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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-30 夜間歩行1

リーン達を無事に家に送り届けた悠は再び夜の王都を歩いていた。王都というだけあり、大通りにはまだ人の姿が少なからず見受けられ、むしろこれからが夜の本番であると言わんばかりに陽気にほろ酔い気分で酒場をハシゴしている者も居る。


王都だからと言って必ずしも治安がいいとは限らなかったのだが、『鬼面』のラクシャスによって凶悪なファミリーが粛清された結果、王都の治安は飛躍的に向上していた。後釜を狙っていたファミリーもまだラクシャスが歯止めになって目立つ行動を取れなくなっている事もそれに一役買っている。


(裏社会への抑制はそれなりに効果があったみたいね、ユウ)


(次は冒険者、そして国だ。大きな集団を標的に意識改革を行って行けば、自ずと全体のカルマも向上するだろう。上手く行けば他の国でも効果は見込めるだろうな)


悠はミーノスを巨大な実験の場として捉え、効果的な手法を模索していた。力を用いるにしても、誰をどうすれば世界がより良い方向に進むかという事を常に考えていたのだ。


(悪い部分を対処療法して、ある程度改善したら主病巣に取り掛かる・・・医療の基本ね)


(その病巣がどこまで浸食しているかにもよるがな。最悪は革命によってローランに国を任せる事も考えたが、王族が健全さを取り戻す事が出きるのならそれに越した事は無い。時期国王候補の第一王子に期待しよう)


誰かに訊くまでも無く大逆罪に当たる思考であったが、悠にはそんな些事に心を砕くつもりは無かった。王族とは、指導者とは、最も下の者の為に尽くさなければならない人種だと考えているからだ。搾取したり栄華を求める為にその座に着きたがる人間は多いが、その様な人間を戴いた国がどうなるかは歴史を紐解けば簡単に理解出来る。


ついでに言えば、悠は世襲制にも批判的である。名家に生まれた人間が全て聖人君子であると考える方がおかしく、また血統主義的な差別を生む温床であると考えている。その様な政治形態を執るのであれば、余程厳重な諮問機関が必要であろう。


だが未だ道徳観が未熟な社会では効率的である事も否めない。劇的な手法は劇的な効果と激しい副作用を国家に強いるだろう。その結果として民衆が苦しむのでは意味を成さない。


悠の生国も皇帝の独裁制を敷いているが、現在皇帝である志津香はまず名君と言って差し支えなく、また、軍や議会が諮問機関として皇帝の権力を制限しており、全てが腐り切るまではある程度の健全さを保つと思われる。


その様な議論を交わしながら悠が目指しているのはカロンの家である。恐らく明後日にはカロンとカリスも連れてフェルゼン、というよりも悠の家へと行く事になるだろう。その事をカロンに伝える為だ。


流石に夜の職人街は中々に剣呑な雰囲気が漂っていたが、この場で悠を襲おうなどという命知らずは最早存在しない。というのも、この職人街の多くは元々バラックが仕切っていて、今ではメロウズがそれを行っているのだから当然と言えば当然だ。顔に傷を持つ恐ろし気な男も、筋骨逞しい大剣使いも悠を見ると露骨に目を逸らしてじっとしていた。


悠が双竜亭の横を通り過ぎようとすると、そこで見張りをしていた男が寄って来て悠に声を掛けた。


「ここから先は立ち入り禁・・・あ、あんたは!?」


「カロンに会いに来たが、今は在宅か?」


「は、はい! と、と、特に外出はしておりません!!」


相手が悠だと分かった男はまるで軍人の様に背筋を伸ばして直立不動で答えた。いっそ敬礼していないのがおかしく見えるほどの態度の変わり様である。


「結構。そのまま仕事に励んでくれ」


特に男の態度には触れず、悠は先に向けて歩き出した。その背後では大きく息を付く音が響く。


既に夜は深まり、他者の家を訪れるには非常識な時間ではあったが、白昼堂々会いに来るには既にカロンは目を付けられ過ぎていて、夜陰に忍ばざるおえない。


それに用件といっても寝ているのであれば、メモの一枚でも扉の隙間から中へ差し込んでおけばいい事だと割り切り、悠はカロンの家の扉を軽く叩いた。


「夜分遅くに失礼する。悠だが、まだ起きているか、カロン?」


「ユウさんですか? ええ、起きております。少々お待ち下さい」


幸いにもカロンはまだ眠りについてはおらず、すぐに扉は開いた。


「これはこれは、この様な夜更けに何かご用でしたかな?」


「この街を離れる日取りが決まったので知らせにな。明後日、俺達はここを離れる予定であるから、明日の深更、家を出る準備を進めてくれ」


「おお! 決まりましたか!! これでようやく鍛冶と研究に打ち込めます!」


悠の言葉にカロンは嬉しそうに顔を綻ばせた。


「だが、頼まれていた金属の幾つかは入手出来なかった。そもそも現存しておらんようでな」


「はは、それは覚悟の上ですよ。場合によっては国宝ですから。まずは龍鉄を作るのが目標ですしね。ユウさんが少し置いていって下さった鱗で試作してみている所です」


「目星は付きそうか?」


悠の質問にカロンは力強く頷いた。


「配合比は相当繊細ですが、私も腐っても鋼神と呼ばれた鍛冶師です、必ずや成果を上げてご覧に入れましょう」


悠もカロンに頷き返した。


「すっかり自信を取り戻したようだな。迷いの無い、良い目をしている」


「とんでもありません! ただ、思い出したのです。ただひたすらに鎚を振るっていた頃の事を・・・。今にして思えば、私は国の庇護を得た時におかしくなっていました。ただの鍛冶師が一体何を自惚れていたのでしょうか・・・思い出すと顔から火が出る様な思いで一杯です。あの様な事件に巻き込まれたのも自業自得でした」


「そう卑下せずとも良かろうよ。カロンがその間も研鑽を怠っていなかった事は、カロンの作を見れば自ずと分かる事だ」


「いやはや、誰に言われるよりもユウさんにそう言って頂けると、昔の私も報われます」


カロンは盛んに恐縮しながらも実に嬉しそうに笑った。


「あっ!? いつまでも軒先で失礼しました! どうぞ中で寛いでいって下さい! 今お茶を・・・」


立ち話が長くなった事に気付いたカロンは慌てた様子で悠を中に案内しようとしたが、悠は手を前に広げてそれを制した。


「いや、今日は伝達しに来ただけだ。子供達も宿に置いて来ているのでこれで失礼させて貰う」


「そうですか? ・・・ではあまりお引き留めしても悪いですね。足元にお気を付けて」


「ああ、さらばだ」


伝える事を伝え、悠はカロンの家から次の目的地へと向かったのだった。

カロン達は堂々と連れ出すと、他の貴族が知った場合ローランに矛先が向いてしまうのでこのようにコッソリしております。

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