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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-37 合同訓練5

誰も口を開かず、誰も身動きしないまま時間だけが過ぎ去って行く。未だに構えを解かない悠とピクリともしない女。そして目の前の出来事が理解出来ない冒険者達。


そんな中で声を上げたのは、いち早く我に返ったコロッサスだった。


「ゆ、ユウ!! やり過ぎだぞッ!!!」


そのコロッサスの声に皆も我に返ったが、それでも悠はコロッサスに対して一瞥もせず、返答もせず、そして視線も女に固定したまま逸らさずに構え続けている。


「どうしたんだ、ユウの奴はッ!!」


「し、知らねぇよ!!」


そんな困惑を切り裂いたのは狂った様な笑い声だった。




「クカ・・・クカカ、カッカッカ、キヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!! やるじゃねーの、やるじゃねーの!! 仏頂面ァッ!!」




その発生源は倒れていた女からだった。おかしくておかしくて堪らないといった様子で女はその場で腹を押さえて笑い続ける。


「な、なんなんだ!?」


疑問を口にするコロッサスに女の侮蔑の言葉が届いた。


「テメーの目は一個しかねーのに腐ってんのかよゥ、コロッサス~?」


「何!?」


「しっかたねぇな~、オラ、これで分かるかァ?」


上体を起こした女が三つ編みの紐を引き千切り、頭を振り、目を大きく見開き、口から頬の裏に詰めていた綿を吐き出して凶悪な笑みを浮かべると、コロッサスのみならずその場の大半の者にその正体が理解出来た。


「き、貴様!! サイコか!?」


「ごめいとーう!! オレが『外道勇者』サイコさんだ!! 怯えて逃げ回りやがれカス共ォ!!」


ブレイクダンスの様に足を回転させてサイコはその反動で立ち上がった。それを見た冒険者達が少しでも距離を取ろうと逃げ回り始める。


「に、逃げろ!!! 俺達までとばっちりを食うぞ!!!」


「な、なんでサイコがこんな訓練なんかに真面目に出て来てるんだよッ!!」


「知るか!! そんな事よりサッサと離れろ!!!」


悠の周囲に居た者達はあっという間に壁際まで逃げ、訓練場の中央には悠だけが残された。


「オレがなんでここに来たかって? 暇潰しだよひ・ま・つ・ぶ・し!! 最近のギルド長にしちゃ真面目君のコロッサスが真面目君らしく真面目な訓練なんてモンをやってっから、ついつい冷やかしになァ? だけどどうだ!? ここにアホみてーな強さの仏頂面が居やがるジャーン? だから最後にちょーーーーっとだけ盛り上げてやろうかと思ったのによゥ・・・おーイテ、あんな大人しそうな女に掌底でカチ上げて腹にケリかますたぁ、オレに負けず劣らず外道じゃん、仏頂面ァ?」


凶悪な笑みを浮かべたまま、サイコが悠に話し掛けた。


「なるほど、噂に違わぬ外道ぶりだ。貴様がおかしいと気付いていたのは俺とシュルツだけだった様だな」


「んだよバレてたのかよ~。せっかくドジっ娘のフリして近付いて真っ二つにしてやろうかと思ったのによゥ、こちとら消化不良だってーの!! て事でもうちょっとオレと遊べよ仏頂面ァ!!!」


サイコはそう言って剣の柄に手を置き、不規則な動きで悠との距離を詰め始めた。


「樹里亜!! コイツは見境が無い、全員を結界で包め!!」


「は、はい!! 皆、集まって!!」


サイコに危険を感じた悠は樹里亜に言って全員の安全を確保させた。その間にもサイコは悠との距離を詰めて来ている。


「かわせるかァ? かわせなきゃ、仏頂面が半分になっちまうぜ!!!」


残りの距離が10メートルを切った時、サイコは居合斬りを放つかの如く、剣を鞘走らせた。するとその斬撃が光る剣閃となって悠に迫った。


《ユウ、回避は出来ないわ!! 後ろに冒険者達が!》


「流石は外道、嫌な位置取りをしてくれる」


悠の背後には壁際に退避する冒険者達が多数控えている。かわせば、少なくとも10人以上の冒険者が命を絶たれるだろう。そしてそれに数倍する者達が大怪我を負うであろう事は想像に難くなかった。


