表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
296/1111

5-40 合同訓練8

昼の鐘(正午)が鳴り、訓練場の一角に食事が用意され始めた。悠の下にもギルド職員から伝達があり、頷いた悠は冒険者達に声を張り上げる。


「訓練止め!! これよりギルドが用意してくれた食事があるので、一時休憩とする!! 各員、食事を受け取って順次休憩に入るように!! 訓練開始は追って沙汰する、以上!!」


その宣言が耳に届いた冒険者達は安堵と共にその場に崩れ落ちた。ようやく激しい訓練の前半が終わったのだ。


が、その耳に悠の酷薄なセリフが響いた。


「午後からの訓練は今より更に激しくなると理解しておけ!! 理解出来たらいつまでも寝ておらんで飯を腹に詰めろ!! 貴様等に幾つも『治癒薬ポーション』を使う余裕など無いのだぞ!!」


午前中の訓練が小手調べに過ぎないと知って冒険者達の目が暗く濁った。


しかし、皆が皆気力を失う訳でも無く、逆に本格的な訓練に期待を抱く者達も少数ながら存在した。リーンもその内の一人であったし、ギャランに至っては・・・


「・・・」


座り込む冒険者達を尻目に、ギャランは悠の言葉など耳に入らぬほどに集中して一心不乱に石を投げ、かわしながら的に投げダートを投げるというルーティーンをひたすら繰り返している。


既にギャランの体には無事な場所を見つける事が出来ないほどに傷だらけ、痣だらけであり、皮膚のあちこちから血が滲んでいた。


周囲のギャランを馬鹿にして見下していた冒険者達もそのギャランの鬼気迫る姿に何も言う事が出来ない。


悠はギャランに近寄り、石を上に投げようとしたギャランの腕にそっと手を添えて制止した。


「ギャラン、休憩だ。少し休んで飯を食え」


「・・・あ・・・ゆ、ユウ、様・・・」


悠の手が乗せられただけで、ギャランの手から石がバラバラと零れ落ちた。それだけギャランは消耗していたのだ。


「『治癒薬』はどうした? まだ使っておらぬ様だが?」


「す、すみません!! あ、あの、・・・も、勿体無くて・・・その・・・お、オレ、き、今日の記念に、た、宝物にしようと・・・」


「薬は飲んでこその物だぞ?」


「はい、で、でも、ど、どうしても、取っておきたくて・・・こ、これがあると、お、思うと、が、頑張れるんです!!」


「・・・そうか」


ギャランのひたむきな思いを感じた悠はそれ以上無理強いはせずに、懐から『治癒薬』をもう一本取り出した。それも『下位治癒薬マイナーポーション』では無く、『中位治癒薬ミドルポーション』である。


「ではこれを飲め。その消耗ではこの後の訓練に差し障りがある」


悠はギャランの手にそれを握らせ、飲む事を促したが、ギャランはそれが何であるかを悟って慌てて悠に返そうとする。


「い、いけません!! こ、こんな高級品は、う、受け取れません!!」


「俺は頼んでいるのではない、命じているのだ。今すぐ俺の目の前でそれを飲み干せ」


ギャランは心底弱り果て『治癒薬』の瓶を持ったままキョロキョロと首を周囲に巡らせたが、悠が周囲を一瞥するとギャランに向けられていた視線が不自然に逸れ、皆我先にと食事を受け取る為に立ち去って行った。


悠と2人だけになったギャランはやがて観念したのか、おずおずと瓶に口を付け、ぐっと飲み干した。


「よろしい、では食事をして体を休めろ。午後からは実践的な体捌きとその応用だ。準備があるので俺は行くぞ」


「あ、あの、ゆ、ユウ様は、お休みには?」


ギャランに休憩を促した悠だったが、自らは食事とは逆の方に歩き始めたのを疑問に思ったギャランから声が掛けられた。


「俺もこれが済んだら食事を取らせて貰う。心配はいらんよ」


そう言って悠は長い木の棒が纏めてある場所へと歩き去った。


それを見たギャランはまた悠への尊敬の念を新たにしたのだった。








「あの、お話があるんですが!!」


悠が訓練場の地面に木の棒を突き刺していると、リーンとジオ、そしてサティが3人で連れ立ってやって来た。口を開いたのはサティだ。


「サティか。何の用だ?」


木の棒を刺す作業の手を止めずに悠は冷たく感じる口調で事務的にサティに問うた。その冷たさに怯みかけたサティだったが、気力を奮って悠に問い質した。


「なんで私には何も教えて頂けないんでしょうか? その理由を伺いたく思います!!」


「そうだぞ!! 何でサティに教えてやらないんだよ!? サボってんのか!?」


「・・・」


サティの質問は悠の想定する中で最低と言っていい物であり、悠は言葉を返すことすら徒労に感じ、作業を黙々と続けた。その姿にサティとジオは怒りを覚えたが、リーンだけは悠の姿に何かしらの意味があるのでは無いかと黙って考え込んだ。


「おい!! 何とか言えよ!! 耳腐ってんのか!?」


「そういう貴様は頭が腐っている様だな。消えろ、言う事など何一つ無い」


最早冷たいを通り越して酷薄ですらある悠の拒絶の言葉に流石のジオも鼻白んだ。隣ではサティが下唇を噛んで必死に激発を抑えている。そんな2人を見て逆に頭を冷やしたリーンが悠に尋ねた。


「・・・ユウさん、ユウさんが意味も無くこういう事をするとは私は思いません。何か理由があるのですよね? ・・・でも私達にはいくら考えても分かりませんでした・・・。だから、せめてサティにだけは何故なのかを教えてくれませんでしょうか?」


