5-45 合同訓練13
「そろそろ終わりか、コロッサス?」
「よう、随分と絞ったみたいだな。ああ、こっちもそろそろ終わるぜ?」
「・・・ところで、何故バローとシュルツは走っているのだ? 暇なのか?」
「・・・ガキだからだよ」
「そうか・・・」
何となく事情を察して悠はチラリと2人を冷たく見据えた後、剣のグループの鍛錬を見た。
「剣を扱う者は多いせいか、こちらの方が若干練度が上だな」
「貴族の意向を受けた騎士も混じっているからな。それに剣士は前衛の要だ。この程度は出来ないと困るぜ?」
「・・・目的はギルドの偵察か?」
悠の目が若干細められ、コロッサスも頷いた。
「ああ、ギルドは最近評判を落としたからな。また貴族に手を出す様な冒険者が居ないかっていう偵察が一つだろう。そしてもう一つはお前さんだよ、ユウ」
「俺?」
「正確に言えばユウとバローだがな。お前達が中心になってまた『黒狼騒動』みたいな事件が起きると困るんだろ。・・・だが、貴族には逆にそういう手合いを必要としてる奴も居る。『鬼面』のラクシャスのお陰で裏社会の荒事を専門にしてる野郎共も残らず牢にぶち込まれたからな。今、王都には極端に汚れ仕事を請け負う人間が少なくなってるんだよ。汚れ仕事には使い捨ての駒が必要不可欠だ。」
「・・・」
コロッサスの言う通り、国や貴族にとっての仕事は綺麗事ばかりでは無い。いや、むしろ汚いと称される仕事の方が多いと言ってもいい。諜報、裏切り、詐術、詭弁・・・それらは貴族としての裏の嗜みと言えた。
だが、『黒狼』が壊滅し、裏社会の悪党も軒並み潰された今、貴族には裏の実力行使を手掛ける駒が深刻に不足しているのだ。
「だからお前達を監視すると同時に、お前達に接触を図って来る馬鹿な貴族も少なくないに違いない。他の冒険者に接触して来る輩もな。だからこそ俺は今の内に冒険者達を心身共に鍛えておきたかった。真っ当な冒険者をやってりゃ浮かばれる日も来るってな。・・・逆に、カーライルみてぇな貴族意識で凝り固まってる野郎は、あわよくばお前達に難癖付けて評判を落としに来たんだろ。まぁ、あっさり一蹴された訳だが」
コロッサスは疲れた様に溜息を付いた。
「ユウの実力が想定外だったんで、カーライル以降はそんな奴も出なかったがな。500人抜きに加えて『外道勇者』や『双剣』が纏めてやられちまったのも大きい。いくらなんでも自分達の手に負えないと判断したんだろ。・・・だが気を付けろよ、ユウ。お前、恐らくマンドレイク公爵を敵に回したぞ? あんな様だが、カーライルはマンドレイク公爵の私兵の騎士団長だからな」
「そのマンドレイク公爵とはどの様な輩だ?」
「貴族さ、生粋のな」
嫌そうな顔をしてコロッサスが首を振った。
「あの男にとって、人は貴族か、そうで無いかでしかない。同じ貴族には受けがいいが、平民にはその非情さで恐れられている。俺も挨拶に行ったが、会ってすら貰えなかったよ。一番下っ端の執事見習いが出て来て「ご主人様はお会いになれません」の一言で門前払いさ」
コロッサスの顔に真剣な色が宿った。
「ついでに言うと第二王子擁立の旗印でローランの最大の政敵だ。コイツをどうにかしないと、いずれローランと矛を交えるのは想像に難くない。奴が第二王子を擁立したらその後見人になって好き勝手に振る舞うだろう。そしてローランから手を出す様に仕組んで来るはずだ。そうなればミーノスはお終い。まともな国にはもう戻れまい」
「そうか・・・良く分かった」
「ああ」
皆まで言わずとも、悠にコロッサスの言いたい事は十分に伝わっていた。だから2人の会話は短く終了する。
「そういえばもうしばし後に王宮に行く事になるかもしれん。表向きは今回のドラゴン退治の事に付いてという事になると思うが・・・」
「へぇ・・・そいつは・・・」
「この際だ、この国の舵取りをしている者達がどんな者達なのかをしっかりと目に焼き付けて来ようと思う。・・・「しっかりと」、な」
「・・・背中には気を付けろよ?」
行間に様々な忠告を含んだコロッサスの言葉に、悠は黙って頷いた。
「それと、貴族関連でもう一つ。カロンに最近ちょっかいを掛けて来ている貴族が増えて来たので、この際カロンを俺の所で保護する。本人も了承済みで、今晩秘密裏に街を抜けるつもりだ。一応言っておく」
「そうか・・・カロンにとっちゃ、貴族からの依頼ってのは鬼門だからな、関わり合いになりたくない気持ちは分かるぜ。だが見つからない様にしておけよ? それをネタに絡まれるぞ」
「ああ、ほとぼりが冷めるまでだ。状況が落ち着いたらフェルゼンに居を構えればよかろう」
状況が落ち着くという意味が何を指しているのかは口にするまでも無い事だ。・・・ローランに敵し得る貴族が居なくなるまでという事である。
「それにしても・・・俺も分不相応にでかい流れに関わっちまったな・・・単なるしがない一ギルド長で終わる人生だとつい一月前まで思ってたのによ」
「予測出来る人生などつまらんだろう、コロッサス? それに、俺などこの世界で生まれてすらいないのだぞ?」
「全くだ。人生折り返してからこんなに楽しい事になるとは思っていなかった。お前さんを送り込んでくれた神様には五体投地して祈りたいくらいさ」
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべ、コロッサスは笑った。
「祈らずとも、いつか会う日もあろうよ。お前がその生き方を貫く限りはな・・・」
悠の脳裏に再びまみえる事が出来た父と母の顔が浮かんでいた。
「・・・何の事だか分からんが、まだ当分先にして欲しいモンだ。なんてったって、世界が変わるその様を見るのに最適な特等席を用意されたんだからな。観劇が終わるまでは俺は席を譲るつもりは無いぜ?」
「残念だが、それは違うな。お前の席は舞台の下などに用意されてはおらんよ。真の特等席とは舞台の上だ。幕が下りるまで、しっかりと演じ切って貰わねば困る」
「精々恥を掻かない程度には頑張らせて貰うさ。でもって若い奴にはしっかりと頑張って貰うぜ? あいつらみたいにな。・・・クッ、ハッハッハ!!」
いつの間にか競争になっている汗に塗れたベロウとシュルツを目で示して、コロッサスは大声で笑った。
次回で合同訓練は〆です。少し話を挟んで能力鑑定やカロン脱出となります。
5章は少々長くなりますが、お付き合い下さい。