「ヒャッハーッ!!!」


サイコは悠がどうするつもりなのかをじっと見ていた。偉そうに講釈を垂れていた悠があくまでそれに殉じて冒険者の盾になるのか、それとも背後の冒険者など見捨てて逃げ出すのか。どちらにせよ自分は楽しめるという寸法だった。


そして悪人でも無い人間を意味も無く見捨てるのは悠の流儀では無い。悠は腰を落として迎撃の構えを取りその斬撃が悠に届く瞬間、上に突き上げる様な蹴りで斬撃を蹴り付けた。




ギャリッ!!!!!




金属が擦れる耳障りな音を立て、サイコの斬撃が上空へと方向を変え、遥か遠くで消滅する。


「ホッホー!? マジかよ!! 今までオレの斬撃を相殺した奴や魔法で防御した奴は居ても、蹴り飛ばした奴は初めてだぜ!!! 褒めてやんよ仏頂面ァ!!!」


「いい加減名前を覚えろ。俺は悠だ、外道」


「オレだってゲドーなんて名前じゃありませーーーーん!」


舌を挑発的にくねらせながらサイコは再び剣閃を放とうとするつもりか、剣を鞘に納めた。しかし悠もいつまでもサイコの後手に回るつもりは無かった。


「させんよ。次は貴様が俺の技を食らえ」


悠の姿がその場から掻き消え、サイコとの間にあった距離を一瞬にして半分以下まで詰める。更に悠がサイコが視認した瞬間に左右のサイドステップを短距離で幾度と無く高速で繰り返すと、まるで悠が2人居るかの様に残像を纏った。


「「食らえ、『双竜牙』」」


声までがダブって聞こえる悠がサイコの左右から同時に見える上段蹴りを放った。


「なんっ!?」


サイコはどちらかが本命と見切りを付け、右に剣の鞘を立て、左は腕を縮めて防御姿勢を取った。


まず最初にゴキリと骨を砕く音が聞こえ、次に悠が最初にサイコを打ち上げた時に聞こえた音が訓練場に鳴り響き、サイコの体は左側へと望まぬ水平飛行を余儀なくされる。それは壁に当たるまで途切れる事は無かった。


「・・・運のいい奴だ。左腕一本で済んだか」


「ゲハッ!! ・・・しゃ、シャレになんねーぞ仏頂面ァ・・・」


壁に叩き付けられたサイコの左腕は力を失ってダラリと垂れ下がり、口からは少量の血が流れている。


『双竜牙』はまず最初に左右どちらかに当て、その反動で飛んで来た方から逆側へ蹴り返す凶悪な技である。それを悠が使い、更に龍鉄の靴を履いて行えば人間など千切れ飛んでしまっても不思議では無いのだが、サイコは最初に悠のカチ上げからの前蹴りのコンボを防いだ時と同様に剣にて強い方の攻撃を防いだ事で致命傷を免れていた。


「大した剣だ。俺の蹴りを食らって折れも曲がりもせんとはな」


「ケッ! 聖剣が折れてたまるかってんだ!! ・・・けどまァ、仏頂面の強さは肌で感じたぜェ? じゃ、オレは帰る!! また今度あそぼーぜ!! アバーヨっと!!!」


サイコは予備動作無く聖剣を抜き、剣閃を悠・・・では無く、その右側の人間が多数居る方向へ向けて解き放った。


「チッ!」


その斬撃に反応した悠は今度は上から下に向けて斬撃を足で蹴り落とすと、その衝撃でもうもうと砂煙が舞い上がる。


それが落ち着いた頃には、訓練場のどこにもサイコの姿は無かったのだった。

真打は壊れキャラのサイコ。暴れるだけ暴れて帰ってしまいました。

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