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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-41 合同訓練9

悠は立ち去る前に遠巻きに眺めるリーンとジオに歩み寄った。するとジオが早速憎まれ口を叩き出す。


「おい、サティに何か酷い事を言っただろ!! 何を言ったんだよ!!」


「お前は邪魔だ、向こうに行っていろ」


「何だとッ!!!」


「ジオ!! 静かにして!! ・・・ユウさん、私にお話があるんですよね?」


リーンに頷きを返す悠にリーンも一つ頷いてジオを促した。


「ジオ、あっちでサティを慰めてあげて」


「で、でも・・・!」


「いいから! ジオじゃないとダメなの!!」


「わ、分かったよ・・・おい、リーンにまで酷い事を言ってみろ、今度こそ絶対に許さないからな!!」


それでも完全無視を貫く悠にジオの怒りは頂点間近に達していたが、真剣なリーンの目と打ちひしがれるサティの姿に挟まれて、渋々矛を収めてサティへと駆け寄って行った。


「ユウさん、実は私、ユウさんがサティに言った事、何となく分かるんです。ユウさん、サティにこう言ったんじゃないですか? ・・・サティは、本当は冒険者なんてやりたくないんじゃないかなって・・・」


「気付いていたのか?」


「やっぱり・・・何となくですけど、気付いていました。きっとサティはジオが私を助けて冒険者になったから、自分も付いて来たんだと思います。口には出さないけど、サティはきっとジオの事が・・・」


リーンは俯いて拳を握った。


「私の事も友達だと思ってくれている事は間違い無いと信じています。だけど、それと冒険者を続ける事はサティの中で上手く繋がっていないんじゃないかなって・・・。本当はサティはもっと穏やかな日常を求めているんじゃないかって。この間怪我をした時のサティを見て、初めてそう思ったんです」


「・・・そこまで分かっているのならこれ以上俺の出る幕は無いな。リーンの言う通り、サティには拳に宿る物が何も無い。このままでは絶対に強くはなれんし、遠からず命を落とすだろう。お前達諸共な」


「はい」


「3人でこれからの事を良く話し合うといい。冒険者だけが生きる道ではあるまい。・・・子供の馴れ合いで続ける時はもう過ぎたのだ」


「・・・・・・はい」


悲しみを込めてリーンは悠に返答した。それはいつかやって来るとは思っていた、別離の苦しみを伴っていた。


「相談したい事があれば、後で俺の所に来い。ここまで関わった縁もある」


「その時はよろしくお願いします」


リーンは悠に頭を下げ、悠も頷いた。


その隣ではギャランが所在無さげにオロオロと悠とリーンの顔を見比べていたが、事友人に関する事でギャランに何か言える事があるはずも無く、やがて踵を返した悠に付いて行こうとし、振り返って一言だけリーンに言った。


「は、離れていても、と、友達は友達・・・だと、思う。お、オレ、友達、い、居ないけど・・・」


それだけ言って急いで悠を追いかけるギャランにキョトンとした目をしたリーンだったが、やがてリーンはもう一度頭を下げた。お人好しの小男に向かって。








ギャランと話ながらの昼食はすぐに終わったが、ギャランにとってそれは夢の様な時間だった。そもそも、物心付いた頃から身内以外と食事をした経験など無いギャランは誰かと談笑しながら食事をするという経験自体が既に人生においての夢の一つであったと言っても過言では無い。嫌われるのは仕方ないとしても、嫌われたくて嫌われているのでは無いのだから。


「ギャラン、お前のその投げダートは自作か?」


「は、はい!! へ、変でしょうか?」


「そういう事では無い。手合わせした時も思ったが、風を切る音すら殆どさせていなかったからな。技量もあろうが、その投げ矢自体にも仕掛けがあるのでは無いかと思ったのだよ」


「よ、よろしければ、ど、どうぞ!」


そう言ってギャランは悠に自分の投げ矢を差し出した。


「ふむ・・・風が当たる場所の角が落としてあるな。先端も円錐で矢羽の素材も極力柔らかい。静音性を突き詰めたのか」


「ひ、一目見ただけで、よ、良くお分かりで!」


自らの工夫を分かってくれる人物とその事について話せる事は、ギャランにとって至福の一時であった。ましてやその人物が自分を嫌っていないなど、ギャランの人生では有り得ない事だったのだから。


