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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-38 合同訓練6

サイコの去った後の訓練場は一部大きく抉れ、整地に時間を取るという事で30分間の休憩となった。


「皆大事無いか?」


「はい・・・でも、とんでもない人でしたね・・・」


「こえー姉ちゃんだったな・・・」


「ぼ、ぼく、ああいう人にがて・・・」


「・・・得意な人なんて居ないと思うよ、始君」


樹里亜を皮切りに、子供達も口々にサイコの脅威を語り出した。だが悠にはまた別の意見があった。


「確かに奴は外道の名に恥じない破天荒な人物だったが、良く戦いという物を知っている。最初に俺とシュルツ以外の全員の目を謀り、道化を演じて己の目的を果たそうとした。その場にある物を上手く利用して戦況を有利にしようという姿勢は評価出来る。俺の開けた穴を利用してみたり、周囲の冒険者を盾に使ったりな。あの視野の広さは皆も見習わなければならん」


「でも、どうして悠先生とシュルツさんはサイコの偽装を見抜けたんですか?」


神奈の質問に悠は状況を整理しつつ答えた。


「・・・俺が最初に違和感を持ったのは、シュルツが奴の言葉に答えた時だ。シュルツは強者としか言葉を交わさないとさっき冒険者達が噂していたからな。それなのにシュルツは奴と言葉を交わした。俺との戦闘が終わった直後であったせいで、誰も気に留めてはおらんかったが」


「あっ!? そういえば・・・」


樹里亜がその時の事を思い出して口に出した。


「それで俺は奴の挙動を注視してみたが、近くで見ると確かにおかしい。気弱で脆弱に見えるが、剣に添えた手だけが熟練の剣士のそれであった。そして俺の前に立った時、抜こうとする剣から莫大な殺気が刹那の間だけ迸るのを感じて俺は奴の先手を取ったのだ。もっとも、奴も俺の殺気を感じて鞘で受けて見せたがな」


「・・・外道でも勇者の名前は伊達じゃないって事ですね・・・」


「そういう事だ。あのような者が居るからこそお前達にもしっかりとした訓練を施さなければならないと察して貰えると思う」


悠の言葉は現実的な説得力を持って子供達に響き、皆無言で頷いた。




「お待たせ致しました、師よ」




堅苦しい言葉遣いで沈黙する一同に・・・というよりも悠に声を掛けたのは、新しい覆面に顔を隠したシュルツだった。


「シュルツか、お前は気付いていたのだな?」


「気付くと申されますと・・・先ほどのサイコの事でありますか?」


「顔見知りか?」


「些か。数度手合わせをした事がありまして。彼奴も中々の強者でありますが、どうにもあの戦い方は拙者には好かぬもので」


正々堂々としたシュルツにとって、あのサイコの戦い方は邪道に映っていたのだ。


「拙者、戦いにおいて生を求めてはおりません。勝つ為、生きる為に平然とそれを曲げる輩は好みませぬ」


「死してはそれまでとは思わぬのか?」


「ならば大地を枕に死ぬが良かろうと考えております。何をしても良いというのは剣士の道とは異なります。拙者、生涯一剣士故」


シュルツも相当に頑なな思考を持っていた。剣士として練磨する事がシュルツに取って至上であり、勝つ為や生きる為にそれを曲げるのは、剣士の生き様では無いのだ。


「そこまでの覚悟があれば何も言わん。だが相対する者がそれを守る謂れも無い。視野を広く持てよ」


「はっ! ご教授有難く存じます!!」


それでも悠の言わんとする事を理解し、シュルツは深々と頭を下げた。敵はシュルツが剣士の道に殉ずるからと言ってそれに合わせてくれる訳では無いのだ。悠は相手が何をして来てもそれに対応出来る柔軟さを持てとシュルツに諭したのだった。


