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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-35 合同訓練3

「オラァァアッ!!」


「掛け声ほどに腰が入っておらん、もう一歩踏み込め」


「ゲフッ!?」


剣使いの男の斬撃を体を仰け反らせてかわした悠はそのままグンと体を戻し、アドバイスしつつ拳を剣使いの腹に埋めた。


「へっ、隙あ――」


「隙があるのは貴様だ、馬鹿者が。奇襲する時に声を上げる奴があるか?」


「へぶッ!!」


「飛び込みの速度が足らんのだよ。攻撃に気を取られ過ぎだ、もっと走り込め。次」


背後から襲って来た短剣ダガー使いを回し蹴りで文字通り一蹴して、悠は再び正面を見据えた。


「くっ、だがこれなら――」


遠間にあるうちに魔法を構築しようとした軽装の男が呪文を唱え始めようとした時には、既に悠は男の至近に接近を果たしていた。


「魔法の構築速度が話にならん。もっと滑らかに使えんと戦闘では役に立たんぞ。次」


「ふぐっ!?」


言葉の最後に軽装の男の頭に拳を落として悠は更に次の相手を求める。


それを後ろで眺めているのは悠の仲間達だ。




「・・・もう100人以上叩き伏せてるのに、全然疲れた様子がありませんね、悠先生・・・」


「そもそも悠先生が強過ぎて子供と大人が戦ってるより力量の差が大きいわ。思ったよりすぐ終わりそう・・・」


「流石だな、悠先生は!! あたしも連続の組手はした事があったけど、25人でもう限界だったよ!!」


「やっぱ最後は体力だな・・・いくら技術があっても疲れ切ってちゃ活かせねぇ」




まだ開始から十分程度しか経過していないのだが、悠は100人抜きをあっさりと達成していた。まだ額に汗一つかかず、大声で指導しているにも関わらず息も乱れてはいない。そもそも予定の10秒をフルに使って戦える者すら居ないので、時間は更に短縮されていた。


「・・・ば、化け物か・・・!」


「『隻眼サイクロップス』コロッサスより強いなどという噂、眉唾だと思っていたが・・・間違い無い、奴はコロッサスより強いぞ・・・」


「な、なんでこんな奴が今まで知られていなかったんだよ!?」


「お、俺が知るか!!」


ようやく冒険者達の間に悠の底知れぬ実力が浸透し始めていたが、それでも悠の殲滅速度は変わらなかった。10分経つ毎に100人ずつ敗れた冒険者達が積み上げられ、30分が経過する頃には300人を軽く上回っていた。


「どいつもこいつも大きいのは態度と欲望だけか!? せめて掠らせる位はしてみせんか!」


「舐めるなぁ!!!」


悠の言葉に激発した大剣使いが剣を上段に振り被り、そしていつか見たベロウと同じ様に振り下ろそうとした。


「おっ!? 『重破斬』!!」


ベロウがそれを見て感嘆の声を上げたが、次の瞬間に驚愕に取って変わった。


「ゲェッ!?」


悠の手が『重破斬』を振り下ろそうとした大剣使いの肘を押さえている。大剣使いの男は必死に振り解こうと力を込めたが、肘は押しても引いてもビクともしなかった。


「『重破斬』は溜めが大き過ぎる。据え物を斬るので無いならば、せめてその半分の速さで剣を振れ。支点を押さえれば死に体だぞ」


「ぐあッ!!」


肘を掴んだまま、悠は足を刈って大剣使いを地面に叩き付けた。カーライルよりは大分手加減されているのは当然であるが。


「少しはマシな者も居るようだな、この調子で来い」


「だ、誰かアイツに当てられる奴は居ねぇのかよ!?」


大剣がクルクルと宙を舞い、地面に突き刺さるのを見た冒険者から哀願にも感じられる悲鳴が上がった。


と、そこにいつの間にか悠の背後を取った小男が投げダートを振り被り、そして短剣使いと同じ愚は犯さずに静かに悠の肩に向けて投擲した。


その投げ矢はそれ自体に何か細工がしてあるのか、風切り音を起こさずに悠に向かって一直線に飛んでいく。


(((決まった!!)))