お願いしますと頭を下げるリーンをジオが止めた。


「やめろよリーン!! こんな奴に頭なんて――」


「ジオは黙ってて!!!」


「り、リーン?」


普段声を荒げる事など無いリーンの怒声にジオは面食らって口を閉じた。悠はそれを見て、そしてサティに尋ねた。


「・・・本当に分からんのだな?」


「な、何がですか!? わ、分からないからこうして・・・」


「良かろう、ならば教えてやる。・・・リーン、ジオを連れて行け。邪魔だ」


「はい!」


「あ、ちょ、リーン!!」


リーンは最後に悠に目配せをしてジオの腕を取り話が聞こえない所へと歩み去った。


その場に残ったサティは悠に向き直り、その言葉を待つ。


最後の木の棒を刺し終えた悠がサティを正面から見据えて口を開いた。


「理由はただ一つ。貴様には全く強くなりたいという意欲が無いからだ」


サティはその言葉が理解出来ずに頭が真っ白になった。やがてジワジワと言葉の意味が浸透するにつれて激しい怒りが湧き上がった。


「そんな事はありません!!! 私は強くなりたいと思ってここに――」


「ある」


特に大きくも無い悠の声がサティの言い訳を遮断する。サティが思わず口を噤むと、悠は更に言い募った。


「貴様と手合わせをした時俺は驚いた。全く何の思いも籠もっていない拳にな。戦意や向上心はおろか、欲望や憎しみすら乗ってはいない石くれの如き駄拳だった。・・・これまで生きて来て、これほど下らん拳を向けられた覚えは無い。もう止めてしまえ。殴る貴様も貴様に殴られる者も哀れに過ぎる」


サティを全否定する弾劾にサティの顔から血の気が引いて行き、視界が白く染まり始めた。何故そこまで言われなければならないのか、サティには全く分からなかったのだ。


そこに、2人分の食事を手に持ったギャランが近寄って来て、空気の重さを感じて固まってしまったが、悠は特に気にせずにギャランに話し掛けた。


「どうしたギャラン?」


「あ・・・お、オレ、ゆ、ユウ様の分の食事を・・・」


「そうだったか、済まんな、有り難く頂戴しよう。どこか邪魔にならない場所を・・・」


「待って下さい!!」


立ち去ろうとする悠をサティが呼び止め、ギャランを睨み付けながら悠に怒鳴った。


「こ、こんな奴にはちゃんと指導をするのに、私には訳の分からない事を言って煙に巻くんですか!? 私は一生懸命にやってるのに!!! こ、こんな醜い――」


サティが罵詈雑言を口に出来たのはそこまでだった。ギャランを激しくなじろうとしたサティの頬を悠が張ったからだ。


「な、何を!?」


「自らの弱さを棚に上げて人を詰るか? 貴様、どこまで俺を舐めるつもりだ? ・・・良かろう、そこまで自分を偽り続けるのなら言ってやる。・・・貴様は本当は冒険者などやりたいなどとは思ってなどおらんのだよ。貴様がここに居るのは、単に他の2人がここに来たから付いて来ただけだ。・・・いや、もっと正確に言ってやろうか? 貴様はジオが居るから――」


「や、止めてぇッ!!!」


悠が致命的な言葉を口に仕掛けた時、サティの口から悲鳴の様な叫びが上がった。


遠巻きに休んでいた者達も思わず目をやったが、悠の威圧感たっぷりの視線に撃墜されて目を逸らした。


「止めて・・・止めて・・・」


「ゆ、ユウ様、い、言い過ぎです・・・お、オレは慣れてますから・・・」


しゃがみ込んで耳を塞ぐサティの前に出たギャランがサティを庇った。


悠は威圧感を消した静かな目でギャランを諭す。


「ギャラン、お前の優しさは尊い物だが、人はそれだけでは成長出来ぬ者も居るのだ。今をおいてサティにそれを伝える時は無い。このまま放置しておけば、3人の仲は最も残酷に引き裂かれるだろう。だから口を挟むな」


「で、でも、そ、それは、この子達で、か、考える事だと、お、思います!! ゆ、ユウ様が言いたい、こ、事は、もう、つ、伝わっています!! あの、だ、だから・・・」


ギャランは誰かを庇う為に言葉を放った記憶も経験も無い中で必死に悠を説得しようとしていた。そもそも誰かに庇われた経験も無かった。だがサティの打ちのめされる姿は親しみ深い物だった。それは普段の自分の姿だったからだ。


「・・・」


「・・・うぅ・・・」


ギャランの言葉では無く、心が悠の言葉を止めた。サティはギャランに庇われた事――自分が悪し様に罵った相手――に打ちのめされていた。


しんと静まり返る3人だけの沈黙を破ったのは悠だった。


「・・・ならばこれ以上は言うまい。サティ、3人で良く話し合うのだな。ギャラン、行くぞ」


「は、はい!! ・・・あ、あの・・・げ、元気出して、な? ユウ様は、き、きっと君の、為に・・・」


「余計な事は言わんでいい、早く来い」


「ひぇっ!?」


ギャランは悠に促されて慌ててその場から離れて行き、うずくまるサティ一人が残された。

男だったら拳でぶん殴る所ですが、女の子なので少し甘めです。言葉は全く甘くは無いですが。


悠はバリバリ叩き上げの軍人なので、地球の様な体罰ハンターイみたいな甘い考えはありません。特に差別や蔑視には厳しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