「ところで・・・先ほどから思っておりましたが、その後ろのわらべ共は何でしょうか?」


「この子達は俺が保護している子供達だ」


その悠の後ろで京介が智樹にシュルツの言葉の意味を尋ねていた。


「なぁ、とも兄ちゃん、わらべって何だ?」


「子供って意味だね」


その智樹の答えに京介はムッと顔を顰めた。


「こども扱いすんなよな!! おれたちはシュルツ兄ちゃんの兄弟子なんだぞ!!」


「そうだそうだ!! まずはあたし達にも挨拶するのが礼儀ってもんだろ!!」


「それを神奈が言ってもねぇ・・・」


「何だとーッ!!」


シュルツはそんな一幕を見て悠に問うた。


「誠ですか、師よ?」


「ああ、だから仲良くやれよ」


「・・・師がそう仰るのならば、弱者とは本来言葉を交わさぬのが我が流派のしきたりでありますが、そこを曲げて仲良くしましょう。宜しく頼む、童達よ」


「分かって無いじゃないか!! もう許さないぞっ!!」


「神奈っ!?」


シュルツの不遜な言葉に瞬時に頭を茹で上がらせた神奈は能力スキルを使用してシュルツに躍り掛かり、シュルツも目を細くして背中の剣を抜き、神奈を迎撃しようと試みたが、両者が激突する寸前に悠が神奈の襟を掴み、もう片方の手をシュルツの曲刀シャムシールの根本に手甲ガントレットを当てて止めた。


「ぐえっ!?」


「ムッ!? お見事」


苦しそうに呻き声を漏らす神奈と、出端とはいえ自分の曲刀を片手で止めて見せた悠に感嘆の声を漏らすシュルツ。


「止めろ、この場での勝手は教官の責を預かる者として許さん。・・・2度は忠告せんぞ?」


「ゲホ・・・す、すいませんでした・・・」


「申し訳ございません、我が師よ」


共に悠を尊敬している点においては共通している2人は悠の叱責に素直に謝罪の言葉を述べた。


「神奈、今日の所は能力の使用は控えろ。そもそもお前はまだ『敏捷上昇』の能力に体が追い付いておらん。基本が出来ていないとは言わんが、高速戦闘術を馴染ませるにはまだ時が掛かる。まずは通常速度での対武器戦闘を物にしろ」


「はい!!」


悠が真剣に話している事を悟り、直立不動の姿勢を取って神奈ははっきりと返事をした。


「シュルツ、今までは一人でやって来たのだろうが、これからは子供達とも一緒に生活して貰うのだ。協調性を持てんのなら弟子入りは白紙にするぞ」


「・・・心得ました、師よ」


一瞬間が空いたが、どうしても悠を師と仰ぎたいシュルツは不満を飲み込んで悠に頭を下げた。


「一人でやっていては見えぬ物が誰かに教えていると気付く事もある。これも修行の一環と知れ」


「はっ!!」


「ではそろそろだな・・・」


悠は整地作業を行っていたギルド職員達が引き上げて行くのを見て独白し、直後にコロッサスから声が掛かった。


「ユウ!! 組み分けするからこっちに来てくれ!!」


「了解した。行くぞ」


思わぬ遅延があったが、こうして訓練は第2段階へと移行していった。








「今更紹介するまでも無いだろうが、俺は冒険者のユウだ。今日は剣、魔法を主体とする者以外は全員俺が受け持つ事になった。今日は各人の手合わせの様子を見てその人間の足りない部分、弱点となる部分をどんどん指摘し、適宜訓練内容を課していくつもりなのでそのつもりでいる様に。また、今後どの様な鍛錬を行えば良いかも記述して後ほど渡す。やる気のある者はそれを見て今後とも励め。まずは投擲、長物、短剣、徒手、その他で分かれろ。そして手近な者達と組手だ」


悠の言葉を聞いた冒険者達は急いで同じ系統の武器を持つ者同士で固まって行った。やけに素直なのは、目の前で悪名高いサイコを悠が退けた事もその一因であるし、単純に悠の実力に惚れ込んだ者やその技術を少しでも盗み取ろうとする者なども一因であると言えよう。


「先ほどの組手と違い、ギルドの訓練用の武器は刃引いてあるが、あまり強く当てぬ様に。それと相手に大怪我をさせる様な攻撃は禁止だ。俺が故意と判断した場合、その加害者には罰を負って貰う」


「・・・あの、罰とは?」


近くに居たスピア使いの男が挙手して悠に質問して来たので、悠もそれに返答した。


「俺と気絶するまで組手だ。言っておくが、今度は先ほどの様な優しく指導するなどという面倒な真似はせん」


「ひっ!?」


漏れ出た悠の殺気に槍使いはその場から後ずさりした。その周囲の冒険者達も体に冷たい汗を掻いている。


「他に質問は?」


誰からも質問が出ない事を確認した悠は手を叩いて号令を掛けた。


「相手は次々変えて行け。無理に勝敗を決める必要は無いので、俺が手を叩いたら次の相手に移れ。・・・返事!!」


「「「は、はい!!」」」


「結構、では開始だ」


まるで軍の様な規律を持って、総勢155人を受け持つ悠の訓練は始まった。

泣いたり笑ったり出来なくしてやる!!!


ンー、至言ですね。

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