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閑話 西城 朱理の華麗なる一幕1

もう分けて一話にしました。もういいよね・・・

会議が終わり、朱理は皆が去った後の控え室に一人佇んでいた。


「ふふふ、うふふふふ」


その姿はかなり危ない。衛兵がそれを見たならば、誠に遺憾ながら詰め所へご同行願う程度には。


しかし朱理は今それどころでは無かった。なにせ、大戦中では中々叶わなかった、志津香と悠の接触が終戦以降ぐっと増え、更には皆無だった肉体的なスキンシップすら今日はあったようなのだ。これは最早進歩ではなく、飛躍と言わねばなるまい。


そして今、至宝とも呼べる逸品が朱理の手の中にあった。


「備えあれば憂い無しとは良く言ったものです。まさか役に立つとは思いませんでしたが」


うっとりした目でその物品を見つめる朱理。頬は上気し、呼吸は乱れている。朱理をそこまで興奮させた逸品とは一体・・・


「これをモニターに繋いで・・・おおおっ!?」


思わず椅子から立ち上がり、朱理はモニターに被りついた。懸命なる諸兄にはもうお分かりであろう。


朱理ゲスの至宝、隠しカメラである。


「ま、まさか、神崎先輩がこんな・・・お姫様だっこをしている映像なんて・・・しかも相手は志津香様! これは国家機密! 国家機密ですよぉ!!」


若干、鼻から何か赤いものが垂れている。鼻血だ。


《・・・・・・・・・・・・・・・》


サーバインは無言で朱理の痴態を眺めている。こうなった朱理に何を言っても無駄なのだ。無駄だから言いたくないのだ。


「そして・・・おっほう! 膝枕!! ヒィィャッホゥ!!! 神崎先輩、分かってますね!! 無骨な男が普段は見せない、誰も知らない優しさ! いやー、これは確かに志津香様が起きてたら脳内麻薬出過ぎか、出血多量で倒れてますね! メディック、メーディーーック!!!」


もう絶好調だ。衛生兵メディックはお前のボタボタ垂れている鼻血の為に呼べと言いたい。


「この間、一度も余計な所を触らないあたりが神崎先輩ですね~。ドサクサでおっぱい揉めばいいのに」


それは犯罪である。


「それにしても幸せそうな顔しちゃって。志津香様これ無意識下では気付いているんじゃないですかね? この温もりが神崎先輩だって!」


眠っている志津香はほんのりと微笑んでいた。朱理は画像を三倍速で早送りし、その間はモニターを向いてオリジナルの『志津香様を称える踊り』を踊りながら覚醒するのを待った。なお、踊りの詳細はお伝え出来ない。世の中には知らなくてもいい事はあるのだ。


「ふんふんふーん、しっづっかっ様ーは、ふんふんふーん、せっかっいっいっちっ・・・む!? 通常再生っ!」


画像の変化をいち早く見て取った朱理は、ピッと画像の速度を戻した。


「先ほどよりも更に顔が緩んでます。これはいい夢を見てますね、志津香様。む、唇が動いて・・・はぁぁっ! 読・唇・術っ!!」


《お、おい、シュリ》


人差し指と親指で輪を作って目にあてがう朱理。最も、読唇術は軍情報官の基本スキルだが。


「ゆ・う・しゃ・ま・は・・・お・ひ・しゃ・ま・の・・・に・お・い・・・・・・・・・っく~~~~~!!!!! ゆうしゃまー!!! 助けてーーー、ゆーーーしゃまーーーー!!!」


《おい、おい! シュリ!》


朱理ゲス大感激である。もうこれは永久保存だ。西城家の家宝として未来永劫受け継いでいこうと決めた。遺言にはそれっぽい曰くを付けて決して見てはならぬとか書いておこう。


「あっはん、志津香様、ゆうしゃまのお膝にスリスリしてますよぉ! 内心ゆうしゃまもドキドキだったんじゃあないんですかぁ~~~っ! マーーーーヴェラス!! コレは捗ります、ヒジョーに捗りますよぉぉぉおお!!」


《シュリ!! ええぃ、汝は頭がどうかしたのか!? シューーリーーー!!》


「なによサーバイン、今とても捗っているとこ・・・」

















――扉の前に、全ての表情を消した志津香が居た。


















「・・・」


朱理と志津香は3秒間ほど無言で見つめ合ったが、朱理は先程の痴態がまるで嘘だったかの様に、普段の冷静な表情にペルソナチェンジすると、そっとモニターのプラグを外し、カメラを懐にしまった。


「では私はまだ仕事が残っていますのでこの辺で。お休みなさいませ、志津香様」


普段より1.5倍ほど速く口上を述べると、朱理は志津香の横を通って部屋へと帰還エスケープしようとした。が、


ガシッと音が聞こえるのではないかというくらいの力で志津香に腕を掴まれた。そして、志津香は魔界の悪鬼もかくやという迫力で、言った。


「渡しなさい・・・」


「は? いえ? なんの事ですか?志津香様」


「渡しなさい」


「えー、その、ちょっと手を緩めて頂けると朱理は嬉しいのですが」


「渡しなさい」


「で、でもこれは西城家の家宝で――」


「わ・た・し・な・さ・い」


「はい・・・」


珍しく志津香の迫力に負けてシブシブとカメラを差し出す朱理。この件に関して、志津香から一切の妥協を感じなかったのだ。


「まったく、まったく! 貴女は何を見ているんですかっ!!!」


志津香は言葉にならない憤りを口から吐き出した。


「え? 志津香様が男性の股間に顔を擦り付けている映像ですけど?」


「そこだけ抜き出さないで下さい!!!」


「いやぁ、本当に偶然だったんですけどね。私もここまでお宝映像になるとは思いませんでした」


爽やかな笑顔で述懐する朱理ゲス。それを見て、志津香も1周回って怒りがどこかに行ってしまった。


「はぁ・・・もう、もう!! これは没収ですからね!」


「臣民の財産を情け容赦無く奪っていく皇帝陛下・・・これが独裁政治の恐怖なのですね・・・」


「人聞きの悪い事を言わないで下さいまし!!」


わざとらしく嘘泣きする朱理に一喝してから、志津香は踵を返した。


「とにかく、まだ仕事が残っているのは本当なのでしょう? 早く終わらせておしまいなさい」


「はっ、了解であります」


素直にそう言って朱理が敬礼を送ると、志津香は部屋に帰った。






その帰り道。


「こ、これは天津宮家の家宝にしましょう」


結構似た者同士の主従なのかもしれなかった。


















《だから途中から呼んだであろうが。汝はたまに暴走し過ぎだ》


そう苦言を呈するサーバインであったが、朱理は耳を貸さずにモニターの下から何かを取り出した。それは、


「うふふふふふふふ、バックアップ~~~・・・西城家の家宝をそう簡単に渡せるものですか」


朱理ゲスに死角は無かった。

この件は後日続きます。多分。

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