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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-33 合同訓練1

悠は朝の王都を走っていた。


特に何か用事がある訳では無いが、いつもの日課をこなす場所が宿に無かったからこうして走っているのだ。隣ではベロウも同じく走っている。


「程々にしておいた方がいいんじゃねぇのか、ユウ?」


「この程度は程々の内にも入らんよ」


「さいですか・・・」


何となく思った通りのセリフが帰って来てベロウは首を振った。


「で、今日はどこまでやるつもりなんだ?」


「どこまでとは?」


ベロウの質問の意図を計りかねて、悠は問い返した。


「訓練の度合いの話だよ。爽やかな汗を流す程度にすんのか、足腰立たなくなるまで絞り上げるのかって事だ」


「そんな物は決まっている。血反吐を吐き、毎夜悪夢にうなされる程だ」


予想の上を行く悠の言葉にベロウがバランスを崩した。


「そこまでやるなよ!? ミーノスから冒険者が居なくなっちまうだろうが!!」


「根性の足らん奴らだな」


ベロウは頭痛を感じて頭を押さえた。


「いいか? 今回の訓練はただ冒険者どもをしごくって話じゃねぇぞ? 甘々な奴らにちゃんとした戦い方と訓練方法を教えて実力の底上げをしようって話だからな? 勿論、それでも付いて来れない様な奴には構っちゃいられねぇがよ」


「ふむ・・・ならば少々修正した方がいいか」


「是非してくれ。これからガキ共にも戦いを仕込むんならここで手加減ってモンを覚えてくれよ、ユウ」


思慮深そうに考え込む悠を見て、ベロウは先に釘を刺しておいて良かったと心底思ったのだった。








「さて、そろそろ出かけるとするか。皆、準備はいいな?」


「「「はい!!」」」


朝食を済ませた後、全員の顔を見回しながら問う悠に元気に返事をした子供達と共に、悠達はギルドへと向かった。


辿り着いたギルドは昨日よりも更に大人数が集まっており、ギルド内に入り切れずに外にまで人が溢れていた。


「中々盛況の様だな」


「こんだけの奴らに教えんのかよ、しんどいな」


悠達が近付くにつれて、その姿に気付いた冒険者達が慌てて道を開けた。昨日の事は既に噂になっており、ギルドの前の地面には良く見ると何かを引きずった様な赤い跡が残っている。恐らく昨日悠に投げ飛ばされた短剣ダガー使いの男の物だろう。


その赤く舗装され、冒険者の人垣で出来た道を悠は一顧だにせず通り過ぎていく。その姿はまるで歴戦の将軍の如く威風堂々としており、武人肌の冒険者からは感嘆の声が上がった。・・・事実、悠は歴戦の将軍であるのだが。




「あれが『戦塵』のユウか・・・確かに尋常な人間では無いな」


「ああ、話半分に思って来たが、中々楽しくなりそうだ」


「俺は後ろの『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』バローに興味があるね。是非とも手合わせ願いたいもんだ」


「フン、所詮は冒険者風情、我らが教わる事など無いと思うがな!!」




どうやら噂を聞き付けて、ミーノス以外の冒険者・・・どころか、国の騎士や兵士、貴族の子飼いの者達まで混ざっているらしい。


「それなりに使える奴らも混じってるみたいだな。ちとレベル差があるかもしれねぇぞ?」


「コロッサスクラスで無いなら誰であろうと変わらんよ」


「そう言い切れるお前がおかしいんだよ・・・それにしても・・・」


悠と会話しながらベロウは周囲の冒険者達に目を走らせた。


「・・・特にヤバイのは混じってねぇな。ミロなんかが混じってた日にゃ、訓練場に血の雨が降るぜ」


「あの男は有象無象の邪魔が入る様な場所に出て来るほど迂闊では無かろうよ」


「そうだな、あんまり明るい場所に出て来る奴じゃねぇしな・・・むしろ、俺はオリビアやサイコでも居るんじゃねぇかと思ったんだが・・・どうやら居ねぇな」


「お前が挙げた、要注意の人間達か」


悠の確認にベロウも頷いた。


「おう、特にサイコはヤバイぜ? 勝つ為なら手段を選ばねぇ上、聖剣まで持ってやがる。『外道勇者』の名前はダテじゃねえ」


「それでよく犯罪者にならないものだな」


「その辺りのかわし方が絶妙なんだよ。人目に付く時はしっかり目的も果たしている上に故意とは判断しにくい手を使いやがるからな。敵にも味方にもしたくはねぇ奴だよ。背中から斬られかねねえ」


「精々背中には注意する事にしよう」


ギルド内でコロッサスの姿を見付けた悠はそこでベロウとの会話を打ち切り、コロッサスに話し掛けた。


「盛況だな、コロッサス」


「見ての通りだよ。とりあえずユウとバローは執務室に来てくれ。今日の訓練内容を練る」


「あいよ」


ギルド内も大勢の人間で混雑していたが、その視線は殆どが3人へと向いていた。尊敬や憧れの視線も多いが、敵意や嫉妬、果ては殺意といった気配を纏った物も混じっている。


「・・・終わった後、どれだけの者がその眼力を維持出来るか見物だな」


「・・・馬鹿な奴らだな、ご愁傷様」


悠を挑発した冒険者が悪いのだとベロウは諦め、心の中で彼らに手を合わせたのだった。








「さて、思ったより人数が集まりやがった。教官は俺とバローが剣、サロメが魔術、悠にはその他武器使いと戦闘全般を任せるつもりだが、それでいいか?」


「人数を割り振るのか?」


「ああ、そのつもりだ。剣を使う奴が一番多いからな」


悠は少し考え、再度コロッサスに質問した。


「何人集まったか分かるか?」


「そうだな・・・大体500人くらいか?」


「はい、もう少し増えるかもしれませんが」


「ふむ・・・ならば一人当たり10秒という所か・・・」


「ユウ?」


独り言を呟く悠にコロッサスが声を掛けたが、当のユウからは破天荒な提案が返って来た。




「コロッサス、まず全員俺と手合わせさせろ。一人10秒でいい」




「はぁ!? おいおい、いくらなんでも無茶だろうが!?」


「今日一日という短い時間で指導をするなら手を合わせんという訳にはいかんだろう。それに反発している者も力量の差を知れば黙る。一通り手合わせをした後で個別の訓練に入る方が効率的だ」


「だ、だがな・・・!」


悠の申し出には流石のコロッサスもすぐに返答する事が出来なかったが、隣に控えるサロメは慎ましく沈黙を守っており、悠の横に居るベロウは肩を竦めて諦観を露わにしていた。


「俺としてもこの世界の住人の戦闘術に慣れておきたいのでな。済まんが頼む」


「・・・ああもう、頼むのはこっちだっての!! 分かった、それならまずはユウに全員手合わせさせる。・・・だがよ、ユウ、宣言したら最後、後には退けないぜ? 舐められたら増長する輩も出て来るからな。第二の『黒狼』を許す訳にはいかねぇんだ」


コロッサスの眼光を鋭くして悠に覚悟を促したが、悠の覚悟はとっくに定まっていた。


「無論だ。ついでに不心得者には少々痛い目にあってもらう。今からやれば昼前までには終わらせられよう。すぐに準備を始めてくれ」


「・・・よし、サロメ、早速全員を中に入れてくれ」


「了解しました」


「どうやら退屈しない一日になりそうだな・・・今日も」


そうして波乱を含んだ合同訓練の一日は幕を開けたのだった。


訓練開始です。最初からトップギアですね。つまりは通常運転です。

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