ギャランの投げ矢は静音性を突き詰めたといっても、人間を撃つ為の物では無く、主に魔物モンスターや野生動物を仕留める為の物だ。仲間の居ないギャランは一人で戦うしか無く、正面切って戦える度胸も無かったので、こっそり忍び寄って急所に投げ矢を撃つというスタイルが知らず知らずの間に染み付いたのだ。


「だが、この針では急所に刺さらぬ限り敵を仕留めるのは難しいな。毒は使っているか?」


「し、食用にする時は、ど、毒に侵されていると、ま、まずいので、魔物で、食用に出来ない、奴には、つ、使っています」


「ならば針の素材をもう少し堅い物に変えて、長さももう少し伸ばした方がいい。鉄の薄板程度は貫けないと、脂肪層の厚い相手や装備の整った相手には手が出ん。投擲力を高める鍛錬も必要だな」


「い、今まで、だ、誰にも習った、こ、事が無かった物で・・・べ、勉強になります」


ギャランは武器にも造詣が深い悠に素直に感動していたが、悠は悠で誰にも習わずにここまでの域に辿り着いたギャランに敬意に近い物を感じていた。


だから悠はギャランにほんの少しだけ手助けをする事にしたのだ。


「ギャラン、もうじき休憩は終わるが、その前にお前に一つ、投擲の技を教えてやろう。付いて来い」


「えっ!? は、はい!!」


悠は少し移動して的を2つ引き抜き、壁際へと持って行って2つを左側に壁がある状態で前後に並べた。


「さてギャラン、今前の的と後ろの的があるが、前の的に当てずに後ろの的に当てろと言われたらどうする?」


「え? え、えーと、えーと・・・や、山なりに投げて、あ、当てます?」


「それでは威力も何も無い上に遅過ぎるな。・・・見ていろ」


悠も左に壁がある状態で的の正面に立ち、懐に手を入れて構えた。そして投げナイフを抜き放ち、一気に2本投擲する。


「あっ・・・」


だが同じ投擲武器の使い手であるギャランには、それが決して的に当たらない軌跡を描いている事が分かり、思わず残念そうな声を上げたが、それは早計であった。


キンキンッ!!


壁にナイフが当たり、金属音と共に弾かれると、それは前の的の横を抜け、コンと乾いた音を立てて後ろの的に突き刺さったのだ。


「あっ!?」


「これが跳弾と呼ばれる物だ。今は地面がそこまで堅くないので石壁を用いたが、横からの跳弾よりは縦方向、つまり地面や天井を用いた跳弾の方が比較的楽だ。それと、投げ矢では相当浅い角度でないと跳弾は起こし難い。角度が深いと針を傷付けたり刺さったりしてしまうからな。だがこれが出来れば相手が盾を構えていたり、相手の前に障害物があったりしても回避して攻撃出来る。だから、投げ矢の他にこの様な投げナイフも用意しておくと良いだろう。状況によって使い分ける事も出来る」


「はぁ~・・・・・・・・・」


ギャランは今までただ真っ直ぐに相手を射抜く事しか練習してはいなかったので、悠の見せた跳弾は目から鱗が落ちる思いであった。


「お前なら少し練習すればすぐに出来る様になろう。・・・さて、休憩は終わりだな。午後からは更に厳しく行くぞ、ギャラン」


「は、はい!! ご、ごきょ、教授ありがとう、ご、ございます!!」


ギャランの中ではもう既に悠はただの一日教官では無かった。自分を教え導いてくれる、心の師として深い尊敬の念を抱いたのだ。


結局そんなに休めていない事も忘れ、ギャランと悠は午後の訓練へと戻って行った。




それを遠くから憎悪の篭った目で見つめる者が居た事に悠は気付いていたが、それは人ごみに紛れてしまい、誰であるかまでは分からなかった。


リーンは何となく気付いていたようです。ジオは全然気付いていません。

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