行ったのだった。








「では、今日頑張ったあたし達と、指導して下さった教官に・・・乾杯っ!!!」


「「「乾杯!!!」」」


自分で頑張ったとおどける短剣使いの言葉は周囲の笑いを誘ったが、それでも乾杯の音頭には皆で唱和し、暮れなずむ王都の空に高く轟いた。


冒険者達が待ってましたとばかりに一杯目の杯を干し、周囲にある酒瓶から次々に2杯目を注ぎ入れた。


これだけの冒険者が騒げるのも、コロッサスが訓練場を打ち上げ会場として開放したからだ。また、そうでなくてはギルド内の酒場だけでは収まり切らなかっただろう。


予め料理などの手配も万全で、そこかしこで冒険者達が肉にかぶりつき、酒で流し込むといった光景が繰り広げられた。


悠のコップは他の者達よりも随分小さい物だ。これは別に悠に隔意があっての意趣返しという訳では無く、ある意味当然の配慮と言えた。


「ささ、教官!! 俺の酒も一杯!!」


「次は俺だっただろ!?」


「止めなさいよね!! 男の酌なんて教官が嬉しいはずが無いでしょ!! さ、教官、一杯どうぞ?」


この様に、一杯干す毎に冒険者達が俺の酒を私の酒をと酌をしに来るのだ。大きなコップでは流石に飲み切れないだろう。


しかし、最初の日のベロウも同じ様に囲まれていて、あれは言ってみればおこぼれに預かろうとする者達の欲望が透けていたが、今周囲を囲む者達にそう言った気配は感じられなかった。そこには純粋に尊敬に値する者をもてなしたいという誠意があった。


勤勉に目覚めた者などは悠に酒を注ぎつつもまだ消化不良な部分を聞いて来ていたり、実際に武器を奮って見せて周囲の者に袋叩きにあったりしていた。その度に皆から笑いが起こった。


こうして付き合ってみれば、皆どこにでもいる普通の若者といった者達ばかりである。最初にギルドの扉を潜った時にはその退廃的な空気に辟易したものだったが、変われば変わるものだ。


始まってしばらく経った頃、最後まで悠に抗戦した5人が揃って悠の下を訪れた。


「教官!!」


「お前達か・・・どうした?」


そして5人の中からギャランが前に出て、悠に語った。


「実は、オレ達5人でパーティーを組む事になったんです。その事をユウ様にお伝えしたくて・・・」


「そうか・・・おめでとう、ギャラン」


「・・・! はい!!」


ずっと一人で生きて来たギャランはここに来て初めて仲間を得たのだった。そして、そこまで導いてくれたのは悠であると、ギャランは信じて疑わなかった。その口調にはもう怯えた影は無く、俯きがちだった顔もしっかりと前を見据えていた。


悠は感激で声を詰まらせるギャランに懐の投げナイフを納めている帯を取り外し、前に突き出した。


「受け取れギャラン。今日の殊勲はお前の物だ」


「ユウ様!?」


急な展開にまたオロオロと周囲を見回したギャランだったが、誰もその事に文句を付ける者は居なかった。悠はそんなギャランの前で帯を前に差し出し続けている。


やがてギャランも覚悟を決め受け取ろうとしたが、やはりそのまま受け取るのは憚られてその場に片膝を付き、両手で恭しく拝領した。その姿に周囲から好意的な笑いが漏れる。


「後生大事にしたりするなよ? そんな物はサッサと使い潰してしまえ。お前の研鑽に期待する」


「はい!! 次にお見せする時は、もっとずっと上手く出来るように頑張ります!!」


帯を握り締めて、ギャランは悠に弛まぬ研鑽を誓った。そして立ち上がり、仲間達と共に一斉に頭を下げた。




「「「本日は誠にありがとうございました!!!」」」




5人に続いて他の冒険者も悠に頭を下げて行く。


悠はそれを見てコップを酒で満たすと、それを大きく掲げた。


「お前達の前途に光あらん事を願う!! 艱難辛苦が襲う時、今日の事を思い出せ。これより厳しい状況はそうは無いぞ。この経験が貴様らの命を繋ぐ一助とならん事を!! 乾杯!!!」


「「「乾杯!!!」」」


後に老いて死の帳が下りるまで、この場に居た冒険者達はこの時干した酒の味を忘れる事は無かった。


そして、悠の教え子達はこの合同訓練を境にその実力を伸ばしていくのだった。

これにて訓練はお終い・・・ですが、ちょっとした小話を今日中に入れておきたいと思います。多分短いですが。

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