小男も、そして周囲の冒険者も必中と確信した一撃に対して悠は背後に崩れ落ちて行った。・・・投げ矢が届く前に。


「あ?」


投げ矢が悠に届いた時、そこには既に悠の肩は無く、代わりに龍鉄でコーティングされた爪先でダイレクトに打ち返された投げ矢が倍速で小男の肩に突き刺さった。


「うがッ!?」


「ふむ、京介との遊びが役に立ったな」


「スゲェ!! ゆうせんせー、バイシクルじゃん!!」


京介に習ったサッカーを早速格闘術に組み入れている辺りが悠らしいが、実際に役に立ったのだから文句は付けられないだろう。


「今の一撃は良かったぞ。だが、隙を突くのならもう少し周囲の物にも気を配れ。例えば大きな面を持っている大剣などをな」


「ま、まさか・・・アレに映ってるのを見て・・・」


「後は周囲の者の反応だ。そうあからさまに嬉しそうにされては何かあると嫌でも気付いてしまうだろうが」


「くっ・・・そ・・・」


小男が崩れ落ち、ギルド職員に運ばれて行った。


「そろそろ隠れた実力者も現れ始めた様だな、いい傾向だ。次は?」


「へっへっへー!! ここで俺様の登場だぜ!!」


悠の言葉に前に出たのは昨日知り合ったまだ若い冒険者パーティーの一人、ジオであった。


「ジオか・・・一休み出来そうだな」


「なっ、なんだとーーーーーッ!!!!!」


あっさりと悠の挑発に乗ったジオは策も無く悠に突撃していき、足を払われ体が宙に浮いた瞬間、悠に前蹴りを食らって元の位置までゴロゴロと転がって戻って行った。


「うげぇぇぇええッ!!!」


「貴様は技術以前にまず精神を鍛練しておけ。吐くだけ吐いたら訓練場をずっと走っていろ。次」


悪態を吐く事も出来ずにジオはその場で悶絶し続け、代わってリーンが前に出た。


「お、お願いします!!」


「来い」


リーンの得物は細めの長槍ロングスピアだった。見るからに細いリーンにはこれ以上の重い槍が扱えないのだろう。


「やあっ!」


気合と共に突き出された槍は始めは悠の足を狙っていたが、悠がそれを察したと気付いたリーンはその弾力を生かして長槍を跳ね上げて見せた。


その槍の技に周囲の冒険者達もおっと感心したが、悠に届くほどの一撃では有り得なかった。胸元に跳ね上がった長槍を悠の手が掴んでいたのだ。


「あっ!?」


「狙いはいいが、突きの速度が足りん。もっと全身を鍛えて回転の力を生かせ」


「きゃっ!!」


そのまま槍をしならせて逆にリーンを投げ飛ばした悠は、手の中の長槍をリーンの傍らに放った。


「・・・行きます」


「サティか、いつでもいいぞ」


次に出て来たのは当然サティだ。サティは徒手空拳で戦うらしく、手に金属製の手甲ガントレットを嵌めて悠と対峙した。


そのまま走って悠に接近したサティが悠に拳を振るったが、それを見た悠の眉が微かに顰められた。それ以後、サティの攻撃をかわすだけで悠は何故か反撃しようとしない。


不審に思いながらもサティは攻撃を続けたが、結局10秒間、悠はサティの拳をかわすだけで終わってしまった。


「では次を・・・」


「ま、待って下さい!! 何で私には助言も反撃もしないんですか?」


「それが俺の答えだからだ。後は自分で考えろ。邪魔だ」


「そっ・・・!」


更に問いを重ねようとしたサティだったが、悠の背中に絶対的な拒否感を感じてその言葉を飲み込み、唇を噛み締めてその場を後にした。


「サティ・・・」


リーンだけがそんなサティを心配そうに見つめていたのだった。

やけにサティに冷たい悠。その理由は後ほど。

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