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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-31 夜間歩行2

この日の最後に悠が向かったのは冒険者ギルドである。一応ベロウを拾いにやって来ただけで、もうどこかに引き上げているようならば悠もすぐに引き返すつもりだった。


だが冒険者ギルドはそろそろ深夜という時間にも関わらず煌々と明かりが灯り、中からは笑い声も響いている。悠は中の声に耳を澄ませた。




「やん、もう、どこ触ってるの~?」


「ダッハッハ!! いいじゃねぇか、減るモンじゃあるまいし」


「それでどうなったんですか、バローさん!!」


「あ? えー・・・どこまで話したっけ?」


「しっかりして下さいよ~、ホラ、『影刃シャドーエッジ』が襲って来た所ですよ!!」


「ああ、ああ、そうそう、ユウがミロに襲われて、俺が右腕のキリギスとその他の『影刃衆』10人を纏めて相手してた所だったな・・・いやー、あんときゃ焦ったね! 何が焦ったって、俺はともかくユウの奴が心配でよぉ。俺? 俺は適当に相手をしてやってたよ。ミロ本人ならともかく、『影刃衆』なんて子分の子分にどうにかされる俺じゃねぇからよ!! ・・・ま、結局はミロも自分以外の全員の旗色が悪いと見るやサッサと逃げちまったがね?」


「「「おおお!!!」」」


「ま、先に俺の方に来てたらミロの奴の運命も変わってたかもな・・・ング・・・プハァ!!」


「へへへ、バローさんだったらきっとミロにだって勝てますよ!! 何たって『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』なんですからね!! ・・・で、ですね、物は相談なんですが、俺も『戦塵』に入りたいなぁなんて・・・」


「おい!! 抜け駆けするなって言っただろ!! バローさん! こんなのより、絶対俺の方が役に立ちますって!! だから俺を・・・」


「いや、それは俺の一存じゃあなぁ・・・」


「えー、アタシバローさんと離れたくな~い」


「そうかぁ? ウヘ、ウヘヘヘヘへ!!」




・・・バタン。




扉が閉まる音に釣られて中の冒険者達が思わずそちらを見て全員硬直した。椅子に後ろに体重を掛けていた者はそのまま倒れて悶絶し、酒を口に含んでいた者はダラダラと垂れ流す。


もっとも、垂れ流すという意味ではベロウ以上の者は居なかった。口から酒どころか、体中から脂汗を垂れ流しているのだから。


「・・・『戦塵』への加入条件は俺と手合わせして認められる事だ。何なら今から全員試験してやってもいいぞ? 恐らく明日の訓練どころか朝日も拝めない事になるだろうが、些細な事だろう」


「「「うわあッ!!!」」」


殺気をジワリと滲ませる悠にベロウを取り巻いていた冒険者達は即座に悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らす様に逃げ去っていった。彼らの殆どは『戦塵』のおこぼれに預かろうと画策していた者達であり、悠を説得するのは困難と見てベロウを落としに掛かったのだが、その計画もあえなく破綻したのだった。


俄かに慌ただしくなるギルド内をキョロキョロと挙動不審に見回したベロウはその人波に紛れて自分も逃れ様としたが、その肩に手が置かれた。


油の切れた機械人形の様にギギギと少しずつ後ろを向いたベロウの目に映ったのは、やはり悠だった。


「・・・俺の知らぬ間に随分と活躍したのだな、バロー? それなら次は役割を入れ替えるか? 俺は別に『影刃衆』の相手でも一向に構わんぞ?」


「・・・じ、冗談、冗談だって!! お、俺はそんなつもりじゃ無くてだな? その、さ、酒が入ってたせいでつい、な?」


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「・・・すいませんでした。だから徐々に手に力を込めるのはヤメテクダサイ・・・」


「最初からそう言え、馬鹿者が」


重い沈黙と肩の痛みに屈服したベロウは悠に謝った。やはり人間、中々根っこの方は変われない物らしい。


そんな事をしている間にギルド内は殆ど人間が居なくなってしまった。それだけ多くの者がベロウに取り入ろうとしていたのだろう。


「有象無象などパーティーに入れるつもりはないぞ。明日はその辺りも徹底的に教育してやらねばなるまいな。・・・貴様を含めて」


「お、お手柔らかに・・・」


ガックリと肩を落としてベロウは何とかそれだけ言い返した・・・というよりも懇願した。




「ヤハハ、名高い『龍殺し』殿もユウ殿の前ではまるで借りて来た猫の如くですな」




今までどこに居たのか、人気の無くなったギルドで椅子に座ったハリハリが夜に相応しい哀切なメロディーを奏でた。


「ハリハリ、お前は帰らんのか?」


「誰も居なくなってしまっては吟遊詩人の出番も御座いません。しかし、ワタクシもユウ殿にお話がありましてね?」


「何だ?」


「是非ワタクシもお2人のお供に加えて頂きたいのですよ。あ、先ほどの人達と一緒にしないで下さいね? ワタクシが求めているのはお2人のご活躍をこの目で見る事だけでして、決して甘い汁を吸う為では御座いませんので」


「ふむ・・・」


悠は少し考える素振りをして、レイラに『竜のトゥルーサイト』を起動させ、再度ハリハリを見たが、その眉が微かに顰められた。


そのまましばし2人は視線を交錯させたまま沈黙し続けたが、ハリハリが先に口を開いた。


「どうしましたか? 出来ればお返事を聞かせて頂きたいのですが?」


「・・・すぐには返答出来んな。しばらく考えさせて貰おう」


「ユウ!?」


悠が返答を保留した事にベロウが驚きの声を上げた。先ほどまであれだけ厳しい事を言っていた悠が簡単に前言を撤回した事に驚いたのだ。


「後日また返答させて貰う。帰るぞ、バロー」


「あ、ああ・・・何だってんだ一体・・・?」


ギルドを出る悠に首を傾げながらもバローもそれに従ってギルドを後にした。そしてその場にはハリハリだけが残された。


「・・・ヤハ、中々一筋縄ではいかぬ御仁の様ですな。さて、どうしたものか・・・」


自らの指に嵌る、目をモチーフに彫られた指輪と白い石の指輪を撫でながら、ハリハリは一人呟いた。

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